36,「サルトリイバラ(カシワ)(バラ科)」



 小豆で作ったあんこと米の粉で作るかしわ餅はめったに食べられない旬の食べ物でした。ですから,カシワの葉が大きくなるのを心待ちにしたものです。「かしわ餅を作るからカシワの葉を取っておいで」と言われると,すぐに取ってくることができました。誰でも,カシワの葉がどこにあるかちゃんと知っていたからです。
 私の家は,戦後の開拓農家でした。原野を開墾していくとカシワを掘り出すことがあったので,独特の形をしたカシワの根をよく手にしました。
 カシワの葉をじょうご状に巻いてホボロイチゴ(モミジバイチゴ)を入れたり,筒状に巻いて笛にしたり,にぎり拳の上に置いてパァンと音を出したりして遊びました。青い実が大きくなると少々しぶくても食べていました。秋から冬にかけて真っ赤に実が色付くと甘酸っぱい味がしてなかなかの御馳走でした。美味しい実なのに,どうして野鳥が食べないのだろうと不思議に思っていました。
 カシワの葉がサルトリイバラだと知ったのは,植物図鑑で研究するようになってからのことです。サルトリイバラが密集したところに猿が入ったら,猿でも逃げられなくなったのでサルトリイバラとしたのでしょう。
 今では,赤い実のついたイバラを生け花にしたり,リースにしたりと,多くの人に親しまれているサルトリイバラです。
                                       中西 正一 先生


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