56,「タヌキ(イヌ科)」



 昔話や歌にもよく登場するタヌキは,昔から日本人に愛されてきた動物の一つでしょう。時には,タヌキ汁になったり,客寄せのはく製になったりもしました。しかし,愛嬌のある顔やしぐさには親しみを覚えます。
 ある日のことでした。「アナグマだと思うのですが,たいそう弱っているので,何とか助けてやってくれませんか」と電話が入ってきました。早速,もらいに行きました。ダンボールの中の獣は,やせこけて,毛並みにもつやがなく,かみつく気力もありませんでした。後からよくよく見るとアナグマではなくタヌキでした。
 野山に住む獣の一番の天敵は,ダニや寄生虫です。イノシシは,体についたダニを取るために泥沼で体を洗います。寄生虫を退治するには馬酔木(アセビ)を食べて激しい下痢を起こし寄生虫を排出するのです。
 タヌキがどのようにして寄生虫を退治するのかは分かりませんが,やせこけた目の前のタヌキは,寄生虫に苦しんでいるに違いないと虫くだしの薬を牛乳に混ぜて飲ませました。二日目になると少し元気になりえさを食べるようになりました。やはり,寄生虫だったのです。
 数日後,帰宅してみると,高い囲いを跳び越えてタヌキは逃げていました。「よかった。よかった」タヌキを捕まえて私に届けてくださった友だちの優しさに応えることができてほっとしました。いたずらをするタヌキですが,憎めない獣として私達の近くで生き続けることでしょう。
                                       中西 正一 先生


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