大造じいさんとガン (5年)


発問1  この話は本当にあった話でしょうか。
留意点  書いてある文章,言葉を検討しながら意見を出し合う(「討論」とまではいかないにしても)練習問題のようなつもりで発問します。
 出来れば,「本当」「本当ではない」の2通りの意見が出され,お互いにその根拠を文章の中から探し出すという学習ができればいいなと思います。もし,ここで盛り上がればこれからの学習に対する意気込みも生まれてくるかもしれません。
解答例  「本当にあった話」
 「本当の話ではない」
 (最終的には「土台として」という言葉から「全てが本当だとは言えない」というまとめを子どもたちの力でできればいいのですが。)

発問2  「今年も,残雪は,ガンの群れを率いて,ぬま地にやってきました。」
 「今年も」の「も」から分かることはどんなことですか。
留意点  「一文字から分かることがある」「一文字からその奥にあるものを知ることができる」という学習を何度も繰り返すことで,自然とそういう読み取り方をするようになります。
解答例  毎年やってきているということ。

発問3  「残雪」という名前は大造じいさんがつけた名前ですね。
留意点  思い込みで読んでいる子もいるはずです。
解答例  違う。「かりゅうどたちからそうよばれていました」と書いてあるので,大造じいさんとは限らない。

発問4  「いまいましく思っていました。」の「いまいましく」ってどんな思いでしょうか。
留意点  まず大造じいさんの残雪への「思い」をはっきりさせておくことが,その後の変化を読み取るために必要になってきます。
解答例  残雪のせいでガンを手に入れることができなくなった大造じいさんの残雪への「敵意」を表す内容が含まれていれば全て認める。

発問5  「今年こそはと,」の「こそ」から分かることはどんなことでしょう。
留意点
解答例  今までにもいろいろな戦いをしてきたということ。そして,負け続けてきたということ。

発問6  「秋の日が,美しくかがやいていました。」
これはただ周りの景色を表しているだけの言葉ではありません。この言葉は景色だけではなく,他の何かを表しています。それは何でしょう。
留意点  大造じいさんの心情を表す情景描写がこの後も出てきます。ここではできるだけヒントを与えて,まずはそういう書き方があるということを全体にはっきり「教えて」おくことが一人ひとりに対する確かな学力の保障につながると思われます。

 この後,他にもこういう文がないか探すよう指示し,見つけた者から教科書を持って教師の所に来るような活動をさせると,授業に少しはメリハリが生まれることもあります。
解答例  大造じいさんの,ガンがまた捕れそうだとわくわくする楽しみな気持ちを表している。

発問7  『「はてな。」と首をかしげました。』
なぜ大造じいさんは「はてな」と思ったのでしょう。
留意点  簡単そうでも案外その説明はできない子がいるものです。また,こういう問題で発表できるチャンスを与えることもしていきます。
解答例  ガンがつりばりのしかけにかからずに飛び立っていったから。

発問8  「ううむ。」
この言葉には大造じいさんのどんな気持ちが込められているでしょう。
留意点  「くやしい」や「にくらしい」では文章を読み取ったことになりません。「ううむ。」の後の「感たんの声」に気付かせたいものです。そしてこのあたりから少しずつ,大造じいさんの残雪に対する心情の変化の兆しがみえてきます。
解答例  残雪が指導したことに対する「感心」の気持ちが込められていることを表す意見を正解とします。

発問9  「会心のえみをもらしました」
 「会心のえみ」ってどういう意味でしょうか。
留意点  辞典を引く活動も大切ですが,文章の脈絡から意味を推考する活動も大切です。
 これ以外にも「してやられて」等々押さえておきたい「一般教養語句」がいろいろありますね。
解答例  うまくいったと思うときの笑い。

発問10  「あかつきの光が,小屋の中にすがすがしく流れこんできました。」
ここから分かることはありませんか。
留意点  できればここは,教師が問う前に児童の方から「あっ!」と気付いてほしいところです。そのためには,この文章があるページ全体を読ませて,ここを読んで何か気付くことはないかきいてみるのもいいと思います。

 発問6の続きとして既に取り扱っていたら,ここは必要ないですね。
解答例  今度こそはという大造じいさんのうまくいきそうな嬉しい気持ちを表している。

発問11  大造じいさんは「残雪」をねらっていたのですか。それともガンならどれでもよかったのですか。 
留意点  「しめたぞ。もう少しのしんぼうだ。あの群れの中に一発ぶちこんで,今年こそは,目にもの見せてくれるぞ。」
という大造じいさんの言葉に気付かせたいものです。
解答例  「群れの中に一発ぶちこんで」と書いてあるので,残雪でなくてもよかった。残雪が率いているガンだったらどれでもよかった。それで残雪に勝つことになると思っている。

発問12  「そこで,夜の間に,えさ場より少しはなれた所に小さな小屋を作って,その中にもぐりこみました。」
 大造じいさんはぬま地のどの方角に小屋を作ったのでしょう。
留意点  東西南北の方角を入れたぬま地の簡単な図をかき,各自のノートに小屋を作ったと思われる位置を書き込ませます。

 指導書等では絶対に出されない,あまり本筋とは関係のない,ほとんど意味のない発問です。初めてこの発問をした時は,さっと済ませるつもりで出した問題でしたが,案外子どもたちはこれが読み取れなかったのです。普通に読んでいけば位置関係は把握できるはずなのですが,やはりそこが難しい児童がいるという実態があります。またその位置を推定できたとしても,その理由を理論的に説明することがなかなかできません。

 言葉にこだわり,言葉と言葉の関わりから状況をはっきり読み取る力をつけると共に,それを分かりやすく人に説明できる力を育てるための一つの課題として『こんなことしてていいのかな〜』ととまどいながら,毎回5年生を担任すると,この問題でわいわいやっている今日この頃です。
解答例  「『様子の変わった所には,近づかぬがよいぞ。』かれの本能は,そう感じたらしいのです。ぐっと,急角度に方向を変えると,その広いぬま地のずっと西側のはしに着陸しました。」
 「大造じいさんは,広いぬま地の向こうをじっと見つめたまま,『ううん。』と,うなってしまいました。」

 発問に対してこれらの文章を見つけ,その中から一人ひとりが小屋の位置を推定し,説明できるような力をつけたいものです。

発問13  「大造じいさんは,広いぬま地の向こうをじっと見つめたまま,『ううん。』と,うなってしまいました。」
 「ううん。」からどんなことから分かりますか。        
留意点  国語の授業全体の発問パターンとしては,「分かること」の発表という形で,小さな気づきでもどんどんほめながら,深く深く競争で読み取っていくようなクラスの雰囲気をつくっていきたいと思っています。

 そのためには,教師の少し大げさなくらいの評価,リアクションが必要になってきます。児童が「言わされる」のでなく,「言ってしまう」ような教師の寛容的,受容的,感動的な姿をまずイメージし,そのイメージに教師がなりきる演技が必要です。どんなに洗練され,優秀な発問であろうと,それに対して答えようと思えるような児童の心理状態,場の雰囲気をつくり出していなければ“シ〜ン”とした淀んだ重苦しい沈黙の「反応」しか返ってこないものです。

 (詳しくは「指名なし発言」をご覧下さい。)
解答例  昨年は「『ううむ。』と感たんの声をもらしてしまいました。」と,つい感心してしまったが,今年は,「『ううん。』と,うなってしまいました。」と,「感心」から「うなり」に変わっていることが分かる。

 大造じいさんは残雪に対して,ただの「いまいましい」という思いから,段々すごいやつだなという思いに変わっていっている。

 昨年も今年も「しまいました」と書いてあるから,大造じいさんは本当は口に出したくはないのに,残雪の知恵や行動に,つい声を出してしまっていることが分かる。

発問14  「東の空が真っ赤に燃えて,朝が来ました。」
 この文から分かることはどんなことですか。       
留意点  発問6で既に扱っているかもしれません。
解答例  大造じいさんの決意を表している。

発問15  「が,なんと思ったか,再びじゅうを下ろしてしまいました。」
 せっかくのチャンスに,なぜ大造じいさんは銃を下ろしてしまったのでしょう。      
留意点  「なんと思ったか」としか書いてないので,その気持ちは分からない。
という解答の仕方もあるでしょうが,(実際,ある年にはこういう反応もありました。)やはりここは大切にしてしっかり考えてみたいところです。

 そして,この物語の中心になる「猟師の心さえも変えてしまうガンの頭領,残雪の行動」「自分たちの命を脅かす側にいたおとりの仲間を命がけで救おうとするドラマチックな残雪のヒーローとしての行動力」をはっきりと読み取らせたいものです。

 児童の反応の中には「どんな戦いをするのか見てみたいから」等の意見も出てくるかもしれません。しかし,ここはもう少し深く考えさせたいと思います。
解答例  仲間を救おうとする姿を見て,そういう時に撃つのは卑怯だと思ったから。
 大造じいさんが自分で仕掛けた方法で残雪に勝ちたかったから。
 自分たちの命を奪ってしまうためのおとりだった鳥の命を救おうとしている残雪を見て,それを横から撃つ気にはならなかったから。

 (「仲間を救おうとする残雪の行動に“強く心をうたれた”から。」という意見が出る場合があります。“強く心をうたれて”というのは,この後の3場面の最後で,残雪が“最期の時を感じて,せめて頭領としてのいげんをきずつけまいと努力しているよう”な姿を見た時に出てくる,大造じいさんの心の様子を表す言葉です。そこを読んでいるために,ついここで当てはまりそうなこの“強く心をうたれて”を使っていると思われます。しかし,ここではまだ“心をうたれる”ほどの状況ではありません。どちらかというと,大造じいさん自身の「引け目」が感じられるところです。

 もしこの“強く心をうたれて”という意見が出た場合は,それを言った子へのフォローに気をつけながら,「強く心をうたれる場面はもう少し後で出てくるから,またそこで考えようね。」ぐらいで済ませるか,実態によってはこの言葉について考え合っていってもよいと思います。)

発問16  「大造じいさんが手をのばしても,残雪は,もうじたばたさわぎませんでした。それは,最期の時を感じて,せめて頭領としてのいげんをきずつけまいと努力しているようでもありました。」
 「努力している」ということは,本当はしたいことは別にあるということです。残雪は本当はどうしたかったのだと思いますか。         
留意点  「努力しているようでも」という言葉にこだわりたいと思います。
解答例  本当はじたばたさわぎたかった。大造じいさんの手からにげたかった。でも残雪は,頭領として立派な態度をとろうと努力しているように大造じいさんには見えた。

発問17  「大造じいさんは,強く心をうたれて,ただの鳥に対しているような気がしませんでした。」
 大造じいさんは何に「強く心をうたれ」たのでしょう。      
留意点  一人ひとりに自分のノートに解答を書いて持ってこさせてもいいと思います。
 分かりきっているようで,案外読み取れていない子もいるはずです。
解答例  最期の時を感じて,頭領としてのいげんをきずつけまいと努力している姿に強く心をうたれた。

発問18  「らんまんとさいたスモモの花が,その羽にふれて,雪のように清らかに,はらはらと散りました。」
 この文は大造じいさんのどんな気持ちを表していますか。      
留意点  「分かること」を聞くだけでどんどん意見が出るようになっているクラスであれば,ここでも
 「この文から分かることはどんなことですか。」
で,大造じいさんの心情と関連づけて意見が出るかもしれません。
解答例  残雪をひきょうなやり方で撃たなかったという,大造じいさんのすっきりした気持ち。
 残雪と正々堂々と戦おうとする晴れ晴れとした気持ち。


 この物語については様々な研究資料がありますので,上記のような陳腐な発問はあまり役に立たないかもしれません。また,この物語に出てくる鳥の習性はいわゆる「ガン」のものではない,といったような科学的な考察もあります。更にこの物語は一方的な大造じいさんの残雪への思い入れだけで構成されており,残雪と大造じいさんとの交流といったような内容で感想文を子どもが書くようでは,この物語を読み取ったことにならない,というような話を聞いた覚えもあります。

 しかし,授業する教師それぞれが自分の精一杯の読み取りの中から,ねらいをはっきり持って,少しでも国語の能力を高めるための,児童の実態に合った学習をしていけばいいと思っています。

 「大造じいさんとガン」を学習した後,子どもたちが書いた学習作文を通信で紹介しています。そちらを見ていただくと少し授業や発問の様子が伝わると思います。すでにこのHPで紹介しているものですが,良かったらもう一度のぞいてみて下さい。
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