「男たちの旅路・第3回”猟銃”」 吉岡指令補(鶴田浩二)に反発し、警備会社を辞めた柴田竜夫(森田健作)、杉本陽平(水谷豊)、島津悦子(桃井かおり)は、なんとなくスッキリしない日々を送っている。 そんなある日、吉岡の警備会社の顧客ビルに猟銃が撃ちこまれるという事件が発生。発砲事件は連鎖的に頻発する。 一方、自分の母親と吉岡が昔なんらかの関係があったと思い悩む柴田。病気で亡くなった父は最期まで母に愛されていなかった、との疑念が彼にはあった。 3人を前に吉岡が語る彼と柴田の母の過去。そこには戦争の影があった。吉岡は特攻隊の仲間と一人の女性を愛し、友人は戦死。吉岡は生き残った。その女性が若き日の柴田の母。死んだ友人のことを思うと、自分一人が幸せになることはできなかった、と言うのだ。 杉本「あんたは相当のウソつきだ。そんな話信用できるわけがない。簡単なことさ、あんたはもうその人を愛してなかったのさ、甘い話に作り変えているんだ。それが事実なら、事実だと思い込んでいるだけさ」 吉岡「そのときの気持ちはそうだ。断じてほれていなかったという事ではない」 杉本「きれい過ぎるね」 吉岡「お前は汚なきゃ信じるのか」 杉本「もうちょっと本当らしかったら信じるよ」 吉岡「どんなふうだったら信じるんだ。死んだ者のことなどさっさと忘れてしまったと言ったら信じるのか」 杉本「人間は忘れるものでしょう」 吉岡「じゃ、ウソだって言うのか。お前ら、その調子で何にでもタカをくくっているだけだ。恋愛も友情も長続きすればウソだと思い、人のために尽くす人間は偽善者かバカ者だと思う。カネのために動いたといえば本当らしいと思い、正義のために動いたと言えば裏に何かあると思うんだ。人間はそんな簡単なもんじゃないぞ。俺がこうして、今まで独りでいることを、お前たちに言わせれば相手がいなかったとか、面倒くさかったとか、そんなことで片付けようとするだろう。しかし、そうじゃない。俺は家庭など作りたくなかった。死んだ奴に一人ぐらい義理立てして独身を通した男がいてもいいと思ったんだ」 杉本「戦後30年たってんだからね」 吉岡「甘っちょろいというのは簡単だ。しかしな、甘い、きれい事でも一生かけて押し通せばきれいごとでなくなる。俺はそう、思う。訳知りぶるのは勝手だが、人間にはきれい事を押し通す力があるってことを忘れるな」 柴田「それじゃ、オヤジはどうなるんですか。オフクロはオヤジに終いまでやさしくなかった。あなたがオフクロと結婚していれば、オヤジはもう少し優しい人と結婚して、幸せだったかもしれないんです」 吉岡「それは別の話だ」 柴田「オフクロはこの30年、心の中であなたとオヤジを比べていたんだ。オヤジの方が魅力がないと思っていたんだ」 吉岡「20年以上もそんなこと思えるわけがない」 柴田「吉岡さん、あなたも30年以上、死んだ人たちのことを忘れていないんでしょう。オフクロもあなたのことを忘れていないんだ」 実生活でも「特攻隊の生き残り」(事実は違ったらしいが)を看板にしていた鶴田浩二が戦争を引きずる中年男の哀愁を漂わせていた。対照的に”軽い”といわれる現代青年を水谷豊が好演。これは不滅のテレビドラマ名作だろうなあ。この後、2部、3部と続き、吉岡を愛しながら、受け入れられず、最後に病死する悦子。悦子を愛していた陽平。3人の人間模様が事件と絡めながら描かれていた。セリフだけ見ると、リアリティーが希薄に思えるのは、時代の変化か、それとも、自分が汚れてしまったからだろうか。(2001.02.25) |