プロローグ 戦後の混乱がようやく収まり始めた頃、生まれたばかりの赤ちゃんを背負い、 小さなバイオリンと大きな荷物を抱え、2才になったばかりの男の子の手を引いて、 電車とバスを乗り継ぎ、片道1時間もかけて、バイオリン教室に通うお母さんがいた。 音感を育てることは、音楽に対する感覚だけではなく、スポーツも含めたあらゆる感覚を育てることになる。 だから、人生を豊かにするためには音感を育てることがとても重要である。 音感は子供の時にしか育てることは出来ない。大人になってからではいくら音楽を勉強しても 音感を身につけることは出来ない。音楽教育は早ければ早いほど効果がある。 それがお母さんの信念であった。 お母さんは毎日の畑仕事で疲れ果てていた。 それでも、お母さんはいつも笑顔にあふれ、強い意志と希望に輝いていた。 そして、自分の信念を信じ、すべての力を注ぎ、愛情を込めて子供を育て続けた。 その男の子が大人になり、結婚して子供ができた。 昔、お母さんが自分を育ててくれたように、彼も愛情を込めて子供を育て始めた。 そして、お母さんと同じように、子供にバイオリンを習わせようとしていた。 ベートーベンのロマンス ショウコが生まれた日に、パパはラジカセを病院へ持ち込んだ。 そして、生まれたばかりのショウコに、ベートーベンのロマンスを聴かせ始めた。 いくらなんでも、ちょっと早すぎるんじゃない? そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。 音楽は理屈じゃないんだ。 心で感じ取るものなんだ。 だから、ショウコもこの音楽を感じ取り、 この曲の優しさを感じてくれるかもしれない。 でも、それなら子供の歌の方がいいんじゃない? いや、子供の歌より、この曲の方がいい。 子供の歌は歌詞が中心になっているものが多い。 だから、歌詞が理解できないとつまらないんだ。 でも、バイオリン等の器楽曲は直接心に訴える曲なんだ。 言葉が理解できなくても心で感じ取れるはずだ。 だから、生まれたばかりのショウコには、ロマンスの方がいいんだ。 何度も聴かせてやれば、きっと、この曲を理解してくれるはずだ。 だめでもともと。 この曲に少しでも興味を示してくれれば、それで十分だよ。 ママはパパの言葉に納得して、ショウコが起きるといつもラジカセのスイッチを入れ、 ロマンスを聴かせながらショウコにオッパイをあげた。 ショウコのバイオリン ショウコが生まれて半年ほど経った頃から、パパは休日になるといつもバイオリンを弾くようになった。 そして、ショウコが1才半を過ぎた頃、 楽しそうにバイオリンを弾いているパパを見て、 「ショウコもバイオリンやりたい〜」 とおねだりをし始めた。 そのおねだりが何週間か続いた頃を見計らって、 パパは幼児用の小さなバイオリンを買ってきた。 「ただいま〜。」 「パパ、おかえり〜。」 「きょうはねえ、ショウコちゃんの バイオリンを買ってきたよ。」 ショウコはびっくりした顔をして、 「ママ〜、あのね、パパがね、えっとね、ショウコのね、 バイオリンを買ってきたんだよ〜。」 「ほんと〜。ショウコちゃん、よかったね〜。」 「うん。パパありがとう。」 さっそくバイオリンを出し、弓を張り、松ヤニを付け、 音を合わせて、バイオリンをショウコに持たせてやった。 「まずね、足の先を開いて、背中をまっすぐにして、ふらふらしないようにしっかりと立つんだよ。 次にね、左の肩を左足の方に向けて、お顔を左の肩に向けるんだよ。 そしてね、左顎と肩でバイオリンを持つんだよ。そうそう、そうやって持つんだよ・・・」 ショウコは真剣な顔になり、5分位悪戦苦闘して、なんとかバイオリンを持つことが出来た。 そして、パパに手伝って貰いながら、ギコギコギコッと何回か弾いた。 「はい、よくできました。ショウコちゃんじょうずだね。」 ショウコはため息を付き、ちょっと疲れたようだったけど、 「ママ〜。ショウコねえ、上手だって。」 と、ご満悦であった。 しめしめ、うまくいきそうだ! ・・・・・(^_^)v・・・(^_^)v・・・(^_^)v・・・・・ ショウコも弾く〜! パパがお出かけして朝御飯の後片付けが済むと、ママはバイオリンを出してきて、 ギコギコギコッと弾き始める。 ショウコも負けじとバイオリンを持ってきて、 「ママ〜、ショウコも弾く〜!」 「はいはい。じゃあママと一緒に弾こうね」 「うん!」 最初はママがショウコを手伝ってギコギコギコ。 次はショウコがひとりでギコギコギコ。 最後にママといっしょにギコギコギコ。 「はい、よくできました。ショウコちゃん上手だね。」 「うん!」 1時間位してお洗濯が終わると、ママはまたバイオリンを出してきて、 ギコギコギコッと弾き始める。 すかさずショウコもバイオリンを出してきて、ママといっしょにギコギコギコ。 また1時間位してお掃除が終わると、 ママとショウコはバイオリンを出してきて、 二人でいっしょにギコギコギコ。 お昼御飯を食べ終わってギコギコギコ。 お買い物が終わってギコギコギコ。 洗濯物を取り込み終わってギコギコギコ。 アイロンをかけ終わってギコギコギコ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ただいま。」 「あっ、パパだ。おかえり〜。」 「あのね、ショウコね、バイオリン弾いたんだよ。」 「パパもショウコのバイオリン聴きたいな〜。」 ショウコはニコニコ顔でバイオリンを持ってきて、 パパに手伝ってもらいながらバイオリンを構えた。 そして、得意げにギコギコギコ・・・・。 「おおっ。ショウコちゃん上手だね〜。」 「ママ〜。ショウコねえ、上手だって!」 「よかったね。また、明日も弾こうね。」 「うん!」 パパに誉められてショウコは超ご満悦。 パパとママもこっそり視線を交わしてにっこり。 予想以上にうまくいったぞ! ・・・・・(^_^)v・・・(^_^)v・・・(^_^)v・・・・・ レッスン ショウコがバイオリンを弾き初めて約2週間後、ママはショウコを連れてバイオリン教室へ行った。 才能教育と称するバイオリン教室で、ニコニコ顔で優しそうなおじいちゃん先生が教えていた。 生徒はショウコぐらいの小さな子供から高校生までいた。 その時にレッスンを受けていた中学生の女の子は、 プロのバイオリニストのように上手だった。 ママは思わずため息をついて、 「すごいね〜、上手だね〜。ショウコもいつか、あんなふうに上手に弾けるようになれるのかな〜。」 とつぶやいていた。ショウコもいかにも感動したような顔をして、ママと同じようにため息をついていた。 先に来ていた人たちのレッスンが終わり、いよいよ ショウコの番が回ってきた。 ショウコはバイオリンを脇に抱え、緊張した面持で 先生の前へ行ってお辞儀をした。 先生はバイオリンを受け取り、音を合わせながら、 「○○ショウコちゃん。1才10ヶ月か。 なかなか賢そうな子だな。」 と言ってショウコの頭を撫でてくれた。 最初にバイオリンの持ち方を教えてもらった。 そして、先生に手伝ってもらいながら、きらきら星変奏曲の最初の部分を 「タカタカタッタ」と何回か弾いた。 その後、ママにショウコの練習方法の話があった。 「子供は集中力が長くは続かない。1回の練習は3分位にした方がいい。 そのかわり、一日に何回も練習をさせて下さい。 最初はなかなか進まないけど、大きくなるにつれてどんどん進むようになるから、 焦らないで気長にバイオリンを続けて下さい。」 そして、最後に 「ショウコちゃん、なかなか上手だな。 今日から沢山練習して、お兄さんやお姉さん達 のようにもっと上手になろうな。」 と言って、先生はショウコの頭を撫でてくれた。 こうして、無事、最初のレッスンが終わった。 −−−−その日の夜−−−− 「ただいま。」 「パパ、おかえり〜。あのね、ショウコね、レッスン に行ったんだよ。それでね、ショウコ上手だって。」 「そうか、それはよかったね。ショウコちゃんのバイオリン、 パパもききたいな〜。」 ショウコはさっそくバイオリンを持ってきて、パパに 少し手伝ってもらいながら、「タカタカタッタ」 と何回か弾いた。 「ほんとだ。ショウコちゃん上手になったね〜。」 ショウコはみんなに誉められて得意満面であった。 なにが大事? ショウコがバイオリンを習い始めて半年たった。 ママの努力のかいあって、毎日何回もバイオリン を弾くのがショウコの習慣になった。 でも、ママは少し不満そう・・・・・ だって、半年経ってもまだキラキラ星変奏曲が終わらない。 相変わらず「タカタカタッタ」の毎日だ。 こんなことやっていて、ほんとうにバイオリンが弾けるようになるの? それに、月謝が8000円もするのに、バイオリンのレッスンはたったの5分で終わっちゃう。 時給にしたら3万円を超えてるんだよ。いくらなんでも高すぎない? ・・・・・・パパとママの話し合い・・・・・・ ママ、ショウコに言葉を教え始めてから、ショウコが 最初の言葉を覚えるまでにどれくらいかかった? よくわからないけど、多分3ヶ月ぐらいだと思う。 でしょ。 たった一言覚えるのに3ヶ月もかかったでしょ。 でも、次の言葉はもっと早く覚えたでしょ。 その次の言葉はもっとず〜っと早く・・・・・・ バイオリンも同じなんだ。 最初の曲にはすご〜く時間がかかるけど、 2曲目からはず〜っと早く進むようになるさ。 パパの時なんか、キラキラ星が終わるのに 1年以上かかったって、おばあちゃんが言ってたよ。 ショウコの場合はまだ半年しか経ってないんだから、 あせらず気長にやろうよ。 それとね、 ママはレッスンが5分で終わってしまうことが不満みたいだけど、 もし、30分だったらどうなるかをよく考えてごらんよ。 今のショウコには30分は絶対に続かないよ。 必ずイヤになって、バイオリン弾かないって言い出すよ。 ショウコには5分がちょうど良いんだよ。 一番大事なのはショウコにとって良いかどうかであって、 時給にしたら高いかどうかなんて、どうでもいいんだよ。 月々8000円ならパパの安月給でもなんとかなるし、 ショウコも喜んでやってるんだから、なにも問題なし! 今まで通り続けようよ。 そうだね。言われてみればその通りだね。 わかった。これからも頑張る! それから ショウコがバイオリンを習い始めて9ヶ月。 やっとキラキラ星変奏曲をあがった。 次の曲はちょうちょ、そしてこぎつね・・・・・ パパやママが一緒に弾くと、 ショウコは新しい曲をすぐ覚えちゃった。 その後、ヒロちゃんとタイくんが生まれ、 バイオリンも2回中断した。 それでもショウコのバイオリンは順調に進み、 どんどん上達していった。 子供ってすごい!ほんとにすごい! いったん波に乗っちゃうと、信じられないような速度で上達していく! 曲はどんどん難しくなるのに、進む速度がますます速くなる! 幼稚園の時に鈴木教本の4巻まで終わり、 1年生の夏休みには5巻の終わりの方にある ヴィバルディの協奏曲Gモールまで行ったんだよ! ほんと、信じられな〜〜い! ドイツの先生 ショウコが1年の時の秋から2年間、 一家でドイツへ行くことになった。 クラシックの本場ドイツ! ここで子供たちにバイオリンを習わせない手はない! パパとママは一生懸命先生を捜した。 そして、ついに見つけた! とても優しそうな先生で、アマチュアオーケストラの コンサートマスターをやってるんだって。 ドイツでは10才前後からバイオリンを始めるのが普通で、 2才から始めたなんて話は聞いたことがないんだって。 だから、7才のショウコがヴィバルディのGモールを弾き始めると、 目を丸くしてビックリしていたよ。 そして、ショウコのレッスンを快く引き受けてくれたんだ。 それから、鈴木教本の1巻を終わったヒロちゃんの レッスンも引き受けてくれたよ。 ただ、先生はこんな小さな子を教えるのは初めてだし、 ショウコとヒロちゃんはドイツ語も英語もわからないし・・・・・ それでも、ママが英語で悪戦苦闘しながら一生懸命通訳して、 お互いにおっかなびっくりのレッスンが始まった。 ドイツでのレッスン レッスンを始めてから2ヶ月位経つと、お互いの気心がわかってきた。 ショウコは少しドイツ語がわかるようになり、 先生もショウコにドイツ語で話しかけてくれるようになった。 先生にWunderbar!(すばらしい)って言われると、 ショウコも嬉しくなって、にっこりしちゃう。 だから、お家でもいっぱい練習しちゃうんだ。 パパがいる時はいつも一緒に弾いてくれるから、 とっても楽しいんだよ。 ショウコがすぐに曲を覚え、すぐに弾けるようになるのを 目の当たりに見て、パパとママはほんとうに驚いたよ。 ハイテンポで楽譜で3ページもあるフィヨッコのガボットを、 1週間で全曲覚えてしまい、2週間であがっちゃうんだもの。 この調子で行ったら、いったいどこまで上手になるんだろう。 なんだか、怖いくらいだよ。 パパ、ピーーンチ! ショウコは楽譜が読めなかった。 曲はいつも”聴いて”覚えていた。 それから、ショウコはすでにママを追い越していた。 だから、ショウコに曲を教えるのはパパの仕事。 ドイツへ来てから、ショウコは パパの知らない曲 を弾き始めた。 ショウコが新しい曲をもらってくると、 まずパパが覚え、楽譜に指使いを書き込む。 そして、ショウコはパパが弾くのを聴いて、 楽譜に書き込んだ指使いを見ながら パパと一緒に弾いて曲を覚えた。 ヒロちゃんもがんばってるよ。 最初はそれでもよかったんだ。 だけど、ドイツに来て1年余りが過ぎた頃、 ショウコはパパに追い付いちゃった! ちょ、ちょっと待ってくれ、こんな難しい曲、ほんとに弾くのかよ。 パパは何回練習しても、なかなかうまく弾けない。 ヤ、ヤバイぞ〜、こりゃ相当にヤバイぞ〜〜! パパは必死で練習してやっと新しい曲が弾けるようになった。 その曲を、ショウコはチョコチョコッと練習するだけで いとも簡単に弾いてしまうようになっちゃった! パパ、ピーーンチ! そうこうしているうちに、 ついにパパもショウコに追い越されちゃった! 易しい所は一緒に弾けたけど、 難しい所は一緒に弾けなくなっちゃった。 ショウコには音と弾き方を教えることしかできない。 ショウコがこんなに上手になって、すごくうれしいんだけど、 でも、ちょっとくやしいな〜・・・・・ で、でもね。ビブラートはパパの方が上手だし、 曲の表現力もまだパパの方が勝ってるし、 全部追い越されたわけじゃないんだけど・・・・ ・・・・ (^_^;) (*_*) (^_-) ・・・・ もう弾きたくない! ショウコの進歩はすごかった。 まだ小学校2年生なのに、 バッハやモーツァルトやヘンデルの難しい曲を ガンガン弾いちゃう。 この調子で行けば、 ひょっとしたら有名なバイオリニストになるかも・・・ みんな有頂天になっていた。 パパもママも、先生も! でも、ドイツに来て2回目の夏休みが近づいた頃、 ショウコはストライキを起こした。 バイオリン、もう弾きたくない! ええっ、なぜ、どうして〜。 ドイツへ来た頃はまだお友達もいなかったし、 学校から帰ってくると、ドイツ語の他に 国語や算数の勉強もしなければならなかったんだ。 そして、他にはなにも出来ることがなかったから、 バイオリンはショウコにとって息抜きだったんだ。 でも、1年が過ぎてドイツ語がしゃべれるようになり、 お友達もできて一緒に遊べるようになると、 バイオリンが少しずつイヤになってきた。 だって、 頑張って弾けば弾くほど、どんどん難しくなるし、 練習時間もどんどん長くなるんだよ。 最初の頃は、1日1時間も弾けば十分だったんだけど、 今は、毎日2時間弾いてもまだ足りないんだよ。 だからね、バイオリンを弾いていると、 お友達と遊ぶ時間がなくなっちゃうんだよ。 それにね、 最近はパパも一緒に弾いてくれなくなったんだよ。 いつの間にか、パパとママは大人の理論で ショウコのことを考えるようになっていた。 いつの間にか、ショウコの気持ちを見失ってしまっていた。 レッスンばかりに励むんじゃなくて、一緒にバイオリンを 弾いて遊んだり、いろんなコンサートに行ったりして、 バイオリンの楽しさを、 もっとたくさんショウコに教えるべきだったんだ。 それなのに、 練習時間だけどんどん増やし、少しでも多くショウコに バイオリンを弾かせようとしてたんだ。 失敗したなぁ。ドジッたなぁ。 子供の気持ちになって考えなくっちゃいけないって、 あんなに何度も話し合っていたのに、 今回に限ってどうしてそれが出来なかったんだろう。 すべてがあまりにも順調すぎたのだ。 だから、つい欲が出てしまったんだ。 そして、いつの間にか ショウコへの注意が疎かになってしまったんだ。 しまったなぁ。油断したなぁ。 でも、いくら後悔しても、もう二度と元には戻らない。 9月末には帰国することもあり、夏休みになるまで レッスンを続けることで、ショウコも納得してくれた。 あ〜あ、失敗したなぁ・・・(-_-) (-_-) (-_-) 帰国後 9月の末に帰国し、ショウコは3年生のクラスに戻った。 ドイツでは、ママが国語と算数を熱心に教えていたので、 子供達はすんなりと日本の学校へ戻ることが出来た。 少し心配していたけど、これでとりあえずは一安心。 ショウコはバイオリンを嫌いになっていた。 そして、それ以外のことをやりたがった。 スキー、スケート、水泳、それから、テニス。 これらのスポーツもショウコの人生に役立つだろう。 だから、ショウコの興味に任せてやらせることにした。 バイオリンはどうしよう。 今ここででやめたら、 大人になる頃にはほとんど弾けなくなっちゃう。 そこで、レッスンを月2回に減らし、 弾く気になった時だけ弾けばいい、 ということでショウコを説得し、 中学2年までなんとか続けることが出来た。 練習もほとんどしなくなったし、 ほんの少ししか上達しなかったけれど、 それでも、ここまで続けたんだから、 もう弾けなくなることは無いだろう。 そもそも、ショウコにバイオリンを習わせ始めたのは、 音感を育て、人生を豊かにするためだったはずだ。 だったら、 当初の目的はもう十分に達成しているじゃないか。 プロになれるほど上手にならなかったからといって、 なにもがっかりすることはないんだよ。 大抵の曲は弾けるようになったし、曲も結構たくさん覚えたんだから、 それで十分じゃないか。 それに、バイオリンだけじゃなく、 スキー、スケート、水泳、それにテニスも 楽しんで出来るようになったじゃないか。 けっこううまくいったんだよ。 上出来だよ。 エピローグ ------2000年7月某日------ 今日、ショウコは二十歳になった。 今、思い返せば、あれは失敗だったと思うこともあるけれど、 それでも、ショウコは、明るくて素直な娘に育ってくれた。 それにしても、集中したときの子供の力はほんとにスゴイ! ショウコはそのスゴサを、パパとママにまざまざと見せ付けてくれた。 とても楽しかったよ。 とても嬉しかったよ。 そして、心から感動したよ。 ショウコちゃん、ほんとうにありがとう。 これからの人生は、自分で切り開いて行くんだよ。 そして、ショウコが結婚して子供ができたら、 パパとママのことをもう一度思いだして下さい。 ママ、20年間ずっと頑張ってくれてありがとう。 ママの頑張りには心から感謝しているよ。 ショウコが生まれた頃、寝不足でふらふらになりながらも、 オッパイをあげる時にはいつも、 ショウコにロマンスを聴かせてくれた。 ヒロちゃんやタイくんが生まれてからも、 あかちゃんをだっこしながら、バイオリンのレッスンに通ってくれた。 ドイツでは慣れない英語で一生懸命通訳して、 子供達にバイオリンを習わせてくれた。・・・・・ そして、たとえどんなに疲れていても、いつも笑顔を忘れないで、 明るくて楽しい家庭を作り上げてくれた。 ママのおかげで、子供たちはみんな、 心の優しい良い子に育ったよ。 あと少し・・・・・ ヒロちゃんとタイくんが大人になるまで、 あともう少しだけ頑張ろうね。 |