第21話 「中間チェック-1」
訓練開始から2年3ヶ月。飛行時間55時間。
いよいよ中間チェックを受けることになりました。
査定目標には 『技倆および判断が全過程の2/3に達していること』とあります。
課目は下記の通り
① 離陸
短距離離陸 (障害物があると仮定して、短い距離で上がります)
② エアワーク
スローフライト2種類・ストール3種類・ローワーク2種類・緊急操作。
③ 着陸
ノーフラップ・スリップ・ノーマル・最後は短距離着陸の4回
さあチェック開始です。
いつも以上に緊張して離陸。「フルパワー!」
ラダーで機軸を必死で合わせながらチラリと速度計をチェック。
「チェック エアスピード・・・えっ? 」
どう考えても40ノットは出ているのにメーターの針は「0」
まだ滑走路は半分以上残ってます。さあどーする?
「スピードメーター故障!離陸中止!」
と、叫んでスロットルを戻そうとしたとたんに、今まで死んでいた速度計の針がいきなりビッと50ノット近くに。
ここで迷いが出ました。おそらく原因はピトー管(速度センサー)に虫でも詰まっていたのでしょう。
虫が取れたならこのまま離陸を続行しようか・・・・しかし滑走路はそろそろ中間点だし
・・・・と色気を出して考えていると。
「止まる気ならさっさと止まれー!」
と教官の怒鳴り声で我に帰ってパワーカット。フルブレーキ!。
「メーターの故障に気が付いて中止を宣言したのは正解。しかし止まると宣言したら必ず止まりなさい」
と、後で叱られました。
「一度判断したなら、迷わず行う」
スカイダイビングも飛行機も、空の上ではこの判断が一番大事。
仕事でもこれが大事だと痛感してます。
さあ、気を取り直して再離陸。
ここからは教官は何も言いません。自分で「○○をします」と宣言しチェック項目をクリアしていきます。
地形や風の状態を考えないと上手くいきません。
次の項目までに時間をかけると「遅い」と怒られ。
怒られないようにと急いで次の項目に入ると安定せずに失敗します。
「漫才と同じで 間が大事なんだな」
先の先を読んで、頭の中で組み立てないとスマートには飛べないのです。
この辺がパイロットに一番必要な事なんでしょう。
訓練記-3
第22話 「中間チェック-2」
ボロボロになってエアワークのスローフライトが終わった時、
なんの予告も無く教官はいきなりスロットルを閉じます。
「ハイ! エンジンフェール」
エンジン故障の緊急操作をチェックされます。
この場合、何が何でも滑空比の一番良い、ノーフラップ65ノットの姿勢にします。
スローフライトが終わったあとなので、この時点でフラップは出ています。
あわてて緊急操作するとフラップを上げるのを忘れるのですが、これには気が付きました。
「フラップアップ。65ノット降下姿勢良し!」
「エンジンフェールチェック・・・・・・・」 と頭の中で再始動のチェックリストを確認します。
「再始動不可能!」と教官に言われたら、再始動をあきらめ不時着の準備をします。
無線で緊急事態を宣言し(もちろん真似だけ)
燃料コックを閉じエンジンのマスタースイッチを切ります(これも真似)
本当に不時着するわけにはいかないので、500ft切らないうちに、フルパワーで上昇します。
それまでに、この作業を終わらせるのは、よほど手際よくやらないと時間が足りません。
ここまで1時間。本当にヘロヘロになり喉はカラカラ。
「もう勘弁して・・・」 と言いたいのですが、これから飛行場に帰ってタッチアンドゴーのチェックです。
こんな時に限って10ノット近い横風が吹いています。
しかし着陸は、ここ数ヶ月の特訓で自信があります。
例の「ケツの穴」作戦で、なんとか頑張り数回のタッチアンドゴーを終えチェック終了。
緊張の連続だった飛行時間は1時間33分。 (6万円です・・泣)
さて結果は・・・
「離陸時の判断はマイナス。エアワークはマイナス。課目の組み立てもマイナス。
緊急操作もマイナス。」
「・・・・・・・・・・・」
「まあ、しかし、地形確認はOK。 無線もOK。 着陸はこの横風であそこまで降ろせたのでOK。
差し引きかろうじて合格です」
地形確認は、なんといっても十数年ここでスカイダイビングをやっていたので間違いはありません。
無線も古くからエアバンドを聞いていたので自信があります。
まあ、今回のチェックに、地形や無線といったチェック項目が有るのかどうかわかりませんが、
なんとかこじつけで受からしてくれたの言うのが本当のところでしょう。
「じゃあ、じゃんぷらんさん。中間に合格ですから 学科試験の申込して下さい」
「えっ? 学科ですか」
飛行機のライセンスは学科試験の4科目と、実地試験が行われます。
ホンダフライングスクールでは、中間チェックに合格して1年程度の間に、
学科試験全科目に合格し、並行して飛行訓練を実施、最終チェックを受けて実地試験を受けるのが通例。
遠くにゴールが霞んで見えた瞬間です。
「いつのまにか、ここまで来たか・・・ もしかしたら、このままライセンス取得まで逃げ切れるか?」
淡い期待が湧いてきたのですが、この後、とんでもない事態に巻き込まれ、 訓練が中断することになります。
第23話 「衝突事故」
ドシャーーーーーン!
と、大きな音と共に、体に衝撃を受け、目の前の景色が一瞬で流れ。
続いて顔面に衝撃。遠のく意識・・・
・・・・・・・・
「いったい何が起こったんだ・・・? ここはどこだ?」
車のクラクションがうるさく鳴っている。
・・・・・・・・
少しづつ状況が見えてきた。
自分は今、背もたれが後ろに倒れた車の運転席であおむけになり、
足がハンドルの上にかかり、自分でクラクションを鳴らしている。
記憶を整理する・・・・。
「そういえば、さっき後ろから・・・」
交差点の赤信号で停車中。
衝撃を受ける直前に、急速に接近する乗用車が、ルームミラーに映ったような。
・・・・・・・
やっと理解できました。
雨の中、下り坂でスリップした乗用車に後方から追突され、衝撃で座席の背もたれが倒れ、
体はシートベルトをすり抜け仰向け状態。
その後、自分の車が前の車に玉突きし、シートベルトを離れた体は、今度は前に飛びハンドルで顔面を強打。
一瞬脳震盪をおこし、記憶が飛んだようです。
「大丈夫かあ~」
偶然にも付近に回送中の救急車がいたようで、救急隊員が飛んできました。
ドアが開かないらしく、無線で報告する声が聞こえます。
「こちら所沢消防○○○ 車内に50歳代の男性が負傷、救出中・・・」
(俺は50じゃないぞ・・・・)当時はまだ40そこそこです。
そのまま救急車に寝かされ、病院に搬送。
結局、右目眼球出血、眼底の骨にヒビ、目は真っ赤で視力も戻りません。
目を動かすと、目の奥に激痛が走ります。
首はムチ打ち、背中は座席を曲げるほどの衝撃で全面打撲。
背中には、座席の背もたれの金属部分の形がくっきり。
幸いだったのは、この日は仕事だったので、コンタクトレンズでなく眼鏡を着用。
しかも、1回目の衝撃で、眼鏡がふっ飛んだ為、割れて怪我をすることもありませんでした。
コンタクトだったら、そのまま眼球をぶつけたら危なかったかも。
「これは困ったことになったぞ・・・」
当然飛行訓練どころではなく、日々の仕事もできません。
さらに、視力が戻るのかどうか、これが一番心配です。
1週間ほど休職し、その後は仕事も間引いてしばらく通院。
結局のところ、この事故で半年間訓練を中断する事となります。
第24話 「竜ヶ崎へ-1」
事故から半年弱。視力と耳鳴りも回復し、1年に一度受けなくてはいけない「航空身体検査」にもなんとか合格。
半年ぶりに訓練に復帰したものの、しばらくの間は操縦感覚を取戻すために復習し、
いよいよナビゲーションの訓練も再開する事となりました。
今日は初めての竜ヶ崎飛行場へ訪問です。
竜ヶ崎の近くには、天下の成田空港が有り、成田TCAという厳しい空域を通らなくてはなりません。
また、往路には海上自衛隊の下総基地上空の通過もあり、今回は無線通信が大変です。
今回はいったん竜ヶ崎へ着陸するので、時間をかけてナビログも2枚に分けて作成します。
行きは佐倉を回って1時間。帰りは直行で30分の訓練予定。
今日の訓練機は「JA3938」
ナビゲーションスタートは桶川駅。
雲がべったりと多く、高度は取れそうもありません。今回はずっと2,000ftで飛ぶことにします。
針路119度。 巡航速度96ノットに合わせますが、向かい風が6ノットあり、実速90ノット。
針路119度の場合、コンパスは何度を指すのか?
実は地球の真北と磁石の真北はズレており、関東では7度プラスのズレが生じます。
では119+7で125 と思いきや、この機体の特性は1度のズレが有ると報告されており、
結局コンパス針路は 126度を目指して飛ぶことになります。
7分で第1ポイントの大きな橋を通過。
第2ポイントは難関の、自衛隊下総基地滑走路真上です。
「下総とコンタクトします」と、教官に告げ、周波数を下総基地に合わせます
「下総タワー、こちらJA3938。西から東へ2000ftで上空通過許可願います」
(一応英語で話します)
「JA3938 ノースにYSがなんとか・・・2500がうんたらかんたら・・・」
何を言ってるのかよく解りませんが、教官に怒られる前に、返事しなくてはなりません。
聞こえた単語を繋ぎ合わせると、
「北側からYS11が進入中なので あなたは2500ftに上昇して下さい」
と、言っているようです。
上昇したいのですが、頭の上はべったり雲。
「雲が有るのでこれ上がれません」(一応英語)と返答。
「・・・JA3938そのまま通過を許可します。エリアをでたら報告して下さい」
一瞬間をおいて、「こいつはダメだ」と思ったのか、このまま2000ftでの通過許可をくれました。
「ラージャー。エリア出るとき報告します」
下総基地をなんとか通過。
出発前は上空から地上の「P3C」や「YS11」をじっくり観察しようと思ったのですが、
そんな余裕は全くなし。
旋回ポイントの佐倉駅から、いよいよ恐怖の成田の怖いエリアに迫ります
汗びっしょりで無線のマイクを握って交信を開始します。
成田は南北に長い滑走路が有り、その進入空域は階段状にトンネルのような特別エリアが有ります。
このエリアには絶対に入ってはいけません。
どのくらいの絶対かと言うと、入ったら担当教官がクビになるくらいの厳しい絶対です。
そのエリアの外には、少し甘い要注意エリアが有り、ここは交信すれば入ることができます。
「成田TCAとコンタクトします」
緊張で汗びっしょりになった手で無線のマイクを握り、覚悟を決めてトークボタンを押します。
「なっ・・成田TCA こちらJA3938 南から北へ通過します。情報お願いします」
こちらのカタカナ英語に対して、流れるような英語で返事が返ってきます。
「JA3938 Squawk1503・・・@&%#$+・・#|\$!・・・」
何が何だかサッパリ解りません。
第25話 「竜ヶ崎へ-2」
「JA3938 Squawk1503・・・@&%#$+・・#|\$!・・・」
まるで解りません
「セイ アゲイン」(もう一回言ってください・・・)
「@&%#$+・・#|\$」
「セイ アゲイン プリーズ」(もう一回お願いします・・・泣)
「・・・はぁ~」ちょっと間が開いて、確かに管制官はため息を発しました。
「3938 スコーク周波数1503に合わせてください。前方○○マイルに△△がいます、注意して下さい。
それから、特別エリアに近づかないように」
この管制官も「こいつはダメだと」思ったのか、日本語で話してくれました。
泣きながら恐ろしい空域を通過、チェックポイントの竜ヶ崎駅を通過。
ここからはナビをいったん離れて、竜ケ崎飛行場の着陸に専念します。
この竜ヶ崎飛行場こそ成田に降りる航空機のトンネル真下にあり、
小型機が飛んでも良いのは、1,500ft以下。
間違って上昇したら、とんでもない事になります。
初めての飛行場なので、写真と自宅のシミュレーターでイメージトレーニングしましたが、
なかなか進入角度がピタッと決まりません。
ホンダエアポートの場合は、太郎右衛門橋で300ftとか、土手で500ftとか、
慣れてる目印が有るのですが、初めてだと何が何だかわかりません。
事前にもらった資料は紙切れ一枚(添付写真)
「田んぼの角をかすめるように旋回して」(田んぼって、全部 田んぼじゃん・・・)
「あぜ道で300ftに合わせて」 (どこのあぜ道?)
隣から聞こえる教官の機関銃を右耳から左耳に流して、ようやく着陸。
せっかくなので、飛行場を軽く探検し、自販機のコーヒーで休憩。
竜ヶ崎のイメージは・・・
① 進入角度が解りにくい。
② 周りに何もない。
③ トイレが汲み取り・・・・・。
帰りの準備が出来たら、離陸開始。
フルパワーで上昇すると、上向きの視線の先に・・・
「教官! 真上にジャンボがいます」
成田に降下中のジャンボ機のお腹が、でっかく見えます。 恐ろしい飛行場です。
行きは寄り道しましたが、帰りはホンダエアポートに直行です。
まっすぐ帰れば30分で到着です。
往復1時間半。訓練費は6万円(泣)
他の飛行場に降りると、パイロットに近づいた気がします。
この先、訓練が進むと、大島・福島・松本などに足を延ばすことになります。
「教官、よそに行くと楽しいですねー」
「じゃあ、遊びで大島一泊 行きませんか?」
ホンダフライングスクールでは、訓練とは別に、訓練機に教官1人と訓練生3人で乗って、
訓練生が交代で操縦して遠くへ行く企画があります。
「イクイク! 行きます!」
そんな訳で、泊りがけで大島に飛ぶことになりました。
第26話 「大島フライト-1」
(26・27話は、ホンダフライングクラブ機関誌掲載分を修正)
「じゃんぷらんさん、訓練じゃないんだから そんなに緊張しないように」
教官に言われて参加した、「大島・新島ナビゲーション」
訓練生3人と教官が一緒に、クルーズを体験するツアーです。
今回は訓練ではないので、教官は普段のように怒鳴らず、これが逆に不気味に感じます。
ホンダエアポートから新島に行き、昼食後、新島から大島に移動。
大島で1泊して翌日に本田エアポートに戻る計画。
私以外のメンバー2名は、訓練生とは言えクルーズのベテランで余裕の表情。
余裕の2名とは対照的に、初参加の私は大緊張。
気象のチェック。無線の練習。ナビログ(飛行計画書)の作成。
出発前にやることは山ほどあります。
「ええ~と 大島空港の天気は?」「ライフジャケットは積んでたっけ?」
大慌てでバタついている私に教官は、
「ちょと、じゃんぷらんさん 今日は操縦しないんでしょう」
そうでした。私の担当は明日の帰路。今日は後席でお客さんです。
大島どころか九州1週間クルーズに行ける程の大荷物を積んで、JA3934はフラップ10度で離陸します。
風は南から20ノット。あまり視程は良くありません。
高度2500ft。こんな都心を飛ぶのも今回が初めて。
後席で聞く東京TCAからの無線交信はサッパリわからず、近くを飛ぶヘリに驚き、現在地は既にロスト。
「単独飛行での大島行きへの道は遠いなあ~」と実感します。
新宿から横浜・横須賀へと飛んで葉山からいよいよ洋上へ出ます。
横須賀上空は米軍基地があるので、近寄るとミサイルが飛んでくるかもしれません。
ここからはまっすぐ大島を目指します。
海上にはヨット。後方に去って行く陸地。遠く前方には大島が・・・・
まだ見えません。
普段ならこのあたりで見えるはずの大島は見えず、後方に去っていく湘南の陸地もだんだんかすんで行きます。
視程が悪くおまけに向い風20ノット。
巡航速度95ノットですが、DMEを見ると実速は75ノット程度。
大島はなかなか近づかず心細くなります。
現在は無線航法で自分の位置も速度もすぐに解りますが、戦時中のゼロ戦乗りは、
遥か遠い距離をチッポケなコンパスのみで小さな空母に帰った訳ですからたいしたもんです。
1時間後、ようやく大島空港の上空に到着。
今は大島には下りず、今晩の宿を上空から確認し新島へ急ぎます。
新島空港へはダイレクトでRWY28ベースに入ります。
「RWYはどこ?」 新島空港はどうやら山と山の間にあり、
ベースからファイナルに入る直前までRWYは見えません。まるで秘密基地のようです。
降下開始。2000ftで安定していた機体も降下するにつれボコボコに揺れます。
おもいっきり横風の中、訓練生Nさん見事にランディング。
さあ、島の見物です。
週末だと言うのに新島空港は閑散としています。
昼食をとる場所もありません。仕方が無いのでタクシーを呼んで街中に向かいます。
「飛行機来る時間じゃないのに、どうやって空港まで来たの?」
タクシーの運転手さんは怪訝な顔。
「自家用機ですよ~」
このセリフを一度言ってみたかったんです。
第27話 「大島フライト-2」
さて、次は大島へ戻ります。
調布から飛んできた定期便のドルニエに手を振って新島空港を後にします。
大島はRWY21。
1000ftまで降下すると、これまた機体はバコバコ。
RWY脇の丘の影響でショートファイナルでは更に大揺れ。
初めは後席から身を乗り出して前方を見ていたものの、最後はベルトを締めなおし万一に構えます。
後ろで見てるとついつい 「高い高い!」「パワー絞って1」「右ラダー!」と言いたくなりますが、
心配後無用、そこはベテラン訓練生のSさん。無事にランディング。
この時期、大島はちょうど椿祭りのシーズン。
翌日はマラソン大会が行なわれるとのことで、旅館も街も大賑わい。
旅館の女将さんは「今年の椿祭りにはスーパーあんこ娘が登場しますよ」となにやら意味深。
「普通のあんこ娘はオバサンだけど 『スーパーあんこ娘』は若い子で
着物の丈もこの辺までしかなく・・・」
と、女将さんは身振り手振りで説明してくれます。
「行くっきゃない」
夕食度、翌日のフライト計画も忘れ、いそいそ街中へ。
夜祭会場に着いたらステージの前に陣取り、あんこ娘の登場を待ちます。
しかし・・・
「女将さんの言うとおり着物の丈は短いようだけど、下にタイツはいてるよ」とちょっとがっかり。
そして翌日。
今日はホンダエアポートまで、私の担当です。午後から天気が悪くなるとのことで早めの準備。
同じ横浜コースではつまらないと考え、コースは西側の 大島-秦野-高尾-秩父-本田。
「初大島」に「初山ナビ」そして「郷土訪問飛行」のおまけも付けます。
大島空港はRWY21で離陸。
「ほんとに地球は丸いぞ!」
と言いたくなるくらい、滑走路の巾は広いし、おまけ先が見えないほど長い。
何しろはじめての本物の空港(飛行場でなく)
ジェットと同じ滑走路を使える事に大感激。
「大島レディオ JA3934リクエストタクシー」
「JA3934 タクシーダウン」
「JA3934 テイクオフ!」
無線も本格的で本物のパイロットの気分です。
南の新島は既に雨でしたが、北に向かうと天気は回復。行きに苦労した分、
帰りは追い風に乗り6500ftでノンビリ飛行します。
視程は良好。遠くに厚木基地の長いRWYを見て津久井湖を通り、実家の上空に近づきます。
実は大島出発前、「空を見ててよ!」と実家に電話をしていました。
時間も予定通り。初の「郷土訪問飛行」達成です。
実家上空で旋回。実家に手を振り次は秩父に向かいます。
五日市から秩父へ。このあたりから気流が悪く、小さなセスナは上がったり下がったり。
下降気流に入ると荷物満載の機体はエンジンフルパワーにしてもなかなか上昇しません。
下は秩父山脈。後席から缶コーヒーをもらったのですが飲んでる余裕はありません。
武甲山を越えると秩父の街が広がります。
長瀞に沿って東へ向いゆっくりと高度を下げていき、7マイル北でホンダとコンタクト。
そのままストレートでRWY14に着陸。
訓練以外でのナビげーションは今回が初めて。
いつもは隣で怒鳴り散らす教官も、今回だけは人が変わったように笑顔でした。
だんだん過酷になる訓練。たまにはこんな息抜きも良いでしょう。
さて、実家上空で旋回したのを実家の両親は見てくれたのか?
「もしもし俺俺。見た?」
ホンダエアポート到着後、電話で聞いてみました。
「見たよ!見たよ! すごい高いところ飛行機雲引いて飛んでたねえ」
「・・・・・」
お母様、それは、おそらく30,000ft上空を飛んでいるエアラインのジェットだと思います
第28話 「会社が倒産・・・しかし明るい失業者」
「O嶋教官、明日の訓練キャンセルさせて下さい」
ホンダ航空の事務所に電話をかけました。
「じゃんぷらんさん、急にどうしたんですか?」
「実は・・・会社が倒産したんですぅ~・・・」
このところの関連業者の連鎖倒産や、自社の売り上げの低下。
前々から危ないと思っていましたが、ついにこの日が来てしまいました。
倒産なので、退職金などありません。
「これから生活どうしよう」
「住宅ローンはいくら残ってたっけ」
「これは訓練どころじゃ無いな」
と、言う思いと、 「タップリ休めるから、訓練に集中するか? それとも海外旅行でも行くか?」と、
頭の中で、悪魔と天使が喧嘩します。
普通は急いで再就職先を探さなきゃと考えるのですが、なぜか気乗りしません。
「今更 会社訪問したり、履歴書書くのやだな~」
失業と聞くと、暗い顔で職安に並ぶ姿を考えますが、脳天気なのか、馬鹿なのか
「明るい失業者になろう!」と、考えることにし、急いで再就職することはせず、
ゆっくり今後の事を考えることとなりました。
会社都合なので、すぐに失業保険をもらって・・・
計算したら、最長で8か月間もらえるようです。
「じゃあ・・・8か月考えよう・・・」
ここまでに飛行時間は60時間ほど。
航空大学の学生なら、自家用のライセンスが取れる時間ですが、離着陸の集中訓練や、
交通事故後のリハビリ飛行で、飛行時間ばかり増えシラバスは進まず。技量的にはまだ半分です。
ここまで250万円以上、この先さらに250万円は、失業者にとってはどう考えても無理な金額です。
「教官、しばらく飛べなくなりそうです・・・」
飛ばないと技量が戻ってしまうので、もったいないのですが、仕方ありません。
「じゃんぷらんさん、月に1回でも、タッチ&ゴーできれば、腕は落ちないんだけどね~」
教官も心配してくれるので、失業者に月1回の4万円は痛いのですが、
「じゃあ、その案で行きますか」
失業中は、再就職に向けての知識の整理。
今までの職歴をまとめ、覚えたノウハウの整理。
倒産した会社から退職金代わりに持ってきた、仕事の資料まとめ。
失業保険をもらうので、アルバイトはできませんが、勉強はできるはず。
「新たな資格試験でも受けようか、まてよ、それとも飛行機の学科試験も資格試験に含まれるよなあ」
飛行機の学科試験は、以前申し込みはしたものの、車の事故で受けずじまい。
その後は申し込みすら忘れていました。
「せっかく休みが有るんだから、海外でライセンス取ってくるのも良いなあ。」
どうも頭の中は、再就職より飛行機が前に出ます。
結局、失業中は現状維持目的で、2か月に1回飛ぶだけで、前へは進めません。
そんな中、今度もまた遠方へのクルーズに誘われました。
「じゃんぷらんさん、最近飛んでないみたいだね。
今度2機で名古屋と紀伊半島回るんだけど、一緒に行かない?」
明るい失業者なので、「行く行く!」とまた即答です。