の羽根 』


≪ 十二、生死ハ不問 ≫





「「 冗談じゃない! そんなのは却下だ(でござる)!!! 」」

「黙れ。」



―――ああ、やっぱり。








斎藤が仮眠室から出てきた。
緋村と剣心の参加については、フン、と鼻で笑った以外特に何も言わなかった。
・・・まぁ、予想はしていたんだろう、斎藤とて。

そこまでは別段問題は無かった。
だが、が懸念したのはその後の。


「今更作戦内容は変えん。本人が良いと言ってるんだ、このまま続行だ。」
「納得しかねる!これではの危険が大きすぎる!!」
「まぁまぁ緋村、ちょっと落ち着」
「拙者も反対でござる。20人というが、まだあれから増えているんでござろう? そんな敵の本拠地にだけが特攻をかけるなど。」
「いや別に大丈夫なん」
「「 は黙っていろ(るでござる)!! 」」
「ごめんなさい・・・。」

「・・・・・・・・・・・・阿呆が。」


堂々巡り。
正に今の執務室はそんな感じだった。


あの作戦は乱暴に過ぎると、も斎藤も充分理解している。
だが岩盤を大きく破壊出来るような炸裂弾が届くのを待っていれば、一体あと何日かかるか判らない。
その間にもまた妙なマネをされては、今までの苦労―――奴等を追い詰めこんな山間までわざわざやってきた、その意味も無い。

まぁ、単純に言えば2人はもう飽き飽きしていたのだ。
―――こんな乱暴で短絡的な手段を厭わぬ程には。


だが、後から来た剣心たちはそんな事はお構いなしで。
一人が危険に飛び込むような真似は、何が何でも許せない。

この作戦立案が斎藤だというのもダメ押しだった。

それは剣心はまだしも、緋村に特に顕著に現れた。
緋村にとって、斎藤一は新撰組三番隊組長、それだけだ。
幕末の京都では、互いに譲れぬ正義を持っていたことは知っているし、別に憎んでいる訳ではない。

だが、『敵』だったのだ。
その敵に、大切な『姉』がいいように使われていて、しかも今回は死地に追いやられようとしている。

到底許せるものではない、といった処だろう。


そんな心情がありありと見えてしまって、はもう止める気すら失った。
ただ天井を見上げて煙草を燻らせつつ、緋村たちを言い包める言葉を模索する。

(理屈をこねて納得してくれるような子たちじゃないからなァ・・・。)

背もたれにだらけてぷかり、と煙の輪っかを吐き出す辺り、疲れた中年サラリーマンのようである。

(中間管理職ってこんな感じかな。板挟み? そりゃ胃に穴も開くだろーなー・・・。)

心配してくれるのは素直に嬉しい。
けれど、これ以上この件を長引かせるのは面倒臭い。

2つの感情の間を、その手から立ち上る紫煙のようにゆらゆらと漂っていた思考は、緋村の一言でふいに途切れた。


「・・・どうしても実行に移すというなら、俺がと共に行く。」


「・・・・・・・・、 ん?」

「緋村! それは抜け駆けでござる!」
「剣心それちょっと違」
「うるさい、早い者勝ちだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。(怒)」

言い争う緋村と剣心。
ああ、組長がキレそう・・・などと思いつつ、は最早諦めの境地だ。



(あ・・・、だけど、そうね・・・。)

その無駄に優秀な頭は、片隅で緋村の言葉を反芻する。

2人が此処へ来た時点で、どうせセットで待ち伏せ班へ入れるつもりだったのだ。
この際そっちには剣心と斎藤を置いて、緋村は自分と一緒に来てもらっても良いかも知れない。


(もし緋村が暴走しても、それなら安心だし。)


・・・酷い言い草である。


(それに、)


緋村の方が、今回に限って言えば問題が少なくて済むのだ、きっと。
それは同じ人間でありながら、これまで生きてきたその信念の違い。


“不殺”を貫き流浪人として生きてきた剣心。
しかし緋村はあの世界で、必要とあらば人を斬って生きていた。


刀を見れば判るのだ。
剣心の逆刃には血の匂いも脂の曇りも全く無いが、緋村の持つ刃には―――。



ちらり、と書類の隅に目をやった。
そう、こんな任務だからこそ。

(本当は・・・どっちも、連れて行きたく無いんだけど、な・・・。)


意図的に、の手に隠されたそれ、は。



『尚、幹部以外ノ者ノ生死ハ不問。』



酷く遠回しの、殺人許可―――いいやそれはもう、命令、だった。





従うつもりなど無い。
だが、狭い洞窟内での戦闘で、『不殺』が守りきれるかどうかは判らない。

今、明確に『死ねない』と思うは、人を斬る事を禁忌としないから。

元々『仲間』以外には冷酷なであるし、それは過去の痛みが教えてくれたことだから。



私は、全てを救えるほど万能では無い。

だからこの手で、『守りたい者』しか守らない。



(私は、決して万能では、無い。)

・・・大切な、僅かなものしか守れないことを、嫌というほど知っていた。







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2006.11.12