『 紅の羽根 』
≪ 十三、予感 ≫
「・・・行くぞ。」
「ああ。」
作戦・開始―――!!
物陰から躍り出たに、一団はいささかあっけない程に逃げ惑い。
そうして5分と経たぬうちに、洞窟の入り口は爆破され、閉ざされた。
入り口から最初の大きな分かれ道で緋村と別れ、道を急いだ。
後は、雑魚共を『逃げ道』へ追い詰めるだけ。
幹部の居るであろう場所には検討をつけていたので、適当に暴れて下っ端が逃げていくのを確認し、その場所へ向かう。
奥に逃げる者は深追いせず、無謀にも刃向かってきた者は容赦無く斃して。
途中、間違っても入り口へ逆走されぬ様、壁を崩し、道を塞ぎながら。
―――惨殺した遺体を、その地に葬るように。
予想以上に膨れ上がっていた人数に辟易する。
ふと、緋村は大丈夫だろうか、と思った。
ちらりと振り返ると、自分の進んできた道に転がる骸たち。
数こそ多くは無いが、事切れたそれは確かに存在していて。
今更それを悔やむような性格はしていないが、緋村はどうしているだろう。
が見たのは緋村の刀。
それは生々しい血の匂いからも、人を斬らずに居た訳ではない事を教えてくれた。
だが、の想像と緋村の生きてきた現実は、少しばかりずれがあったのを、まだは知らなかった。
その頃、外で待機していた剣心たちのところへ、予想通り壁を崩してきた一団が逃げてきた。
また中に逃げられぬように、少し離れた場所で素早く捕縛していたのだが。
彼等の負った傷に、剣心は、緋村の生き方を垣間見た。
刃引きした刀による引き攣れたような傷ではなく、すっぱりと見事に斬られた傷口は、緋村の手によるものだろう。
それは大きな腱や筋を綺麗に避けて、けれどもう二度と刀を握ることが出来なくなるように。
そう、彼等は―――『剣の道に生きる命』を、殺されていた。
の想像も及ばなかった、緋村の生きてきた道。
疲弊した幕府が形だけでも存在し、取り返しの付かぬ程に荒れ果てた世を生きていた緋村が、それでももう斬り殺すことだけはしたくない、と拙いながらも必死で足掻いた、結果。
洞窟内、大きな扉の前まできたは、その扉の前に佇む緋村を見つけた。
「緋村!」
「・・・・・・。」
こちらへ顔を向けた緋村には、僅かだが返り血が飛んでいる。
それを見て、の瞳に少しだけ痛みが過った。
しかし緋村に気付かれるより早くそれを隠すと、努めて明るく問いかける。
「待たせちゃったわね、そっちは皆追い出した?」
「ああ。・・・あとは、此処だけだ。」
そう言って扉を見上げた緋村は、どことなく動作がぎこちない。
「どうしたの? ・・・何か、あった?」
「いや・・・、何か、変なんだ。この向こうにある気配を、俺は知ってるような気がして・・・。」
それは、首領と思われる山口啓介のものではなく、それ以外の誰か。
確実に潜んでいるであろう、実質『抜刀斎』の役目を負った人物なのか、占い師兼薬師のそれなのか、それともそれ以外の人物のものなのか。
判らないけれど、山口以外にもう一人、知っているような気配がある、と言った。
「知ってるような気配、ねぇ・・・。」
は自分の感覚を研ぎ澄ましてみるが、いかんせんそういったことはあまり得意ではない。
決して堅気のそれではない者達が居る、というのは判るが、個人個人を読むなら山口のそれ以外はあやふやだ。
だが、妙だな、とは思った。
緋村は・・・いや、『緋村剣心』は、幼い頃に親を亡くし、人買いに連れられ山の中で野党に襲われた。
そうして比古に助けられ、以来比古の元で修行に励む。
そして14歳、その比古の元を飛び出して、京都でと出会った。
が知っているのはその出会いからで、あの夜・・・が桂と共に襲われ『飛んだ』夜から、もしかしたらそれ以前から別たれた世界の住人であった緋村。
京都で緋村と関わりのあった人物ならほとんども知っているし、それ以前のなら比古も知っている。
流石にそれより前は知らないが、そんな幼い頃の気配など、覚えているとは考えにくい。
(と、すると。)
あの世界で、が『死んだ』後に・・・緋村たちが旅をしていた3年の間に知り合った者だろうか。
(・・・ま、いっか。)
ごちゃごちゃ考えていても先に進めない。
はとりあえず、この扉の先に何があっても対処できるよう、そっと魔杖剣に触れると、緋村に目配せして扉を開いた。
外では、剣心と斎藤が合流していた。
あらかた捕えた下っ端に斎藤が吐かせた証言から、ほぼ全員捕まえた事を確認したのだ。
少々足りない人数は、きっとが始末したのだろうと予測した斎藤だが、それを剣心に敢えて伝えはしなかった。
(これ以上ごちゃごちゃ言われるのは面倒だ。)
「あとはその幹部のみでござるか。」
「ああ。・・・放っておいても達が捕えて出てくるだろう。」
相変わらず煙草を咥えたまま、面倒臭そうに答える斎藤。
剣心はそんな斎藤を気にする事は無かったが、それよりも。
(何でござるか、この感覚は・・・・・・。)
項がチリチリと焦がされる様な感覚。
嫌な、予感。
(、緋村―――。)
とても嫌な、これは何を意味するのだろう―――。
戻 <<< >>> 進
2006.11.17