永遠の白い羽根
〜幻の恋〜

第三話 心の闇

寒気を感じるほどに、盗賊達を睨む風馬・・・。

「風馬・・・か。生きていたのか・・・!?」

盗賊の頭の男が風馬を名をつぶやく。

「・・・佐助・・・か・・・」

互いに意味深に睨み合う・・・。

「お頭、この男と知り合いなので!?」

「・・・ああ・・・。野暮な知り合いだ・・・」

佐助の言葉に苦渋の表情を浮かべる・・・。

「風馬・・・。悪リィが昔話こいてる暇はねぇんだよ。この女は貰ってくぜ」

「・・・その女を離せ・・・。命だけは見逃してやる・・・」

「けッ・・・!その説教くさい所は変わってねぇな・・・!オラァ昔からお前のそこがな、気にくわなかったんだよォ!!かしてんじゃねぇぞッ!!」

佐助が風馬に刃を向けた!

「佐助!!」

カキーン!!

佐助の刀が風馬の刀に飛ばされ、地面にザクッと突き刺さる。

「・・・剣の腕は流石だな・・・。ふ・・・ッ」

「・・・」

風馬は刀を静かに鞘にしまう・・・。

「消えろ・・・。それからもうこの山から離れろ・・・」


「・・・。ふッ・・・。わかったよ・・・」

佐助は血をぺっと口から吐いて立ち上がる。

「お、お頭、いいんですかい!?この女と着物・・・」

「うるせえ!!気が逸れた!」

佐助と仲間達はそのまま林へと消えていく・・・。

しかし去り際にギロッと風馬を睨んで呟いた・・・。


”俺もお前も・・・。『死神』逃れることはできねぇぞ・・・”


と・・・。


雨が激しく二人の体を打つ。

「あの・・・。風馬さん・・・」

びしょ濡れのかごめ・・・。

風馬は自分の羽織の袖をビリッと引きちぎった。

そしてかごめの右足の傷口を止める。

ごめに着せた。

「・・・。傷は深くない・・・。大丈夫だ・・・」

「あ、はい・・・」

かごめがすっと立ち上がろうとした。

「痛っ・・・」

よろけるかごめ。

風馬はかごめをひょいっと抱き上げる。

「あ、あの・・・」

「面倒だ。このまま屋敷に戻るぞ」

「・・・は、はい・・・」


トクン・・・ッ。


抱き上げられた瞬間・・・。


胸の奥が熱く脈打った・・・。


掴まっている腕が頼もしく・・・。


盗賊に襲われかけて・・・風馬の顔が浮かんだ・・・。


助けに来てくれたことが・・・。


嬉しい・・・。


行くあてもなく、記憶も戻っていないかごめ・・・。



雨で冷えたはずのなのに・・・。


体の奥が熱かった・・・。




チャポン・・・。

桐の風呂。いい香りがする。

冷えたきったかごめの体を湯が温める。

だが格子戸の向こうはまだ雨が降っていて・・・。

格子戸の外で、つねが釜に槇を放り入れている。

「湯かげんはどうだ」

「あ、ありがとうございます 。丁度いいです・・・。つねさん・・・。あ、あの・・・。つねさん・・・」

「なんじゃ・・・」

「あの・・・。ごめんなさい・・・。またお世話になってしまって・・・。あ、でも明日はちゃんとここを出ていきますから・・・」

「・・・」


パキ・・・ッ。

外の釜で火の粉がはじける音がする・・・。

「もういい。ワシは何も言わん」

「え?」

「風馬さまから怪我が完全に治るまでお前をここに置いてやれと言い使っておる・・・。風馬様の命は絶対じゃからな・・・」

びしょ濡れのかごめを抱いて帰ってきた風馬・・・。


”すぐ風呂を沸かせ。つね。それからこの娘の怪我が完治するまで世話をしてやって欲しい・・・。頼む・・・”


風馬が自分にに頼み込むなんて・・・。


その風馬の真剣な眼差しがつねにはショックだった・・・。

(・・・風馬さまはこの娘を・・・)

「しかし勘違いするでないぞ。必要以上に風馬様と関わるな。風馬様はお心に深い闇を抱えておられる・・・」

「深い・・・”闇”・・・?」

「・・・なんでもないわ。温まったら早く上がってすぐは寝ろ」


「はい・・・」

つねは途中で止めてしまったが・・・。


『風馬の心の闇』

というがかごめの心に引っかかった・・・。


風呂からあがり、すぐに布団に入ったかごめ・・・。

『風馬の心の闇』

その言葉が気になって眠れず、何度も寝返りを打っていた。

(・・・。だめだ。眠れないや・・・。お水、もらってこよう・・・)


ミシ・・・ッ。


長い廊下をそっと歩くかごめ。

夜が深まっても雨は止まず降り続けていた。

「う・・・っ。ううぅ・・・」

かごめが水を飲み、自分の部屋に戻ろうと廊下を歩いていた時、また、風馬のうめき声が耳に入ってきた。


「う・・・ぅ・・・」

(風馬さん・・・。また何か苦しい夢を・・・)


”風馬様と必要以上に関わるな”

つねの言葉がよぎるが、かごめはどうしても気になり、風馬の部屋の障子をそっと開けた・・・。


「うう・・・」


寝汗をかき、何か譫言を言っている風馬・・・。


長い黒髪がはだけた胸に汗でくっついて・・・。


「さす・・・け」


(佐助・・・!?佐助って昼間の盗賊の・・・)


「さすけ・・・。すまない・・・俺は・・・俺はぁああッ!!」


「きゃあッ!」


風馬はかごめの右手首をガシッと掴んで、目を開けた。

「・・・お、お前・・・っ」

「あ、あの・・・っ」

風馬はパッと手を離した。


「・・・人の寝床に勝手に入ってくるな・・・!全くお前は本当に驚く事ばかりするな・・・。フゥ・・・」


長い髪を掻き上げ、深く息をつく風馬・・・。


その仕草がなんとも色っぽく・・・。


「あの・・・。ごめんなさい。あんまり苦しそうな譫言だったから・・・。佐助・・・って・・・」


「!」

風馬の表情が険しくなった。

”風馬様は心の闇を抱えている”

つねの言葉がよぎる・・・。

「・・・。あの・・・。昼間の盗賊は・・・」

”風馬様に必要以上に関わるな”

つねの言葉が過ぎり、かごめはそれ以上聞けない。

「・・・。あいつは盗賊じゃない・・・」

「え・・・」


風馬は布団から出て、奥の襖を静かに開けた。


すると暗闇浮かぶ・・・。


鎧武者・・・。


金色の兜が神々しく光る・・・。

「すごい・・・。これは・・・」

「・・・俺の先祖の衣装さ・・・」


重く、固く・・・。武将たる者のみが纏えた伝説の鎧・・・。

戦で名をあげ、主君からの信頼を得た証でもある。

「綺麗ですね。きらきら光って・・・」


「・・・綺麗だと・・・?その綺麗さの裏に、どれだけの人間の命と未来をが奪われたか・・・ッ!。こんなものは腐った飯より劣るッ!!!」

こみ上げる感情を抑えようと拳が震えている・・・。

「風馬さん・・・」


「・・・。いや・・・。何でもない・・・。気にするな・・・」

尋常じゃない風馬の様子にかごめは深い、『心の闇』を感じた・・・。


「!」


風馬はだたならぬ気配を感じた。

「きゃッ・・・!」

刀を腰に添え、かごめを乱暴に押入に入れた。

「お前はそこにいろ。絶対に出てくるな・・・!」

風馬は襖を閉めると、障子をバッと開け、庭に出た。

誰もいない・・・。

「・・・」

しかし・・・。


屋根の上から確かに風馬を狙っている黒い影・・・!

その姿は目の前の池の水面に映った!


「デヤァアアーーー!!」

刀を持った男が一人、風馬の背中めがけて飛びかかってきた!!


カキーンッ!

「グハ・・・ッ!」


男の刀を風馬は見事にかわし、代わりに懐に刀の鞘で一発見舞った。

しかし、賊は一人ではなく、もう一人おり、風馬に斬り掛かる!!

「昼間の礼をしにきたぜ!!覚悟しなァ!!」


風馬は鞘で2つの刃を受け止めた!

「・・・。わざわざ斬られにきたのか・・・。なら覚悟はできているんだろうな・・・?」


ギロリと盗賊を睨む風馬。盗賊は一瞬、怯んだ!

その一瞬をついて、風馬の拳が盗賊達の懐に何発も入る。


ドカ!!


バキッ!!

盗賊の顔はボコボコ・・・。

「おい・・・。応えろ。これは佐助の差し金か・・・?」

盗賊を襟を掴んで吐かせる・・・。

「・・・そ、そうだ・・・。頭が襲えって・・・」

盗賊はそれだけ言うと、気絶してしまった・・・。


盗賊の襟を静かに離す風馬・・・。


「・・・。佐助・・・」


「呼んだか?風馬?」


「!?」


振り向くと、なんとかごめの喉に短剣をつきつけている佐助が・・・!

「佐助・・・!!」

「流石だな・・・。盗賊如きは赤子のてをひねるってか」

「その女を離せ・・・!」

「風馬さん!!」


動くかごめの喉にぐっと短剣を更に食い込ませる佐助!

「やめろ・・っ!!」


「ほほう・・・。なんて焦った顔してやがる。風馬、お前、そんなにこの女を傷つけたくないってか・・・?」


「・・・。お前のねらいは俺だろう!!やるなら俺をやれッ!!」

「・・・フッ・・・。笑かす台詞だ・・・。いつからそんな女に優しく正義な男になったんだよ。オイ・・・。テめぇも俺も何人の人間の血で汚れてるとおもってんだ・・・?え?大将さんよ!!」


「・・・」

緊迫する空気の中・・・。


静かに息をつき・・・風馬は刀を地面に捨てた。


「・・・。佐助・・・。もういいだろう・・・。そんなに俺が憎いなら俺をやれ・・・。お前のやりきれない気持ちは俺が一番知っている・・・」

哀しい瞳で佐助を見つめる風馬・・・。

「そんな・・・。そんな哀れんだ目で見るナァアアアーーーー!!!」


「風馬さんッ!!」

佐助は風馬に馬乗りになり、短剣を喉元に斬りつけた・・・!!!

風馬に駆け寄ろうとするかごめ。

「風馬さん!!」

「お前は来るな!!」


「お前のそういうな・・・。薄っぺらい正義感に虫酸が走るんだよォオオオ!!!」


短剣が風馬に振り下ろされる・・・!!!


「風馬さぁああん・・・ッ!!!!!」


ポタ・・・。


ポタ・・・。


草の上に・・・。

赤い斑点が落ちた・・・。