永遠の白い羽根 〜幻の恋〜 第四話 忌まわしき血の記憶 ポタ・・・ッ。
「ゴホ・・・ッ!!」 風馬に馬乗りになっていた佐助の口から血が吐き出された。 「佐助!!佐助!!」 風馬の上に重なるように倒れ込む佐助・・・。 「佐助・・・ !しっかりしろ!佐助・・・!!」 完全に意識を失ってしまった佐助を起こし必死で呼びかける風馬・・・。 「風馬さん!」 「おい、水を用意してくれッ!!頼むッ!!」 かごめにそう言って風馬は佐助を担いで床に寝かせた。 「うぅうう・・・ッ!!!!」 佐助は手足を震わせ、痙攣を起こし、苦しがる。 汚れた着物を脱がせ、新しい着物を佐助に着せる風馬。 「大丈夫か!?俺がわかるか!?」 佐助に呼びかける風馬。 「ふう・・・ま・・・」 「佐助・・・。お前もしかしてこの症状は・・・」 「ああ・・・。そ・・・う・・・だ・・・。”あれ”・・・さ・・・。うぅううッ・・・!」 胸を抑え、激しく苦しがる佐助・・・。 「しゃべるな!今、医者を・・・」 「むだ・・・だ・・・」 「無駄なものか!!お前まで死なせてたまるかッ!!つね!!おいつね!!何でもいい!!うちの裏山にある痛み止めの薬草全部採ってこいッ!!早くッ!!!!」 つねを大声で呼びつける風馬。 そんな風馬にかごめはスッと立ち上がり言った。 「あ・・・あたし行ってとってきます・・・!風馬さんは佐助さんのそばにいてあげて!」 「お前はいい・・・。休んでいて・・・」 かごめは深く顔を横に振った・・・。 「目の前に苦しんでいる人がいるんですもの・・・。何かしたいんです。何かしなくちゃ・・・!大丈夫!風馬さんこそ、佐助さんのそばにいてあげて!昔の友人なんでしょう?ねッ」 ポン!と風馬の肩を叩くかごめ・・・。 それがとても心強く・・・。 「・・・。すまぬ・・・」 「じゃ、採ってきますね!」 バシャンバシャン! かごめは雨傘も羽織らず、かごをもってそのまま畑まで走った。 畑には沢山の種類の薬草が栽培されていた。 着物の裾をめくって裸足になって薬草を摘む。 (沢山採っていかなくちゃ!なんとか助けなきゃ・・・!) 昼間も夜もびしょ濡れになるかごめ。 そして適量を背中のかごに入れるとすぐ戻り、つねに手渡した・・・。 「お前・・・。そんな格好で・・・」 着替えた着物はびしょ濡れ。足は泥だらけだ。 「つねさん、私の事はいいから早く薬草を・・・!」 「・・・わ、わかっておるわいッ!」 つねはすぐさま土間で、薬草をお湯で似て、煎じ、調合して痛み止めの薬を作った。 「すごい・・・。つねさんてお医者様だったんですか?」 「ふん・・・。年寄りはな、この位の事できなきゃ生きていけないのだ。いつ戦に巻き込まれるかわからんのだからな・・・」 少し哀しそうに言うつね・・・。 かごめはなんとなくそれ以上聞けなくなった。 薬が出来た。 ゴク・・・。 「これを飲めば少しは痛みは収まるはずだ・・・。楽になるからな・・・。佐助・・・」 静かにサジで飲ませる風馬・・・。その手つきがとても優しげに感じるかごめ・・・。 (・・・これがきっと本当の風馬さんなのね・・・。とても・・・。温かい人・・・) 自分を助けてくれた。 つねに追い出されても追いかけてくれてきた風馬・・・。 胸にぽわっとしたあたたかいものを感じるかごめだ・・・。 それから薬が効いてきたのか詰まりそうな息づかいも少し、落ち着いてきて佐助は眠りについた・・・。 「・・・。よかった・・・。佐助さん、少しラクになったみたいですね・・・」 「ああ・・・」 「これでなんとか快方に向かってくれるといいんだけど・・・」 心配そうに佐助を見つめるかごめだが、着物も、髪もまだ乾いていない・・・。 フワ・・・ッ。 「!」 風馬は自分の羽織をかごめに着せた。 「着ていろ・・・。冷えるから・・・」 「・・・あ、ありがとうございます・・・」 「・・・いや・・・」 大きな羽織・・・。 かごめをすっぽり包む・・・。 大きく・・・。
パチ・・・。 消えかかっている焚き火に枯れ木を入れる弥勒。 洞窟の中は雨がしのげるとはいえ、少し寒い。 小さく手を合わせて火に当たる珊瑚。 「寒いですか?珊瑚?」 「ううん。大丈夫・・・。それより犬夜叉が・・・」 一人、洞窟の入り口で立ったまま外を眺めている犬夜叉。 今日一日、探し回ったがかごめの匂いも手がかりも掴めなかった。 ましてこの雨でかごめの匂いをたどるのも困難な状況に苛立つ犬夜叉・・・。 (くそ・・・っ!!こんな雨じゃ匂いもきえちまってる・・・!!畜生!!) ドカッ!! 洞窟の壁に拳を打ち付ける犬夜叉・・・。 「犬夜叉・・・」 壁に残った拳の後が犬夜叉の切羽詰まった気持ちが、弥勒達にも伝わってくる・・・。 「・・・。犬夜叉。大丈夫だよ。きっとかごめちゃんは無事だよ。そんな弱い子じゃないもの」 「そうですよ。きっと生きています。だから何が何でも探し出しましょう。私達の大切な仲間なんですから・・・!」 「弥勒、珊瑚・・・」 力強い二人の言葉。 「オラも忘れるでないぞ!かごめは生きておる!信じろ!犬夜叉!」 犬夜叉の肩からひょこっと顔出す七宝。 「・・・。ああ・・・。そうだな・・・。何が何でもかごめを見つけだす・・・!」 仲間達の言葉が荒れていた犬夜叉の心を落ち着かせた・・・。 (・・・かごめ・・・!かごめ・・・!)
牛の刻も過ぎたくらいだろうか・・・。 薬草が効いて、眠っている佐助・・・。 手ぬぐいで佐助の額を拭く風馬。 「あの・・・。風馬さん・・・。私、変わりましょうか・・・?」 「気を使うな・・・。お前こそ眠れ・・・」 「眠れません。私も心配だから・・・」 風馬の横にストンと座るかごめ。 風馬は分からない。 なぜ、自分を襲った佐助を心配する・・・? 「・・・。お前・・・。どうして堂々としていられるのだ・・・。記憶がないのだろう・・・。その上この佐助に襲われたというのに・・・」 「・・・。さぁ・・・。どうしてでしょう。記憶がなくてもお腹は減るでしょ?それと同じなのかな。変かな・・・?」 ポリポリと頬をかくかごめ。 「・・・。腹が減るのと同じ・・・か・・・。ふ・・・。」 (・・・風馬さんが笑った・・・) 懐かしそうに、佐助を見つめる風馬。 「佐助も・・・。今と同じ台詞を言った・・・。昔に・・・」 「え・・・?」 目を閉じると・・・思い出す・・・。 親友同士だったあの頃・・・。 共に天下を目指そうと熱く語り合ったあの頃・・・。 共に戦を戦い抜いた・・・。 それから風馬の口からポツリポツリと語られる・・・。
剣の腕と度胸を買われた風馬と佐助はあっという間に功績をあげ、自分たちの軍を持つ程の高い地位に登り詰めていった・・・。 「風馬!俺もお前もここまでやってきた。だが俺はここで終わらんぞ!いつかこの手に天下を掴む・・・!」 「・・・そうか。だが俺は・・・」 闘争心溢れる佐助が眩しく感じた風馬・・・。 だが風馬の心に焼き付いていたのは泣き叫ぶ女、子供達の声だった・・・。 ”こわいよ、こわいよーーーー・・・”
致命傷を負いながら、必死に自分の足にしがみつく母親・・・。 迷う風馬・・・。
そう言い残し・・・息絶えた母親・・・。そして子供も後を追うように・・・。
その頃から『戦とは一体なんなのか・・・』 そんな疑問が風馬の中に芽生え始めていた・・・。 そして。 ある戦で、大事な任務をいいつかった風馬と佐助。 これは願ってもない昇進の機会と佐助は燃え上がっていた。 しかし風馬にはあの母親の一言がひかかっていた。 それでも親方様の命とあらば出陣しないわけもいかず・・・。 それに妙な命だった。ある村を襲えとのこと・・・。そこには落ち武者が隠れ住んでいるとの噂が・・・。 (戦は終わったはずだ・・・。何故今頃落ち武者ごときに・・・) 違和感を感じつつ、風馬と佐助の軍はその村にたどり着く。 「・・・何だこりゃ・・・。誰もいねぇじゃねぇか・・・」 ガランとし、崩れかけの家々。 人の気配はない・・・。 「一体どういう事なんだ?落ち武者どころか村人さえいねぇ・・・」 村の中を調べ歩く佐助・・・。 一軒の家の引き戸の中に入ろうとする佐助。 その一瞬、風馬はとてつもなく嫌な予感がした。 「開けるなッ!!佐助!」 「あ?何だよ風馬・・・。って何だ!??」
「ウガァアアア・・・!!」 煙を吸い込んだ風馬と佐助の軍隊達が、皆喉をひっかくように苦しみだす・・・! 「皆の者ッ!!煙を吸うな!!」 風馬はとっさに口当てを当てる。 しかし風馬の言葉も空しく、次々と倒れていく! 「グガアァアア!!痛い!!足が!!足がぁああ!!」 足を押さえ、痛みで転げ回る者・・・。 「な、内蔵が・・・ッえぐられる・・・!!」 血を吐き、転げ回る者・・・。 目を覆いたくなるような光景が広がっていく・・・。 「ぐうッ・・・」 「佐助!!しっかりしろ!!おいッ!!」 倒れ込む佐助を抱き起こす風馬・・・。 「風馬・・・」 「しっかりしろ・・・ッ!!お前まで死ぬんじゃないッ・・・!!」 「風馬・・・」 なんとか佐助の命だけでも助けようとした風馬を見下ろすのは・・・。
馬に乗り、自分の家臣達の死体を眺め、笑っているのは紛れもなく風馬と佐助の武将だった。 驚愕する二人・・・。 「ふッ・・・。この『毒』の効果はすごいものじゃのう・・・。これなら金をかけずに戦ができる・・・」 「お・・・親方様・・・ッ。わ、我らを罠に・・・」 「フッ・・・!よくよく考えれば落ち武者退治など今頃あるわけなかろう・・・。お前達にはこの『毒』の効果の実験台になってもらったまでよ・・・!フハハハハ!!」 嘲笑う親方の声・・・。 風馬の拳が震える・・・。
「う・・・うぉおおおおおおーーーーーーーーー・・・・・・ッ!!!!!!!」
そして・・・。
佐助を抱き起こす風馬。 「さ・・・佐助!!しっかりしろ・・・!!頼むから死なないでくれ・・・!!」 「へへ・・・。俺も死にたかねぇが・・・。もう駄目みてぇだ・・・。目がかすんできてらぁ・・・」 「佐助!!喋るな・・・!」 「へッ・・・。風馬・・・。おめぇ泣いてんのか・・・?」 風馬の瞳に潤う涙。 「相変わらず・・・。ヤワイ男だぜ・・・。戦人が泣くんじゃねぇ・・・。いいか・・・。お前だけでも生き残れ・・・。お前だけ・・・で・・・も・・・」
「佐助・・・!佐助・・・!!佐助ぇええええー・・・・・ッ!!!!」
里の者全て皆殺し・・・。 年老いた乳母のつねだけが生き残っていた・・・。 「そんな・・・。そんなことって・・・」
拳をギュッと握る風馬・・・。 「だから・・・佐助が生きていたなんて・・・。驚いたが・・・。嬉しかった・・・」 「風馬さん・・・」 なんとしてでも佐助を救いたいという思いを感じるかごめ・・・。 「へ・・・ッ・・・。相変わらず甘ちゃんだな・・・」 「佐助!気がついたのか・・・!」 静かに目を開ける佐助・・・。 しかしまだ息が荒い・・・。 「佐助・・・」 「驚いただろう・・・。俺が盗賊なんかになりさがっちまってて・・・」 「そんなことは・・・。よく・・・。生きていたな・・・」 「ふん・・・。俺だってあの時は死んだと思ったさ・・・。体全身に毒が回らなかったせいか生きていた・・・。そして助けられた・・・。運がいいのか悪いのか・・・。盗賊共にな・・・」 それから自分も盗賊として生きていかなければならなかった・・・。 武士としての誇りを捨てでも・・・。 「仕方ねぇ・・・。盗賊だろうが何だろうが喰っていけねえからな・・・。ふっ・・・。失望したか・・・?こんな俺に・・・それとも哀れむか・・・?」 「佐助・・・。俺はそんな・・・」 「・・・。哀れむな・・・!お前だけには哀れまれたくない・・・ッ」
それ故に同情されたくない、哀れみなどうけたくない・・・。 「・・・。お前が生きていてくれてよかった・・・。それだけは本当だ・・・」 「・・・ふっ・・・。どこまでもヤワイ奴だな・・・。だが分かるだろう・・・。俺は・・・もう長くねぇ・・・。”毒”はまだ消えちゃいえねぇんだよ・・・」 ”毒”・・・。
「俺は絶対に死なせんぞ・・・!きっと何かいい薬草があるはずだ・・・。だから諦めるな・・・!」 「・・・。ふっ・・・。相変わらずおめぇは・・・頑固だな・・・」 「お前こそな・・・」 何年ぶりかに見た互いの笑み・・・。
「何だ」 「あの刀見せてくれねぇか・・・。俺がお前にくれた奴だ・・・」 「わかった・・・」
その刀は佐助が風馬に預けた刀だった。 「・・・。まさかこんな風に戻ってくるとはな・・・」 「・・・いつかお前に返そうと思っていたんだ・・・。よかったよ・・・」 「・・・。風馬・・・。しばらく見ていてもいいか?」 「ああ。お前の刀だ・・・。俺は水を変えてくる・・・。ゆっくり休んでいろ・・・」
「キャアアアーーーーーーー・・・ッ」
かごめの叫び声と共に。 障子におびただしい血が飛び散った・・・! あわてて部屋に戻るとそこには・・・。
「・・・。フウマ・・・」
「ワリィ・・・。俺・・・」 「何言ってる!!・・・もしかしてお前・・・。俺に殺されるために・・・」 「おめぇは最後まで甘ちゃんだったな・・・。わかってんなら頼む・・・。逝かせてくれや・・・。この痛みには耐えられねえ・・・。いてぇんだよ・・・」
「・・・。フウマ・・・。おめぇは・・・生きろ・・・な・・・。そこのいい女と・・・」
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