永遠の白い羽根
〜幻の恋〜

第五話 旅立ち

「俺は・・・!俺は・・・ッ」

佐助の墓の前で地面に崩れる風馬・・・。

刀を佐助に渡してしまった自分の迂闊さを。

佐助の苦しみを受け止めてやれなかったやりきれなさ・・・。



責めても責めても責めたりない・・・。


墓の前で蹲る佐助に・・・

かごめはなんて声をかけたらいいか分からなかった・・・。

二日たっても風馬は部屋に入ったきり、出てこない・・・。

かごめは昼食のお膳をもって部屋の前に置いた・・・。

「風馬さん・・・。あの・・・。朝ご飯・・・」

「・・・」

応答がない・・・。

かごめは妙な予感がした。

「風馬さんッ!」

ガラッ!

かごめが慌てて障子を開けると・・・。

影に光る刃。

ジッと刀を見つめる風馬が・・・。

「ふ・・・風馬さん、やめてぇーーッ!」

かごめは強引に風馬の手から刀を奪い取る。

「駄目ですよ・・・ッ!!哀しいからって風馬さんまで命立つなんてッ!!」

「・・・。何か勘違いしてないるようだな・・・。眺めていただけだ」

「え・・・?だって・・・」

「・・・唯一のあいつの形見だ・・・。あいつの血が染み込んだ刀でそんなことするはずがないだろう・・・」

かごめはホッしてぺたんと座り込んだ。

「よかった・・・。でも風馬さんずっと部屋から出てこないしすごく心配になって。私・・・」

「・・・」

風馬はかごめの頭をポン・・・と手を置いた。

優しく・・・。

「あいつの最後の言葉が頭から離れない・・・。『風馬・・・』生きろと・・・」

「・・・風馬さん・・・」

「こっちこそすまなかった・・・。俺の事情に巻き込んでしまって・・・」

かごめは首を何回も横に振った。

「・・・。私には何もできないけど・・・。一人で悲しまないで下さいね・・・」

「・・・。ありがとう。さ、お前も食事にするといい、 朝から何も食べていないのだろう。安心しろ。俺も食べるから」

風馬の言葉に少し安堵したかごめ。

お膳を置いて部屋を出ようとした・・・。


「・・・」


何か気になる・・・。


今・・・。


風馬を一人にしておけない様な気がした・・・。

かごめは再び風馬の部屋に戻り、そうっと障子の隙間から中を覗く・・・。

お膳の前に座って箸をもって食べている風馬の背中が見えた。

(・・・あ・・・。よかったちゃんと食べてる・・・)


一息つくかごめ。


しかし一向に箸が動かない・・・。

(・・・。風馬さん・・・やっぱりまだ・・・辛いのね・・・風馬さん・・・)


風馬の広い背中が・・・


小さく見える・・・。


まるで泣いているみたいに・・・。


哀しくて・・・


やりきれなくて・・・。


哀しいって叫んでいるみたい・・・。


肩が震え・・・。


今にも崩れそうな背中・・・。



「・・・!」

背中に柔らかい感触を感じる風馬。


かごめはそっと風馬の背中を頬つけて寄り添った・・・。


「・・・お前・・・」


「・・・。風馬さんの背中が・・・。泣いてる気がして・・・。哀しいって・・・」

「・・・。お前こそ・・・泣いて・・・いるのか・・・?」


分かる・・・。


泣いているのが・・・。


かごめは顔を横に振ったが・・・。


分かる・・・。


背中を通して感じる涙を・・・。


「私・・・私・・・」


目の前に哀しみで打ちのめされている人がいる・・・。


自分に何もできない歯痒さが悔しい・・・。


上手な言葉も浮かばない・・・。



ただ歯がゆくて・・・。。


そんな想いが・・・。



かごめの温もりが・・・。


背中を通して風馬の心も包んでいく・・・。


ポチャン・・・。


武士の涙が・・・茶碗に一滴落ちた・・・。

二人はしばらくそのまま・・・。


哀しすぎる最後を遂げた魂のために・・・。


二人で泣いた・・・。


泣いて泣いて・・・。


悔やんで悔やんで・・・。


ただただ・・・。


安らかに安らかにと願った・・・。


その頃。犬夜叉一行。

林の中を歩いていたら盗賊に出くわし、犬夜叉の軽いパンチでこてんぱんに締め上げていた。

「私達に金を出せなどと怖い者知らずな盗賊もいますねぇ」

「ホント。しかも法師様の財布を擂ろうなんて一万年早いよ。法師様も在る意味『怖い者知らず』だけど」

弥勒に冷たい視線を送る珊瑚。

「う、うぉほん・・・。それはさておき・・・。盗賊ならば行動範囲も広いでしょうし、かごめ様の事を知っているかもしれません。おい、あなた方。『かごめ』というちょっと異国の服をきたおなごをしらないですか?」

「・・・。異国の服をきた女・・・?し・・・しらねぇなぁ・・・。へんッ」

縄で拘束されているというのに、デカイ態度に・・・。

「まだ殴られたいようですな・・・」

「そうらしいなぁ・・・」

ボキッと腕を鳴らす犬夜叉と弥勒が仁王立ち・・・。

「わ・・・わかった!い、言うから・・・ッ。そ、そういえば、二日ほど前に妙な格好の女を襲った・・・」

「なんだと・・・!てめぇ・・・ッ。かごめを襲ったってのか!!」

思わず盗賊の襟をつかむ犬夜叉。

「てめぇ・・・。それでかごめになにしやがった・・・。コラ・・・。吐きやがれ!」

襟刳りを締め付ける犬夜叉。

「ぐ・・・。な、何もしてねぇ・・。妙な男が女を助けて・・・」

「男?」

「”風馬”って武士みてぇな男で・・・。それ以上はし、しらねぇ・・・。ほ、本当だ!」

犬夜叉はパッと盗賊の襟を離した。

「とっとと失せろ!!今度俺達の前に現れたらそん時んキャ、容赦しねぇぞ!!」

「ヒイ・・・ッ」

盗賊はそそくさと逃げていった・・・。

「・・・。”風馬”って何者だろうね・・・。でもかごめちゃんを盗賊から助けたっていうんだからきっと悪い人間じゃなさそうだね」

「ですな。かごめ様が無事なのは確か。犬夜叉。とりあえずは一安心ですな」

「・・・けッ・・・」

無事とわかっても、かごめを見つけない限り安心できない。

「俺は先に行くぞッ!!早くかごめを探す!!」

焦る気持ちを抑えられない犬夜叉。

かごめの匂いを求め一人、先に突っ走る犬夜叉。

「ふう・・・。やっぱり犬夜叉の側にはかごめ様がいないとだめなようですな・・・。あんなにそわそわして・・・」

「法師様はおなごがいるとそわそわするんでしょ。あたしも先に行くよ!雲母おいで!」

珊瑚は雲母に颯爽とまたがる。

「ちょ、ちょっと置いていかないでくださいよ〜!」

あわてて弥勒も雲母に乗り、大切な仲間を捜し急を急いだ・・・。




佐助の事があってから・・・。

一晩が経ち・・・。

夜。

白紙に佐助の毛髪を丁寧にくるみ、懐に入れる風馬。

そして旅支度をし、部屋を出る。

「・・・」

かごめが眠っている部屋の前で立ち止まる風馬。

風馬は掛け布団が少しめくれているのをそっと直した。

すやすやとよく眠るかごめ・・・。


風馬は少し微笑んでしばらくかごめの寝顔を見つめた・・・。


自分と一緒に泣いてくれた・・・。


背中にはまだかごめの温もりが残っている・・・。


「・・・。色々・・・。世話になった・・・。ありがとう・・・」

風馬はそう呟くと静かにすぐに部屋を出た・・・。

すると風馬を待ちかねたようにつねが立っていた。

「・・・風馬様。どちらへ行かれるのですか」

「・・・。佐助の遺髪を故郷の土に返してこようと思う・・・。長旅になる・・・」

「・・・。長旅って・・・風馬様・・・。もしやもうここへは戻らぬつもりじゃ・・・」

「・・・。”永遠”の旅になるかもな・・・」

つねはハッとした。

風馬の哀しい決意を秘めた瞳に・・・。

「・・・。あいつの事をよろしく頼む。記憶が戻っても戻らなくてもどこかで生きていける様にしてやってくれ」

「あ・・・。風馬様ッ・・・!お待ち下さいッ!」

屋敷の外まで裸足で追いかけるつね。

「風馬様ッ!!」

つねの呼ぶ声に風馬は、馬から下りて振り向いた。

「つねは・・・。つねは風馬様の乳母としてお仕えしてきたことを誇りに思っております・・・。ですからどうか・・・。どうかご無事で返ってきて下さい・・・。老いぼれの願いです・・・」

「ふっ・・・。つねはどの年寄りよりまだまだ長生きするだろう。いや・・・。して欲しい・・・。してくれ・・・」

「風馬様・・・ッ」


つねには全てわかった・・・。

風馬の”覚悟”を・・・


「つね・・・。くれぐれもあいつの事を頼む・・・」

「はッ!つね、命に代えましても・・・」

「じゃあ、行って来る・・・!」

ヒヒン!

馬に颯爽とまたがり、その名の如く風の様に去っていく・・・。

「風馬さまーーーッ!絶対に、絶対にお帰りくだされーーーーッ!風馬様・・・」

叫ぶつね・・・。

けれど・・・。

つねはわかっていた・・・。

帰ってこれるかわからない事を・・・。

いや・・・。風馬もう帰るつもりはないことを・・・。


「風馬様・・・。つねはずっと待っています・・・。生きている限り・・・」


浮かぶ涙をこらえ、つねは屋敷に戻った。

そしてかごめが眠っている部屋に行くと・・・。


「・・・!?いない・・・」

布団がきちんと畳まれおり、かごめのリュックも全てなくなっていた・・・。





「・・・この景色も見納めかもしれんな・・・。佐助・・・」

小高い丘の上・・・。

懐の佐助の遺髪を見つめながら話す風馬・・・。

「感傷的になっている場合じゃないな・・・。行くぞッ!」

風馬は勢い良く走り出した。

そして、細い山道に差し掛かろうとしたその時・・・!


ズザザザザ・・・ッ!

「なッ・・・何だ!?」

竹林の中からなんとセーラー服姿のかごめがずり落ちてきた・・・!

そして両手を広げて、風馬の前に立ちふさがった!

「な・・・。お前・・・!?」

「風馬さん・・・。一人で行くなんてずるいです・・・!私も連れていってください・・・!」

「ば、バカなことを言うな・・・。この旅は俺自身の問題だ・・・。さぁ、帰るんだ・・・。今後のことはつねに任せてるから・・・」

「嫌です!私はここをどきません・・・!」

かごめはその場に座り込んで動かない・・・。

「お前・・・。どうしてそんな・・・」

「・・・わかりません。自分でも・・・。でも風馬さんと一緒に行きたいんです!あたしが風馬さんと一緒に居たんです・・・!」

「・・・」


かごめの真剣な瞳に・・・。


風馬の心を捕らえて離さない・・・。


ピー・・・。


空から・・・。

風馬の懐いていた化け鳥の”風牙”がバサッと風馬の肩に止まった・・・。

「風牙・・・。お前どうして・・・」

ピー・・・!

「・・・」

ピー・・・!


何かを訴えるように鳴く慧・・・。

「・・・。風馬さん・・・?」

「・・・。俺はこれから佐助の里まで行く・・・。何日かかるか分からないぞ・・・。いいのか・・・」

「はい!体力には自信がありますから!」

「また妖怪や盗賊に出くわすぞ・・・。怖くないか・・・?」

「怖くないです・・・。だって私、一人じゃないから・・・」

「・・・」


”一人じゃないから・・・”


その言葉が風馬の心に染みる・・・。


深く・・・。


深く・・・。


「頑固な女だ・・・。ここに置いて行くわけにもいかないようだな・・・」

「風馬さん・・・」


馬に乗った風馬・・・。スッと地面に座るかごめに手を差し出した・・・。


「・・・。乗れ。早く・・・!」


「はい・・・!」


かごめの手をグイッと引っ張り、自分の後ろに乗せる風馬・・・。


「しっかり掴まっていろ」

「はい・・・!」


かごめは風馬の腰にギュッと手を回し掴まる。

「行くぞ・・・!かごめ・・・!」


「・・・はいッ・・・!」


風馬は勢い良く、手綱を引き走り出す!


朝日が昇り始めた明るい方に・・・。


「ふふッ・・・」

風馬の後ろで笑うかごめ。

「何だ。何が可笑しい」


「初めて名前・・・。呼んでくれた・・・。嬉しかったです」

「・・・」


背中がくすぐったく感じる・・・。


こうして二人の旅が始まった・・・。


哀しい旅路が・・・。