第6話 レッテル@ 「なんだよ!俺が取ったって言うのか!!」 昼食時。 駅前の工事中のビル。 その横の従業員専用ののプレハブから犬夜叉の怒鳴り声が聞こえる。 「お前しかいねぇんだよ!!俺の金の事しってんのは!!昨日の夜、お前と飲みに行った時まではあったんだ、このうちポケットに!財布は!!」 40代くらいの同僚が自分の内ポケットとバンバンと叩いて、激しく犬夜叉をまくしたてる。 「だからって俺が金盗ったて証拠はあんのか!!」 男は犬夜叉のじっと見る。 「証拠?そんなもん、いるかい!お前の噂は色々ときいてんだ・・・。警察に何度もやっかいになったことがあるんだって?だったら人の金盗むのもお手のもんだろうな!!」 「なんだとぉーーー!!」 ガタン! 犬夜叉は、カッと頭に血が上り、男の胸ぐらを掴み、拳をあげた。 (!) その時、なぜかかごめの顔が浮かび、手が止まる。 “もう・・・。暴力はやめて・・・” 「・・・」 「どうした・・・?なぐらねぇのか?へん・・・。ほらみろ・・・。お前はそういう奴なんだ・・・。無抵抗な人間を力ずくでどうにかしようとする・・・!俺はな、そういう奴が一番、嫌いなんだよお前は少なくとも根性だけはあると思っていたのに・・・!裏切られた思いだッ!!」
「なんだよ。言いたいことがあるなら言え。納得のいく言い訳ぐらいしてみろよ」 「・・・」 犬夜叉は男に黙って背を向け休憩所を出る・・・。 その際、他の従業員達は犬夜叉に冷たい視線を送った・・・。 ※ 「何よそれ!!ひどすぎるじゃないの!!!」一階の楓の部屋からかごめのすごい声が響く。 楓の部屋でいつもの如く、アパートの面々が集まって犬夜叉の今日の一件について話していた。 「証拠もないのに、人を疑うなんて!!最低よッ!!!」 ドン!! ちゃぶだいを思い切り叩くかごめ。 その迫力に皆、圧倒・・・。 「しかし、かごめ様のお怒りもごもっともですな。どこにでもそういう嫌な上司がいるものです・・・」 「セクハラ上司もね」 珊瑚のチクリとさす被一言に、弥勒、ずずっと茶をすする。 「でもどうして犬夜叉、何も言い返さなかったの?黙って帰ってきたの」 「・・・。疑われても仕方ない状況だからな・・・。おっさんと昨日の夜飲みに言ったのは俺だけだし・・・」 「それだけで疑われてるんだよ?どうして黙って帰ってきたの?」 「・・・けっ。んなこと、今に始まった訳じゃねぇし・・・」 どこへ行っても、一度暴力沙汰を起こした事がついてまわる。 どこから噂になるのか知れるのか。 一度ついてしまったレッテルは、頑固なサビのようにこびりつく。 “あいつに関わるとけが人がでる” “怖いよ。あいつとつるむと・・・” そう言って誰も近づいてこなかった。 似たような事は何度もあった・・・。 「もうもめ事はうんざりだ。誤解したい奴はしてりゃいいんだ」 「どうしてそんなこと言うの?犬夜叉は悔しくないの!?」 「ほっとけよ。人のことなんて・・・」 ドン! かごめは両手でちゃぶ台を叩く。 4つの湯飲みがジャンプした。 「ほっとけないわよ!ずっと泥棒扱いされたままなんて我慢できない!犬夜叉、あんたもあんたよ!いつまでもそうやってどうせ自分は一人だ・・・心閉ざないでよ・・・!」 「・・・。うっせーな!!!お前には関係ないだろッ!!一人息巻いてんじゃねーよッ!!!俺の事なんて・・・」 犬夜叉、ギクリ・・・。 かごめに瞳にじわりと涙が・・・。 「なによ・・・。もういいっ。犬夜叉のバカッ!!!」 バタン!! かごめは怒って自分の部屋に帰ってしまった・・・。 犬夜叉に冷たい視線を送る弥勒と珊瑚。 「な・・・。なんだよ・・・。お前ら・・・」 「罪深いですなぁ。お前は・・・。かごめ様はお前ためにあんなにおこっておられるのだぞ?」 「?なんでだ?かごめにはカンケーねぇことじゃねーかよ」 珊瑚は呆れたようにため息を。 「かごめちゃんはホント、大変だわ。こんな鈍感相手に・・・」 「なんだよ。みんなして・・・。今、俺が悪者になるはなしじゃねぇだろ」 「そりゃそうだが、犬夜叉。本当に汚名を着せられたままでよいのか?お前だって仕事、しづらいだろう?」 「・・・。弥勒まで、説教してんじゃねぇよ・・・。別に俺はそんなもん、なんともねぇよ・・・・」 犬夜叉はゴロンと肘をついて横になり、弥勒と珊瑚に背を向けた。 弥勒も珊瑚も「仕方ないな・・・」とあきれ顔。 “お前に裏切られた思いだ!!根性だけはあると思っていたのに!” 高木の言葉は犬夜叉の胸をつく。 つんけんした態度の犬夜叉に気軽に声を掛けてきてくれた高木。 年も離れていたが、なんとなくウマが合うきがした。 『おう、犬のアンちゃん、体力在るな。どうだ?一杯やりにいかねぇか?』 強引に誘われたが、しかし、一緒に居酒屋で酒を飲み交わすと結構楽しかった。 殆どは、高木が一方的に家族の話とか野球の話をしていたが、とても楽しそう話す高木に犬夜叉もなんとなく聞いているのがそんなに悪くはなかった。 それなのに・・・。 こういう事なんて、慣れているはずなのに、何だか心苦しい。 今まで、何とも思わなかったのに・・・。
何かが・・・。
「こうしてみると、犬夜叉って童顔よね。でも一応成人してるんだよね」 「ふんっ。でっかい子供じゃよ」 押入から、楓は赤い毛布とりだして犬夜叉にそっとかけた。 「わぁ・・・。可愛い毛布だね。楓おばあちゃん」 「犬夜叉が子供の頃、お気に入りだったんじゃ。同級生とケンカして帰ったときもこれを背中からかぶって、誰にも顔を見せないようにして泣いたもんじゃ」 絶対に人に泣き顔を見せなかった。だから、この毛布には犬夜叉の涙が染みこんでいる。 辛い思い出も・・・。 「なるほど・・・。確かに『でっかい子供』かもね・・・。ふふ・・・」 「そうですな」 「弥勒様の場合は、『女好き』の子供だけどね・・・」 「・・・。珊瑚は毒舌な子供ですね・・・」 まだあどけない少年の面影を残す犬夜叉。 子供の時から、ずっと自分の知らないところでいっぱい辛い目にあって泣いてきたのだろう。 成長した今でも、生い立ちや境遇でのトラブルがある・・・。 それに負けず、強くなってほしいといつも思っていた。 それはこれからも変わらない。 強く・・・。前向きに・・・。
※ その夜・・・。小雨が降る中、駅前の飲屋街を黄色のレインコートをを着た在る人物が立っている。 その手には懐中電灯が・・・。 かごめだった。 「この辺りから探してみるか・・・」 しゃがみ込み、植木の間をかきわけて何かを探すかごめ。 探している物、それは高木のなくなった財布だった。 どこで落としたかも分からない財布。 ましてや辺りは暗く、黒い財布などみつけにくい。 でも、かごめどうしても、犬夜叉が汚名をきせられたままが許せない。 自分が言われる以上に許せなかった。 「ないなぁ・・・。落ちてるのは空き缶と吸い殻ばっかり・・・。全く、ポイ捨てなんてしてんじゃないわよ・・・」 かごめは植木を掃除しているみたいに道路の溝の部分までくまなくさがす。 四つん這いになってくまなく・・・。 傘をさして歩く通行人の足もとを見ながら探す。 探す。 黄色いレインコートが四つん這い。その姿を通行人達の注目されるかごめ。 「はあ・・・。植木の中にはないのかな・・・」 かごめは植木ばかりではなく、歩道にたっている自動販売機の裏や店の立て看板の後ろなども見る。 しかし、一行に財布らしきものはみあたらない・・・。 「ファ・・・ファクション!!」 体がぶるっとふるえた。 小雨だが、1時間以上うたれていると体はかなり冷える。 それでも、かごめは歩道の溝などをしゃがみこんで探した。 “もめ事はもううんざりだ。誤解してる奴は勝手にしてりゃいいんだ” そんなのはかごめは嫌だ。 犬夜叉が泥棒をするような人間だと誰かが思っていると思うと哀しくてたまらない。 本当は全然違うのに・・・! 乱暴でけんかっぱやいけど・・・。 誰より人の痛みをわかってる・・・。 ただ、人と深く関わるのが苦手なだけなのに・・・。 飲み屋街のくらい細い裏道も丹念に探すかごめ。 「わッ・・・」 空き缶につまづき、転ぶかごめ。 手の甲をすりむく。 「いった・・・」 かごめが起きあがろうとすると・・・。 ニャオー・・・。 目の前の電信柱の方から猫の鳴き声がする。 電信柱の下には沢山のゴミ袋とポリバケツが置いてあった。 ニャー・・・。 黒猫はゴミ袋の歯で引きちぎって中の生ゴミなどを取り出して食べている。 「・・・。あ・・・!」 そのゴミ袋とゴミ袋の間に黒い正方形の物体を見つけるかごめ。 ガサガサッ!! その物体を手にしてみると・・・。 分厚い革の財布だった。 そして中を見てみると・・・。 定期入れの所に免許証が・・・。 『高木徳治郎』 と名前が・・・。 「・・・。あった・・・。あった・・・ッ!!あったぁーーーーーッ!!!」 かごめは飛び上がって喜んだ。 「あったよ・・・、犬夜叉!あったよーーーー!!あったんだよーーーッ!」 ニャアアッ! 嬉しそうに黒猫を両手で抱き上げて、喜ぶ。 「よかったぁ!!これで犬夜叉の疑いが晴れるんだよ!猫ちゃん!ねぇ!よかったーーーッ★★」 かごめは黒猫を思いっきり高く抱き上げ、喜ぶ。 レインコートも意味がないくらいに全身びしょ濡れ。手の甲にはすりきずもできて、そんな姿なのにかごめは本当に嬉しそうだ。 心底ホッとしていた。 多分見つからないだろうと思ってはいたが、でも何かせずにはいられなかったかごめ。 本当の犬夜叉の姿を知って欲しかった。 人の物を盗るような人間ではない。その逆でそんな奴が目の前にいたら、きっと犬夜叉は逃がさず勇ましく捕まえる、そういう人なのだと・・・。 「さぁってと・・・。子猫ちゃん、ごめんね。あたし、これを早速『高木』さんに届けて・・・。ヒッ・・・!?」 誰かがかごめの肩をぐっと掴んだ。 かごめは背後に言いしれぬ大きな気配を感じる・・・。 かごめは驚いて体が固まってしまっている。 そして更にかごめを恐怖させる声が・・・。 「お嬢さん・・・」 低い太い声・・・。 (ど・・・ど・・・どうしよう・・・!!ち、ちかんだったら・・・!) かごめは恐る恐る振り向くと・・・。 「き・・・きゃああああッーーーッ!」 かごめの悲鳴と共に懐中電灯がコンクリートの地面に落ちて消えた・・・。 |