第1話 拾い犬A

若い男が御神木に寄りかかっている。

白いシャツにGパン。ずぶ濡れで・・・。

かごめは傘を放りだして駆け寄り、声をかけた。

「あ・・・あのっ!大丈夫ですか!?あの・・・!!」

「う・・・」

濡れたシャツはすでに冷たく、しかし男の体はかなり熱い。

「すごい熱・・・!だ救急車、救急車を・・・!」

かごめはバッグから携帯を取り出し救急車を呼ぼうとしたが、携帯の電池が切れていた。

「ああ、もう・・・どうしてこんな時に・・・!!」

「う・・・」

男は寒さからガクガクと震えだした。

「あ・・・。あの・・・!!しっかりして!!」

かごめの呼びかけにも応答せず、男はただ、寒さから震える。

「ど・・・。どうしよう・・・!」

あわてるかごめ。

このまま放っておくこともできるはずもなく・・・。

「・・・」

ガクガク震える男・・・。

子犬のように・・・。

犬夜叉が居た場所で・・・。

「・・・」

犬の生まれ変わりなんて信じるわけではないが、かごめは犬夜叉とこの男がなぜだかだぶって見えた・・・。

「た・・・タクシー・・・!」

かごめは神社の前でタクシーを拾い、男を病院に連れて行った。

男はすぐに診察され、その結果、軽い肺炎をおこしかけていた。1週間ほど入院することになった。

「あの・・・。お身内方ですか・・・?」

ナースステーションで看護婦が困った顔でかごめに尋ねる。

「いやあの・・・」

「身元がわからないと入院手続きができないんですが・・・」

「・・・。あ、あの・・・っ。『犬夜叉』です!」

「え!??」

かごめ、とっさに言ってしまった。しかしそれしか思いつかなく・・・。

「あの・・・っ。日暮・・・。日暮犬夜叉っていいます!あたしの兄でッ・・・!!す、すんごく珍しい名前なんです!母が犬好きだったもので・・・ッ!あはははは・・・ッ」

「・・・」

看護婦はちょっと疑わしい視線を送る。

「あの、もし兄に何かあったら・・・。この番号に電話してください!私の携帯の番号です!じゃ、よろしくお願いします!」

とっさについた嘘。自分でも驚いているが、あの男がなぜだかほおっておけない。

犬夜叉が何か導いてくれた気がして・・・。

アパートに戻った時はすでに日が暮れ、かごめはすぐさま眠ってしまった・・・。

「犬夜叉・・・」

寝言で何度もその名を呼んで・・・。




だた、真っ暗な空間に男が一人横たわる・・・。

全身の力は抜け、動けない。

男はぼんやりとただ、目前に広がる暗闇を見つめていた・・・。

ここはどこだ・・・。

けっ・・・。どこだっていいか・・・。

もう・・・。なにもかもめんどくせぇ・・・。

俺の居場所はどこにもねぇ・・・。

どうせ一人だ・・・。


ん・・・?なんだ・・・。あの光は・・・。


暗闇の向こうに微かに見える小さな白い光・・・。

なぜだか・・・。あの光を激しく求めたくなる。男はその光を無意識につかもうと手を伸ばした・・・。



男の目がゆっくりと開く・・・。

するとそこには・・・。かつての恋しかった女が・・・。

「き・・・桔梗!?」

男は叫んで飛び起きる!

「え!?」

男はかごめをじろじろと見る。

人違いに気づく男。

かごめは訳がわからず首をかしげるだけだった。

「あの・・・。気分はどう・・・?」

「気分・・・?そうだ・・・。俺は・・・」

病室を困惑した顔で見回す男。

「ずぶ濡れで倒れてたのよ。あなた。肺炎おこしかけてて・・・。あたしが病院に連れてきたの」

「お前が・・・?」

「そうよ」

男の様子を見たかごめはまさか記憶喪失じゃ・・・と一瞬思った。

ドラマなんかではよくあるが・・・。

「あたし、日暮かごめ。ねぇ。あなた。名前は?」

「名前・・・?・・・。いいたくねぇ!」

男はつんとした顔で言った。

「いいたくない!?何馬鹿なこといってんのよ!あんたがどこの誰だか分かんないとあたしが迷惑するのよ!」

「うるせえ!!いいたくねぇもんは言いたくねぇ!!」

「あんたね〜!!」

ここは病室。大声はかなりのご迷惑でございます。

他の患者からかなりにらまれております。

ふたり、声を小さくして話す。

「そう・・・。じゃあ、あんたの名前はあれよ」

かごめはベットの上のプレートを指さした。

日暮犬夜叉様。綺麗な字で書いてある。

「おい・・・。この『犬夜叉』ってのは何だ?」

「だからあんたの名前。入院するときに名前聞かれたからあたしがつけたの」

「つ・・・。つけたって勝手な事してんじゃねえょ!!てめえ!人の名前を」

「だって仕方ないじゃない!名前なかったら入院できなかったのよ!!」

二人、再び大声だし患者から睨まれる。

「けっ・・・。余計な真似しやがって。恩着せがましい・・・。どこの誰ともしらねぇ奴に助けてもらう義理はねぇ」

「なっ・・・。あんた・・・。助けてもらっておいてその言いぐさは何よ!!」

「だから助けろなんて頼んでねぇって言ってンだろ!!俺の事はほっとけよ!バーカ!!」

かごめの怒り爆発3秒前。男の耳もとでおもいっきり

「あーそうですか!!ではさようならッ!!!」

叫んで病室を出て行ってしまった。

「耳がいてぇ・・・。何だよ・・・。あの女・・・」

自分を助けたという女・かごめ。

初対面の筈なのになんともまあ気持ちのいい口げんかを・・・。

それにしても・・・。よく似ていた・・・。

全くの別人だが・・・。

「ん・・・?」

ベットの下に何かおちている。定期入れだ。開くと中には学生証が・・・。

かごめのものだった。

「・・・。日暮・・・かごめ・・・か・・・」

男は深くため息をつくとぼんやりと窓の外を見ていた。

空虚な瞳で・・・。

この後・・・。男が病院から消えたとかごめの携帯に連絡がはいるのだった。


最初は『犬』の犬夜叉の生まれ変わりだと思いこんだ記憶喪失の男・・・とか考えたりもしたんですが、記憶喪失ものは原作編の犬かごノベでもやったのでやめました(爆)一話完結ものばっかり書いてきたので、こう長編ものってなかなか難しいです・・・(汗)なかなかうまく進みにくいですね。でも後々は二人のラブラブ妄想だけはしっかりあるので・・・。・・・頑張ります・・・(^_^;