第1話拾い犬B

病院からの連絡で、犬夜叉が無理矢理退院してしまった事を知ったかごめ。

3日分の入院費は自分で払っていったという・・・。

「まったく・・・!!なんて自分勝手な奴なのよ!!助けてもらったっていうのに、黙って退院なんかして・・・!!一言お礼の言葉があったっていいじゃないの!!」

ドン!!

夜。机に八つ当たりするかごめ。参考書とシャーペンが勢いよくジャンプした。

「はぁ・・・」

(なんであたしがこんなに見ず知らずのあいつの事を気にしなきゃいけないのよ・・・。もう関わらずにすむんじゃないの・・・)

「・・・」

でも・・・。


何か感じた。


言葉では表せない。


何か・・・。

「ええい!勉強勉強!」

かごめはもうすぐ提出日の近いレポートをカバンの中から取り出そうとした。

「あ、あれ・・・?ない・・・!定期がない!!え、嘘!!どうして・・・!」

バックを逆さまにして中身を全部だして探すかごめ。

しかし定期は見あたらない。

「やだ・・・。一体どこで落としちゃったんだろ・・・。あれには・・・」

一番大切な写真が・・・入っている。

一番大切な・・・。

次の日、大学、バイト先の弁当屋いたるところを探したが定期は見つからなかった。


しかしそれから1週間後、思わぬ形で定期はかごめの元へ戻ってくることになるのだった。


「はぁ〜・・・。定期どこ行ったんだろう・・・」

日曜日の朝。深いため息をつきながらかごめはアパート前をほうきでそうじしていた。

「おやおや。かごめさま。せっかくの日曜の朝だというのにため息ですか?」

「別に何も・・・弥勒様はいつもげんきですね。また女の人ひっかけに街へ行くのですか?」

「ふ。ひっかけに等とそんな無粋な事・・・。私の子を産んでくださる運命のひとをみつけにゆくのです」

と、上等のスーツを着こなし、太陽にむかって力説する男・弥勒。

アパートの1階に住んでいる。

女好きが玉にキズの弥勒だが、大手の銀行に勤めるサラリーマン。実家は古い寺で一人息子。サラリーマンをしながら自分の子供を産んでくれる“運命のおなご”を只今探し中。(ただのナンパだと思うが・・・)

あ、言っている先から・・・。

「かごめさま、、お掃除姿もなかなか・・・」

「!」

弥勒の右手がかごめのおしりに悪さを働く。

バッチン!

弥勒の顔にかごめの手跡 が見事に咲く。

「もう!弥勒様、珊瑚ちゃんに怒られますよ!!そんなことばかりしてると!」

「ふ。珊瑚は私を信じていてくれますから」

「誰が信じてるって??」

「さ・・・珊瑚!!」

かごめの背後から弥勒をにらめつける珊瑚。

かごめの右隣の部屋の住人。

かごめと同じ大学に通っている。ちなみに空手部所属。

数々の大会でトロフィーを勝ち取った程の腕前だ。

弥勒に妙に気に入られているようだが・・・。

「朝っぱらあんたって奴はかごめちゃんにセクハラ!?」

「いやあの珊瑚・・・」

始まりました。弥勒と珊瑚のバトル。

もうアパートでは名物的バトルになっている。

「たくこのスケベサラリーマン!」

バッチン!

弥勒、二つ目の手跡が顔に咲きました。

さすがに空手の上級者だけあって、珊瑚のビンタはかなり効く。

「さ・・・。珊瑚、お前、力の加減をしらないのですか。嗚呼いたた・・・」

「ふん!弥勒さまに手加減なんて必要なし!あ、そう言えば、かごめちゃん、知ってる?」

「え?何が?」

「今日、新しい住人が引っ越してくること。あ、ほら・・・」

「えっ??」

振り返った先には・・・。

楓荘の看板の前にスポーツバック一つ肩にかけ、春なのにTシャツにGパン姿のこの男。むすっとした顔で立っているのは、かごめが助けた男だった。

(な・・・。なんであいつがここに・・・!)

「けっ・・・。オンボロアパートだな」

犬夜叉はまじまじとアパートを上から下まで眺める。

そこへ、一階にすむこのアパートの管理人・楓が杖を ついて部屋からでてきた。

「お・・・。早速来たか。犬夜叉よ」

「おう。楓ばばあ。ひさしぶりだな」

しかも、楓と知り合いらしいこの会話・・・。

かごめはただ驚きの連続だ。

「あの・・・。管理人様、彼ですか?新住人というのは・・・」

「そうじゃ。ワシの知り合いから預かったんじゃ。暫くやっかいになる。ほれ犬夜叉。挨拶せんか」

犬夜叉はプイッと横を向いた。

「ぐえッ!!」

楓に無理矢理頭を下げ、挨拶させられる犬夜叉。

「まぁ、少々無礼な所はあるが、悪い奴ではないので、よろしく可愛がってやってくれ」

「ばばあ!はなしやがれ!」

じたばたする犬夜叉をじっとみる弥勒と珊瑚。

「似てますなぁ」

「似てるじゃろう。“犬夜叉”に」

「?」

三人の視線は犬小屋に行く。

「なっ・・・。てめーら人をなんだと・・・」

「生意気そうなとこなんか“犬夜叉”そっくり・・・」

弥勒&珊瑚、犬夜叉の長い髪や手や腕をくいくいひっぱって観察観察。

「やめねぇか!てめら!!」

「いやこれは失敬。あ、ご紹介遅れました。私はここの住人の弥勒と申します。よろしくお見知り置きを・・・」

すっと手を差し出し握手をもとめたが犬夜叉はスッと手をポケットにしまってしまう。

「あらら・・・。男と握手など趣味ではないようですな。まぁ私もそうですが。ちなみにこの私の横にいるおなごは妻の珊瑚です」

バキ!

弥勒、後頭部にたんこぶのできあがり。

「誰が妻だ。誰が・・・!あの、あたし珊瑚。2階に住んでるんだ。よろしくな」

「けっ・・・。俺は馴れ合いはしねぇ。おいばばあ。俺の部屋はどこだ」

「2階の一番左端の部屋・・・。そこにいるかごめの隣の部屋じゃな」

犬夜叉はかごめのチラッと見た。

ドキッとするかごめ。

しかし犬夜叉はすぐ視線を逸らし、スタスタと2階へと上がっていってバタン!と、乱暴にドアを閉めた。

「なんとまぁ、無愛想な新住人さんでしょうねぇ。しかも名前が“犬夜叉”とは・・・」

「なにかの縁よね・・・。でも“犬夜叉”って本名なの?」

弥勒と珊瑚は興味津々に聞く。

「あだ名じゃよ。はははッ。犬の“犬夜叉”の名もあいつから付けたんじゃからな。あっはっはっ。こいつの本名はな。みんな耳をかしてごらん」

ごにょごにょごにょ。

耳打ちされた犬夜叉の本名にみんな・・・。

「わはははははは!!だからあだ名が『犬夜叉』なのですね!納得・・・!」

「なんか漫画のキャラの名前みたい。ふふふ・・・」

弥勒と珊瑚にはかなり受けたらしい。

その犬夜叉の本名とは・・・。


『犬島 夜叉丸』(いぬじまやしゃまる)

「略して『犬夜叉』本人はあだ名の方が気に入っとるみたいだがな」

「確かに。それにしても『夜叉丸』とはなかなか個性的名前ですな。くくく・・・。じゃ、これから私達も彼の事を“犬夜叉”と呼びましょう!その方が親しみが湧きますし!ふふふ・・・」

「弥勒様・・・。何だか獲物を得たように不気味な笑い・・・」

新住人を楽しそうに迎える3人。

しかしかごめは少し複雑だった・・・。


(何だかまたケンカしそう・・・。それにしても『夜叉丸』か・・・。確かに漫画受けする名前ね・・・)

かごめは犬夜叉の部屋をふっと見上げたのだった。


「ふう・・・。やっと終わった・・・」

椅子をギィッと鳴らして背伸びするかごめ。

レポート、明日がしめきりだった。

かごめはふとベットが置いてある方の壁を見た。

この壁の向こうに犬夜叉がいる。しかし、昼間部屋に入ったっきり夜になっても物音一つしない。

(・・・。あいつ何してんのかな・・・)

かごめはそっと耳をあててみた。

「・・・」

何も聞こえない。

(や・・・。やだ!あたし、何してんの!!盗み聞きみたいなこと・・・)

コンコン!

「ひゃッ!!」

かごめの心臓はびっくり。何か悪いことをしているところを見られたようにドキドキした。

「は・・・はい。どなたですか?」

シーン。

返答は無し。

時計の針は10時を過ぎている。

かごめは少し警戒しながらドアを開けた。

「あ・・・あんた!?」

「おう」

相変わらずぶすっとした顔の犬夜叉が立っていた。

「あんた・・・。何よ。なんか用?」

「これ、お前のだろ」

「え・・・」

犬夜叉のGパンのポケットから、かごめの定期がでてきた。

「ど、どうしてあんたが持ってるの!?」

「てめえが病院でおとしてったんだろーが!」

「あ・・・」

どうりでどこを探しても見つからなかった訳である。

「ん?何よ。人の顔じろじろ見て・・・」

「・・・。ガキだな。そんなとこに家族の写真なんていれてるなんて・・・」

「!!」

皮の定期の裏に・・・。家族全員で撮った写真。実家の神社の前で撮った写真。祖父と母と弟と・・・。

今は遠く離れて暮らす家族達。

「あ、あんた、中見たのね!!」

「見なきゃ誰のもんかわかんねーだろーが」

「な、何よ!!大体あんた、あたしに助けられておいて、勝手に退院して何の一言もないじゃいなの!」

「けっ。てめーが勝手に助けたんだろ!」

「何ですってぇ!!」

「何だよ!!」

気がつけば、お互いの顔、至近距離で言い合い。

ハッと気がつき二人後向く。

(何よ・・・。なんであたしがこんな奴にムキにならなきゃいけないの・・・)

(畜生・・・。やっぱり似てやがる・・・。あいつに・・・)

「けっ。渡すもんは渡した。俺は寝る!」

「はいはい。おやすみなさい!やっと静かになるわ!!」

バン!!


勢いよく二人はドアをしめた。

「なによ・・・。あいつ・・・」

乱暴でわがままそうな奴。


口も悪いし・・・。


でも・・・。何か気になる。


雨の中、初めてあいつを見たときから・・・。


見えない糸で引き寄せられた気がして・・・。


「・・・。なっ・・・。なんであたしがあいつと・・・。勉強!勉強ッ!!」

頭を切り換えて、机に再び向かうかごめ。


一方、壁の向こうでは・・・。

何もない部屋。畳にごろんと寝転がり、ぼんやり天上を眺める。

親代わりの様に何かと世話になった楓に薦められ、このアパートに来てみた。

少しは何かが変わると思って・・・。

でもまだ、胸に残るこの痛み。


“犬夜叉・・・”

愛した女の最後の声が今でも耳にこびりついて・・・。

しかし、自分も生きていかなければいけない。

そう思い、新しく暮らす場所に来てみれば、桔梗とよく似た女が待っていた。

「中身は全然違うがな・・・」

あの雨の中、体も冷たく、意識も朦朧としていた。

何もかもがどうでもよくなっていた。

このまま・・・。

亡くした女の元へ行ってもいいと思った。

その時、目の前に現れたかごめという名の女。

桔梗が迎えにきたのかとおもった。

“大丈夫ですか!?”

微かに聞こえたその声は明らかに桔梗とは違った。

その声の主に助けられ、そして病院で見た夢・・・。

暗闇を歩く自分の前に、白いあたたかい光が見えて・・・。

そして気がつくと、かごめがいた・・・。

偶然か・・・。桔梗によく似た女に助けられ、そして今、同じアパートに・・・。

わからない。

明日の事さえも・・・。


ともあれ、二人は出会って・・・。


そして壁一枚向こう・・・。


新しい日々が始まった・・・。


やっとプロローグ終了・・・。という感じでしょうか。犬夜叉の名前にちょっと悩みました。現代物で本名を『犬夜叉』にするのはちょっと無理がある気がしてあだ名にしたのですが、本名をどうすればいいかと迷いました。で。おわかりだと思いますが単細胞な私は殺生丸の『丸』をとって夜叉丸ということにしたんですが、如何でしょう・・・(爆)あだ名とどう連結させればいいかこれでも結構考えたんですが・・・。それにしても・・・イマイチ・・・ですね。文中は滅多に本名は出てこないと思いますのでご勘弁を〜(汗)