第14話・ウルフ・ガイ@
〜勝利のキスは誰の手に〜

戦国大学。かごめと珊瑚が通う大学はスポーツが盛んだ。

特に珊瑚の所属する空手部と陸上部はそこから世界大会に出場する選手が出るほどだ。

戦国大学グラウンド。

緑のユニフォームを身にまとい、直線のトラックを、長い髪をなびかせ、のすごいスピードで走る一人の青年がいた。

「よし!!鋼牙!新記録がでたぞ!!」

ストップウォッチを見ながら、コーチらしき男が興奮して青年にタオルをかける。

「フン・・・。俺にゃあ、タイムなんて関係ねぇ 。俺の前を何人たりともはしらせねぇだけだ」

ゴクゴクとペットボトルのスポーツドリンクを一気に飲み干す。

この青年の名は狩屋鋼牙(20)。

人読んで“ウルフ・ガイ”狼の如く早い足の持ち主といわれ、

日本の陸上界で今、最も注目株の新人ランナーだ。

「鋼牙先輩!すっげぇな!俺も早く先輩みてぇに風きってはしってみてぇよ!」

「お前にゃ100年早いぜ。それよか、お前、フォームくずれてたぞ。俺がコーチしてやる」

陸上部エースにして、後輩部員への面倒見も良い鋼牙。

周囲からの信頼も厚い。ルックスも切れ長の目に長身で当然、女の子達にも人気があり・・・。

「キャー!!鋼牙くーん!!」

グランドの隅では取り巻きが・・・。

その中にかごめの姿もあり・・・。

「ね、かごめ 。お願い!それとなく・・・。鋼牙クンに合コン、誘ってみてよ」

かごめの友人が手を合わせて頼む。

「なんであたしが。自分で聞いてみればいいでしょ」

「何かさほら・・・。近寄りがたくて。ねっ。お願いします!かごめ大明神!」

そこまでいわれては、かごめも断り切れない。

かごめは取り巻きをかき分けて、グランドで準備運動をしている鋼牙に近づく・・・。

「あの・・・。キャッ」

転びそうになったかごめを両手でうけとめる鋼牙。

「大丈夫か?」

「あ、はい・・・。すいません・・・」


スカートをポンポンとはたいて起きあがるかごめ・・・と鋼牙が目があった瞬間・・・!

「!!!」


鋼牙の心に、激しい稲妻が走った!

鋼牙の中で血が騒ぐ・・・!

「あの・・・」

鋼牙はしばし、かごめにぼうっと見とれ、その場に立ちつくす。

「あの・・・。ちょっとお願いがあって・・・ってきゃあ!」


鋼牙はかごめの両手を包むようにぎゅっと握ってじっと見つめた・・・。

「あんた・・・なんて名だ・・・」

「え・・・。私は日暮かごめと言います・・・。あの・・・」

「かごめ・・・」

いきなり呼び捨てにされ、かごめはちょっとムッとした。

しかし、鋼牙の次の一言で女子の取り巻き達が静まりかえる。

「かわいいなお前・・・。今日からお前は俺の女だ」


「・・・。はあ?」

かごめはよく話が見えない。

「とにかく俺はお前を気に入ったんだ。かごめ・・・」

そう言ってなんと鋼牙はかごめのあごをくいっと持った。

「なっ・・・なにすんのよーーーーーっ!!」

バッチーーーン・・・。


かごめの放ったビンタの音がグランドに響く・・・。

鋼牙の取り巻き始め、周囲はただぼう然・・・。

「・・・」

殴られた鋼牙本人も突然の事おどろき、きょとんとした顔・・・。

「あ、あの・・・。何勘違いしたのか知らないけど、あ、あたしには他につ、付き合っている人がい、いるのよ・・・」

「つきあってる奴・・・?誰だそいつは!」

「だっ誰でもいいでしょ!!とにかく、あたしは貴方の女になんてなる気はないのであしからず!!じゃ、さようなら!!」


鋼牙にそうはっきりと言い放ち、グランドを後にした・・・。

その後ろ姿が・・・。

何とも勇ましく、綺麗に見えて・・・スローモーションで見とれる鋼牙・・・。

「きゃーーー!!何よあの女!!鋼牙クンをぶつなんてーー!!」


鋼牙の取り巻き達がブーイング。

「うるせえぞッ!おめえらッ!!俺の女にいちゃもんつけんじゃねぇッ!」

鋼牙の一言でシーンと静まりかえる。

「良い機会だからいっておくが、グランドに勝手にはいってくんじゃねぇッ!!練習の邪魔なんだよッ!!わかったかっ!!」


鋼牙のどぎつい一言に取り巻きたちはそそくさと退散・・・。


「これで静かに練習ができるぜ。それにしても・・・ 」

鋼牙は足下に落ちていたかごめの白いスカーフを拾う・・・。

「ふっ。どこの『鹿』の骨かしらねぇがかごめに誰がいよーが俺にゃ関係ねぇ。お前は俺の女だ・・・。ククク・・・」


腕を組み、自信満々に笑う鋼牙だった・・・。

「あの・・・。鋼牙先輩・・・。『鹿』じゃなくて『馬』デスヨ・・・」



夜9時。

かごめと珊瑚はかごめの部屋でレンタルビデオを見ていた。

テーブルの上にはお菓子類が・・・。

「えー。じゃあ、珊瑚ちゃん、みてたの?今日のこと・・・」

「うん。っていうか、大学中の噂だよ。狩屋鋼牙がいきなり白昼堂々大告白!!って・・・」

「・・・。最悪・・・」

だだでさえ、鋼牙の取り巻きに今日帰るとき、冷たい視線を浴びせられてきたというのに・・・。

かごめはハート形のクッションをギュッと抱きしめて落ち込む・・・。

「でもさ。かごめちゃん、犬夜叉にこんな話きかれたらきっとうるさくなるだろうね・・・。嫉妬深そうだから・・・」

(誰が嫉妬深いだ!!)

その嫉妬深そうな男が・・・。

隣の部屋で壁に耳をぴたっとくっつけてかごめと珊瑚の会話を盗み聞き。

(・・・。それにしてもその『鋼牙』って野郎・・・。ぬけぬけとかごめに言い寄ったってのか!!)

犬夜叉、何故だかするめを噛みながら聞き耳をたてる。

コンコン。

かごめの部屋に来客のご様子。

「誰だろ?こんな時間に・・・」

かごめがドアをあけると・・・。


「ヨウ!かごめ!」

黒の革ジャンをきた鋼牙が立っていた・・・。

「鋼牙君、どうして・・・」

「忘れモン届けに来てやったぜ。ほれ。これお前のだろ?」

ポケットから白のスカーフを取り出す鋼牙。

「あ・・・。ありがとう。でもよく私のアパートがわかったね」

「ああ、お前の友達って奴から聞いた。んなことよりかごめ・・・。その水玉の寝間着かわいいぜ・・・」

鋼牙、またもやかごめの手を握る。

「あの・・・。鋼牙君、もう時間も遅いから帰って」

「帰る?俺は泊まるつもりできたんだがな」

バタン!!

「犬夜叉!」

我慢が出来なくなった犬夜叉が飛びかごめと鋼牙の間に割ってはいる。

「犬夜叉?何だてめぇは・・・」

「うるせえッ!どーでもいいからとっとと帰えりやがれっ!」


にらみ合う犬夜叉と鋼牙・・・。

本能的にこいつは何だか妙にムカツク奴だと同じくかんがえる。

「ははーん。かごめ、お前が言ってた奴ってのはこいつか。犬みてぇにキャンキャンうるせえな」

「なっ。犬だっ!てめーこそ狼みてーな面しやがって」

「てめぇに言われたくねぇな。ところでなんでお前、かごめと同じ柄の寝間着きてやがる」

犬夜叉とかごめ、互いのパジャマを見合う。

この間、『ユニシロ』で買った赤と青の水玉のパジャマ。

バッチリペアルックです。ご両人。

「犬夜叉、着てくれてたんだ・・・」

かごめは嬉しそうだが・・・。

「う・・・うるせえっ。洗濯して着るモンがなかったんでいっ!んなことより、狼ヤロー!かごめにもう一歩たりとも近づくんじゃねぇっとっと帰りやがれっ!」

さらににらみ合う犬夜叉と鋼牙。

かごめと珊瑚は似たもの同士というのはこの事だと実感する。

「へん・・・。てめーに指図される覚えはねぇ。俺はかごめに惚れたんだ!惚れまくってんだよ!文句あんのかこのヤローー!」

堂々、ストレートな鋼牙の台詞に犬夜叉、返す言葉なし・・・。

「う・・・。よ・・・。よくもぬけぬけと・・・」

「そうだ・・・。おい犬っころ、俺と勝負しな」

「勝負?」

「明後日の日曜、俺の大学のグラウンドまで来い。そこで俺と走って勝った方がかごめの男って事だ。そうさな。かごめのキスでも懸けるか」

「ンなッ・・・」

「そういうことだ。じゃあなかごめ」


なんとも強引に言いたいことだけ言って帰る鋼牙。バイクのエンジンの音がアパートにこだましていた・・・。

「・・・」

口をぽかんとあけてぼう然とするかごめ。

一方犬夜叉は・・・。

今にも頭から噴火しそうな程に・・・。

「チキショーーーッ!!受けてたってやろーじゃねぇか!!狼ヤローーーッ!!!」

遠吠えの如く、怒り吠えてた犬夜叉だった・・・。