第15話
・ボディガードA

戦国大学。この町最大の大学で、学生の人数も一番多い。

広い教壇。教授らしき人物がスライドを棒でさし、生徒達に説明している。

黙してそれをルーズリーフに写す生徒達。

「・・・であるからしてこの年代における・・・」

珊瑚もせっせとペンを走らせていた。

しかし、シャーペンの芯がポキッと折れてしまった。

「はい。どうぞ」

どこからともなく一本、芯が・・・。

「あ、ありがとう・・・。って!!!」

珊瑚が振り向くと、なんとちゃっかり弥勒、生徒の様な顔をして教室に紛れ込み中。

「弥勒さまどうして・・・!!!」

思わず大きな声を上げてしまった珊瑚。注目される。

「あ、何でもありません。ささ、授業の続きを」

弥勒に口を押さえられ、珊瑚を座らせる。

「弥勒様!なんでこんなところにまでいるのよ・・・」

「言ったでしょう?私はケビンコスナーだと。ボディーガードは常に守る相手と共にいるのです・・・。ってなんですか?その信じてないような目は・・・」

「なーんか・・・。『別』の目的があるような気がするんだけど・・・」


珊瑚のカンは当たっており・・・。ボディガードはボディガードでも・・・。


「もし!そこの女学生さん!よろしかったら私の子を産んでみませんか?」


女性の手を握り、あっちこっちでいつものナンパ巡業。

「やっぱり真の目的はこれだったのか・・・。このスケベサラリーマンが・・・!!!」

珊瑚、かなり殺気立っています・・・。

中庭の噴水。大学のシンボルでもある。

昼休み、中庭で芝生の上で弁当を広げる珊瑚とかごめ。

「いや〜。いいですなー。キャンパスライフ!」

一人背伸びする弥勒。

その横で珊瑚とかごめが弁当を広げている。

「あの・・・。珊瑚さん。私もお腹がへったのですが・・・」

きっとにらむ珊瑚。

「その辺りの女の子にでももらえば!ふんッ」

を無視し、珊瑚は弁当をパクパク食べる。

「あの弥勒様、よかったらあたしのどうぞ・・・」

かごめが弥勒にサンドイッチを一つ渡す。

「ありがとうございます。いただきます」

弥勒、正座して食べる。

「それで弥勒さま・・・。その陽子って子には話をしたんですか?」

「ええ・・・。昨日、会って話をしてのですが・・・。どうやら両親の離婚が完全に決まったらしく、荒れていいて・・・。でも珊瑚には関わるなと言っておきました。多分、下手なことはしないとは思いますが・・・」

弥勒はサンドイッチをほおばりながら話す。

「ふん。弥勒様に守ってもらわなくてもあたしは自分の身ぐらい自分で守れるよ!ナンパばっかりしてるボディガードなんていらないんだから!」

珊瑚、完全におかんむりです。

「ふっ。珊瑚・・・。それもボディガードの役目。相手を油断させておくのです・・・ってあら?」


弥勒、かっこつけている間に珊瑚とかごめはさっさとその場を去っていた・・・。


「・・・。ボディガード、失格でしょうか・・・(汗)」


大学の帰り道。レンタルビデオ屋に立ち寄った三人。

「あ・・・。『ボディガード』やっと返却してあった・・・vv」

かごめが嬉しそうにビデオを手にする。

かごめは主に恋愛映画、珊瑚はアクション物を好んで借りている。

「ねぇ。弥勒さま、弥勒様ってどんな映画みるの・・・?」

「私ですか?そうですねぇ。何でも見ますよ。あ、ほら、これなんか」

弥勒が手にとったのは『戦国お伽草紙猫夜叉』というアニメビデオ。

「弥勒様、アニメなんて見るの?」

「いやあ、女子社員の間でも人気なのですよ。この中の『菩薩』という法師のキャラいるのですがね、これがなんともニヒルで格好いいキャラなのです」

「・・・。確か、そのキャラって女たらしでスケベなキャラだったけ。託児所の子供達が言ってっけ・・・」

かごめ、珊瑚、弥勒をじろりと見る。

「・・・。弥勒様がモデルなんじゃないの?うふふふ・・・」


珊瑚とかごめはくすくす笑いながら貸し出し口にビデオを持っていく・・・。

「・・・。この漫画、ちなみに『かもめ』ちゃんという中学生の子と『真珠』ちゃんと妖怪退治屋のいう可愛い女の子キャラも出てきます。ただいま、DVD、好評発売中!!」


弥勒、防犯カメラに向かって度アップでCM中。一体誰に向かって言っているのやら・・・。


こうして、各自、好きなビデオを借り、レンタル屋を出る一行。

背後から、珊瑚をじっと見つめる影が・・・。

一行は全く気がつかず『猫夜叉』という漫画の話で盛り上がっている。

「だからですね、その『菩薩』という法師は一人孤独な運命と闘っているのですよ。私はそこに男の悲哀を感じます・・・」

なんだか妙にそのキャラクターに思い入れがあるご様子。

「でもどんなにかっこよくても女たらしじゃねー。ね、かごめちゃん」

「そうね。それに主人公の猫夜叉っていうのはなんだか嫉妬深そう・・・」

3人、立ち止まりある人物を思い浮かべる。

「・・・。家に帰ったら、犬夜叉の頭に耳がないか確かめてみようかな。うふふ・・・」


かごめが噂している頃、犬夜叉は「へっくしょい」と、建築中の家の屋根の上で思い切りくしゃみをしていた。

(風邪かな・・・)

一方再びかごめ達一行。

更に話は盛り上がっている。

とある10階建てのマンションの前を通りかかったその時・・・!


なにげなく弥勒が上をみあげると珊瑚の頭上真っ逆様に何かが落ちてくる!!


「珊瑚、危ないッ!!!」

「え?」

弥勒は珊瑚を抱きしめるように押し倒した。


ガッシャーン!!!


赤いレンガが木っ端みじんに飛び散った・・・。

かごめが駆け寄る。

弥勒と珊瑚が上をマンションを見上げると、茶色髪がサッと一瞬消えるのが見えた・・・。


「さ・・・珊瑚ちゃん、弥勒さま、大丈夫!?」

「う・・・。うん・・・。そ、それより弥勒様が・・・」

「私はなんとも・・・。それより珊瑚。見ましたか・・・?」

「う、うん・・・。あの髪の色は・・・」

間違いなく・・・。


陽子という少女だと二人は確信する・・・。


「・・・。本気の様ですな。あの子は・・・。ならば警護もより徹底しないと・・・」

珊瑚は、飛び散ったレンガを見て、急に恐怖心がわいてくる・・・。

「あ、あたし・・・」

手が震えてきた珊瑚・・・。

「 「乗りなさい」

「え?」

珊瑚に背中を差し出す弥勒。

「で・・・でも・・・」

「ボディガードは守るだけじゃなく、常に相手を気遣うことも任務です。さ、遠慮せずに・・・」

「・・・。じゃ、じゃあ・・・」


珊瑚はもじもじしながら弥勒の背中に乗った・・・。

「おお。珊瑚、お前・ 」

「何よ」

「・・・。お前、少しおしりの辺りが引き締まったんじゃないですか」


「!!」

弥勒、やっぱりお約束で珊瑚におしりに悪さを・・・。

「お、おろしてよ!!おりる〜!!」

しかし珊瑚の叫びも知らん顔で弥勒は珊瑚を背負って町中を走り回る。

「ははは。こうなってしまえば、私の勝ちですよ。珊瑚。どうですこのまま、静かな場所にでも・・・」

と、弥勒、『ご休憩』とかいてある看板の前に・・・。


「・・・。弥勒さま、悪ふざけもすぎるとおいただよ・・・」


ボキッ。

背中から迫力のある指をおる音が・・・。

「は、はーい!弥勒、行き先は楓荘・仏野弥勒の部屋ですね!」

「ち、違ーーう!!!」


珊瑚を背負い、弥勒号、どこへゆく・・・。


夕暮れの町を珊瑚を背負った弥勒がアパートまで一直線で走っていったのだった・・・。

でも珊瑚はわかっていた。珊瑚を安心させようとしている弥勒の気持ちを・・・。


その様子を・・・。屋上から見下ろしている陽子。


「・・・。海野珊瑚・・・。あんだだけは絶対に・・・許さないんだから・・・ッ!!絶対に・・・消してやるッ!!!!」

そう激しくつぶやく陽子の手には・・・。


きらりと光るナイフが握られていた・・・。


家に帰り、珊瑚が風呂から上がってくると部屋をあけるとそこには・・・。

「やぁ珊瑚。お湯加減、如何でしたか?」

「・・・。どうしているのよ」

パジャマ姿の弥勒が珊瑚のベットの上に正座している。枕抱えて。

「どうしてってほら。ボディガードは常に守るべき人間と寝食を共に・・・」

珊瑚はポキポキと腕を鳴らして警告。

「・・・。は、はいわかりました。とっとと退散いたします」

部屋を出ていこうとした弥勒。出際に一言・・・。

「珊瑚。念のため、戸締まりはしっかりとな。何かあったらすぐ呼ぶんだぞ。すぐお前の元に来るから・・・」

弥勒はまじめなまなざしで珊瑚を見つめる・・・。


「う、うん・・・」


「じゃおやすみ・・・」


パタン・・・。


「・・・」


トクトクトク・・・。

珊瑚の胸が早鳴る。

珊瑚は窓際のドレッサーの前に座り、髪をタオルでふく・・・。


鏡の中にいる自分・・・。


弥勒の一言一言に反発しては、ドキドキして。

その繰り返し・・・。

『お前のボディガードだからな・・・』

映画の中のケビンコスナーとホイットニーヒューストンは・・・。

守られる側と守る側を越えて、愛し合う・・・。

でも最後にはお互いの立場を考えて別れてしまう・・・。

かごめが言っていた。

『別れたのは、きっとまた会うためよ。会って今度は・・・ずっと一緒にいる。何があっても』

珊瑚はわからなかった。

男と女は・・・。タイミングをずらすとなかなかもう巡り会えない。

そのタイミングに素直にならなくちゃ・・・。


素直に・・・。

「・・・」

濡れ髪の自分をじっと見つめる珊瑚・・・。

『弥勒が好き』

「!!」


鏡の中の自分が問いかける。

『弥勒が誰よりも好き』


「ち・・・違うわよ。あんな女たらし・・・」

『それでも好き。大好き』


「ちがうったら・・・!!」


プシュー・・・。


鏡の中の自分にヘアームースをかけて消す。

本当の自分の気持ちを消すように。


白い泡で消す・・・。

しかし泡は床に落ち、混乱に満ちた自分の顔が・・・。

消えない・・・。


自分の本当の気持ちは・・・。


「・・・。あたしだって・・・。素直に・・・。なりたいよ・・・素直に・・・」

でも・・・。

なれない自分・・・。

いつもその歯がゆさを抱えてる・・・。

テレビの上の写真・・・。

夏にキャンプに言ったときの写真だ・・・。

気障にポーズを決めた弥勒が映っている・・。

「・・・。にやけちゃって弥勒様・・・」

珊瑚は写真の中の弥勒の顔を指でピンっとはねつけた・・・。


いつか・・・。いつか・・・。

鏡の中の自分の様に素直にすき・・・と伝えられたら・・・。


そう思いながら珊瑚はベットに入った・・・。


コチコチコチ・・・。

時計の針の音がやけに耳に入ってくる・・・。

珊瑚は何度も寝返りを打つ・・・。


誰かが・・・。


自分を睨んでいる・・・。


刺すような視線・・・。

「う・・・ん・・・」


”絶対に渡さない・・・。弥勒は誰にも渡さない・・・”

「う・・・ん・・・」

”消えて・・・。あんたなんか消えて・・・!!”


「う・・・」

迫る・・・。陽子が珊瑚に・・・。手にはナイフを・・・。


”消えて・・・!”

ナイフが振り下ろされる・・・!!!
「や、やめろーーーー・・・!!!!!」

珊瑚は自分の叫び声と共にガバッと起きあがる・・・。

「ハァ・・・。ハァ・・・」


寝汗をかいている珊瑚・・・。

「夢か・・・」

珊瑚は台所に行き、水を一口飲み、再びベットに入った・・・。

天井を見上げる珊瑚・・・。

(嫌な夢だったな・・・)


そう思い目をた瞬間・・・!


「!!」


全身に急に重くなり、目を開けると・・・。


「ひッ・・・!!」

ギョロッとした瞳が自分を見下ろしている・・・!!

そして真っ逆さまに光るものがおろされた!!


ザシュッ!!

珊瑚の枕が突き刺さって白い綿が飛び散った。

「はッ・・・!!!」

珊瑚は瞬時に空手の受け身をするようにベットから這い出た!

「あ、あんた・・・!!」

陽子はなおも珊瑚に刃を向ける!!

「言ったでしょ・・・。弥勒の前からきえてって・・・。なんであんたいるのよ・・・。弥勒のそばに・・・」

じりじりと珊瑚を窓に追いつめていく・・・。

「ど、どこから入ったのよ!?玄関の鍵しめたはず・・・」

珊瑚は台所の小窓の鍵が開いているのに気がつく。

小柄な女の子なら入れない大きさではない。

そこまでして自分の部屋に入ってきた陽子の陰湿さにぞっとする珊瑚。

「・・・。弥勒の前から消えるって約束したら何もしやしないわ・・・。ねぇ約束してよ・・・」

「・・・。お断りよ!!あたしはひとの指図なんて受けない!!陽子ちゃん、あんた間違ってる!!ご両親が離婚した辛さをどうして弥勒様にぶつけるの!?それはご両親に向けるべきでしょ!!」

両親の子とを言われ、いっぺんに陽子の表情が豹変した。

「うるさい、うるさい。うるさい!!!!あんたに何がわかるのよ!!あたしの気持ち何て!!!あたしの気持ちをわかってくれたのは弥勒だけだったわ!!だから誰にも渡さない!!!!」

そう言って珊瑚に向かって刃物を振りかざした瞬間!!

「珊瑚ッ!!!」

バアンッ!!

弥勒がドアを足蹴りして入ってきた。そして、陽子の腕をグッとつかむ!!

「うッ・・・。弥勒・・・」

「・・・いい加減にしろっ!!」

陽子の手から刃物を取り上げる弥勒。

「珊瑚。大丈夫か?」

「う、うん・・・。あたしは大丈夫・・・」

弥勒は珊瑚の無事にホッとした。

「ううッ。痛い・・・。弥勒離してよ!!!!その女許せない!許せない!!!」


バシッ!!!

弥勒は容赦なく陽子の頬をひっぱたいた。

「な、なにすんの!!女に向かって・・・。うッ」

更に弥勒は陽子のTシャツの襟を掴む。

「うるせえよ・・・。大事な女を傷つけようとする奴・・・。オレは男だろうが女だろうが容赦しねぇんだよ・・・」

今まで見たこともないような、弥勒の恐ろしい睨む目・・・。

陽子はかなりひるんだ・・・。

「な・・・。何よ。弥勒・・・ 。あんたまできどっちゃって・・・」

「・・・。まだ、自分がしようとしたことわかんねぇか!!ちょっとこいッ!!!目、覚まさせてやる!!!!」

「きゃあ!!どこつれていくのよ!!」


弥勒は陽子の襟をつかんだまま一階へおり、地面に乱暴にすわらせた。

そしてアパートの花壇の脇にある水道の蛇口をひねり、思いっきり陽子めがけて水をかけた。

「きゃあ!!つ、冷たい!!やめてよ!!!」

「やめない。お前の目がさめるまで。自分が何をしようとしたか自覚するまで・・・!!」

弥勒はさらに蛇口をひねって水の勢いを強くした。

「弥勒様!!」

騒ぎに珊瑚やかごめが降りてきた。

「ったく何の騒ぎだ・・・」

爆睡中の犬夜叉もさすがに眠そうに降りてきた・・・。

「ぷはッ!!!やめてよ!!!もうやめて・・・!」

「陽子ちゃん・・・。よく考えるんだ。自分が辛いからと言って外にそれを向けるな!ましてやオレだけならまだしも珊瑚まで巻き沿いに・・・。オレは絶対に陽子ちゃんを許さないぞ。珊瑚にしたことを・・・!!!」

「弥勒さまっ。もうやめてよ・・・ッ。あたしはなんともないから・・・」

珊瑚はそう言って水道の蛇口を閉めた。

「しかし珊瑚・・・」

「もういいから・・・。ね・・・」

珊瑚の言葉に弥勒はホースを地面においた・・・。

全身水浸しの陽子・・・。

珊瑚は自分が首にかけていたタオルをそっと陽子にかけた・・・。

「・・・。あんたの事、一発なぐってやりたい気分。でも、さっき弥勒様の一発でチャラにしてあげるわよ。あんたよくみると可愛い顔、してるんじゃないの・・・。ナイフなんか似合わないよ・・・」

陽子の顔を優しく拭く珊瑚・・・。

「・・・。何よあんた・・・。優しくなんかしないでよ・・・。あんたになんか・・・」

「・・・。あたしだってあんたになんか優しくしたくない。でも・・・。今のあなた、すごく痛々しいから・・・。あたしね、武道やってていつも教えられてるの。人に優しく・・・って・・・。それが本当の強さだって・・・」

「・・・。また説教こくき?」

「違うよ」

かごめが陽子に語りかける。

「珊瑚ちゃんはね、陽子ちゃんの胸の内を知りたいっていってるんだよ。どうしてこんなことをしたのか・・・。胸にたまってるもやもや・・・。ここで出してみない・・・?」


かごめも陽子に静かに言う。

「優しくしないでったら!!警察にでも何にでも言えばいいでしょ!!」

「けっ。なんだかしらねーが、警察沙汰はごめんだね。おれは、狼臭い奴と警察が一番きれーなんだ」

犬夜叉も腕組みをしてつんと言う。

「・・・。何よ。みんなして・・・。同情なんていらないのよ!どうせあたしなんか生きてたって誰も泣きはしない!!親なんてかって離婚して、勝手に学校まで転校させられて・・・ッ。誰もあたしの気持ちなんて聴いてくれなかったじゃないーーー・・・ッわあああッ・・・」

陽子は地面うなだれるように泣いた・・・。


少女の背景にあったものがなんとなく見えた弥勒達。

現代の家族事情など知るよりもないが、少女がここまで追い込まれていたことだけははっきりと理解した・・・。


泣き崩れる陽子にかごめがつぶやく。


「お母さんの胸でいっぱい泣くといい・・・。子供に戻ってもいい。赤ちゃんみたいに泣きわめいてもいい・・・。辛い思いをお母さんにぶつけてみればいいよ・・・」

陽子の背中をそっと包むようにゆっくり、ゆっくり撫でるかごめ・・・。

そのせいか少しずつ、陽子は落ち着きを取り戻した・・・。


「・・・。あたしの母親は・・・。外面ばかり気にしている会社女よ・・・。そんな女に泣きつけるわけない・・・」

「・・・。だからこそお母さんの胸に飛び込むんじゃない・・・。母親ってね、絶対にその腕に抱いた子供の感触はわすれないんだよ。だから陽子ちゃんがお母さんの胸に飛び込めばきっと・・・よみがえるはず・・・。あたしはそう信じるよ・・・」

「あたしも信じる。きっと陽子ちゃんのお母さんは陽子ちゃんの気持ち、わかってくれるって」

珊瑚も力強く言った。

「私も信じますよ。母と子はへその緒が離れても絆は深いですからね・・・」

弥勒も笑みを浮かべて言う。

「けっ。母親がどうこうなんてしらねぇが、親は親だからな。他にいねぇよ・・・」

犬夜叉も珍しく(?)まじめに語る。


4人の言葉。そんな風に言ってくれたのは初めてだ・・・。

陽子の脳裏に母と幼い頃の記憶がよみがえっていた・・・。

「・・・。ママは・・・。お母さんは・・・。あたしの感触を覚えて・・・いる・・・かな・・・?」

「・・・。体で覚えてるよ・・・。きっと・・・」

かごめはそっとちょっと痛んでいる茶髪を撫でた。

それはどこか母の様にあたたかく・・・。

陽子の心にも温もりが伝わった・・・。


そしてその後・・・。

弥勒は陽子の両親に連絡を入れ、事のあらましを伝えた。

すぐ迎えに来た陽子の両親。

父親はいきなり謝罪もせず、懐から札束をだして、表沙汰にはしないでくれと弥勒達に頼んだ。

それをはねのける弥勒。

そして両親に向かってはっきりといってやった。


「その札束をいくら積んでも陽子ちゃんの涙には値しない。いい加減、金から離れてみたら如何ですか!!」


と・・・。


両親は弥勒の言葉にだた黙していた。

黒塗りの車に乗っている陽子。

母の肩にそっとよりかかり、あどけない寝顔を見せていた・・・。

母親は陽子に自分が来ていたショールをかけ、陽子の頭を膝の上にのせた。

そしてぽつりと言った。


『昔・・・。こうして耳そうじしたね・・・』


その言葉が陽子に聞こえたのか眠っている陽子は穏やかに微笑んだのだった・・・。


陽子が帰り、やっと静けさを取り戻した楓荘。

時間はまだ夜中の3時。

「珊瑚・・・。でもよかったのでしょうか?警察に言わなくて・・・。いくら事情があったとはいえあの子がしたことは・・・」

「別にいいよ。あの子が少しでも反省してくれた・・・ら・・・」

「珊瑚!」

珊瑚は足の力が抜け、フラッと座り込む。

「珊瑚、大丈夫か!?」

珊瑚を抱き起こす弥勒。

「ちょっとホッとしたら気が抜けただけ・・・」

「・・・。すまない。お前を巻き込んで本当に申し訳ないと思っている・・・」

弥勒はそういうと、珊瑚をお姫様だっこして階段を上がっていく。

「ちょ、ちょっとおろしてよ・・・」

「ボディガードは守る相手の無事を最後まで確かめるのが任務。おとなしくしなさい」


パタン・・・。


ケビンコスナーの様に颯爽と珊瑚の部屋に入っていった弥勒・・・。

かごめと犬夜叉は映画のワンシーンを見ているよう。

「珊瑚ちゃん・・・。ホントはきっと怖かったんだね・・・。とても強い珊瑚ちゃんだけど・・・」

「しかし、おいかごめ。それにしても一体何がどうなってんだ?」

「・・・。なんだか目が覚めちゃった。ね、犬夜叉。コーヒーでも飲まない?」


「お、おう・・・」


そしてこちら。ケビンコスナーとホイットニーヒューストンのお二人。

弥勒は珊瑚をベットに寝かせ、掛け布団をかけた。

「み・・・弥勒様・・・。もういいから・・・」

「お前が眠るまでここにいますよ」

「・・・」

珊瑚はちょっと疑いの目でみる。

「神に誓って眠る珊瑚に妙なまねなどいたしません。それにね・・・。もう少しお前にそばにいたいのですよ・・・。さっき、陽子ちゃんがお前に刃物を向けた瞬間、体中の血の気がひきました・・・」


弥勒の優しいまなざしに珊瑚はドキッ。

「・・・。さ、さっき弥勒様みたいじゃなかったね・・・。自分のこと、『オレ』っていってたし・・・」

『大事な女を傷つける奴には容赦しねぇ』

最高に・・・。弥勒がかっこよく見えた・・・。

「・・・。あれが本当の私では、お前は嫌いですか?」


「べ。別にそ、そんなことは・・・ッ」


珊瑚は照れくさくて顔半分、布団をかける。

「男たるもの、惚れたおなご全身で守ろうというのが本能なのですよ・・・」


弥勒は布団をめくり、珊瑚にぐぐっと顔を近づける・・・。


(え・・・ええ・・・ッ。ちょ、ちょっちょっと・・・ッ)


それでも珊瑚は目を閉じるが・・・。


ふわッ・・・


(・・・ん?)


おでこに感じるあたたかさ・・・。

珊瑚が目を開けると弥勒が珊瑚の額に軽くキスをしていた・・・。


「・・・。眠れるようになるおまじないです。本当は私が珊瑚にいつかして欲しかったのですが・・・」

「・・・」

珊瑚は耳まで真っ赤・・・。


「・・・。そ、そのうちして・・・あげるわよ・・・」

珊瑚は照れ隠しにやっぱり布団をガバッとかぶる。


「。ふふ・・・それは楽しみですな・・・」


そうして弥勒は珊瑚が眠るまでずっとそばにいたのだった・・・。


一方。となりの犬夜叉の部屋。


「あんたの部屋ってインスタントコーヒーすらないわけ?」

「うるせえ。オレは水かビールで十分なんでい」

流し台の扉をあけてのぞくかごめ。中にはカップラーメンしか入っていない。

それでもかごめは自分の部屋でコーヒーをいれ、犬夜叉の部屋まで持ってきた。

「はい。どうぞ」

ピンクのマグカップをテーブルの上に置くかごめ。

「あちッ!!」

犬夜叉、猫舌だったらしい。

「ああ。もう。子供じゃないんだから・・・」

かごめはタオルでこぼれたコーヒーを拭く。

「・・・。へん!」

「ふふ・・・。それにしても・・・。ボディガードか・・・。ねぇ犬夜叉そういうタイトルの映画、知ってる?」

「しらねぇ」

犬夜叉、即答。

「でしょうね・・・。あのね。有名女性歌手が命ねらわれるんだけど、そのボディガードと恋におちちゃうの。でも最後には別れちゃって・・・」

「そんな甘っちょろい映画には興味ねぇよ」

「・・・。ボディガードは最後まで彼女を守ろうとする。それが彼の愛し方だったのよね・・・。でも。それじゃあ彼女の気持ちはどうなるのって思っちゃった・・・」


かごめは少し意味深に犬夜叉を見た。

犬夜叉はしばらく沈黙。

「・・・。それしかその男は・・・。できなかったんじゃねぇのか・・。よくわかんねぇけど・・・」

「・・・」

「・・・」

二人は一瞬目を合わせて、そして反らす・・・。


「・・・やっぱりわかってないな。ケビンコスナーは・・・」

「あ?」


「守られたいんじゃない・・・。一緒に戦いたいのよ・・・。彼女だって彼を守りたいって思ってた・・・。だって大切な人に違いないんだモン・・・」


かごめ

はコーヒーを一口拭くんだ。

「・・・」

「・・・」

再び沈黙する二人。

かごめは立ち上がり、部屋に戻ろうとした。

「かごめ」

「何・・・?」

すわるかごめ・・・。


「・・・。そのケビンなんとかって男は・・・。きっと心ン中でずっとその女の事・・・。守っていたいって思ってると思う・・・ぜ・・・」

「犬夜叉・・・」

そして犬夜叉は照れくさそうにかごめに背を向けてコーヒーをずずっとすすった・・・。

「・・・ありがと。犬夜叉」


ズズズッ・・・。


コーヒーをおかわりする犬夜叉。

そんな犬夜叉の背中がかごめはとても愛しく感じた・・・。


かごめは犬夜叉の背中に見つめて小さな声でつぶやいて自分の部屋に戻った・・・。


『犬夜叉は・・・最高のあたしのボディガードだよ・・・。ありがとう・・・』と・・・。


これを書いているとき、夜中にホラー映画やっていたので、そのせいか陽子ちゃん、すんごいことになってしまいました。そういう系が苦手だった方すみません(汗)もうしばらくホラーものは遠慮しよう・・・。
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