第21話・椿の危険な香り@ ”かごめの笑顔は人を温かく照らす太陽みたい・・・。だからずっとその笑顔を絶やさないでね・・・” 母の声が聞こえる・・・。 ”かごめ・・・”
『ねぇちゃんの胸の奥にあること・・・いつかは話してくれよな・・・』 草太・・・。 ごめんね・・・。ごめんね・・・。 だけど今はまだ言えない・・・。
目覚まし時計の針の音がやけに耳にはいる・・・。 もう針は、午前2時をすぎていた・・・。
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草太が帰ってから、毎晩の様に自分の産みの親の夢ばかり見るかごめ・・・。
「・・・はぁ・・・」
かごめはベットから出て、引き出しの中の母の写真を取り出す・・・。
「・・・お母さん・・・」
何だか・・・。嫌な予感がする・・・。
ずっと胸の奥にしまおうと、苦しむのは自分だけで終わらせようとそう誓ったのに、それが崩れていくような・・・。
気分が悪くなるような嫌な予感・・・。
「・・・」
その夜かごめは・・・朝まで寝付けなかった・・・。
「ハァ・・・」
学食で、カツ丼定食を食べながらため息をつくかごめ・・・。
「な〜にため息ついてるの?かごめちゃん」
「珊瑚ちゃん・・・」
かごめと同じカツ丼定食を置き、かごめの隣に座る珊瑚。
「また、犬夜叉の奴がなんかしたの?」
「ううん。そんなんじゃないの。カツ丼定食があんまりおいしいからぼうっとしてたの。ね、ホントにおいしいよね!」
そいう言って、カツをほおばるかごめ。
「そ、そうだね・・・。」
「珊瑚ちゃん。あたし、見たいビデオあったんだ。つきあってくれる?」
「うん。いいよ」
「ありがとう。ああ、でもホント、このカツおいし・・・!」
本当に美味しそうにカツを食べるかごめ。
かごめはいつも通り、元気だがどこか・・・。
無理をしている様にも感じた珊瑚だったが、それ以上は聞くのをやめた。
(きっとまた犬夜叉と喧嘩でもしたのかな・・・。きっと・・・)
そして、ビデオ屋に寄り、アパートに帰ったかごめと珊瑚。
いつものように郵便受けを開ける。
「ったく・・・。毎度毎度ら絶えなく入ってるよ。資源の無駄っての!」
毎日のようにくるエステや化粧品会社のDMをくしゃっと折り曲げる珊瑚。
「そうだね・・・」
かごめの郵便受けにもたくさん入っていて、後は電気料の明細等・・・と思ったら椿色の紅い封筒が・・・。
かごめ宛になっている。
封筒には差出人が書いてなかった・・・。
(誰だろ・・・)
少し不安になるかごめ。
「どうかした?かごめちゃん」
「ううん。何でもない。珊瑚ちゃん、じゃあまたあとでね」
「うん」
かごめは部屋に入り、封筒をはさみで開ける。
するとひらっと白い紙が一枚落ちた。
「何だろ・・・」
何かのコピーした様な紙・・・。
かごめがその紙をゆっくりとひらくと・・・。
「!!」
かごめの息が一瞬止まった・・・。
驚愕のあまり、紙をもったまま動きがとまるかごめ・・・。
その紙には何か雑誌の記事がコピーされている・・・。
(ど、どうしてこんなものが・・・!?)
封筒にはもう一枚、椿色の便せんが一枚添えられていた・・・。
『拝啓。日暮かごめ様。
突然こんな手紙を送ってごめんなさいね。
驚かれたでしょう・・・。
この記事を見たとき、私も驚いたんですよ。一瞬、月島桔梗本人かと思いました・・・』
「どうして桔梗の名前が・・・!?」
『桔梗と私は昔からの友人で・・・。あ、私の話などどうでもいいですね。
要件を先に言います・・・。
貴方と直接お会いしたいのです。
その時、お話します・・・。つきましては下記の時刻と場所でお待ちくださいませ・・・。
突然の無礼、本当にすみませんでした。ではお会いできるのを楽しみにしております・・・』
丁寧な物言いだが、どこか不気味な文面・・・。
そして最後の一言にかごめはさらに驚く。
『PS.弟さんはお元気ですか?』
「!ど、どうして草太の事まで・・・!?」
かごめはハッとした。草太の言葉を思い出すかごめ・・・。
”知らない女から電話がかかってきたんだ・・・”
(もしかして・・・。草太にかかってきた電話ってこの手紙を書いた人間・・・!?)
どこの誰かもわからない見えない人間が・・・。
かごめがずっと隠してきた事を知っている・・・。
恐ろしい程の不安感がかごめを襲う・・・。
クシャ・・・。
コピーされた紙を握りしめるかごめ・・・。
(・・・。怖がってちゃだめ・・・。あたしが怖がってちゃ草太が・・・。怖がってちゃ・・・。乗り越えられない・・・。私自身が・・・)
かごめは何かを決意したように・・・。
かごめは何気なく壁の向こうの犬夜叉の部屋を見つめた・・・。
(犬夜叉・・・)
辛いとき、心細いとき・・・。
そばにいてほしい。
でも。
(あたし一人で乗り越えなきゃ・・・)
そんなかごめの気持ちなど知らぬ犬夜叉は・・・。
「んがー・・・」
今日一日の仕事を終え、ベットの上で大の字になり眠っていた・・・。
椿色の高級車。
運転席にすこしくすんだ紅色の口紅を塗る女が乗っている・・・。
コンパクトで塗り具合チェック。
白いハンカチを軽く加えて、余分な口紅をおとす・・・。
そしてサイドミラーを少し調節する・・・。
そのミラーに・・・。
緊張して駅の前で待つかごめの姿が・・・。
「フフ・・・」
紅い口紅が・・・不気味に笑む・・・。
そしてゆっくりと・・・。
かごめに近づく・・・。
キキッ・・・。
「!」
少し乱暴にかごめの前で止まった車・・・。
ヘッドライトが消え、助手席の窓がウィーン・・・と開いた。
かごめはゴクリと息をのむ・・・。
「日暮かごめさんですね・・・?」
「!貴方・・・!」
紅いキャミソールにミニスカート・・・。
パーマをかけ、金のネックレスとブレスレット。
にっこり笑うその女は、かごめは週刊誌で見たことがあった・・・。
『バイオリニスト・式神 椿、某新人俳優と同棲発覚!?』
昔は月島桔梗と並ぶ、天才バイオリニストと海外の賞を数々とっていたが、いつの頃からか、スキャンダラスな話題がつきないバイオリニストとして、今では週刊誌の常連様だった。
「あ、貴方は・・・」
「まぁそんな驚かないで下さい。さ、乗って下さい。こんなところでは話ができませんので・・・」
「・・・」
不適に笑う椿・・・。
かごめはとりあえず、いわれるままに車に乗り込んだ・・・。
「よかった・・・。今夜、一人で飲むのがとても寂しかったんです・・・。いろいろと沢山お話・・・しましょうね・・・」
不気味な椿の笑み・・・。
かごめは更に不安を感じた・・・。
そしてそんな二人の乗った車を・・・銀行帰りの弥勒が立ち止まる横断歩道を横切る・・・。
「あれ!?い、今のは・・・かごめ様・・・?それに乗っていたのは・・・」
弥勒、帰ってすぐに楓の部屋に集まり、犬夜叉達に報告。
「で!!その車に乗っていたのは誰なんでいッ!!弥勒!!」
「そのおなごは・・・」
犬夜叉一同、弥勒の言葉に注目・・・。
「そのおなごは・・・。とっても美人でした♪」
バキ ドカ
ドカ!
弥勒、久しぶりに珊瑚の一発で頭にまあるいお山ができました。
「まじめに話せ。真面目に!!」
「すみません。でも美人だったのは本当ですよ。なにせ、あの『若手俳優と次々とものにしていく魔性のバイオリニスト』の式神椿ですからね」
「えっ・・・!?」
「誰だ、そいつは!!」
犬夜叉が身を乗り出して、弥勒のワイシャツを掴む。
「・・・以前・・・。クラシック界の貴公子・坂上樹との仲を噂された事がありましたねぇ・・・」
「い、樹と・・・!?」
樹と関わりがある女・・・。
ということは・・・。
「また・・・『月島桔梗』絡み・・・?どうしてかごめちゃんが・・・」
珊瑚は複雑に犬夜叉を横目で見た。
「・・・」
珊瑚の視線を感じつつ、犬夜叉はすぐさま、携帯をズボンのポケットから取り出して樹にかけた。
しかし携帯がつながらない・・・。
「クソッ!!なんで出ねぇんだ・・・!!」
苛立つ犬夜叉。しかし何度かけても樹はでない・・・。
(かごめ・・・!)
そして・・・。かごめを心配する犬夜叉・・・。
一方かごめはそのころ・・・。
(・・・樹さんの家もすごいけど・・・。負けずとすごい豪華な・・・)
大理石の玄関に、20畳近くあるリビング。天井には派手なシャンデリア風の灯りが・・・。
アンティークな棚に、外国の陶器が沢山飾られている。
(あれ・・・。これと同じお皿どこかで・・・)
「綺麗でしょう?私の宝物なんですよ・・・。さ、お座りになって下さい」
ふかふかのソファに緊張しながら座るかごめ。
椿はこれまた外国の貴族が使うような器にいいかおりのするお茶をーを入れて、テーブルに置いた・・・。
「こんなものしかないですが、どうぞ。私が好きなハーブティです」
かごめは一瞬の飲むのをためらった。
「毒なんてはいってませんよ。ふふ・・・」
椿はにやっと笑って一口ティーを飲んでみせた・・・。
ここまでされて、飲まないわけにもいかないと思うかごめ。
「・・・。い、いただきます・・・」
恐る恐る一口含んでみる・・・。
「お、おいしい・・・」
「よかった・・・!このハーブティーは私が知ってる『ある人』も大好きなんですよ」
嬉しそうに話す椿。
それがまたどこか不気味なのだが、それより、このティーはどこかで飲んだことがある様な・・・。
(・・・あ・・・!この味・・・樹さんの家で飲んだお茶と同じだわ・・・。それにあの戸棚のお皿も樹さんの家で見たのと同じ・・・。どうして・・・)
しかし、今はそれよりも、椿の真意をたずねなければ。
「で、あの・・・。私にお話って何でしょうか。それに・・・。私の弟、草太に妙な電話をかけたのも貴方なんですか!??」
単刀直入にかごめは椿に切り出した。
「・・・。弟さん、しっかり者ですよね・・・。自分の知らない過去が突然、知らされてもちゃんと受け止めている・・・。でも本当はそれだけじゃないのに・・・。あの『事件』の・・・」
バンッ!!
かごめはテーブルを激しく叩いた。
「よ、余計なお世話だわ!!これ以上、弟を巻き込まないで!!まだ、弟に何かするなら私、絶対に貴方を許さないから・・・!!」
かごめは声を荒くして椿に言い放った。
しかし椿はまだ、不適な笑みを浮かべながらティーを飲む・・・。
「貴方・・・。樹さん・・・。坂上樹さんの知り合いなの?桔梗とも?一体、何が目的なの!???」
「目的・・・。目的ですか・・・。フフッ。フフフフ・・・」
「・・・な、何が可笑しいの・・・?」
ガチャンッ!!
突然、椿は手に持っていたカップを床に無表情でわざと落とした。
「な、何するの!?」
「・・・。目的などない・・・。桔梗と同じ顔の貴方に・・・。むかついただけ・・・」
「なッ!?そ、つ、つきあってられない!!帰ります!!」
立ち上がったかごめ。
「!?」
すると、急に体の力がスッと抜け倒れ込む・・・。
「な・・・。なに・・・これ・・・?」
体が思うように動かない・・・。
「やっと・・・。効いてきたみたいね・・・。フフ・・・」
「・・・。何・・・(お茶に)いれ・・・たの・・・」
段々かごめの意識が朦朧としてきた・・・。
「・・・おやすみなさい・・・。しばらく昔の夢でもみるといいわ・・・。母親の夢でもね・・・。フフフ・・・」
バタン・・・ッ。
かごめは完全に床に倒れた・・・。
薄れる意識の中で・・・。大切な人の名を呼びながら・・・。
(犬夜叉・・・)