第21話椿の危険な香りA ”かごめ・・・。かごめ・・・。ごめんね・・・” お母さん・・・。
母の声だけが・・・。
視界がぼやけている・・・。
シルクのシーツのベット。仰向けに横たわるかごめの横に座り、足を組んだ。 「あら・・・。お目覚めの様ね・・・。あの『薬』を飲んですぐに意識が戻るなんて・・・。でも体は石みたいでしょう?」
手足がしびれたような感覚・・・。 身動きがとれないかごめ・・・。 「もうしばらく、そこで横になっていてくださいな・・・。フフ。今、貴方の『大切な彼』・・・。ああ桔梗ですかね。その方を呼んでさしあげます・・・」 椿はそういうと、かごめのバックの中から携帯を勝手に取り出し、どこかへかけた・・・。 PPPPP! 犬夜叉のGパンのポケットの携帯が激しく鳴った。 「もしもし!?かごめか!?」
しかし・・・。聞こえてきたのは・・・。 「フフフ・・・。桔梗が生きていてよかったですね。犬夜叉さん・・・」 「!!て、てめぇ、誰だ!?」
「・・・。てめぇ・・・。もしかして『式神椿』か・・・?」 「あら・・・。お早いお話で・・・。自己紹介する手間が省けましたね・・・。それは好都合・・・」 「かごめはどうした!!かごめに何しやがるつもりだ!!」 「何もしてませんわ・・・。ゆっくり休んでもらってます・・・。ゆっくりと・・・」
「ねぇ。犬夜叉さん・・・。かごめさんの・・・。秘密、知りたくありません・・・?とっておきの秘密・・・。教えてあげましょうか・・・?」 「かごめの秘密だと?んなことどうでもいいッ!!それよか、かごめを返せ!!お前、いまどこにいやがる!!」
声も乱暴になってきた・・・。 「いいですよ・・・。かごめさんの秘密を教える代わりに、樹を・・・。坂上樹を連れてきて下さい・・・。S市の総合体育館にいるはず・・・」 「何だと!?樹を・・・!?」 「今、かごめさんはある薬を飲んで動けません。私が解毒剤を持っています。あと一時間以内に樹を連れてきて下さい。一分でも遅れたら解毒剤は・・・。台所の流しに捨てます・・・」 「て、てめぇッ!!!ふざけんじゃねぇよッ!!」
「かごめさんを助けるのも、どうするのも貴方次第。かごめさんの秘密と樹を交換しましょう・・・。あたしがいる場所は樹に聞けばわかります。それではご機嫌よう・・・。あ、警察に連絡などしたら、かごめさんは二度と・・・会えなくなりますよ・・・。では・・・」
しかし、犬夜叉には迷いなどない。
「珊瑚、バイクのキー貸してくれ!!」
「説明してる暇なんかねぇッ!!かごめがあぶねねぇんだ!!一時間以内にS市の総合体育館ってとこに行かなきゃいけねぇんだよ!!」
「これは・・・」 「総合体育館のパンプレット。裏に地図が書いてあるわ。あたし、空手の大会で行ったことがあるの。持っていって。でも犬夜叉。S市まではバイク飛ばしても1時間以上はかかるわ。警察に言った方が・・・」 「そんな暇はねぇッ!!絶対に間に合ってみせる!!」
無我夢中でアパートを後にした犬夜叉・・・。 アパートの珊瑚も弥勒も同時に時計を見た。 「弥勒様・・・。大丈夫かな・・・。かごめちゃん・・・。やっぱり警察に・・・」 「・・・。下手に騒げばかごめ様が帰って危ない・・・。朝まで犬夜叉から連絡がなかったら・・・連絡しよう・・・」 「うん・・・」
※ 一方・・・。 かごめは体が動かないが、意識だけははっきりしている・・・。
そしてCDコンポにCDを入れ、聞き覚えのある曲をかけた・・・。
「・・・その曲・・・樹さんのアルバムにあった曲ね・・・。タイトルは『僕を見つめて・・・』」 かごめは直感した。 「・・・。椿・・・。あなた・・・。樹さんの事を・・・」
椿はリモコンで乱暴にCDを切った。
更にグラスにつぐ。 「ねぇ・・・。もうバカな真似はやめましょう・・・?樹さんは桔梗をずっと見てきたのよね。そしてあなたも樹さんを・・・。でも、こんな事をしたって、樹さんは喜ばないわ。ね、お願い・・・。解毒剤を渡して・・・」
バシャッ!!
母の事を言われ、かごめの表情がこわばった。 「ふふ・・・。ホントのこと言われて言い返せないの・・・?おもしろいわよね・・・。最初はね、桔梗が生きている事がつい最近知って・・・。犬夜叉っていう男との事共々どこかの雑誌に売りつけてやろうかとも思った・・・。でも調べているうちにあんたの過去に行き当たって・・・。ほら、これよ・・・」
「これを見つけたとき、今回の計画を思いついた・・・。犬夜叉って男を使って樹をアタシの元に・・・」 「そ、そんな事のために草太まで巻き込んだっていうの!?ふざけないでよッ!!許せないわッ!!!草太は傷ついたのよッ!!!」 体全身しびれて、動けないかごめ・・・。
何の関係もないのに・・・!! 動けない体が・・・。 カアッと怒りで熱くなった・・・。 「弟想いだねぇ・・・。ふっ。顔は桔梗に似ていても中身は違うか・・・。でも、桔梗と似ているってだけで、十分なのよ!!樹を手に入れるためなら何でもするわッ!!!卑怯と言われようが、鬼と言われようがかまわないのよ・・・ッ!!!!」
樹への想いの激しさを感じたかごめだが、それでも草太を巻き込み、傷つけたことは許せない・・・。
「何・・・?」
自分が犬夜叉と桔梗の事で嫉妬し・・・。 その顔を鏡で見た・・・。
そして、もう、何もかもぐちゃぐちゃになればいい・・・!!!
「鏡など・・・。あたしは、今の自分が好きだ。人に罵倒されても、好きなものを手に入れたい、それが何が悪い!!!!世の中にはな・・・、黙っていても何もかも手に入れている奴が五万いる!!桔梗の様に!!才能も・・・!!名声も・・・。周囲からも信頼も・・・!!そして・・・。愛し、愛する男も・・・!!!!!!」
ワイングラスを投げつけた椿・・・。 床に散らばったグラスの破片が、椿の心の様に・・・。 「・・・。喋りすぎた・・・。酒のせいか・・・。ふっ・・・。それにしてもあんた、しぶとい神経ね・・・。でも、もうかなり体は弱ってきてるはず・・・」
「畜生・・・ッ!!!!!何でこんな時間なのにこんでやがる!!!!」 パッパー・・・。 既にラッシュの時間は過ぎているというのに、大通りの道路はゴールデンウィークの高速並に混んでいる。 ヘッドライトがミラーボールの様に光っている。 「樹!!抜け道とか近道はねぇのか!!」
「へんッ!!お前にいわれなくてもわかってらぁッ!!飛ばすぞッ !!!!」
エンジンを思い切りふかし、アクセルを踏む犬夜叉。 ものすごいスピードで車と車の間を縫うように、走り抜ける。
樹の叫び声が響く中、犬夜叉はただ、バイクを飛ばしまくる・・・。
時計の針はあと8時55分をさしている・・・。
かごめは額にびっしょり汗をかき、寒気を感じていた・・・。 「あと5分・・・。さぁて・・・。間に合うかしらねぇ・・・。フフフ・・・。ま、どっちみち、樹はここにくる・・・。樹が来ればあたしはどうでもいいのよ。もう・・・」
「犬夜叉が来たときが見物だわねぇ・・・。あんたの過去を知った時、どんな顔をするか・・・。でもそんなことより樹がくるばいい・・・。樹がくれば・・・」
しかしかごめにはもうぼんやりとしか見えず・・・。 (犬・・・夜叉・・・)
コチ、コチ、コチ・・・。
(・・・なんとか・・・しなくちゃ・・・。なん・・・とか・・・) 必死に意識だけは保とうとするかごめ・・・。 しかし、針は・・・9時を指そうとしていた・・・。
不気味に九回、鳴った・・・。
(!!)
「かごめぇええええ!!!」
事情を話して、樹が管理人から鍵を借りたのだ。 「かごめ!!大丈夫かッ!?」 犬夜叉がかごめに駆け寄ろうとしたが、椿が立ちはだかる・・・。 「おっと・・・。電話で言わなかったからしら?タイムリミットは9時丁度だと・・・。ジャスト一分、過ぎちゃったわね・・・。フフ・・・」 「うるせえッ!!!早く解毒剤って奴をよこしやがれ!!さもねぇと女だからって容赦しねぇぞ!!!」 「それはこっちの台詞だわ!カードはこっちにあるんだから・・・」
「!」 樹の怒鳴り声に一瞬ビクッとする椿・・・。 「もうバカな真似はよすんだ!!すぐにその小瓶を渡すんだ!早く!!」
犬夜叉も樹に心にグサリと刺さった。 「椿・・・。わかった・・・。わかったから、その瓶を渡してくれ・・・。お前の言うとおりにする・・・。頼む・・・!」 樹は椿に深々と頭を下げた。 「うるさいッ!!他の女のために頭を下げるお前などみたくない!!そうだ・・・。犬夜叉・・・。この女がどういう女か・・・。知りたいだろう・・・?桔梗と同じ顔した女の秘密・・・。ほら・・・。これがこの女の過去さ・・・」
それを拾う犬夜叉・・・。 「!!」
「どうだ・・・?この女だって・・・ 。自分は孤独だ、不幸だと言って、自分の悲しみにどっぷり浸かってる、そんな女なのだ!」 「ふざけんじゃねぇええッ!!何だ、こんなモンッ!!!」 犬夜叉はコピーをくしゃくしゃにして投げつけた。
「もうよせッ!!!椿・・・!!!!」 樹は椿をまっすぐに見つめた。 「・・・。お前の気持ちはわかった・・・。僕が・・・。お前をここまで追い込んだのだな・・・椿・・・すまなかった・・・。だから・・・。もう関係のない人を巻き込むのはやめてくれ・・・」 ゆっくりと・・・。 ゆっくりと椿に近づく樹・・・。 「ずっとお前の気持ちは知っていたのに・・・。気づかない振りをしていて悪かった・・・。でも今、わかったよ・・・。お前がどれだけ僕を想っていてくれたか・・・」 「樹・・・」 椿をそっと抱きしめる樹・・・。 その時、樹は前にいる犬夜叉に何か目で合図を送った。 (樹・・・!?) 樹の視線の意味を理解する犬夜叉。 「本当にすまなかった・・・。椿・・・」 「樹・・・。その言葉は本当か・・・?」 「ああ・・・」 「樹・・・」 嬉しそうな眼差しで樹の胸に顔を埋める椿・・・。 そして、力が抜けた様に椿の手から小瓶が落ちた・・・。 (今だ・・・!!)
「おい・・・!かごめ、しっかりしろ!!かごめ・・・!!」 「・・・う・・・うぅ・・・」
犬夜叉はかごめを思い切り抱きしめた・・・。 「かごめ・・・!!もう心配すんな・・・。すぐ病院に連れて行ってやるからな・・・。かごめ・・・っ」
(・・・椿・・・。え・・・?なに・・・。あれ・・・) 樹の首に回された、椿の手が、一瞬・・・キラッと光った!
「椿、だめぇえええええッ!!!!!!」
「椿!!お前・・・!」 「芝居などするなぁああッ!!!心にもない台詞を言うなぁああッ!!お前の心には桔梗しかいない事はお前自身より、知っている・・・!!馬鹿にするなぁぁあッ!!ワァアアアッ!!!」
「かごめ・・・」 「だい・・・じょ・・・ぶ・・・」 そして椿によろよろと歩み寄るかごめ・・・。
あの光景・・・。
”かごめ・・・。ごめんね・・・。ごめんね・・・”
聞こえてくる・・・。草太の鳴き声と・・・。
椿の言葉を無視してかごめはそっと、ナイフをもつ椿の手を両手で包んだ・・・。 そして・・・ゆっくり椿のナイフを取る・・・。
「う、うるさい・・・ッ!!もう何もかもめんどうだ・・・ッ。生きていたってしょうがない・・・ッ!!」
「簡単に生きることあきらめられるのッ!!どうしてそんな簡単に言えるの、ねぇッ!!どうしてッ!!!」
かごめを支配して混乱の海に溺れそうなかごめ・・・。 「ねぇ・・・。椿・・・。さっき、樹さんに抱きしめてもらってうれしかったでしょう・・・?好きな人に・・・抱きしめてもらうなんて・・・。嬉しいよね・・・?生きてなくちゃ・・・。いきてなくちゃ抱きしめてももらえない・・・。本当の想いを伝えることもできない・・・。ねぇ、そうでしょう・・・。そうでしょう・・・」
かごめの言葉に、泣き崩れ・・・そっと椿を抱きしめるかごめ・・・。 かごめの胸の温もりが椿を包む・・・。
と・・・力が抜けた・・・。
お母さん・・・。
お母さんを守ってあげられなくて・・・。 でもお母さん・・・。
お願い、あきらめないで・・・。 お母さん・・・。 ヒュウ・・・ッ
|