第22話・真冬の太陽@ お母さん・・・。
病室。 点滴がゆっくりとポタリ、ポタリと落ちる・・・。
あの後、椿は樹に連れられ警察に行ったと樹から連絡があった。
椿のあの解毒剤はただの水だった。
「いらねぇ・・・」 珊瑚が缶コーヒーを渡すが犬夜叉はかごめを見つめたまま動かない・・・。 昨夜から、ずっとかごめのそばにつきっきりな犬夜叉・・・。 「ねぇ犬夜叉。あたし、変わろうか・・・?あんた一睡もしてないんでしょう?」 「俺の事なんてどうでもいい。今はかごめのそばにいたい・・・」 「う・・・。おかあ・・・さん・・・」
そんな犬夜叉の後ろ姿がとても頼もしく見える珊瑚・・・。 (・・・あたしじゃだめだって事か・・・。それにしてもかごめちゃん・・・。お母さんお母さんて・・・一体・・・) 珊瑚がかごめの着替えなどをベットの横のロッカーにしまっていると・・・。 コンコン。 誰かが尋ねてきた。 「はい・・・」 珊瑚がドアを開けると・・・。
見知らぬ中年女性が・・・。 「あの・・・どちら様ですか?」 「初めまして。奈津子です。いつも娘がお世話になっております」 深々と頭を下げるかごめの母・奈津子・・・。 珊瑚が今朝、実家に連絡したのだ。 「あ、い、いえ、こちらこそ・・・。さ、どうぞッ。かごめちゃん、今、眠っています・・・」 奈津子が病室に入る・・・。
「あ・・・。す、すんません、俺・・・」
「初めまして。奈津子です。犬夜叉さん・・・ですか?」 「え・・・。はい、あの・・・。えっと・・・。す・・・すみませんでしたッ・・・」
珊瑚は驚いている・・・。 (あの頑固な犬夜叉が人に頭を下げてる・・・)
「え・・・。だ・・・だって・・・。俺のせいで、かごめは・・・こんな目に・・・」 「・・・。かごめがそう言ったんですか?」 「い・・・いやそうじゃないけど・・・」 「なら、謝ることなんてないですよ。どんな事情があったのかは知りませんが、かごめはきっと貴方のせいだなんて思ってないです。だってかごめの手紙には貴方の事が沢山、嬉しそうに書いてあったんですから・・・」
「かごめの手紙・・・?」 「ええ。珊瑚さんってお友達のこと、元気な管理人のおばあちゃんのこと、それに、ちょっと女の人に目がない弥勒さんて同じ住人の方の事」 珊瑚はプッとちょっと笑った。 「そして一番多いのが貴方の事です。犬夜叉さん。意地っ張りだけどとっても優しい人なんだよって・・・書いてありました」 「・・・」 ちょっと照れくさそうに頭をかく犬夜叉。 「ただかごめは・・・。何でも『頑張る』のが当たり前の子だから、いつか、参っちゃうことはないかって親としては心配でしたけどね・・・」
「あ、ああ、じゃあ・・・」 「待って下さい。犬夜叉さん」
「え・・・?」
「・・・」 珊瑚と犬夜叉は静に頷く。
かごめの過去・・・。
芝生が広がり、緑の匂いが心地よい・・・。
ボールをもって走り回る少女。 年は5,6歳ぐらいか・・・。 「きゃッ」 少女は転び、持っていた黄色いボールがコロコロと奈津子の足下に転がった。 少女は自分の足で立ち上がり、ちょっとすりむいた膝小僧をパンパンをはらった。 「はい、ジュース。大丈夫?」 「うん!大丈夫!ありがとう。おばちゃん!あたし、転んだぐらい、平気だよ!」 そう言って少女は母親の元に元気に帰っていく・・・。
でも・・・心には・・・。深い深い生傷を抱えている事を・・・。奈津子は知っている・・・。
「・・・。笑っていたって・・・。本当は心じゃどうかわかんねぇだろ・・・」
椿にそう言ったが・・・。 かごめの事は知りたい。 かごめの事ならすべて・・・。 「さて・・・。何からお話すればいいかしら・・・。そうですね・・・。かごめの産みの母は、草太を抱いてかごめと一緒にうちの神社に散歩に来ていました・・・」 眩しかった太陽の陽が・・・。
※
「よいしょ。よいしょ、もっと沢山鳴らさなくちゃ、神様、草太のお祝いしてくれないね」
(神様、神様、草太が無事に育ってくれますように)
「うふふ・・・。かごめったら何を沢山お願いしているの・・・?」 「草太が元気に育ちますようにって」 艶のある、長い髪の女性はかごめの生みの母の佳奈子だ。 生まれて間もない草太を抱いている。 草太が生まれて、かごめは本当に嬉しかった。 小さな目、小さな手・・・。
草太と尋ねられたら応えるだろう。 「かごめ、行きますよ」 「はあい!あ!」 お願い事がまだ一つあった。 もう一回鈴を鳴らすかごめ。 (神様、2個もお願いして、ごめんなさい。あと、お母さんが、哀しい顔を笑った顔にしてください。もう、痛い、痛いこと、しないようにしてください・・・なむなむ・・・)
そして、もう・・・佳奈子があんな痛々しい事をしないように・・・。
かごめ達に声をかけたのは巫女の服を着た日暮神社の若嫁・後のかごめの養母になる奈津子だ。
「ええ・・・。とってもお天気がよかったし・・・。かごめがどうしても日暮神社にお散歩に行きたいっていうので・・・」
「あらっ。かごめちゃん、可愛いわね。おめかししちゃって」 「うん!お母さんに新しいワンピ、買ってもらったの!」 かごめはくるっと回ってスカートを自慢。 「まぁ。お姫様みたいね。とってもにあっているわよ」
小鳥が大好きなかごめ。鳩を見つけると、すぐさま走っていった。 「よかった・・・。かごめちゃん元気そうで・・・」 「・・・はい・・・」 佳奈子が少し顔を曇らせる。 「かごめちゃんがあんなに笑っているんだから・・・。ね、佳奈子さん、もう馬鹿な事、しちゃだめよね?絶対に・・・!」
「奈津子さん・・・。かごめね・・・。ここ毎日毎日さすってくれるんですよ・・・。『痛いの痛いの飛んでいけ』って・・・」
佳奈子は包帯が巻かれた手首を撫でながら、鳩を追いかけて元気に遊ぶかごめを見つめた・・・。
手首の痛みは消えたが、娘の心の痛みを思うと、いたたまれない・・・。
それは一週間前の夜の出来事・・・。 |