第27話 いつかのメリークリスマス@

戦国町の商店街にクリスマスソングが響く。

商店街のアーケードはネオンが光り、駅前には大きなクリスマスツリーが。

クリスマスツリーのすぐ目の前にあるファッションビルの二階。

アクセサリー売場はクリスマスプレゼントを見に来ているカップルで大にぎわい。

アクセサリー売場に似つかわしい男二人連れがいた。

「いいですか。犬夜叉。クリスマスというのは男女のイベントでも最も盛り上がるイベントです。更に贈り物には力を入れねばなりません」

「んなもん知るか」

といいながら互いの財布中身をチラッと見合う。

犬夜叉のボロボロの革の財布には、夏目漱石が5人程しかいない。

「・・・お前。それで何を買おうというのだ?」

「う、うるせー!忘年会だのなんだのって使っちまったんでい!」

「全く・・・。仕方ない。今回だけは私が融資してやるか。さ、お互い、どれがいいか探そうじゃないか」

弥勒はガラスケースの中のネックレスやブローチを丹念に見入る。

しかし犬夜叉は人への贈り物など初めてで、何を選んでいいやらわからず、ただ、店の真ん中でつったっている。

(・・・女にやるモンなんて・・・)

犬夜叉、自分が着ているセーターー。

かごめにもらった物だ。

「・・・」

やっぱり何か返したいと思う犬夜叉。しかし予算もないし・・・。

「ん?」

その時、犬夜叉の目に一つのペンダントが。

それはハート型のペンダント。ロケットで、中が開くようになっている。

「・・・」

特別宝石もついているわけでもなく、かわいいデザインでもない。しかし、犬夜叉は何故かこれに興味をもった様だが・・・。

「おう。おっさん。これ、なんだ」

犬夜叉は店員に訊ねた。

「はぁ。それは『いつかのメリークリスマス』と言いましてそのハートの中に想い合う二人の写真を入れると結ばれる・・・というものでございます」

「・・・」

犬夜叉はポケットから少し考えると財布を取り出す。

「んでいくらすんだ」

「処分品ですので、元値より半額でございます」

「ってことは、これで足りるな?」

ガラスケースの上にドン!と千円札5枚出す犬夜叉。

「あっ。お客様、あの、包装などは・・・?」

「めんどくせー。んじゃもらってくぜ」

そういうと犬夜叉は、一人すたすたとアクセサリー売場を出た。

「待て犬夜叉」

あわてて弥勒も、出てきた。手には紙袋が。

「何だよ。お前。俺はもう買った」

「私も買ったが、お前。ちゃんとかごめ様をデートに誘ったのか?」

「え・・・」

誘ってない様だ。

「そんな事だろうと思いましたよ。ふっ」

そこで弥勒はスーツの内ポケットから手帳を取り出す。

「私が考えたクリスマスデートプランです。お前とかごめさま、私と珊瑚、ダブルデートです。もう店も予約してあります」

得意げに手帳を犬夜叉に見せる弥勒。

「ふっ。食事をしたあとは、各自カップル別れて行動する予定です」


目を輝かせる弥勒。

「さぁ犬夜叉!お互い、今年のクリスマス、たった一つの愛に向かって頑張りましょう!!」


「うるせえ。一人でやってろ!!」

人混みの中、グッと手を取り合っている男二人。


寒い視線を浴びていた・・・。

「コラ弥勒、てぇはなしやがれ!!」

そしてその夜。

本当にこういうことには弥勒は本当に手回しいい。

かごめと珊瑚の部屋に同じ色の同じ文章のカードが差し込まれてあった。

クリスマスツリーの形をしてるカード。

二人は珊瑚の部屋で一緒にカードを広げてみる・・・。


『Der.かごめ&珊瑚様。もうすぐ恋人達が寄り添うクリスマスです。その夜を一緒に過ごして下さいませんでしょうか?甘い夢の世界へとご招待いたします。お時間を明けて置いて下さいね。イブの夜6時、戦国駅前のクリスマスツリーの下で犬夜叉と共に待っています。弥勒』

「全く弥勒さまは何を企んでいるのか・・・」

珊瑚は鉄アレイを振りながらカードを見た。


「ふふ。でもどうする?珊瑚ちゃん」

「どうするって・・・かごめちゃんは?」

「うん。あたしはその日、児童館のクリスマス会の予定はいってるけど夕方には終わるから行こうかな」

「・・・じゃああたしも・・・。行こうかな・・・」

鉄アレイを床に置いて、少し照れくさそうに言う珊瑚。

本当は行きたい癖に・・・と思うと珊瑚が何だか可愛く思えるかごめ。


さてさて・・・。4人にとってどんなクリスマスイブのなるのだろうか・・・。


そしてそのクリスマスイブ当日。

天気予報では雨になるあったが快晴で星が綺麗だ。

街の中はやはり、カップルが目に付く。

その中、クリスマスツリーの下で、男二人並んで立っている。

「・・・なんか。俺ら浮いてねーか?弥勒」

「お前の方こそ。何だその格好は」

いつも通り、茶色の革ジャンにGパン姿の犬夜叉。

反対に弥勒は紺のコートに青いスーツをバシッと着こなし、微かに香水もつけている様だ。

「洒落っけのない奴だな。まぁいい。いいか?今日はあくまでレディーファーストで。お前がリードしてかごめ様を」

「うるせぇ。お前こそ、他の女にちょっかい出して珊瑚怒らせるなよ」

「ふっ・・・」


得意げに返事をした弥勒。

だが、ついさっき、ナンパをしていた事を犬夜叉は珊瑚には伏せて置いた方がいいと思った。


「しかし遅いじゃねぇか。かごめ達」


犬夜叉が腕時計を見たとき、向こうから一人の若い女の子が歩いてくる・・・。


雑踏の中ひときわ目立つ程に綺麗な女の子。

髪を下ろし、白のコート・・・。

「さ・・・珊瑚か!?おめぇ!」

犬夜叉は思わず声を上げた。

「な、何よ・・・。そんなに驚くことないでしょうが」

ちょっと照れくさそうな珊瑚だが、口紅も淡い赤色でぐっと大人っぽい。

「ふっ・・・。珊瑚。私のためにめかし込んでくれたのですね・・・。とても綺麗だ・・・」


珊瑚の手を取り、見つめる弥勒。

「そ、そんなんじゃないよ・・・。ただ、かごめちゃんがクリスマスだからお洒落していったらっていうから・・・」


犬夜叉、かごめがいないことに気づく。

「おう。珊瑚、かごめはどうした?」

「うん。それがね。さっきメール来て、かごめちゃん、児童館のクリスマス会が長引くから3人で行ってって・・・」

犬夜叉、かなりガックリ・・・。

ポケットにはせっかく買ったプレゼントがあるのに・・・。


「そうですか・・・。それは残念ですな・・・。犬夜叉、お前はどうする?」

「・・・けっ。お前らの邪魔はしねぇよ。帰る。んじゃな」


犬夜叉が帰ろうとしたとき珊瑚が呼び止める

「なんだよ。珊瑚」

「迎えに行ってあげてよ。児童館まで。かごめちゃん、本当は行きたかった筈だよ。あんたと二人でクリスマスって・・・。あんたのこと、待ってるよ。きっと・・・」

「・・・。けっ。お前に言われる筋合いねぇよ。ほら、弥勒が待ってるぜ。じゃあな!」

と、ぶっきらぼうに珊瑚に軽く手を振ると犬夜叉は雑踏の中に消えていった・・・。

「あの馬鹿男・・・」

「心配するな珊瑚」

ポンと、珊瑚の肩を叩く弥勒。

「弥勒様・・・」

「あいつはいくさ。絶対に・・・。な・・・」

「うん・・・」


弥勒の言葉が力強く聞こえた。かごめの気持ちを誰より知っている珊瑚はかごめにも好きな人と過ごすクリスマスになってほしいと強く願う・・・。

「さ、珊瑚。私達はどうしましょうか?一応美味しいパスタのお店を予約したのですが・・・」

「弥勒様に任せるよ。『甘い夜』にしてくれるんでしょ・・・?」

「勿論です」


弥勒はクスッと笑って右腕をスッと差し出す。

珊瑚も嬉しそうに弥勒の腕につかまる。


二人はどこから見ても恋人同士。

街路樹に飾られたネオンが光る中を仲良く歩いていった・・・。



その頃犬夜叉は。

一人街を歩く。

ぼんやりと・・・。

商店街は流石にクリスマス。

親子連れが目立つ。


信号待ちする犬夜叉の横におもちゃを買ってもらった子供と両親が・・・。

「ねぇお父さん。クリスマスプレゼントありがとう!!大切にするね♪」

「ああ。でもお父さんもクリスマスプレゼントもらったな。何だと思う?」

考え込む少女。

「うーん。わかんない!」

「お前の笑顔だよ。何よりものプレゼントだ」

「わあい♪お父さん大好き!」

にこにこしながら、父親によじ登る少女。

信号が青になった。

父親にだっこされ、その親子連れは仲むつまじく横断歩道を渡る・・・。


しかし犬夜叉は立ち止まったまま親子連れの後ろ姿を見つめる・・・。


”クリスマスなんて大嫌ったいだ!!くっだらねぇ!!”

昔、自分は吐いた言葉。

一年でクリスマスが一番嫌いだった。

家族楽しく遊んで、ケーキ食べて・・・。

馬鹿みたいだ。家族がどうした。

サンタクロースなんて信じないし、プレゼントなんていらねぇ。

くだらねぇ、くだらねぇんだよ・・・。


パッパー!!

「!」


点滅する信号を渡ろうとして、ハッと車のクラクションに気がつく犬夜叉。

青になり歩き出す・・・。

しかしどこを見ても家族連れ。

・・・幼い頃の自分が蘇ってしまった。

施設でもクリスマス会はあったけど、半分以上の子供が親元に帰った。

一人、また一人、親が迎えに来るのに、犬夜叉は誰も来ない。

誰も・・・。

窓から母親の手に引かれて帰っていく少年をポツンと一人眺めていた犬夜叉・・・。


気がつくと施設の前で誰も来ない筈なのに『誰』かを待っていた・・・。

暗い暗い向こうから来る誰かを・・・。



『犬夜叉ー!』

「かごめッ!?」


かごめの声が聞こえた気がして後ろを振り向く。

しかし誰もいない・・・。


暗い路地、コンクリートしか見えない。

「・・・」

その雪が積もったコンクリートに、かごめに贈るはずのプレゼントが落ちているではないか。

小さなピンクの箱を拾う犬夜叉・・・。

かごめのために買ったプレゼント。

初めて人に買ったプレゼント・・・。


「・・・」


『かごめちゃん、きっとあんたのこと待ってるよ・・・』


珊瑚の言葉・・・。


待っている・・・。


待っている・・・。


かごめが・・・。


待っている・・・。


いつのまにか犬夜叉の足は・・・。

児童館へと一直線に向かっていた・・・。