第27話・いつかのメリークリスマス A

「わぁ〜・・・。綺麗!!」

思わず声をあげる珊瑚。

3メートルもあるガラス。

その向こう夜の町の灯りがまるで星空の様に点滅していた。

最近駅前にできたファッションビルの最上階。

町が一望でき、

今では格好のデートスポットである。

「ずっと珊瑚に見せたかった景色なんだ。気に入ってもらえましたかな?」

「まあね」

にこっとスマイルの珊瑚につかさず、弥勒、サッと珊瑚の肩に手をかける・・・。


「み・・・弥勒様・・・」


素早くそして積極的な弥勒に珊瑚の鼓動もいやがおうに早くなる。

「お前とこうして・・・。ずっとじっくりと二人きりで過ごしたかったんだ・・・。恋人同士の様に」

「弥勒様・・・」


気障な言葉も今日はときめいてしまう・・・。


クリスマスだからかな・・・。

「珊瑚・・・。今日は一緒にいてくれて本当に嬉しい・・・」

「うん・・・」

やっぱり・・・クリスマスのせい・・・。驚くほどに素直になれる・・・。


<と、その時。二人の背後に一人の若い女が立っていた。

「弥勒先輩!やっぱり弥勒先輩だぁ!」

「え・・・。坂本くん。どうしてここに・・・」

女はどうやら弥勒の同僚らしい。

馴れ馴れしい口調で弥勒に話しかけた。

「なんだ、また弥勒先輩ったら”別の彼女”連れてる〜」

「な、何言ってるんだ・・・」

弥勒はかなり動揺している。

「あの彼女すごく喜んでましたよ。デートしてくれたって。最高の思い出になったって・・・」

決定的証言をされてしまった弥勒。


珊瑚から凄まじい殺気が・・・。

「あ、あの・・・これはですね、珊瑚あの・・・」


バッチーン・・・!!

展望室にもの凄いビンタの音が響く・・・。


「弥勒様・・最低・・・ッ!!」


「珊瑚!!」


珊瑚は泣きながら走り去る!

追い掛ける弥勒。


弥勒の同僚一人、置き去りにされてしまった・・・。

珊瑚はエレベーターに駆け込む!


「待て!!珊瑚!!」

ドアが閉まる、すんでの所でなんとか間に合った・・・。


「ハァハァ・・・」

息切れの弥勒。

このエレベーターは押した階までノンストップで上がり下りする。

一階のボタン押し、弥勒に背を向ける珊瑚・・・。


ガラス張りのエレベーターからはやはり町が一望できた・・・。


静まり返るエレベーターの中。

重たい空気が漂う。それでも弥勒は珊瑚に話しかけた。

「珊瑚・・・。私は・・・」

「言い訳なんて聞きたくない・・・っ。聞きたくないよ・・・ッ・・・」


珊瑚の肩が震えている・・・。

「そうだな・・・。でも聴いて欲しい・・・。俺の気持ちを・・・。2ヶ月程前、会社の同僚の子につき合って欲しいと言われたんだ・・・」

珊瑚の胸がズキッと痛んだ。

「俺は・・・はっきり断った。『心底、惚れぬいている女がいると』」


「・・・」

「・・・その子は今のお前の様に肩を震わせて泣いた・・・。そして『最後に一度だけ、デートしてください・・。お願いします』と俺に何度も何度も頭を下げたんだ・・・」

「・・・」


珊瑚は黙って弥勒の話を聞いた・・・。

だけど・・・。やっぱり素直に弥勒の顔を見られない・・・。

その間にもゆっくりとエレベーターは一階へ下りていく・・・。


「やっぱり・・・言い訳にしかならない・・・な・・・。でも・・・」


弥勒はコートのポケットから、青色のケースを取り出した。


そして珊瑚に手渡す・・・。

珊瑚が開けるとそこには・・・。


「こ・・・これ・・・」


小さく光るエンゲージリング・・・。



「珊瑚・・・。私と一緒に生きて欲しい・・・。ずっと・・・」


真っ直ぐに、珊瑚だけを見つめて弥勒ははっきりと伝えた・・・。


珊瑚の頭の中は真っ白になった。


だけど・・・。


自然に涙が溢れる・・・。


ずっと欲しかった言葉だから・・・。


「・・・。珊瑚・・・返事・・・は・・・?」


「・・・」


嬉しいやら驚きやら・・・ただただ混乱して言葉がでない・・・。


弥勒に背を向けたままの珊瑚・・・。


「そうか・・・。わかった・・・」


(違う・・・!弥勒様、あたし・・・違うのに・・・!)


チーン・・・。

とうとう一階まで降りてしまった・・・。

ドアが開き、弥勒が出ようとしたその時!

珊瑚が『閉』のボタンを押し、ドアが再び閉まり・・・。


「・・・珊瑚・・・?」


「・・・ずるいよ・・・。弥勒様・・・。あたし・・・まだ何も言ってない・・・」


珊瑚は指輪をすっと薬指にはめた・・・。


「珊瑚・・・。お前・・・」


「これ・・・。サイズ違うじゃない・・・。でも綺麗だから許す・・・」


珊瑚は大事そうに指輪をギュッと胸の辺りで包んだ。


そんな珊瑚が堪らなく愛しい弥勒・・・。



「珊瑚」


「・・・な、何・・・?」


「キスしてもいいか?」


「なッ・・・」


ストレートな発言に珊瑚、頭、爆発しそう・・・。


「・・・だめ・・・ですか?」


「だ、だだだだだだめとか、そ、そういう事じゃなくてあの、そのッ・・・」


弥勒は珊瑚を少し強引に自分の方に振り向かせた。


「・・・やっぱり・・・だめ・・・かな・・・」


珊瑚の頬に触れようとする手は震え、まるで少年のように・・・。


こんな弥勒は初めて・・・。


珊瑚の心が溶ける・・・。

「・・・だめなんて・・・言ってないじゃない・・・」


ごく自然に・・・。


珊瑚は目を閉じて・・・。


弥勒はゆっくり・・・顔を近づける・・・。


珊瑚の履いてきたブーツが背伸びして・・・。


そして・・・。



唇は重ね合わさった・・・。


ガラスに映った二人のキス・・・。


最上階についてもずっと離れはしなかった・・・。




「ぶへっくしょいッ・・・」

公園の滑り台やブランコは白い綿がこんもりつもり遊具全体が雪で隠されている。

公園の隣が児童館。

「ん?」


緑のフェンスの間から、茶色のハーフコートの女が中を覗いている。


(・・・何やってんだ?あの女・・・)


犬夜叉も、フェンス越しに児童館の玄関をのぞいた。


(・・・かごめだ・・・)


漫画キャラの描いてある青い毛布にくるまった少年をエプロン姿のかごめが抱いている・・・。


「遊君、寒くない?」

5歳ぐらいの少年はこくんと頷く。


しかし、鼻水が自然と出てくる。

かごめはそっとエプロンのポケットからティッシュを取りだし、鼻水を拭き取ってやった。

「ねぇ遊君・・・。中でお母さん待っていようよ。風邪ひいたら大変だよ」

「嫌だもん・・・っ。きっとサンタさんがママを連れてきてくれるんだもんッ。僕待ってる・・・」

「遊君・・・」


少年の小さな手は真っ赤で、かごめは片手でこすって温める。

「ねぇかごめ先生。サンタさんに僕お願いしたんだ。クリスマスはママと一緒に過ごしたいって・・・。でも、さっき友達がサンタクロースなんているわけないじゃんってみんながいってた・・・。ホント?」

「サンタクロースはいるよ。絶対に」

「じゃあどこに?」

「それは・・・」

ちょっと突っ込んだ質問にかごめは一瞬応えに困る。


「・・・。心の中」

「心のなか・・・?」

「そう・・・。サンタクロースは人間の心の中に住んでるの。クリスマスの日にだけ、みんなのお願いを叶えに出てくるの。だから遊君がママは絶対に来るって信じないと、サンタさんも遊君のお願い、きいてくれないと思うよ」


「・・・。ふうん・・・そっかぁ・・・」

少年はかごめの答えで納得したのかしていないのか分からないが、それ以上質問はしない。

かごめは適当に応えたのではないかとちょっと自信がなかった・・・。

そのかごめと少年のやりとりを見ていた犬夜叉。

少年の姿が、昔の自分に重なる・・・。


ずっと、待っていた・・・。


雪の中を・・・。


「・・・」

フェンスからのぞく女が、少年の母親だとすぐに直感した。

「おい、おばさん」

「ひゃッ・・・。な、何あなた・・・」

長身の犬夜叉に女は驚く。

「何、じゃねぇよ。あのガキ、あんたのガキだろ?迎えに行ってやれよ」

「あ、あんたに関係ないでしょう」

「じゃあ、行けよ」

「・・・どんな顔をして会いにいけっていうのよ・・・。私、仕事ばっかりでプレゼントもないし・・・」



もたもたしている母親に犬夜叉、イライラ。

「プレゼントなんて関係ねぇだろ!!ごちゃごちゃいってんじゃねぇ!来い!!」

「きゃあ・・・」


犬夜叉は強引に女の手を掴んで児童館の玄関まで引っ張って行った。<


「犬夜叉!?どうしてここに・・・」


驚くかごめ。

「あ、ママ!!ママだ!!ママァ!!」


母親に気づき、かごめの手から離れた少年は満面の笑みを浮かべ母親に向かって走った。


「ママ!!わあ!」


「遊ッ!」


少年は足が滑って、コロンっと転んでしまった。


「遊!?大丈夫!?」


母親は少年を起こし、抱き上げた。


「大丈夫だよ、ママ。ぺぺッ。雪食べちゃったけど」


「んもうッ・・・。遊ったら・・・」


ぽちゃぽちゃのピンクのほっぺの雪を母親はそっとはらった・・・。


「ごめんね。遊・・・。いつも一人でお留守番させて。それに・・・ママ、今日、プレゼント買ってこれなかったの・・・」


「ううん。ママがこうやってだっこしてくれたからいいよ。僕の方こそごめんね。ママに心配かけて・・・」


「遊・・・」


息子の笑顔が母親の心に染みる・・・。


母親は少年を思いきりだきしめてやった・・・。


「ママ・・・。とってもあったかぁい・・・」


母親の胸の中に顔を埋めて甘える少年・・・。


その光景は幼い頃、犬夜叉が待っていた光景だった。


『きっと誰かが自分を迎えに来てくれる・・・』

そう信じていた幼い頃・・・。

そう思いながら親子を見つめる犬夜叉・・・。

とても優しい瞳になっている事にかごめは気が付く・・・。


「あ!!サンタさん!」

「え?」

突然少年が犬夜叉に気づき、叫ぶ。

「赤い服着てる!!ママを連れてきてくれたんだ!!サンタさん!!かごめ先生の言うとおりだね!サンタさんがママを連れてきてくれた!!」

母に抱かれた嬉しそうにそう言う少年。自分がかぶっていた赤いサンタクロースの帽子をかぶせた。犬夜叉、ちょっと照れくさい。

かごめはそんな犬夜叉と少年がほほえましく感じた。

母親から胸から下りた少年は長身の犬夜叉を見上げて言った。

「サンタさん、今度はかごめ先生のお願い叶えてあげて!」

「かごめの・・・?」

「うん!あのね、かごめ先生ね、今日、ホントは大切な人とお食事するはずだったんだ。だけど、僕がママを待っていたせいでだめになったの。だから、かごめ先生をその大切な人の所へ連れていってあげて!おねがいッ!」


「・・・」


小さな手が、犬夜叉のGパンをの膝の辺りをギュッと握って・・・。

真剣な澄んだ少年の瞳・・・。


犬夜叉は少年の目線までしゃがみ、こう言った。

「わかったよ。つれってってやる」

「ありがとッ。サンタさん」


「サンタは俺じゃねぇよ。お前だ」

そう言って犬夜叉は頭の帽子を再び少年にポンっとかぶせた・・・。


「えへへ。ぼく、サンタ?ぼく、サンタ?えへへへ・・・」


赤い毛糸の帽子をかぶった小さなサンタは嬉しそうに笑う・・・。


犬夜叉もかごめも少年の笑顔があんまりにも可愛いから寒さもわすれた・・・。


こうして、小さなサンタクロースは母親に抱かれて、楽しそうに帰っていったのだった・・・。



そして犬夜叉とかごめ・・・。

二人、一緒にアパートまでの帰り道だ。

雪は一層深く、重たげに降っている・・・。

相合い傘の二人。

「ごめんね。今日行けなくて・・・」

「別に謝ることねぇ・・・」

「でもありがとう。迎えてきてくれて嬉しかった」


「べ、別に迎えにきたわけじゃねぇよ。た・・・たまたま通りかかっただけだ」

たまたま通りかかったサンタクロースは意地っ張りな様だ。

「遊君ね、ずっとサンタさんがママを連れてきてくれるって信じてたから助かった・・・。あたし、とっさに”サンタさんは心の中にいるから、信じれば願いがかなう”なんて言ってしまって・・・。ちょっと自信なかったんだ・・・」

「・・・。言ったこと、後悔してんのか?」

「ううん・・・。後悔はしてないよ。そりゃ・・・もっと大きくなればはホントの事分かってちゃうけど・・・。でもね、『サンタはいるんだ』って信じた気持ちはきっと残ると思うの。何かを信じる気持ち、大事にして欲しいんだ・・・。なあんてちょっとカッコつけかな・・・」

かごめが言うと、本当に何かを、誰かを信じてみたくなる。


信じられる気がする・・・。

「クリスマスなんて・・・ガキの頃は何仲良しごっこやってんだって思ってたな・・・。一人だったし・・・」

自然と昔の事を犬夜叉は口走っていた。


本当に自然に・・・。

「・・・でも今は・・・。一人じゃないよね。ね・・・!」

かごめは犬夜叉の目を覗き込んで言った。


”一人じゃない・・・”


雪の中、一人誰かを待っていた幼い日の自分。

ずっと待っていたのは『誰か』は・・・。


「はぁ・・・冷たい。手袋、児童館に忘れてきちゃった」

かごめが傘の中で寒そうに手を丸くしている。

「ったくお前こんなに赤いじゃねぇか・・」

傘を置き、犬夜叉はかごめの両手をとって息をふきかけたり、こすったりした。


力いっぱい握りしめて・・・。


「ったくこんな細い手、凍えちま・・・」


「・・・」


互いに視線がバッチリ合う・・・。


「・・・」


「・・・」


手を握り合ったまま見つめ合う・・・。


二人とも緊張のあまり息が止まったまま・・・。


ニャオー・・・。


「!!」

猫の鳴き声でハッと我に返り、手を離して後ろを向く二人。背中合わせに。


「・・・」


「・・・」


あがってしまい、お互いの顔が見られない・・・。


(・・・あ・・・そうだ・・・)


犬夜叉はプレゼントの事を思い出す・・・。


かごめのためにかったプレゼント・・・。


「おい・・・。かごめ・・・」


「な・・・なに・・・?」


「これ・・・」


犬夜叉は後ろ向きのままかごめの手にそっとプレゼントを手渡した。


「これ・・・。あたしに・・・?」


「こ、この前セーターくれた返しだ。そ、それに弥勒の奴がどうしてもかえっていうから・・・」


かごめは早速開けてみる。

「わぁ!可愛いロケットのペンダント・・・」

ハート型だ。かごめは中に写真が入れられることに気づく。

「ねぇ。この中に写真、入れていいのかな」


『この中に互いの写真を入れたカップルは結ばれるという・・・』

犬夜叉は店員の言葉を思い出す。

「・・・好きにしやがれ。で、でも誰の写真、いれるんだ」


「え?あたしと、遊君」


てっきり自分の写真を入れてもらえると思った犬夜叉、怒る。


「なッ・・・。てめぇ・・・!」


振り向くとペンダントを首にかけたかごめがにこっと笑った。


「うーそ!帰ったら犬夜叉の写真、いれてもいい?」


「・・・。けっ・・・。好きにしろ・・・」


犬夜叉、照れくさそうに一安心。


「さ、さぁ帰るぞ。体じゅうひえちまう」


傘を拾う犬夜叉。その犬夜叉の腕にすっとつかまるかごめ。


「ありがとう。犬夜叉・・・」


「・・・けっ・・・」


再び二人は寄り添い相合い傘・・・。


寒さは厳しいけど、二人なら温かい帰り道だった・・・。


ミロサンご婚約おめでとう御座います。式にはかごちゃんと犬クンがスピーチする予定です(笑)原作での影響で、ミロサン盛り上がっちゃいました(汗)う〜ん。そしてすみません。映画ネタやってしまいました(自爆)ロケットのペンダント。巷では少女趣味すぎるとか言われてますけど、自分嫌いじゃないですよ。結構好きです。いつまでのおなごはこういうのが好きなんですよッ(力説)って自分・・・ロケットのペンダント、てにいれた暁にはかごちゃんの写真を入れたい思っております(かなりの本気)
・・・ 。いいじゃないですか!(誰に言ってる)好きなんだもんの。「おう。犬。かごちゃん大事にしねぇと嫁にやらねぇぞ。マジで」とうちの犬人形に夜な夜な語って、家族から冷たい視線を浴びている管理人でした・・・(爆)