第27話・いつかのメリークリスマス A 「わぁ〜・・・。綺麗!!」 思わず声をあげる珊瑚。 3メートルもあるガラス。 その向こう夜の町の灯りがまるで星空の様に点滅していた。 最近駅前にできたファッションビルの最上階。 町が一望でき、 今では格好のデートスポットである。 「ずっと珊瑚に見せたかった景色なんだ。気に入ってもらえましたかな?」 「まあね」 にこっとスマイルの珊瑚につかさず、弥勒、サッと珊瑚の肩に手をかける・・・。 「お前とこうして・・・。ずっとじっくりと二人きりで過ごしたかったんだ・・・。恋人同士の様に」 「弥勒様・・・」 「珊瑚・・・。今日は一緒にいてくれて本当に嬉しい・・・」 「うん・・・」 やっぱり・・・クリスマスのせい・・・。驚くほどに素直になれる・・・。 「弥勒先輩!やっぱり弥勒先輩だぁ!」 「え・・・。坂本くん。どうしてここに・・・」 女はどうやら弥勒の同僚らしい。 馴れ馴れしい口調で弥勒に話しかけた。 「なんだ、また弥勒先輩ったら”別の彼女”連れてる〜」 「な、何言ってるんだ・・・」 弥勒はかなり動揺している。 「あの彼女すごく喜んでましたよ。デートしてくれたって。最高の思い出になったって・・・」 決定的証言をされてしまった弥勒。 「あ、あの・・・これはですね、珊瑚あの・・・」 展望室にもの凄いビンタの音が響く・・・。 追い掛ける弥勒。 珊瑚はエレベーターに駆け込む! ドアが閉まる、すんでの所でなんとか間に合った・・・。 息切れの弥勒。 このエレベーターは押した階までノンストップで上がり下りする。 一階のボタン押し、弥勒に背を向ける珊瑚・・・。 重たい空気が漂う。それでも弥勒は珊瑚に話しかけた。 「珊瑚・・・。私は・・・」 「言い訳なんて聞きたくない・・・っ。聞きたくないよ・・・ッ・・・」 「そうだな・・・。でも聴いて欲しい・・・。俺の気持ちを・・・。2ヶ月程前、会社の同僚の子につき合って欲しいと言われたんだ・・・」 珊瑚の胸がズキッと痛んだ。 「俺は・・・はっきり断った。『心底、惚れぬいている女がいると』」 「・・・その子は今のお前の様に肩を震わせて泣いた・・・。そして『最後に一度だけ、デートしてください・・。お願いします』と俺に何度も何度も頭を下げたんだ・・・」 「・・・」 だけど・・・。やっぱり素直に弥勒の顔を見られない・・・。 その間にもゆっくりとエレベーターは一階へ下りていく・・・。 そして珊瑚に手渡す・・・。 珊瑚が開けるとそこには・・・。 「珊瑚・・・。私と一緒に生きて欲しい・・・。ずっと・・・」 珊瑚の頭の中は真っ白になった。 「・・・。珊瑚・・・返事・・・は・・・?」 「・・・」 嬉しいやら驚きやら・・・ただただ混乱して言葉がでない・・・。 とうとう一階まで降りてしまった・・・。 ドアが開き、弥勒が出ようとしたその時! 珊瑚が『閉』のボタンを押し、ドアが再び閉まり・・・。 「・・・珊瑚・・・?」 珊瑚は指輪をすっと薬指にはめた・・・。 そんな珊瑚が堪らなく愛しい弥勒・・・。 「キスしてもいいか?」 ストレートな発言に珊瑚、頭、爆発しそう・・・。 「・・・だめなんて・・・言ってないじゃない・・・」 ごく自然に・・・。 弥勒はゆっくり・・・顔を近づける・・・。 唇は重ね合わさった・・・。 ガラスに映った二人のキス・・・。 最上階についてもずっと離れはしなかった・・・。 「ぶへっくしょいッ・・・」 公園の滑り台やブランコは白い綿がこんもりつもり遊具全体が雪で隠されている。 公園の隣が児童館。 「ん?」 5歳ぐらいの少年はこくんと頷く。 かごめはそっとエプロンのポケットからティッシュを取りだし、鼻水を拭き取ってやった。 「ねぇ遊君・・・。中でお母さん待っていようよ。風邪ひいたら大変だよ」 「嫌だもん・・・っ。きっとサンタさんがママを連れてきてくれるんだもんッ。僕待ってる・・・」 「遊君・・・」 「ねぇかごめ先生。サンタさんに僕お願いしたんだ。クリスマスはママと一緒に過ごしたいって・・・。でも、さっき友達がサンタクロースなんているわけないじゃんってみんながいってた・・・。ホント?」 「サンタクロースはいるよ。絶対に」 「じゃあどこに?」 「それは・・・」 ちょっと突っ込んだ質問にかごめは一瞬応えに困る。 「心のなか・・・?」 「そう・・・。サンタクロースは人間の心の中に住んでるの。クリスマスの日にだけ、みんなのお願いを叶えに出てくるの。だから遊君がママは絶対に来るって信じないと、サンタさんも遊君のお願い、きいてくれないと思うよ」 少年はかごめの答えで納得したのかしていないのか分からないが、それ以上質問はしない。 かごめは適当に応えたのではないかとちょっと自信がなかった・・・。 そのかごめと少年のやりとりを見ていた犬夜叉。 少年の姿が、昔の自分に重なる・・・。 ずっと、待っていた・・・。 フェンスからのぞく女が、少年の母親だとすぐに直感した。 「おい、おばさん」 「ひゃッ・・・。な、何あなた・・・」 長身の犬夜叉に女は驚く。 「何、じゃねぇよ。あのガキ、あんたのガキだろ?迎えに行ってやれよ」 「あ、あんたに関係ないでしょう」 「じゃあ、行けよ」 「・・・どんな顔をして会いにいけっていうのよ・・・。私、仕事ばっかりでプレゼントもないし・・・」 「プレゼントなんて関係ねぇだろ!!ごちゃごちゃいってんじゃねぇ!来い!!」 「きゃあ・・・」 「あ、ママ!!ママだ!!ママァ!!」 そう信じていた幼い頃・・・。 そう思いながら親子を見つめる犬夜叉・・・。 とても優しい瞳になっている事にかごめは気が付く・・・。 「え?」 突然少年が犬夜叉に気づき、叫ぶ。 「赤い服着てる!!ママを連れてきてくれたんだ!!サンタさん!!かごめ先生の言うとおりだね!サンタさんがママを連れてきてくれた!!」 母に抱かれた嬉しそうにそう言う少年。自分がかぶっていた赤いサンタクロースの帽子をかぶせた。犬夜叉、ちょっと照れくさい。 かごめはそんな犬夜叉と少年がほほえましく感じた。 母親から胸から下りた少年は長身の犬夜叉を見上げて言った。 「サンタさん、今度はかごめ先生のお願い叶えてあげて!」 「かごめの・・・?」 「うん!あのね、かごめ先生ね、今日、ホントは大切な人とお食事するはずだったんだ。だけど、僕がママを待っていたせいでだめになったの。だから、かごめ先生をその大切な人の所へ連れていってあげて!おねがいッ!」 真剣な澄んだ少年の瞳・・・。 「わかったよ。つれってってやる」 「ありがとッ。サンタさん」 そう言って犬夜叉は頭の帽子を再び少年にポンっとかぶせた・・・。 そして犬夜叉とかごめ・・・。 二人、一緒にアパートまでの帰り道だ。 雪は一層深く、重たげに降っている・・・。 相合い傘の二人。 「ごめんね。今日行けなくて・・・」 「別に謝ることねぇ・・・」 「でもありがとう。迎えてきてくれて嬉しかった」 たまたま通りかかったサンタクロースは意地っ張りな様だ。 「遊君ね、ずっとサンタさんがママを連れてきてくれるって信じてたから助かった・・・。あたし、とっさに”サンタさんは心の中にいるから、信じれば願いがかなう”なんて言ってしまって・・・。ちょっと自信なかったんだ・・・」 「・・・。言ったこと、後悔してんのか?」 「ううん・・・。後悔はしてないよ。そりゃ・・・もっと大きくなればはホントの事分かってちゃうけど・・・。でもね、『サンタはいるんだ』って信じた気持ちはきっと残ると思うの。何かを信じる気持ち、大事にして欲しいんだ・・・。なあんてちょっとカッコつけかな・・・」 かごめが言うと、本当に何かを、誰かを信じてみたくなる。 「クリスマスなんて・・・ガキの頃は何仲良しごっこやってんだって思ってたな・・・。一人だったし・・・」 自然と昔の事を犬夜叉は口走っていた。 「・・・でも今は・・・。一人じゃないよね。ね・・・!」 かごめは犬夜叉の目を覗き込んで言った。 ずっと待っていたのは『誰か』は・・・。 「はぁ・・・冷たい。手袋、児童館に忘れてきちゃった」 かごめが傘の中で寒そうに手を丸くしている。 「ったくお前こんなに赤いじゃねぇか・・」 傘を置き、犬夜叉はかごめの両手をとって息をふきかけたり、こすったりした。 猫の鳴き声でハッと我に返り、手を離して後ろを向く二人。背中合わせに。 「わぁ!可愛いロケットのペンダント・・・」 ハート型だ。かごめは中に写真が入れられることに気づく。 「ねぇ。この中に写真、入れていいのかな」 犬夜叉は店員の言葉を思い出す。 「・・・好きにしやがれ。で、でも誰の写真、いれるんだ」 |