第28話 湯けむりに黄昏て・・・
〜雪の中のダイヤモンド〜

商店街の大型駐車場に紅白の横断幕。

買い物客の行列。

カランカランカラン!

はっぴをきた商店街の住人の男が鐘を激しく鳴らす。

「はい3等賞・松阪牛セット大当たり〜!」

年末恒例の商店街の大福引き。

商店街で買い物をして福引き券をもらったかごめと珊瑚はさっそく挑戦。

「おお♪なんと美しいお嬢さん二人♪是非、一等の温泉招待券GETして彼氏とラブラブ旅行に行って下さいな〜」

調子のいい係の男の言葉にしらけながら、最初にかごめが回してみる。

「あ・・・」

赤い玉が出た。

「はい。残念賞〜。ティッシュね」

かごめ、残念無念ティッシュ一個獲得。

そして珊瑚の番・・・。

「珊瑚ちゃん、頑張って!」

かごめの応援に珊瑚も力はいる。

珊瑚の目に『一位・温泉招待券』の文字が目に入る。

(・・・一位は秘湯温泉旅行か・・・。温泉・・・といえば・・・新婚旅行・・・。新婚・・・?)


『珊瑚・・・ずっと私と一緒に生きてほしい・・・』

クリスマスの日の弥勒の言葉が浮かぶ珊瑚・・・。


うっとりした顔をしながら、珊瑚はゆっくりと福引きを回す・・・。

コロッと、出てきたのは金色の玉・・・。

カランカランカランッ!

「大当たり〜!!1等、温泉招待券4名様〜!」

「え・・・?」

鐘の音で我に返る珊瑚。

「珊瑚ちゃん、やったね!一等だって!!」

「う、うん・・・」

珊瑚、自分でも信じられないが、こうして、見事一等をGETしアパートに帰り・・・。


「何ィ〜?温泉招待券だぁ〜?」

ごろんと横になっている犬夜叉。

いつもの様に楓の部屋に4人集まりこたつを囲む。

「そうなの。珊瑚ちゃんが見事当ててくれて。ね、せっかくだもの犬夜叉も弥勒様もみんなでいかない?」

「いいですな〜♪温泉ですか〜♪心と体を癒すのにはぴったりですなv」

やはり早くもノリノリの弥勒。

「俺はパスだな。温泉なんて銭湯で充分だ」

「ほほう・・・。ならばいいのか?私は両手に花ですな。かごめ様と珊瑚。三人で混浴なんて・・・」

「!!」

犬夜叉、想像する。湯気の立つ露天風呂・・・。3人仲良く背中のながしっこ・・・。


『珊瑚もかごめ様もなんてつるつるなお肌なんでしょう〜♪』

『キャー弥勒様ったら!』

そう犬夜叉に耳打ちする弥勒。

「俺もやっぱ行く!!」

身を乗り出して宣言する犬夜叉。

「じゃあ決まりですな。では早速日程を決めましょう!」

どこからか、すちゃっと弥勒、地図と温泉ガイドを取り出す。事前準備がいい。

そんな弥勒をじっと珊瑚は見つめているが・・・

「・・・」

(・・・弥勒様。いつもと変わらない・・・)


『私と一緒に生きて欲しい・・・』

(・・・あれは・・・プロポーズだよね。指輪ももらったし・・・。それに・・・)


”キスしていいか?”


エレベーターの中での光景がリアルに蘇る・・・。


(や、やだ・・・思いだしちゃった・・・)


うつむいて真っ赤の珊瑚の顔を覗き込む弥勒。

弥勒、度アップ。
「きっきゃああ!!」

ドカッ!!

珊瑚、弥勒をかなりの馬力で突き飛ばす・・・。

弥勒、障子戸に頭から直撃・・・。

「さ、珊瑚・・・。いつもながら凄まじいパンチで・・・」

「だ、だって弥勒様が突然顔尽きだしてくるから思い出しちゃって・・・」

「思い出す?何を?」

かごめが訊ねるが珊瑚、再び赤面。

「きゃあ♪もう!かごめちゃんたら、もうおお!!」

珊瑚、かごめの背中をバシバシ叩く。


(珊瑚ちゃん、何だか舞い上がってるみたい・・・)


首をかしげるかごめ。

こうしてかごめ達4人は一泊二日の小旅行に行くことになったのだが・・・。



雪深い山道を一台の4WDの車が走る。


「確かに”秘湯”って感じだよね・・・」


舗装もされていない砂利道をガッタンゴットンと前に進む。

「おい、弥勒!ホントにこんな道であってんのか!?」

「この地図によれば、あと5分程で宿に着くはずなのですが・・・」

かごめは車の窓から外をのぞくと、もうすぐそこは崖で激しい河の流れが・・・。

「お、落ちたらどうすんの!弥勒様ッ」

「大丈夫ですよ。私のドライブテクニックは・・・」


ガッタン!

思いっきり揺れ、車内の4人座ったままジャンプした。

「これのどこがドライブテクニックだーーーーー!」

犬夜叉の叫びと共に、やっとのことで、宿に到着・・・。


「おお・・・。まさに秘湯なる宿ですな・・・」


がっしりとした鬼瓦の屋根。

どっしりとした門構えで、入り口には門松が飾られていた。


中に入ると、漆黒の大黒柱がロビーの真ん中に立っている。

「あの・・・。予約していた海野ですが・・・」

「はい。お待ちしておりました。海野様・・・。お寒い所大変でしたでしょう」


ロビーの奥から暖簾をかき分け、綺麗所の若い着物を着た女将が4人を出迎えた。

「いえいえ。そんな。女将の様な綺麗な人に会えたならば、疲れも飛ぶという物です・・・」

弥勒、素早く女将に自己紹介。

珊瑚から凄まじい殺気が弥勒の背中に送られる。

「弥勒様!荷物持って!!ほら!!」

「わっ・・・」


弥勒にドサドサとッとスポーツバッグ3つ持たせる珊瑚・・・。

「ちょ、ちょっと珊瑚、待って・・・」

珊瑚の後を追いかける弥勒ははっきり言って既に尻に敷かれている様な・・・。

そして部屋に案内された4人。

勿論男女別々だ。

「わーー!かごめちゃん、見て!下、川だよ」

「ほんとだ・・・」

真下の岩はすっぽり雪に埋まり、その真ん中を透明な水が緩やかに流れている。

隣の部屋の男達も窓の外の風景に目を凝らして眺めている。

というか、何かを念入りにチェックしている様だ。双眼鏡を手にこの男は・・・。

「ふむ・・・。露天風呂はこの先を行ったところか・・・。ふむふむ・・・」

「てめぇ。何みてやがる」

双眼鏡に犬夜叉の目玉が。

「何をって・・・。日本の情緒豊かな雪景色に決まっているではないか。まさか私がこれで風呂を覗こうとしているとでも?」

「それ以外なにがある。ったく用意周到なやつめ」

「ふっ。犬夜叉。案ずるなお前の分も持ってきた」

どこからともなく弥勒、二個目の双眼鏡を取り出す。

「さぁ二人で日本の”情緒”を見ようではないか!嗚呼、湯上がり美人!!」

「うるせえ!てめぇ一人でやってろ!」

「・・・あ、そうですか。ならば私一人でかごめ様の湯姿を・・・」

犬夜叉、ちょっと赤くなる。

「ふざけんな!てめぇのスケベ、叩き直してやる!」

犬夜叉は弥勒を力づくで拘束。

そんな空しい男達のやりとりは隣の部屋に筒抜けだ。

「・・・。かごめちゃん、露天風呂はやめておこうね。身の安全のため」

「そうね・・・」

そして、かごめと珊瑚は食事の前に湯に浸かってくることにした。

・・・露天風呂はなしで。


無色透明。

しかし硫黄の香りがする。

広い内の桐風呂にかごめと珊瑚の二人、貸し切り状態で入った。

「気持ちいいね」

「うん・・・」

「それにしても弥勒様ったら本当に抜け目がないんだから・・・。フフッ・・・」

「・・・そうだね」

珊瑚、なんとなく顔が赤い。

「あれ?珊瑚ちゃん、のぼせちゃった?」

「ううん。そんなんじゃないんだけど・・・」

何だか珊瑚の様子がやっぱりおかしいと思うかごめ。

あのクリスマスの頃からやたらと珊瑚の視線は弥勒へ向けられているような・・・。

「・・・。珊瑚ちゃん、もしかして弥勒様と何かあった?」

「えっ・・・」

「あ、やっぱりそうだ。ねぇ、何があったの?ねぇってばー」

かごめは珊瑚をひじで、ちょっとつっついた。

「あ、あの・・・。その・・・じ、実は・・・」

珊瑚はもじもじしながらもかごめの耳の近くでひそひそっと言った。


「えッ・・・。プロポーズ!?」

「・・・う、うん・・・」

珊瑚の落ち着きがなかった理由がやっとわかり、納得するかごめ。

「そっかぁ・・・。弥勒様が・・・」

「うん・・・」

「そっかぁ・・・!うふふ・・・!珊瑚ちゃん、弥勒様の奥さんになるんだ、うふふ・・・!」

「や、やだかごめちゃん、奥さんだなんてまだ早いよ」

「でもいずれはそうなるんじゃない。うふふ・・・」

バシャンッ・・・。

かごめは嬉しくてお湯の中にもぐってはしゃぐ。

ずっと二人を見守ってきたかごめ。

自分のことのように嬉しい・・・。

「珊瑚ちゃん・・・」

「何・・・?」

「・・・よかったね・・・。おめでとう・・・!」


「・・・ありがとう。かごめちゃん」


そう言った珊瑚が・・・。


とても綺麗にかごめに見えた・・・。


「珊瑚ちゃん、綺麗だよ」

「え?」


「ううん。何でもなあい!それッ」

バシャッ!

珊瑚にお湯をかけるかごめ。

「あ、かごめちゃんやったなぁ・・・!えいッ!」


バシャッ!


珊瑚も負けてない。

「キャハハハ・・・」

楽しそうにお湯の中ではしゃぐかごめ達・・・。


かごめははしゃぎながら心の中で何度も


”珊瑚ちゃん、よかったね・・・よかったね・・・”

と呟いた・・・。



だが風呂からあがった珊瑚に大事件が・・・。

「あれ・・・!?ない!!」

風呂からあがり、部屋に戻った珊瑚。バックの中身を全部だして何かを探している。

「ないって何がないの?珊瑚ちゃん」

「ない・・・!!弥勒様から貰った指輪が・・・」

「えっ・・・」

かごめも部屋中くまなく探す。それから廊下やロビー、お風呂場 も二人で探し回った。

「この下に落ちてたりして・・・」

ロビーの自販機の下も探したが見つからない・・・。

落ち込む珊瑚。

「珊瑚ちゃん、アパートに置いてきたって事はないの?」

「ううん・・・。だって今日指にはめてきたから・・・。旅館に着くまで指にあったのは覚えてるんだけど・・・」

それから指輪の行方は覚えていない・・・。

「どうしよう・・・。どうしよう・・・あたし・・・」

「珊瑚ちゃん、こうなったら犬夜叉と弥勒様達にも探すの手伝って貰おうよ。その方が・・・」

「弥勒さまには言わないでッ!」

「どうして・・・?」

うつむく珊瑚。

「だってあたしが悪いんだから・・・。あたし、指輪ずっと離したくなくて寝るときもはめたままだったし・・・。だから・・・あたしが悪いの・・・」

がっくりと肩を落とす珊瑚。

「わかった・・・とりあえず、夕食食べてからまた探そう・・・ね?」

黙って頷く珊瑚・・・。

本当に心の底から弥勒のプロポーズが嬉しかったんだなとかごめは改めて感じた。

そして夕食。

山菜の天ぷらや獅子鍋、川魚の刺身などご馳走が4人の前に。

「おい、弥勒、てめぇ、俺の獅子肉とりやがったな!?」

「知りませんよ。気のせいでしょう」

相変わらず、男達は騒がしく、おかずの取り合い。

珊瑚は何事もないように振る舞っていたが、珊瑚の箸は進まなかった。

食事の後、もう一度かごめと珊瑚は旅館じゅうを探したが、指輪は見つからなかった・・・。

部屋に戻り、落ち込んだ珊瑚はそのまま布団に入ってしまう。

「珊瑚ちゃん・・・きっと・・・。きっと見つかるから・・・。ね・・・」

「うん・・・。アリガトかごめちゃん・・・。でももういいから・・・。弥勒様にはちゃんと謝るから・・・。じゃあおやすみ・・・」

そう言って頭からすっぽりと布団をかぶってしまう珊瑚・・・。

(珊瑚ちゃん・・・)




雪も深くなってきた十二時近く。

男達の部屋に犬夜叉を訪ねたかごめ。

「犬夜叉、いる?」

「なんだよ・・・。こんな夜に・・・」

犬夜叉、やっぱりあのかごめとお揃いの水玉のパジャマを着ている。

「・・・やっぱりそれ、気に入ってるんだね」

「う、うっせえッ。それよか何の用だよ」

「あのさ、ちょっと一緒に来て」

「どこへ」

「いいから!!」


かごめは強引に犬夜叉を連れだして、行った先はなんと駐車場。

「さぶッ・・・。おい、かごめ。一体何しようってんだ!?こんなとこで・・・」

「はい。これ履いて、これ持って」

と、手渡されたのは長靴とステンレスのスコップ。

「これで何しようってんだ・・・?」

「宝物さがし」

「は?」

「珊瑚ちゃんがね、大事な指輪なくしちゃったの。あちこち探したんだけど見つからなくて。後は駐車場ぐらいしかないと思って・・・。ね、お願い。手伝って」

「けっ。何で俺が。てめぇのモンはてめぇでさがしやがれ!」

「お願い・・・。犬夜叉。珊瑚ちゃんの大事な物なの。どうしてもあたし、見つけてあげたいの・・・」

「・・・」


バサッ。

犬夜叉は羽織ってきた革ジャンをかごめに着せた。

「犬夜叉・・・」

「着てろ・・・。そんな薄っぺらい浴衣と羽織じゃ風邪ひくだろ。ほれ、早いとこ探すぞ!」

「うん・・・!」


犬夜叉の革ジャンは少し煙草の匂いがしてとても温かい・・・。

こうして犬夜叉とかごめは二人、雪の中を小さな指輪を探し始めた。

弥勒の車の上にはもうすでに50センチ近く雪が積もり、車が埋もれそうだ。

二人はその雪をどかす様にスコップで掘る。

「くそ!容赦なく降りやがるぜ・・・!」

かごめは犬夜叉の言葉も聞こえていないのか、無心になってひたすら雪を掘る。

「・・・。ったく・・・」

スコップに長靴姿のかごめ。

どう見たって格好いい筈はないのに・・・。

必死に探すかごめがとても凛々しく見えて・・・。

サク、サク・・・。


粉雪は軽くてスコップの上を滑り落ち、なかなか掘り進めない。

しかし、ようやく黒いタイヤが顔をだした。

「ん・・・?」

すくあげたスコップの雪の中にチラッと赤い何かが見えた。

かごめは雪を払ってみると・・・。

「これ、珊瑚ちゃんの手袋だわ!」

手袋の中に何か固い感触を感じる。

かごめが手袋を裏返してみると・・・。


「あったーーーーーー!!!」


指輪のリングの部分に毛糸が絡まっていた・・・。

「犬夜叉、あったわ!よかったァ・・・っ!!!」

珊瑚の喜ぶ顔が浮かぶかごめ。

早速部屋に戻ろうとすると、そこに傘を差して珊瑚と弥勒が・・・。

「あれ・・・。珊瑚ちゃん、どうして・・・」

「かごめちゃんこそ、寒いのに何してたのさ・・・」

「あ、そうだ。これ、指輪ね、見つかったの!ほら」

「ずっと探してくれてたの・・・?」

「旅館にないなら外だと思って・・・。手袋の裏にひかかってたの。もうなくしちゃだめだよ」

珊瑚の手の平に指輪を乗せ、握らせる・・・。

そのかごめの手は氷の様に冷たく、どれだけ寒かったか珊瑚に伝えた・・・

「かごめちゃん・・・。ありがとう。かごめちゃん・・・」

もう指輪は見つからないと諦めていた珊瑚は感激のあまりジワッと涙が・・・。

「あれ・・・。珊瑚ちゃん・・・?」

「ふっ。珊瑚はかごめ様の気持ちが嬉しくて涙したのです。私も・・・。って何ですか?かごめ様・・・」

弥勒を睨むかごめ。

「珊瑚ちゃんの涙はね、長年に渡って弥勒様の女癖の悪さに悩んできた珊瑚ちゃんの気持ちが入ってるのよ。きっと」

かごめの言葉が矢のように弥勒に直撃、浮気駄目よの警告。

(かごめ様・・・。涼しい顔してキツイですな・・・(汗))

「弥勒様、珊瑚ちゃんの指にはめてあげてみてよ」

「え・・・」

「ね!」

「では・・・」



弥勒はかごめに言われるまま、珊瑚の指にすっとはめた。

「珊瑚、もうなくさないで下さいね。何せ、”給料三ヶ月分”ですから」

弥勒はそう珊瑚に優しく笑いかけた・・・。

「・・・。うん・・・。もう絶対なくさない・・・」

指輪をギュッと両手で大切そうに珊瑚は包んだ。

そんな二人にかごめは凍えた手で小さく拍手した・・・。

「おめでとう。弥勒様、珊瑚ちゃん・・・」


雪の中のダイヤモンドは小さく、でも確かに珊瑚の手の中で光っていた・・・。



湯気が煙のように舞い上がっていく・・・。
「ハァ・・・。気持ちいいねー!」

すっかり体が冷えてしまったかごめと犬夜叉。

二人、それぞれに露天風呂に入っていた。

雪は牡丹雪からサラサラの粉雪にかわって・・・。

岩風呂の露天風呂、竹の仕切りの向こうにかごめがいる。

ちょっとドキドキの犬夜叉君です。

「ねぇー。聞いてるのー!」

「き、聞こえてるからでけぇ声出すな!」

「・・・何怒ってんのよ。変な奴・・・」

「珊瑚ちゃんと弥勒様、本当によかったよね。でもまさか弥勒様がプロポーズまで持っていくとは思わなかったけど・・・」

「どうせあいつの事だろうからまとまった話もすぐこじれるんじゃねぇか?」

「もー!あんたはどーしてすぐそういう事言うのよ。水を差すような事言わないでよ」

「けっ・・・」


犬夜叉、ちょっと不機嫌そうに長い髪を掻き上げる。

「あのね、あんたは知らないかもしれないけど、珊瑚ちゃんってね、弥勒様に実は一目惚れしたの。まぁ出会ったときから弥勒様はあんな調子だった。ずっと長いこと、珊瑚ちゃん悩んできたんだから。強がってたけど影では・・・」

弥勒を訪ねて何人の女がアパートを訊ねてきたか分からない。

珊瑚は二階の部屋の窓から辛い気持ちでその光景を見続けてきた。

「あたし、思うんだけど、弥勒様の女癖が悪いのって一種、女性に対してどう接したらいいか分からないそんな不器用さからくるのかなって。でもちょっと度が過ぎるけど・・・(笑)」

「ったくお前はよー。人の事ばっかりだな。お前はどうなんだよ。幸せになりてぇとか思わないのか?」

「・・・あたし・・・?あたしは・・・」

ちょっと意地悪な質問・・・。

”それは犬夜叉次第・・・”

って思うけど、そんな犬夜叉を縛ってしまう事は絶対に言えない・・・。

「ふっ。お前はいつも幸せか。お前はあんまん喰ってりゃ幸せだもんな。ハハハ」

「何よ!幸せになりてぇかってそんな意味なの!もう!」

かごめは岩につもった雪を丸めて向こうに投げた。

そして見事犬夜叉に頭に命中。

「こらてめぇ!やりやがったな!」

犬夜叉も負けじと応戦。

「きゃあ!もう〜!怒った!えいッ!!」

露天風呂にて雪合戦開始。

竹の仕切り越しに雪玉が飛ぶ。

「けっ。俺の勝ちだな・・・」

「・・・」

急に女風呂が静かになった。

「かごめ、どうした!かごめ!」

「・・・大丈夫だよ。ここにいる・・・。仕切りの側に・・・。ここに・・・」

「側って・・・。ここか・・・? 」

静かに仕切りに手をあてる・・・。

そして仕切りの向こうのかごめも・・・。


「・・・。ねぇ犬夜叉・・・」


「何だよ・・・」


「・・・今度ここに来るときはは・・・。二人きりでこようか・・・」


「ばっ・・・」

茶化す犬夜叉・・・。


わかってるけど何だか切ない・・・。

「いいぜ」

「え・・・」


「らっ、来年の福引きでまた温泉招待券取ったらな・・・!」


犬夜叉らしい応えに、かごめは嬉しいやら切ないやら・・・。


何だか可笑しくて・・・。


「じゃあ、来年頑張るね・・・福引き・・・」

「・・・。おう・・・」


雪が降る・・・。


雪と一緒にダイヤモンドダストがきらきらと光って・・・。


星のように・・・。

綺麗だった・・・。