第29話・雪のメモワールA 小春日和と思うほど、外は暖かく、柔らかな日差し。 カメラを片手にかごめは、自分の実家の辺りを犬夜叉に紹介して歩く。 「おい、なんでカメラなんか持ってきたんだ?」 「言ったでしょ。思い出作るのよ♪」 不思議そうに首を傾げる犬夜叉。 そのカメラの意味を犬夜叉はすぐ知ることになる。 最初はかごめが通っていた小学校。 木造校舎で、小さなグランド。 犬夜叉の腰辺りまでしかない小さな鉄棒とブランコ。 「これ、本当に鉄棒か?ベンチじゃねぇのか?」 「・・・。あんたがでかすぎるのよ」 鉄棒に腰掛ける犬夜叉。 その犬夜叉の目の前には木造校舎が。 去年、廃校になったのだが学校の中は全く変わらず木の香りがしていた。 歩くとミシミシ言う廊下。 教室の天井も床もみんな木のフローリング。 黒板のいたずら書きが何だか温かい。 木の机と椅子。 「すっげーちっちぇぇ」 犬夜叉が椅子に座るが思い切りサイズが合わない。 「・・・当たり前でしょ。でも、木の椅子と机ってやっぱりいいよね」 「おう。それに流石築40年だよなぁ〜。校舎はいい木、使ってやがるぜ。木目なんか・・・」 机を触りながら語る犬夜叉。 「ふふ・・・。うふふ・・・」 「な、何だよ。何が可笑しいんだ」
「う、うるせえっての!!」
「あ、こら、勝手に撮るな!」
もう今では小さな椅子と机だけど、思い出が一杯つまってる。 哀しい思いでも楽しい思い出も・・・。
小学校を跡にした二人。 次はかごめがよく学校の帰りに立ち寄ったという駄菓子屋さんのへ・・・。 狭い店の中には昔ながらの駄菓子で一杯。 ガムの甘酸っぱい匂いが懐かしさを一層させる。
「あたし、黒砂糖のふ菓子すきだったのよね。あとほら、小さい黄粉もちも♪」 天井からぶら下がっているざるの中に白い習字紙の中にある試食用のお菓子をつまむ二人。
物音に気づいたのか、奥から腰が少し曲がった割烹着姿のおばあさんが出てきた。 「おばあちゃん!!お久しぶりです!!」 「あんれまぁ〜!どこのべっぴんさんかと思ったらかごめちゃんかい!!」 「おばあちゃん、お元気で何よりです」 かごめとおばあさんは手を取り合って懐かしむ。 「かごめちゃん、こっちに帰ってきてたのかい」 「はい」 おばあさんは後ろにいる犬夜叉をチラッと見た。
「ち・・・違いますッ!!あれはただの付き添いで・・・」 「あ、あれとは何だあれとは!!」 二人とも真っ赤になりながら必死に否定。 だがおばあちゃんは、
と、豪快に笑う。
「お二人さん、茶でも飲んでいきなされ」 お言葉に甘えて二人はおばあちゃんの家に上がり、花林糖と玄米茶を頂いた。 「おばあちゃん、私、店の前の雪かきしてきますねッ」 かごめは黒い長靴を履いてスコップを持って店の前の雪をどけるかごめ。 その様子をこたつに入りながらおばあさんが優しい目で見つめている。 「・・・ブカブカの長靴はいて・・・。年頃の女の子がようやってくれる・・・。昔もああやって雪かきしてくれたっけねぇ・・・。かごめちゃんは・・・」 「・・・けっ。力有り余ってるからな。かごめは」 「ああ・・・。いつも元気でなぁ・・・。桃色のほっぺで笑っておった・・・」 「・・・」
「でもその『一生懸命』が、返ってワシは痛いかったのう・・・」 「・・・え?」 「かごめちゃんの婿さんなら知っておるじゃろうが、幼い頃はかごめちゃんの周りは大変な事ばかりおきておった・・・。人々は『可哀想な子』という目でしかかごめちゃんをみとらんかった・・・。でもかごめちゃんは普通の子と何一つ変わらず元気に育った・・・。ある時かごめちゃんはこういうた」
昨日、かごめの家に来る途中、道ばたの観音に手を合わせていたかごめを思い出す犬夜叉。 (・・・相談相手・・・か・・・) 物言わぬ観音像を相手に幼いかごめは一体何を語っていたのか・・・。
「ねー。犬夜叉、あんたもちょっと手伝ってよ」 「けっ。仕方ねぇな」 犬夜叉もスコップ持って外へ・・・。 「どれだけ雪山作れるか、競争よ!」 「ガキくさい事言うな」 「自信ないんだ。男のくせに」 「なっ。言いやがったな!受けてたってやる!!」 「それじゃ・・・。ヨーイドンッ!」
その様子を中からおばあさんは微笑ましそうに見つめる。 「ホッホッホ。仲むつまじいのう・・・。どれ、一枚撮っておこうかのう」 パシャリ。 雪の中、写真にはスコップ持った二人の姿が映った・・・。
その度に一枚、また一枚と写真をとっていく・・・。
そして。日も大分暮れてきた。 犬夜叉とかごめは、かごめが通った高校のグランドにいた。
サッカーのゴール、緑の屋根の体育館・・・。 何一つ変わっていない。 そしてグランドの隅に一本だけポツンと立つ杉の木・・・。 その杉の木の下に二人はいた。
「・・・うん。ちょっとね」 「どんなだよ」
「けっ。あーそーかい」 でも、 そう言われると気になる。 もっと突っ込んで聞こうと犬夜叉が思ったその時。
こっちめがけて黒いラブラドール犬が走ってきた。 「ルーシー!?ってことは・・・」 「日暮!?」 ルーシーの飼い主、北条君登場。 実にさわやか系の白いコートで。 「日暮、こっちに戻ってきてたのか」 「うん。昨日から。北条君はルーシーの散歩?」 「ああ。連れていけってうるさくて。ちょうど学校の前を通ったら急に走り出したんだ。日暮の匂いをきっと覚えていたんだな・・・」 何だか入りにくい雰囲気の犬夜叉。
犬夜叉に気づき、かごめに訊ねる北条。 「あ・・・。紹介するね。あたしと同じアパートの住人の犬夜叉」 「・・・へぇ。貴方が・・・。どうも北条です。よろしく」 実にさわやか〜な笑顔で犬夜叉に握手を求める北条。 「・・・お、男と握手する趣味はねぇッ」 犬夜叉、さわやか光線にちょっと負ける。 「犬夜叉!あんたねぇ!失礼じゃないの!」 「けっ」 犬夜叉、ムスッとした顔で後ろを向いた。 「ごめんね。愛想の無い奴で・・・」 「いえいえ・・・。でも僕、一度犬夜叉さんに会ってみたかったんですよ。草太君から色々聞いてますあ、そうだ。悪いけど、日暮。しばらくの間、ルーシーの相手してくれないかな」 「え?」 「僕、犬夜叉さんに話があるんだ。頼むよ」 「・・・う、うん・・・」 ルーシーの首縄を北条から受け取ったかごめはグランドの真ん中の方でルーシーとボールで遊ぶ・・・。
「・・・。犬夜叉さん、この木の言い伝え知っていますか?」 「・・・知る訳ねーだろ」 「この木の下で結ばれたカップルは永遠の絆で結ばれる・・・ってね。僕が日暮に告白した場所でもあります。ほ」 「!」 かごめがさっき言いかけた事が犬夜叉はわかった。 「・・・。あっけなくフラレましたが。僕の気持ちは昔も今も変わっていません」 北条はきっと犬夜叉を睨んだ。 「何が言いたいんだよ」 「・・・日暮を泣かせるようなことしないで下さい。絶対に・・・」 「・・・」 「部外者の僕が言う事じゃないですが・・・。日暮、言ってました。『自分の恋は最後まで大切にしたい』って・・・。日暮の悲しい思いをするのだけは耐えられない。日暮は我慢強いから・・・」 「・・・」 気にくわない北条の言葉だが、チクリチクリと心に突き刺さる。
「・・・。いや・・・」
ワンワン! ルーシーが北条の元に戻ってきた・・・。 「日暮、ありがとう。僕、もう行くよ」 「う、うん・・・」 「じゃ、犬夜叉さん失礼します」 「・・・ああ」
北条と犬夜叉が何を話していたのか気になったかごめ。 「・・・。ねぇ。北条君、何か言ってた?」 「・・・別になんでもねえょ」 「何でもないわけないでしょ!白状しなさい!えいッ!」
「てめえ!!やりやがったな!」
しかし、かごめも一発顔面にまともにくらう。 雪だらけのかごめ。手袋で雪をはらう。 「ちょっとーー!もーー!!いきなりは卑怯じゃない!」 「最初にやったのはてめぇだろうが!!」 「何よ。もうっ。子供っぽいんだから!怒った!!」
「どこ投げてやがるんだ!今度は俺から行くぞ!」 真っ白なグランドで、二人、子供のようにはしゃいで雪で遊ぶ・・・。
オレンジに染まった雪をかぶって。
「かごめちゃん、もう帰っちゃうのかい。寂しいねぇ」 改札口で切符を切りながら駅長が寂しげに言う。 「駅長さん、お元気で」 「おい!かごめ、てめぇ帰る時まで俺に荷物持たせる気か!」 と文句を言っているが犬夜叉既に、立派な荷物もつです。 「昨日、雪合戦であたしに負けたでしょ。文句言わないの!」 「あれは俺の勝ちだ!」 「え、そうだっけ?」
「・・・」 「・・・」 駅長の豪快な笑いがホームに響き、若い二人は照れてうつむく。 「お邪魔虫は退散退散っと」 駅長はそそくさと駅舎に。
電車はまだこない・・・。
「かごめ?」
「あ?何で謝るんだよ」 「だって・・・。昨日さ・・・。なんかあたし一人ではしゃいでたし・・・。無理につき合ってもらったかなって・・・」 犬夜叉はかごめのバックを再び持つ。 「犬夜叉?」 「・・・。昨日の勝負は引き分けだ。だから・・・」 「・・・。だから・・・?」
かごめはそっと犬夜叉の腕に絡ませる。
腕を組んだ二人。
かごめは急いで駅舎の中へ入っていった。 そしてすぐに戻ってきた。
小さく・・・ そして。駅の待合室の掲示板に駅長はあるものを見つける。
「かごめちゃん、頑張るんだよ・・・」 駅長はと優しく微笑んでそう呟いた・・・。 |