第3話みんな、優しい手をもってる A

住宅街を、うろうろ歩く犬夜叉。

「ったく・・・。どこも同じ様な家ばっかりじゃねぇか・・・!」

行き先がわからずイライラしている犬夜叉をよそに、背中で七宝はすーすーと眠っていた。

「このガキ・・・。途中で“オラ、疲れた”とか言ってまたねちまいやがって・・・!ばばあに地図でもかかせりゃよかったぜ・・・」

おしえてもらった番地からするとこの辺りなのだが・・・。

犬夜叉がキョロキョロしている目の前に水色の屋根に白壁のレンガ造りの家が。

茶色のレンガの門が。


『もみの木の家』 と門にプレートが。

そして中から、

「かごめ先生ー!」

という子供達の声が聞こえてくる。

「ここがオラの家じゃ!」

七宝はすばやく犬夜叉の背中から降りると中へ庭から入っていった。

芝生の庭には、白いブランコとすべり台があった。

「ただいまー!じいちゃん、かごめー!」

「七宝ちゃんおかえり」

かごめは七宝をだっこして出迎えた。

「かごめ、犬夜叉も一緒じゃ!オラを送ってきてくれたんじゃ!」

かごめはチラッと犬夜叉を見た。

「楓おばあちゃんから電話あったの。ご苦労様、犬夜叉」

にっこりと笑ったかごめは、ピンクのエプロンに、三つ編み。

いつもの少し違ういでたちに犬夜叉、照れる。

「・・・。けっ。散歩のついでだ・・・」

ポケットに手を入れ、ムスっと言った。

「ところでかごめ、お前、ここって一体なんだんだよ?」

「ああ、ここはね、託児所なの。あたしはそのお手伝い」

「お手伝い・・・?」

かごめは大学で保育学科に専攻している。将来は保育方面に進みたいと思っているかごめ。七宝の家が託児所をしていると知り、それ以来、子供達に世話をしていたのだ。

「犬夜叉、七宝ちゃんのおじいちゃんがね、是非、お茶でもって」

「別にいいよ。俺はガキが嫌いなんだよ」

「お前もガキじゃろうがー。犬夜叉よー」

このちょっとむかつくしゃがれ声・・・。どこかで聞いたような・・・。

「と、刀々斉!?」

緑のチョッキを着ているちょっと洒落た老人。

犬夜叉が幼い頃育った施設の園長の刀々斉だ。

「なんでてめーがここにいるんだ!」

「ふん。ここはワシの友人の(七宝の祖父)が経営しとる託児所なんじゃい。それに楓さんから電話をもらってな、お前がここへ来るって聞いたんで見に来てやった。おい、犬夜叉、どうじゃ?新しい暮らしは?」

「うるせえ!てめえに心配されなくても俺は俺でちゃんとやってるぜ!」

「ならいいんじゃがなぁ。また、やけくそになって行き倒れになってるかとおもうとったぞ」

「よけいなお世話だ!」


こんな風にお互い、ちと乱暴な会話をしているが、犬夜叉はなんとなく刀々斉には頭があがらない。口は悪いが、楓が犬夜叉の母変わりなら、刀々斉はいわば、父親変わりといったところか・・・。

「みなさん、お茶入れましたので、どうぞ入ってください」

七宝の祖父が犬夜叉達を招き入れる。


中に入ると大きなダイニングが。

そこで子供達が遊んでいた。かごめと七宝も。

木の壁フローリングの床。木の椅子、木のテーブル。

子供達が遊ぶ積み木もみな木。家中から心地いい木の香りが漂う。

犬夜叉達はダイニングの隣の部屋の和室に案内された。

「今日はうちの七宝が大変お世話になりましたなぁ。犬夜叉さん」

「ふん・・・」

相変わらず無愛想な犬夜叉。刀々斉は杖でつんと犬夜叉のあたまを突く。

「すまんのう石川さん(七宝の名字)。礼儀をしらん奴でして・・・」

「いえいえ。お気になさらずに。それにしても、貴方が犬夜叉さんですか。かごめちゃんから聞いてますよ」

「な、なんだよ」

「乱暴ものでわがままな住人がとなりに引っ越してきたって」

「なっ・・・」

刀々斉は思い切りガハハハと笑った。

「笑うんじゃねぇ!じじい!なんだよ。おしゃべりめかごめの奴・・・」

犬夜叉はリビングで子供達と遊ぶかごめを見つめる。

「『桔梗』に似ておるな。お前の思い人に・・・」

「!」

「しかし、雰囲気は全く違うのう・・・。最もワシは『桔梗』とは一度しか見たことはないがな・・・。ワシとしては、あの娘さんの方が好みじゃv 」

「バカ言ってンじゃねぇよ・・・。じじいが・・・」


優しく七宝、他の子供達にほほえみかけるかごめ・・・。


見れば見るほど、桔梗に似ている。


でも・・・。

「あはははー。かごめの負けじゃー」

「あららー。ババひいちゃった・・・。七宝ちゃん、強いなー」


でも・・・。見れば見るほど・・・。


桔梗とは違う・・・。


違うことを感じる・・・。


穏やかに微笑むかごめがとても気になって・・・。


「いやぁあああーー・・・。ママーーー!!ママァーーーー!おうち帰るぅううううーーー・・・」

リビングの方から子供の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

「卓ちゃんか・・・?」

「卓ちゃん?ここに来ている子かね?石川さん」

「ええ・・・。つい最近、うちが預かっている子なんですが・・・。臆病な子で・・・」


バタバタバタ!!

玄関の方から4歳ぐらいの少年が走ってリビングの真ん中のテーブルの下に逃げ込んでしまった。

2人の保母があわてて少年を追いかけてきたが、少年はテーブルの下に入って縮こまって震えている。

保母が声をかけるが一向に出てこようとしない。

少年は背中を丸めて、顔を隠してビクビクしている。


その姿が、犬夜叉には見覚えがあった・・・。

昔の自分に・・・。


「・・・。七宝ちゃん、トランプちょっと中断ね」

かごめはトランプを置いて、しゃがみ込み、テーブルの下に入った。


(かごめ・・・。一体どうしようってんだ・・・?)

犬夜叉と刀々斉達は注目した。

「ママぁ・・・。おうちかえりたいよぉーーー・・・。こわいよ・・・。・・・こわいよー・・・う、うぅうう・・・」

かごめは何も言わず、ただ、だまってそっと右手を差し出す。

「・・・」

シュッ!

「痛ッ・・・」

少年は、なんとかごめの右手を思いっきりひっかいた・・・。

「・・・。あっち行けー!!みんな嫌いだ!!ママのところかえるぅーー・・・!」

怖がっているかと思えば、急に反抗的になったり・・・感情が不安定な少年。

震えながら、かごめを威嚇している・・・。

かごめの手の甲にはひっかき傷がくっくりと赤く跡がついていたそうだが、かごめはそれでも右手を差しのばし、ただ、ひたすら、微笑む・・・。

「あたしは卓ちゃん大好きだよ・・・」


かごめは少年を見つめた。


ただ、見つめた。


ひたすらに、微笑んで・・・。

「・・・」


少年はそんなかごめを不思議そうに見つめ返す・・・。


おこられないのかな・・・?


ぼく、今、かごめせんせいにいたいいたいこと、したのに・・・?


せんせいはわらってる・・・。


おこらないのかな・・・?


おこられないのかな・・・。

「かごせんせ・・・。おこ・・・らない・・・?ママ・・・おこらない・・・?」

「おこらないよ・・・」

「・・・」

少年の小さな楓の様な手がぶるぶる震わせながら、ゆっくりかごめの手を掴もうと

して・・・。

少年は、かごめの手をじっと見てつぶやいた・・・。

「かごめしぇんせい・・・。おてて、ごめんなさいごめんなさい・・・。いっぱいいっぱいごめんなさい・・・」

泣きながらそう謝る少年。


かごめは、少年をテーブルの下から出して両手で、ギュウと抱きしめた。


愛おしそうに、愛おしそうに・・・。


大切な何かを包むように・・・。


少年は抱きしめられ、ホッとしたのかかごめにすがるようにしがみつく・・・。

「出てきてくれてありがとう。卓ちゃん・・・。もう誰も怒ってないからね・・・」

そう言って少年の頭を撫でた・・・。


犬夜叉達は、少年とかごめのやりとりをただ、静かに見つめている。


「あの子の瞳は・・・。人を恐れておるめじゃな・・・。きっと何かにいつも怯えているのじゃろう・・・」

「刀々斉さんの言うとおりです・・・。あの子は母子家庭で母親はいつも忙しく、子供にかまってやれない・・・。それに最近、仕事がうまくいっていないらしくて・・・。ついイライラして、あの子にあたってしまうそうなんです・・・。母親自身もそれに悩んで・・・。だから、夜だけでもうちで預かることに・・・」

「・・・。でも大抵の子供は・・・。辛くてもなかなか言葉にできなくて、自分の中に溜めてしまうからのう・・・。そしてそのうち傷つきたくないという気持ちが強くなって人の顔ばかり伺う様になってしまうんじゃ・・・。どっかの誰かさんみたいにな」

刀々斉は茶菓子のようかんにつまようじをさして食べながら話す。

「誰のこと言ってるんでい!けっ・・・。俺はあんな臆病な子供じゃねぇ。母子家庭なんていくらでもあるだろ・・・。甘ったれたこと言ってンじゃねぇよ。ビクビクしてたら、周りの大人にもなめられちまう・・・。強くならなきゃいけねぇのに、あんなガキのうちからよしよしと甘やかしてちゃ、よわっちぃガキになっちまうじゃねぇか・・・」


誰もたすけてくれなかったから。

誰も自分を認めてくれなかったから。


自分一人だったから。


強くなくちゃいけないと思った。何が何でも・・・。

「突っ張って、人を寄せ付けないようにな大人にならないように子供の家から人を信じられる様にしておかんとな。誰かさんの様な男にならないように」

「うるせえ・・・!じじいが!」


生ぬるい優しさなんていらない。


中途半端な思いやりなんていらない。


そう思ってきた。


だけど・・・。だけど・・・。

「卓ちゃん・・・、一緒に絵を描こうか?」

かごめの膝に抱かれ、泣きやんだ少年。絵を描こうと、 七宝のクレヨンを借りるかごめ。

「卓ちゃんはどの色がいいかな・・・?」

少年は真っ先に黒のクレヨンを選んだ。

「おい・・・。お主、何を描いておるのじゃ??」

七宝は不思議そうに質問した。

「おほしさま」

少年はひたすらに黒いクレヨンで夢中でゴシゴシと画用紙を塗りつぶした。

そして、黄色いクレヨンで点をいくつか描いた。

「こいつの絵、へんなのー。なんだコレ。黒と黄色しかつかってないぜ。これがお星さまだって。全然見えないー」

かごめの周りの他の子供達が集まり、少年の描いた絵を珍しそうに見た。

少年は、からかわれていると思い再び泣きそうになって、かごめの膝にうずくまってしまった・・・。

「変じゃないよー。この絵はねー。こうすると・・・」

かごめは黄色のクレヨンを一本とる。

そしてそれを一本の線でつなげると・・・。

「あー!!お星様が、白鳥になった!!」

子供達のどよめきが起こる。画用紙には、星座の白鳥座の姿が描かれていた。

少年が描いた星をつなげて、かごめが描いたのだ。

「すごおい!」

「卓ちゃんはね、お星さまが大好きなんだ。ね、卓ちゃん」

「・・・うん」

「じゃ、みんなもさ、卓ちゃんの絵みたいに、星の絵を描こう!点と点を結んでどんな星ができるかな!」

かごめのその一声に子供達は、一成に画用紙とクレヨンを手に持ち、それぞれ絵を描き始めた。

かごめが手を加えた少年の描いた絵をきっかけに少年と他の子供達は、仲良くなり始めた。かごめは少年に『一人じゃない』ことを感じて欲しい思う・・・。



かごめと子供達の様子を ずっと見ていた犬夜叉と刀々斉。

「かごめちゃんは不思議な娘です。自然にいつの間にか人の心に触れてくる・・・。怯えている子供でもかごめちゃんがあんな風に手をさしのべると、泣きやんで笑顔になる・・・。多分、かごめちゃん自身がいつもありのままでいるからそれが相手にも伝わるのでしょうね・・・」


七宝の祖父の言葉に、思い切り共感する。


かごめは・・・。不思議だ。


初めて会ったときから、感じていたこの穏やか気持ち。


病院で見た夢の中の白い光の様に


あたたかそうでどんな自分も受け入れて、包んでくれそうな <



そんな気持ちになる・・・。



きっとどんなに突っ張っても、笑って自分を見てくれる、見つけてくれる



そんな希望が湧いてきて・・・。


「犬夜叉ー!ねぇあんたも一緒にあそぼーよ!みんながねあんたの顔、書きたいっていうの!」

「なっ・・・。誰がガキ共の相手なんか・・・」

「ガキみたいなもんじゃろ」

刀々斉は涼しい顔で言った。

「うるせえ!って何だ、お前ら・・・!」

気がつけば、犬夜叉の周りには子供達が取り囲んでいる。

「へぇー。“これ”が『人間』になった“犬夜叉”かぁー。そういえば似てるなー」

「じゃろう?とくにこの目つきの悪い所なんかがとくにじゃ」

七宝と子供達は座る犬夜叉によじ登ったり、髪をぐいぐい引っぱる。

「こらぁ!やめぇねぇか!ガキ共!!」

「それぇー!みんな、逃げろー!」

子供達は、犬夜叉でもみくちゃにして遊んで、逃走!

「まちやがれ!クソガキ共!」

ドタバタドタバタ・・・!

託児所の中を子供達と犬夜叉は、かけずり回る。

「全く・・・。どっちがガキだかわからんのうこれじゃ・・・」

あきれ顔で刀々斉は言う。

しかし、刀々斉はホッとしていた。

楓のアパートに来るまでは、何もかもやけっぱちだった。

少し元気な姿が見られたと・・・。

「そおれ、みんなで犬夜叉をやっつけろー!」

「がきだからってな、容赦しねぇぞ!」

そして、かごめも、子供達と元気に(?)託児所を駆け回る 犬夜叉の姿を嬉しそうに見つめていたのだった・・・。


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・・・長いセリフが多くてすみません・・・(滝汗)登場人物が多いとどうしてもセリフが多くなってしまう・・・。かごめちゃんと子供達のふれあう様子を自分の幼い頃を思い出しながら見つめる犬・・・ってのがかきたかったんですが、イマイチ表現できなかった様な・・・(悩)パラレルは本当に難しいです・・・(汗)それを埋めるが如く次のページのラストはかなり犬、かごめちゃんにラブっている模様・・・(オイ)ちなみに刀々斎のキャラはかなり違っていますね。ちょっとおじいさん的な名前が欲しかったので、刀々斎ってつけたのですが、これは私のオリジナルキャラということで、お願いします・・・