続・居場所を探して
〜タンポポの種〜


其の五・ベイビー ウォーズ


「ねぇ・・・。かごめ先生・・・。
今日・・・ちょっと付き合ってほしいところがあるんだけど・・・」




保育所の職員室。





同僚がなにか困った顔でかごめに相談してきた・・・






「付き合って欲しいところって・・・何処ですか?」





「そ、それは・・・」


















「・・・」



オギャー・・・


元気のいい泣き声。




街合室。




かごめはお腹の大きな妊婦にかこまれ座る・・・






そう。ここは産婦人科。





周囲はやはりお腹の大きな妊婦でいっぱい。






”産婦人科なんて行った事ないし行きにくくて・・・。お願い一緒に来てくれないかな”




そう手を合わせて拝み倒され、かごめも付き添いに来て見たが・・・





(あ・・・。あたしだって来づらいよ・・・(汗))






独特の緊張感にかごめは押し黙って同僚を待っていた・・・






「あ・・・」




診察室から同僚が出てきた・・・





静かにかごめの横に座る・・・





「あ・・・あの・・・」





「・・・ってなかった」




「え・・・?」





同僚、満面の笑み・・・



「出来てなかったーー!ほっとしたーー!」




かごめの手をにぎってバンザイして喜ぶ・・・




「ちょ・・・ちょっと」




かごめは同僚を静まらせ、座らせた。






「ここ病院なんですから・・・(汗)」


「あ。ごっめーん。つい・・・」




自分より二つ年上だが、保育所での顔とプライベートの顔が
まるで違う。



かごめはそのギャップに驚いていた・・・





「かごめ先生、今日はアリガトね♪心強かったわ」






「い・・・いえ・・・」





「でもつくづく思うわよねー。女ばっかり嫌な思いしなくちゃいけないって。
男は焦っておろおろするだけだし。まぁ出来てたたら
私もびびってたと思う」




「・・・」





きっと悪気はないのだろうが、同僚の言葉からなんとなく
命に対しての軽薄さを感じるかごめ・・・








(出来てなくてよかったってどうしてそんなに簡単に言えるの・・・?簡単な
ことじゃないのに・・・)






赤ちゃんの鳴き声をかごめは
切なげに聞いていた・・・








「ふぅ・・・」





ウィーンー・・・



産婦人科の自動ドアからかごめがため息をつきながら出てきた。





”付き合ってくれてありがと♪帰りは彼氏に迎えに来てもらうから
かごめ先生は帰っていいよ”





(ってあたしは何なのよ・・・。ああ疲れた・・・)







ぐったりと肩を落とし、産院をでていくかごめ・・・









そのとき車道のバイクが止まる






鋼牙だ。





(かごめ・・・!?)








かごめが出てきた建物を見上げる・・・







(・・・なっ・・・)







『戦国産婦人科』









どどーんと大きな看板。









コロ・・・



鋼牙くん、あまりの驚きに
ヘルメットを落としてしまう・・・



(どっ・・・ど、どどうしてかごめがこんなところから・・・)





鋼牙の思考回路。ある数式がぴっぴと浮き上がります。




『嫁入り前の女がため息をついて深刻そうに出てきた=出来たかもしれない不安=無理やり手篭めにされた』






「か・・・かごめの奴・・・。それで一人思いなやんでこんなところに・・・」







”鋼牙クン私・・・。嫌だって言ったのに・・・犬夜叉が無理やり・・・”





ハンカチで涙するかごめの姿を勝手に妄想・・・







(・・・犬っころーー!!絶対許さねぇぞーーー!!)







「うおおおおーーーーー!!」






鋼牙、何かを果てしなく勘違いし、エンジンを激しくふかして
一路、犬夜叉の職場へ・・・!!!










「犬っころーーーーーーーー!!貴様ーーーーーー!」






新築中の家の屋根に上っている犬夜叉にむかって大声で怒鳴る鋼牙。








「鋼牙・・・?アイツなんで・・・」








「降りてきやがれ!!!」






「けっ・・・。誰が。てめぇなんざに構ってる暇ねぇんだ。無視だ。無視」






知らん顔して犬夜叉、釘を打ち付ける









「知らん顔してんじゃねぇ!!かごめが今一人悩んでるのしらねぇのか!!」





(無視。だ無視・・・)







「てめぇ!!かごめを手篭めにしてはらませておいて逃げるのか!!」





ポト・・・






金槌を落とす犬夜叉・・・







(・・・。今・・・なんて?)








”かごめを無理やり手篭めに してやったぜわっはっは!!”












犬夜叉の耳にはそう聞こえ・・・











「鋼牙ぁあーーー!!てめぇ!!かごめに何しやがったってんだーーー!」






はしごも使わずに下に瓦をずかずかふんずけて降りる犬夜叉。








「てめぇええ!!かごめに何しやがったてんだ!!瘠せ狼!!!」






「それはこっちの台詞だ!!かごめを無理やり手篭めにしやがって・・・!!」






つかみ合い、にらみ合う。お二人さん。





勘違いしまくって


久しぶりの狼と犬の対決です。







「手篭めにしたのはてめぇだろ!!このやせ狼!!!」





「何馬鹿こと言ってんだ!!このむっつり助平が!!」






「オレとかごめはまだ何にもしてねぇ!!」






「嘘付け!!!んじゃなんでかごめは産婦人科から出てくるんだ!!
産むかうまねぇか悩んでるに決まってるじゃねぇか!!」







「知るか!!!お前こそかごめを無理やり・・・」







手篭めだの産婦人科だの・・・さんざん吠えて





犬夜叉と鋼牙・・・





やっと周囲のギャラリーに気づく・・・








「・・・。ちょ・・・ちょっと来い!」








犬夜叉と鋼牙は



人気のない駐車場へと移動・・・







「おい・・・。本当なのか・・・?か、かごめがその・・・」




かなり恐る恐る鋼牙にたずねる・・・







「オレの視力は2.5だ!見間違えるはずがねぇ。間違いなくかごめの腹にはガキができてる!!」




デキテル・・・デキテル・・・かごめに子供がデキテル・・・











どどーん・・・






犬夜叉の心、一瞬で石化・・・











「・・・ふっ・・・。その様子じゃかごめとは本当に”まだ”らしいな・・・」





にやっと笑う鋼牙だが・・・








だとすると。





かごめの”相手”は・・・







犬夜叉と鋼牙の脳裏に浮ぶのは・・・













”クラシック界の貴公子・坂上樹!”







「あ、アイツは今アメリカにいるはず・・・」









悶々・・・








犬夜叉も鋼牙も考え込む・・・






「・・・仕方ねぇ・・・。犬っころ・・・一時休戦だ。かごめにチョクで聞くしかねぇな・・・。
ってまだ落ち込んでやがる・・・」









(かごめがかごめがかごめがか・・・オレのしらねぇところで
オレのしらねぇところで・・・)









一人、足を抱えていじける犬夜叉くんでした・・・






















その日の夜。





かごめが帰ると食堂に犬夜叉と鋼牙がどん!と座って待っていた・・・




「鋼牙くん・・・?」



「よう。かごめ。久しぶりだな・・・。ああ、そんな重そうな荷物、もっちゃいけねぇだろ!!」





紙袋をかごめから取り上げ、
座らせる鋼牙。





目の前の犬夜叉はそわそわ落ちつかなさそう・・・



「今日はお前に聞きてぇことがあってきたんだ・・・」






「何・・・?鋼牙くん」






「・・・ああ・・・。かごめ・・・。お前も辛いかもしれねぇが・・・。こういうことは
はっきりさせねぇといけねぇと思うんだ・・・」






神妙に言う鋼牙・・・








「だから何・・・?話が見えないんだけど・・・」







「かごめ・・・。お前・・・。一人で背負うことないんだ・・・。子供には父親が必要だからな・・・」













「・・は・・・?」







「大丈夫・・・。オレが責任もって面倒見てやる・・・」








ぎゅっとかごめの手を握り締める鋼牙・・・





犬夜叉、嫉妬レーダーがピン!と感知して





鋼牙の手をはらってかごめを自分の背後に非難させる。





「だぁれが面倒みてやる・・・だぁあ!!どさくさにまぎれて迫ってんじゃねぇ!」








「ヘタレたのに生き返ったか、犬っころ。てめぇがかごめの腹の中のガキのオヤジになるってのか。はっ。嫉妬深い
てめぇじゃ無理無理」




「やかましい!!少なくとも瘠せ狼じゃ役不足だ。かごめとガキはオレが面倒見る!」






(子供!?面倒見る!???)




睨みあう二人だが・・・




かごめはただ困惑。




「・・・ちょっと二人ともーー!!・・・。何か勘違いしてるわ!!」







「か、勘違い・・・?かごめ。だってお前産婦人科から出てきたじゃねぇか・・・」










「あ・・・あれは」







かごめは産婦人科にいった経緯を二人に話した・・・











「なぁあんでい。やっぱりそうだったのか・・・。オレは最初から
瘠せ狼のハッタリだってわかってたぜ」





急に元気になる犬夜叉君・・・







「///もう・・・。なんて勘違いしてるのよ・・・」








「ふっ・・・。でもまぁ・・・。どっちにしてもかごめ。『近い将来』
俺達に子供ができりゃあいやでも産婦人科行かなきゃいけねぇんだ。
いい医者紹介するぜ」







かごめの肩をだく鋼牙に一発食らわす。



バキ・・・っ!!!






「勝手に将来語ってんじゃねぇっ!!」





「やかましいっ!!どうせてめぇのことだ!!かごめと口付けもまだなんだろーがっ!!!」






「う、う、うるせーー!!てめぇには関係ねぇ!!誤解がとけたなら
帰れッ!!」






再び犬、狼戦争勃発・・・






パンパンパン!!!!






「やめなさーい!!ふたりとも!!」




かごめは二人の耳元でフライパンをフライ返しで叩く







「・・・ケンカばっかりしてないで、もうすぐご飯だから静かに待ってなさい!!」












「・・・ハイ・・・」







犬夜叉、鋼牙、言われたとおり静かに仲良く鎮座・・・







「それでよろしい♪じゃ、今、カレーでもつくわね〜♪」





エプロンを付けながらかごめは
キッチンへ向かう・・・








「かごめって・・・。すげぇ仕切り屋なんだな・・・」




「・・・だな・・・(汗)」






女は強し・・・




犬夜叉も鋼牙も同時に思った・・・










「〜♪」




カレーのいい香りと共にかごめのハナウタが聞こえる






鋼牙は食堂から見える台所に立つかごめの後姿に
惚れ惚れしている







「はぁ・・・。やっぱり愛する男のために飯をこさえる女ってのは・・・いいなぁ・・・」





「誰が愛する男だ誰が!!(怒)てめぇ、頭からこれぶっかけるぞ」




犬夜叉、醤油入れを持って怒る、怒る・・・






「ったく・・・。嫉妬深い男を選んだもんだ。かごめも全く・・・」



鋼牙、腕組みで呆れ顔・・・




「うるせぇ。ほんっとソースとダブルでかけるぞ」





「・・・。泣かせたらぶっころすぞ。犬っころ」






(え・・・)







鋼牙がいきなり真顔になった。








「・・・オレはちゃんとみってからな・・・。かごめの幸せを・・・」





「鋼牙・・・」









ぼそっとつやいた鋼牙の横顔・・・









初めてみる真剣な眼差しの鋼牙・・・












「・・・でもな。オレはまだ諦めちゃいえねぇ・・・。きっとかごめは気づくはずだ。
運命の相手はオレだと・・・」







「なっ・・・」






「ふっ。そのときにゃ、お前、オレとかごめの新居、建ててくれよ。犬っころ大工さん」




だらーっと醤油を犬夜叉の頭からかける







「・・・てめぇ・・・。ふっ・・・(怒)上等ダァコラァ!!!」







犬夜叉の武器はソース。




鋼牙は醤油。





二人はじりっと醤油指しとソース瓶を握り合い構える




「オラァア!!」




嗚呼・・・なんとも茶色液体が飛び散る






「もーーー!二人ともやめなさい」




かごめがわってはいるが・・・





「やめ・・・」




バシャッ・・・








かごめの顔面に醤油とソースのシャワーが見事にHIT!!








犬夜叉と鋼牙・・・動きが止まる・・・








「やったわね・・・!もーーーー!!」






かごめの反撃開始かごめが醤油を犬夜叉と鋼牙にかける。





「かごめ・・・てめぇまで・・・」





「『オレの』かごめにさわるんじゃねぇ!犬っころ!」




「だっ。誰がオレのかごめだーーー!!」







もう食堂中、醤油とソースの海・・・









食堂は茶色にそまったのだった・・・













ワゥワゥワぅ・・・【コメディたっちの”オチ”かしら・・・?どーでもいいけど。お醤油もソースも洗剤じゃ
おちなわよ】




犬小屋のゴマちゃんは食堂の様子をすまし顔でみておりましたとさ・・・












※








夜11時半。




ソースだらけの犬夜叉。




綺麗になって風呂からあがってきた。






(かごめ・・・)




二階の物干し場。





一人夜空を眺めている。




静かにかごめの隣にたつ犬夜叉




「・・・ったく・・・鋼牙の奴・・・。食堂滅茶苦茶にしやがって・・・。今度あったら
クリーニング代せしめてやる・・・」







「ふふ・・・。でもいいコンビじゃない。犬夜叉と鋼牙くん」




「けっだぁれがあんな奴・・・」





ビールをぐびぐび飲む犬夜叉・・・





”絶対泣かせんじゃねぇぞ・・・”






(・・・。てめぇにいわれたかねぇ・・・)







鋼牙の言葉・・・






犬夜叉の心にしっかり




響いていた・・・





「どしたの?犬夜叉?」





「なんでもねぇよ・・・」






「・・・。ハァ・・・。だけど犬夜叉と鋼牙くんの思い込みの激しさにも
参ったよ・・・」






「お、おめぇが紛らわしい行動とるからいけねぇんじゃねぇか」





「でもね・・・。男の人には分かり図らいと思うけどね・・・。女性が産婦人科に行くっていうことは
かなりデリケートなことなの・・・。妊娠出産だけじゃないの。女性特有の病気もあるし・・・」





大げさに周りに騒がれると何だか気まずい。







触れないで欲しいというのが本音だ。





「・・・。あたしね・・・。待合室の妊婦さんたち見てて思ったの。新しい命が生まれてくることは
本当に素敵だけど・・・。その命を育てることって簡単じゃなことじゃないって・・・」







「・・・」







「だから・・・保育所の赤ちゃんたちのお世話を頑張ろうって思ったの。お母さんと
赤ちゃんの手助けになりたいな・・・って。あ、なんかしゃべりすぎちゃったね」







ぺろっと舌を出すかごめ






「///」







可愛い仕草に犬君の胸がきゅん・・・




「・・・でも・・・。あたし達は大切にしようね・・・未来の命に・・・」





(え・・・。未来のって・・・)




ドキ・・・





思わずかごめのお腹に視線がいく







「・・・。あんた・・・。またなんか勘違いしてんじゃないの?」





「し、してねぇッ」





「ふふ・・・」







かごめが犬夜叉の腕に絡む・・・








”未来”





いつか二人の間に宿るかもしれない命に・・・




にこっと笑うかごめ・・・







「・・・。今度の休み、久しぶりにデートしよっか」








「・・・。お、おう・・・」







「うふふ・・・。ふたりっきりで・・・ね」










犬夜叉の肩に軽く頭を傾けるかごめ・・・







ベランダに





かごめと犬夜叉・・・





夜空の下・・・


ぴったりと寄り添う・・・










かごめも犬夜叉も空の星々に





明日は晴れるよう願う。









「またおソロのパジャマ買う?ね?」




「ばっ・・・」





「あ、マグカップにする?」










明日、晴れて




素敵な陽になりますように・・・




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