はじめの一歩@
「たみちゃーん!毎度おおきにお届け物係でやんすー!」
「はーい!」
はなちゃんがいつものようにたみちゃんの家にお届けものをする様になって大分たちました。 今では、たみちゃんははなちゃんがくる時刻になると、お菓子とお茶を用意してはなちゃんを待っています。
はなちゃんもそれが嬉しくて前にも増して、
「お届け物係魂」を燃やしていました。
「あのね、今日、算数であたらしいドリル出たんだよ。はい。これ、たみちゃんの」
「ありがとう」
たみちゃんはあたらしいドリルをぺらぺらとめくりました。
「・・・」
たみちゃんは驚きました。まだ習ったこともない記号や公式がたくさん載っていたからです。はなちゃんが毎日持ってきてくれるプリントはちゃんとやっていましたが、こんなに授業が進んでいるとは思っていませんでした。
「どうしたの?たみちゃん?」
「うん・・・。すごいみんな勉強、すすんでいるなぁっておもって・・・」
「そうだね・・・。最近、小数点とか出てきてるし・・・。あたしも難しくて」
「・・・」
たみちゃんは急に心配になってきました。たみちゃんは算数が大好きだったけど、難しい内容に戸惑っています。
「たみちゃん、大丈夫だよ。あたし、算数苦手でほとんどわかんないし。一緒に少しずつ勉強しようよ」
「うん・・・。ありがとう。はなちゃん」
「あたしも前の学校の時、どんどん勉強進んじゃってわけわかんなかった時あった。今でも算数は特にわかんないし。だから一緒に勉強してくれると助かるんだ」
「うん」
たみちゃんの気持ちは、はなちゃんにはとてもよく分かります。ドリルやプリントをやっているといっても、やっぱり学校の授業じゃないから分かる範囲は限られてきます。
「あ・・・。何だかいい匂い!」
はなちゃん、お鼻をくんくんさせています。とても甘いいい匂いがしてきました。
「二人とも、宿題の前に如何ですか?」
たみちゃんのお母さんがホットケーキを焼いてきてくれました。こんがりうすちゃ色にそまった美味しそうなホットケーキです。
「わあ♪お腹が、もう待てないっていってる!!」
はなちゃんはつばをごくりとのみ込みました。
「まあ。はなちゃんたら・・・。うふふ。おかわり沢山あるからね。はなちゃん」
「はい!おまかせください!」
はなちゃんのお腹もぐううっとお返事しました。
「はいはい。はなちゃんのお腹さん、今すぐご飯にしますからね。」
はなちゃんのお腹はその日、ホットケーキを入れすぎてぱんぱんになったのでした。
帰り際・・・。たみちゃんはもじもじしながら、はなちゃんに有ることをお願いしました。
「あの・・・。はなちゃん。日曜日、ひま?」
「え・・・?あの、ひまだけど、どうかしたの?」
「その・・・。一緒に・・・。行って欲しいんだ・・・」
「?どこへ?」
「・・・。学校に・・・」
「えっ・・・。たみちゃん・・・」
実は昨日、田中先生からたみちゃんに電話があったのです。
“一度ね。先生。たみちゃんとお話したいんだ。日曜日の・・・誰もいない日曜日にもしよかったら・・・来てくれないかな”
と、言われたのでした。たみちゃんは、すごく悩みました。まだ、学校の事を考えるとすごくこわいし、ドキドキするし・・・。でも、毎日、プリントを届けてくれるはなちゃんの姿を見ていて、たみちゃんも少しだけ・・・。ほんの少しだけですが、頑張ってみようとおもったのでした。
「でも・・・。たみちゃん・・・。大丈夫?」
「大丈夫・・・じゃない・・・かも・・・。でも・・・。はなちゃんも頑張ってるのに あたしも何か少ししなくちゃって・・・。しなくちゃって思ったの・・・」
「ホントに大丈夫?まだ、無理しなくていい よ。あたし、そんなに頑張ってないよ。ただ、お届け物が楽しいだけだし・・・」
「ううん。私、頑張らなくちゃ。自分のために。だけど、やっぱり一人じゃ恐いから・・・。だからはなちゃんと一緒ならとても心強いんだけど・・・。どうですかお届け物係さん」
「・・・」
はなちゃんはたみちゃんの目をじっと見ました。大きくて可愛い目だけど、まっすぐにはなちゃんを見つめています。
「分かりました!小野はな。たみちゃんの護衛のため、日曜日に一緒に行かさせていただきます!」
はなちゃんはまるで隊長さんのように敬礼して言いました。
「お願いします!」
「はいっ」
こうして、たみちゃんとはなちゃんは日曜日の学校へ少しだけ行ってみることにしたの です。でも・・・。たみちゃんは笑ってはなちゃんにお願いをしていたけど、きっとたみちゃんはすごく・・・。
恐いと思っている事を、はなちゃんはわかっていました。
自分もそうだったから・・・。
でも、一人じゃ恐いかも知れないけど、二人なら・・・。
二人なら・・・