第3話

はなちゃんの決心


団地の3階。はなちゃん家の夕食は、はなちゃんの大好きなハンバーグです。 しかし、はなちゃんは一口も口をつけていません。

「どうしたの。はな。お腹でも痛いの?」

はなちゃんは首を横に振ってちがうと言いました。

「じゃあどうしたの。学校で・・・何かあったの?」

「・・・!」

学校という言葉にはなちゃんの胸はどきんと打ちました。お母さんははなちゃんのこころを見抜くようにするどいです。だから、お母さんに嘘はつけないはなちゃんです。

「あ・・・あのね・・・。今日・・・先生から・・・」

はなちゃんは先生から頼まれたことをお母さんに話しました。

「そう・・・。そんな事があったのね・・・」

「うん・・・。でも・・・でもあたし・・。こわいの・・・」

「怖い?」

はなちゃんの持つおはしが震えています。

「だって・・・。もし、たみちゃんに家にお届け物してるってクラスのみんなに知れたらって考えちゃったの・・・。あたし・・・。たみちゃんに本当はすっごく謝りたいのに・・・。それなのに・・・。それなのに・・・」

また、自分がいじめられるのが怖かった・・・。はなちゃんは、前の学校でのとても辛い記憶を思い出しそうなのでした。けど、だからこそ、たみちゃんの気持ちがわかる・・・。

「はな・・・」

お母さんはそっとはなちゃんの頭をなでてあげました。

「はな・・・。お母さん今ね、前の学校のはなの机を思い出していたのよ」

「机・・・?」

「そう・・・。こっちの学校へ転校するまではなもずっと学校お休みしてたでしょ?」

はなちゃんはこくんとうなづきました。

「その時、お母さんが、学校のお知らせを取りに行っていたでしょう?お母さんその時すごく寂しかった・・・。算数やお知らせのプリントが何枚も入ったままになってて・・・。誰もこれに気がついてくれないのかなって・・・」

はなちゃんも思い出しました。学校をお休みしていたとき、一回だけ、学校へ行ったことがありました。

転校の手続きをするときでした。最後のお別れを教室にしました。

夕方、誰もいない静かな教室。はなちゃんは自分の机に座ってぼんやりと黒板を見ていました。この教室が、怖くて怖くて仕方なかったけれど、お別れするとなると、少しだけ寂しい気持ちになっていたはなちゃん。

ふと、自分の机の中に手を入れると・・・。

何枚ものプリントなどが放り込まれたように入っていました。そしてその奥に・・・。

カビの生えたパンも入っていたのです。誰が入れたのでしょう。はなちゃんはずっと給食など食べていないのに・・・。

あたしの机・・・ゴミ箱じゃないんだよ・・・!

夕暮れの教室で、はなちゃんは射すようないたい心で自分の机の中を掃除して、教室にお別れを言ったのでした・・・。

「・・・。たみちゃんの机はどうなっているかな・・・」

たみちゃんの机。たみちゃんの机は今は、クラスのみんなの椅子になっています。

あれだけ、たみちゃんを

「汚れてる」と言っていたのに、今はクラスのみんなはたみちゃ んの机に登ったり遊んだりしていました。

「・・・。お母さん・・・あたし・・・たみちゃんのお届け物係・・・。やる・・・!だって・・・だって・・・たみちゃんの机はゴミ箱じゃないもん・・・!みんなの椅子なんかじゃ・・・ないもん!!」

「うん。そうよ。はなの言うとおりだよ!」

はなちゃんはぐっと手をグーにしてお母さんにこう、約束しました。

「たみちゃんの・・・机を守らなくちゃ!たみちゃんの心も守らなくちゃ・・・!」

そう言うはなちゃんの目はとてもとてもまっすぐで、強い気持ちのあふれた目です。

お母さんはそんなはなちゃんをそっと抱きしめました。

「よし・・・!それでこそ私の娘だ!!がんばれ!もし、はなに嫌な事をする奴がいたら、すぐお母さんにいいなさい!すっとんでって蹴りいれてやるからっ!」

「うん・・・!」

はなちゃんは決意したかのように言いました。

「でもお母さん・・・。私その前にたみちゃんにごめんなさい言わなくちゃ・・・。たみちゃんにごめんなさい言わないのに・・・たみちゃんを守るなんて・・・たみちゃんのお届け物係なんてできないよね・・・?」

「そうね・・・。はなもたみちゃんに嫌な思いをさせたのだから・・・」

「・・・。許して・・・くれるかな・・・」

「・・・。はなが一生懸命に・・・たみちゃんのお届けもの係すれば・・・きっといつかは許してくれる・・・。はなの気持ちも一緒にたみちゃんにお届けしなさい・・・。ごめんなさいって気持ちを・・・」

「・・・。うん・・・!」

そして次の日から・・・はなちゃんはたみちゃん専属の

「お届け物係」になったのでした。