第5話

交換日記


はなちゃんがたみちゃんの

「お届け物係」になって1ヶ月が過ぎました。

最近ではプリント等のお届け物だけではなく、たみちゃんとはなちゃん専用の連絡ノートを作りました。連絡ノートには、宿題の内容、明日の予定・もってくるもの、先生からの連絡事項等が書いてあります。ノートは二人が大好きなキティちゃんのノートです。

そして、このノートは、二人の交換日記みたいなものにもなっていました。

「たみちゃん、あのね、私、昨日、お母さんとハンバーグ作ったんだけど、失敗しちゃった。おこげハンバーグになったの。でも、美味しかったよ。でも、おこげって体にあんまりよくないってお母さんに叱られちゃった。 うちのお母さん、手も声も大きいの。私、お母さん似なのね。きっと」

はなちゃんは、二人だけの連絡ノートができてすごく嬉しかったのでした。友達と遊ぶより楽しいのです。まだ、はなちゃんのお顔はみていませんが、はなちゃんのお返事は、必ずノートに書いてあるからです。このノートを作ろうと言ったのは、保健のみちこ先生でした。

みちこ先生は、例の

「ハンカチ事件」でたみちゃんを励まし、そして、何より校長先生に、掛け合ってくれた先生でした。

たみちゃんは連絡帳に、みちこ先生の事をこう書いています。

「あの時は、みちこ先生だけに、はんかち事件の事を話したの。そしたら、ね、たみ、びっくりしちゃった。だって、先生の瞳からたくさん、涙ぽろぽろでてきたから。どうして泣 いてるのってきいたらね、ずっとたみちゃんが辛い思いをしているのに気づかなくてごめんねってあやまったの。・・・。たみ、びっくりしたのと嬉しかったのでわけわからなくなった。その時・・・。でもたみ、先生の涙、絶対忘れない・・・」

はなちゃんはその文を読んで、みちこ先生とお話してみたくなりました。

それからはなちゃんは、ちょくちょく、保健室に通い始めたのです。

「はなちゃん、どう?連絡ノートは軌道に乗ってますか?」

「はい!乗ってます!ところで、先生、きどうってどんな乗り物ですか?」

「うふふふふっ。はなちゃんてユーモアたっぷりだね♪」

「えへへへ・・・」

ちょっと細い目にくるくるパーマのみちこ先生。みちこ先生が笑うと目尻のしわと目が つながってしまいます。でも、はなちゃんはその笑顔がとても好きになりました。

「でも、本当に先生嬉しいのよ・・・。たみちゃん、教室ではずっとひとりぼっちだったから・・・。はなちゃんみたいなお友達ができて・・・」

「・・・。でも先生・・・。まだ、私、友達になったわけじゃないの。たみちゃんのお顔、まだ、見てないし・・・。でもね、ノートの中ではもうすっかり、友達なんだっ!先生が交換ノート作ったらって言ってくれたおかげ!ありがとうございました!きかんしゃおれいですっ!」

はなちゃんはそう言って、右手で先生に敬礼っ!

「うふふ。はなちゃん、それを言うなら感謝御礼よ」

「えへ。また、間違えちゃった・・・。この間、習ったばっかりだから・・・。あっ。いっけない、もうすぐ3時間目はじまっちゃう! じゃ、先生、また!」

バタバタと急いで教室へと戻っていったはなちゃん。そんなはなちゃんの頼もしい後ろ姿をみちこ先生は、廊下から眺めながら、ポツリと言いました。

「お礼を言うのは先生の方・・・。大人がやらなきゃいけないことをはなちゃんがやってくれてる・・・。ありがとう。はなちゃん・・・」