第7話・雫の休日@

夜。学校から帰ってきた雫は机に座って高広からの手紙を読む。

互いに自分達のことを知ってしまってから、なんとなく手紙を書くのも読むのもぎこちなく感じるがでも、それがまた、新鮮な気がしている。

『この間のおでん・・・。オフクロが上手かったって言ってた・・・。久しぶりに家族三人でメシ喰った・・・』

「よかった・・・。うちのおでんは血行増進と家族の食卓に効果あるのかな。なんてね』

他人様の家庭の事情に覗いてしまった雫だが、食堂のおでんが少しでも誰かを温められたのならすごく嬉しい。

『それと、しずく・・・。相変わらず学校行くこと怖がってるけど、週に2回担任が勉強を見に来てくれることになったんだ。字をもっと覚えるんだって言ってはりきってる』 「確かにはりきってるな、この字は。ふふ」

『雫おねえちゃんへ。きょう、たくさんかんじ、ならったよ。雨と下をおしえてもらったよ』

雫の好きな水色のクレヨンで書いてあった。しっかりした字。

最初の頃によりずっと上手になっていた。

返事は、オレンジのクレヨンにしようと思った。

しずくの好きな色だから。

再び手紙に続きを読む。

「ん?取材?」

『実は・・・。俺、新聞部入ってるんだけど・・・。今度、夜間部の事を紹介するコーナーを設けたんだ。それで・・・』

「それであたしを紹介したいってかーー!?」

雫、思わず大声を出す。

「うるさいよ!雫ーー!」

案の定、のイエローカードが店から聞こえた。

しかし、高広の突然の申し出に雫、戸惑うが・・・。 (取材って・・・。どんな取材だろう・・・?やっぱり写真とか取ったりするのかな・・・)

雫、想像してみる。

パシャパシャとフラッシュを浴びる自分を・・・。

「・・・」

つかさず、鏡で自分の顔を見る。

「・・・。写真写りは悪くはないと思うんだけどな。この角度なんか・・・。うーん・・・」

・・・。どうやら、乗り気らしい。

きっと、鏡の前でポーズを取っているのではないかと、この二人は掛けをしていた。

「一人ポーズ決めてるよな。きっと」

「うん。雫お姉ちゃんならしてるね」

今日の夕食にはつまみにかつおのたたきが、稲葉家のテーブルには並んでいるが、それプラス、雫の話もつまみにされていた。

「食堂の娘さんも雫っていうの・・・?」

「うん。おんなじなまえなんだよ!あたしはひらがなだけど 」

「へぇそうなの・・・」

何故か高広をちらっとみる。

多佳子が食卓にいる。久しぶりの3人での食事だ。今日は店の定休日だが、いつもなら一日中寝ていた。

あの食堂での一件以来、多佳子は家にいる間はしずくとの会話をするようになった。

それに、この間、しずくの担任と初めて会って娘のことで話をした。母として・・・。

「高広、あんたこのきんぴらの味付け濃いわよ。あたし高血圧ぎみなの知ってるでしょ」

「・・・。減塩醤油つかってんだよ。酒の飲み過ぎで味覚が変なんじゃねぇのか」

「あんたのエプロン姿の方がよっぽど変よ。なに、その

『ミニモニエプロン』って」

ピンクでチェック。前にはミニモニというアイドルグループが印刷されていた。

「う・・・うるせえ!しずくがどうしても着てくれっていうもんだから・・・」

「うん。あたし、ミニモミ大好き!」

しずくは口にケチャップを付けたまま嬉しそうに言った。

相変わらず高広と多佳子は毒のはきあい。しずくはきょとんとした顔でそんな二人を見ている。前と変わらないように見えるけど、確かに何か、変わった気がする。

何が・・・なんて分からないけど。朝起きて・・・。互いに「おはよう」を言い合うようになった・・・。

稲葉家。家族3人・・・。

久しぶりの賑やかな食卓だった。


日曜日。

『取材』をしたいとの高広の申し出に少々迷った(?)がOKした雫。

第一日曜日は学校も休みなので、今日高広と新聞部の部員達と待ち合わせをしたのだった。

「遅いな・・・」

待ち合わせは十一時。しかし駅前の花時計はすでに十一時半をさしていた。

『取材』と言われて、少々気持ちが浮かれていたけど、冷静に考えてみたら一体何を取材したいのだろう。

確かに昼間部と夜間部ではあまり交流がないのは確かだけど・・・。

「おーい!」

向こうから高広と新聞部の少女一人が走ってきた。

「ごめん・・・。雫。遅くなって・・・」

「し、雫ってあの・・・」

「あ、悪い。つい、妹呼ぶ感覚で呼んでしまって・・・」

「べ、別にいいけど・・・」

「あ、紹介します。こちら、同じ新聞部の高岡さん」

「おっはー♪高岡葉子です♪」

茶髪のあごにシャギーが入り、ピンクのリップに耳に白いピアス。

胸のジャケットのポケットに赤の携帯。その携帯にはキャラクターのストラップが何個もついていた。

「あ、おはようございます。早月雫です。よろしく・・・」

「雫!それ、ハンドルネームかなんか?」

「あ、いや、本名で・・・」

「きゃー!可愛いーー!ねっ。ねー!」

葉子は雫の腕に絡んで飛び跳ねて喜んだ。

かなり・・・。元気なタイプだな・・・。と雫は思った。

ちょっと・・・テンションが高いな・・・とも。

そんな雫の気持ちを察したのか、高広は、話しをそらそうとした。

「じゃ、じゃあ早速さ・・・。昼食べながら話しようか」

「じゃ、カラオケいこ!」

「か、カラオケ!?」

「そ!とりあえず、お互い、初対面だからさ、早く仲良くなりましょうってことで!んじゃ、レッツゴー!」

雫は葉子にぐいぐい腕をつかまれ、強制的にカラオケに連行されていった。

「・・・」

高広は雫が面食らっていないかと気にしながら跡についていく。

こうして。雫のちょっと大変で長い休日が始まったのだった・・・。


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