雫の休日A
今日は、雫から夜間部の事を詳しくきくための“取材”だったはずなのだが、なぜだか、雫達は今、カラオケにいた。
「あ、あゆの新曲でてる〜♪」
葉子という高広と同じ新聞部の少女はまるで、友達と遊びに来たような感覚で、一人カラオケで盛り上がっている。
「・・・。あれ?雫ちゃんは歌わないのーー??」
「いえ・・・私は・・・」
「そんなつまんないこといわないでさーほら。歌おうよ!」
強引にマイクを持たされ、雫は流行の歌を歌う。
なんで自分はここで歌を歌っているのか・・・。
ただ、戸惑っていた。
「高岡!おい・・・。俺ら、取材に来たんだろう?そろそろ、本題にはいろうぜ」
高広が助け船を出す。
葉子はしぶしぶマイクを置いた。
「ふう。せっかくテンション上がってきたのに・・・。仕方ないなぁ。早く終わらせようっと」 と、メモ帳をシャーペンをとりだす葉子。
「あの・・・。取材ってどんな・・・」
「あ、適当でいいの。取材なんて大袈裟なの。どうせ、小さいコラムの話題にするだけだから。えっとね。まず・・・。夜間部のって生徒数おしえてくれるかな?」
「え・・・。はぁあの、全部で・・・」
それからしばらく、まるで取調の様な質問をされる雫。
クラスは何クラスまでだとか、どんな生徒が通っているのか・・・。
尋問されている気分だった。
「ねぇ。早月さん。生徒の中に結婚してる人とかいる?」
「は!?」
雫は面食らった。突然、こんな事を聞かれるなんて。
「高岡!お前、何急に言うんだよ!」
「だってさ。あたし、この前、テレビで見たんだ。色んな事情抱えた人がいるんだって・・・」
葉子の興味津々な物言いが雫はなんとなく不快に感じた。
「・・・。だから・・・なんですか?」
「そういう生徒さんを特集すればね、こうリアリティーがすごくでるじゃない?どうして夜間部に来たのか、その背景にあるものは何か・・・!一種のドキュメンタリー性を出したいのよ」
雫には、目の前の葉子がまるでワイドショーのレポーターの様に思えた。
『私達は真実を伝えたい』とか高々と言って、取材対象をしくこく追い回す様な・・・。
勝手に美談にしたり、逆に何も知らないのに批判したり・・・。
取材対象の事実を伝えたいというより、それを伝える者がただ満足しているだけの様な・・・。
「ね。こうなんかさ、すっごい過去もった人とかいないかな!?ねぇ」
「いい加減にしろ!!高岡!!誰がそんな取材しろって言ったんだよ!!」
「何よー。稲葉君。あなたが夜間部の人から直接話を聞いた方がいいっていったんじゃない」
「でも、こんな失礼な質問誰がしろっていたんだよ!」
ドン!
雫の拳が激しくガラスのテーブルに打ち付けられた。
そして、突然、目の前のジンジャエールをごくごくと勢いよく飲み干した。
「ぷはっ・・・」
高広と葉子はあっけにとられている。
そして一息ついて、雫は話はじめた。
「色々な事情背負った人がいるの事実だけど、別にそれが何が『特別』だなんてだれも思ってないし、だからお互いに必要以上には、詮索するようなことは絶対にない・・・。みんな、それぞれの思いを抱えながら頑張って勉強したり遊んだりしてます。それは感動的なドキュメンタリーでも何でもないです。昼間部の人達と全然変わりません。普通の高校生です」
自分でも何を言っているのか、言いたいのかわからなくなってきた雫。
ただ、葉子が言ったことへの反発心が頭の中でぐるぐるとまわっていた。
「・・・」
高広と葉子は黙って雫の話を聞いていた。
「だから・・・。だから・・・」
言葉が続かない。格好良く、葉子で言ってやりたいのに。
上手い言葉が浮かばない・・・。
頭がただ、カッカッカッかしてきて・・・。
「・・・。あたし・・・。失礼します・・・!」
「あ・・・。ちょっ・・・」
高広と一度も目を合わさず、雫は、カラオケ代をテーブルに置いて、すたすたと店を出ていった。
「あーぁ・・・。帰っちゃったね。彼女・・・。ちょっと質問が悪かったかな・・・。ね、高岡君、彼女がだめなら他の人に聞いてみようかな?」
高広は葉子を腹立たしい顔つきで見つめていった。
「・・・。自分で探せよ。俺はもうこの企画降りる・・・!」
「な、何よ、ちょっと・・・!」
「雫・・・!」
葉子一人、カラオケに残し高広は雫を追いかけていった。
ぽつんと一人、葉子は・・・。
「何よ。何よ。何よーーーー!あたし、悪者みたいじゃない!こんなの!」
飲みかけていたコーラを一気のみする葉子だった。