巡る恋歌
4
東国へと言っても、たったその日一日で行けるほど甘くはない。
犬夜叉や雲母など、ある程度速い交通手段で進むものの、この状態では二日は
かかりそうだ。
とりあえず一行は、東国と北国の境の山の麓まで来た。
例の“嘘のお払い”を法師に使ってもらい確保した宿で、今日の疲れを癒すことに
したのであった。
「ったく・・・。何で俺たちが一度会って死んだやつの為にこんなことしなきゃいけねぇ
んだ。」
「これ、犬夜叉。死んだお方にそんなことを言うものではない。」
「ってゆうか犬夜叉。あんたまだ言ってんの?くどいよ。」
「珊瑚、犬夜叉のくどさなど分かっておるだろ。どうせこんなやつだ。」
「てめぇら・・・・・・言わせておけば・・・。」
と、はたから見れば馬鹿とも言える会話をする。
そんな中、ただかごめだけ、静かに物思いに耽【ふけ】っていた。
「・・・なんで美依さん。死ぬ前にあんなこと言ったんだろ・・・。」
かごめの一言で、三人は静まる。
「春姫って誰なの・・・?それにこの櫛【くし】はいったい・・・。」
そう言ってリュックの傍に置いてある海色の櫛【くし】を見る。
「・・・春姫というお方は、名からいい、東国の殿方の娘ではないでしょうか。」
大体は想像はつくというように口を運ぶ。
「そのお方の名が何故【なにゆえ】美依どのの口から出てきたかは分かりませんが、
おそらく何らかの関係があるのでは・・・。」
鋭い読みをする法師。
するとかごめは・・・
「その人なら、知ってるのかしら。その、雅道さんや美依さんのこととか・・・。」
「とにかく行って見るしかありません。雅道どのと美依どの亡き後、この真相を知って
いるのはそのお方だけかもしれません。」
―朝
一行はあまり眠れないまま朝を迎えた。
宿の者に朝食をとらせてもらった後、一行はすぐにその場を後にした。
「後はこの山を越えるだけだね。」
と、珊瑚が言う。
「この山はあまり高くはない。今日中に向こうに行けるだろう。」
法師の言葉を最後に、一行はもくもくと歩き続ける。
かごめの表情はこの出来事以来、ずっと真剣な表情だ。
その表情の訳が、他の者とて分からないわけではない。
そうでもなくとも、“この事件には何かある”と予想はできる。
―今回の出来ごと
何か共通する部分が、かごめにはあった。
そのことを仲間たちも悟る。
ただ犬夜叉だけ、無関心なままだったが。
皆【みな】思い思いの考えをめぐらせているうちに、日が西の空へ沈む頃になってきた。
そしてとうとう一行は東国の地を踏んだ。
東国―
目の前に広がるものは沢山【たくさん】の町と、聳【そび】え立つ城。
何もないに等しい北国の地に居た一行にとってはこの国の活気に少し驚くほどであった。
また、気温の差も歴然としていた。
「何か少し暖かいね・・・。」
かごめが言う。
同じ日本という所なのに、これほどまでに気温違うと、現代で生活していたかごめですら
驚いてしまう。
「今日はとりあえずまた宿を探しましょう。東国に来たからといって、簡単に見つかるわけ
ではありませんし、まだまだ探すことは沢山【たくさん】あるでしょう。今日はもう休んで、
明日探しましょう。」
法師の言葉に反対する者はいなかった。
今日も結局“嘘のお払い”をして宿を確保し、泊まらせてもらった。
寝床と食事以外のことはなにもしない北国に対し、流石【さすが】は東国と言うべきか。
この宿の者、女はよこすは酒はよこすは、とにかく気前が良かった。
その上庭には夜空を彩【いろど】る紅葉。
お風呂もあり、かごめたちはすごすごと風呂へ行く始末。
そんな一行を何かの前触れ、いや、もう起きている事件のこれからのゆく先を示す
ような、奇妙なほど光り輝く満月が照らしていた。