巡る恋歌 


ただ春姫の居る屋敷へ向かって、ひたすら走る一行。

道を通る人々にぶつかろうがお構いなしに突き進んでゆく。



そして一行はぴたっと立ち止まった。

とうとう“春姫”が住まう屋敷へ来たのだ。



「やっと・・・来たのね・・・・・・。」

かごめが歓声の一声を発する。



一行の前にあるものは、色とりどりの花が咲いた美しい庭園と、多少古びた

所はあるものの、目を見張るような御殿であった。これはまさしく公家の屋敷。



その屋敷に皆驚きながらも、屋敷の妻戸【つまど】へ向かう。

そして・・・



「私たちは旅の者です。ここにいらっしゃる、春姫さまに御用があって参りました。」

と、法師が言う。

しばらくすると、ゆっくりと妻戸【つまど】があき、そこには十二単をまとい、長い

黒髪を持った一人の若い女性が居た。



「・・・・・・初めまして・・・・・。秋姫と申します。」

控えめであどけなさそうな表情を持つこの女性は、名をなのり頭を下げた。

そんな秋姫に、法師は改めてここに来た理由を述べた。



「・・・そうですか・・・。とりあえず、中にお入り下さい。」

と、一行を躊躇【ためら】いもなく招き入れた。

そして一行は秋姫に客間と思われる場所に連れられてきた。



突然、犬夜叉が法師に小声で言った。

「おい、弥勒。ほんとに居んのか。春姫ってやつ。」

「このお方は私たちを受け入れてくださった。ならば何か知っているのだろう。」

「だけどよ、この屋敷の姫はこいつ見てえだし・・・。」

そこまで言ったとき、珊瑚が口をはさんだ。

「二人とも何喋ってんの。早くしなよ。」

珊瑚の言葉に二人は黙って部屋へ入った。



「ここのお座り下さい。」

と、秋姫が畳に顔を向ける。

一行は言われるがままに座った。



秋姫も一行が座ると、床の上に座った。



「・・・あなた方は、何故【なにゆえ】春姫のことを知っておられるのです。」

この言葉に、法師は今まであったことを話した。



北国で美依という女性に出会ったこと。

そこで雅道という男性の知ったこと。

美依が亡くなってしまったこと。

春姫という人の存在を知ったこと。

春姫を探しにここに来たということ。



全てを。



話終わると秋姫は顔をゆがませながらこう言った。

「そうでしたか・・・・・・。そのようなことが・・・・・・。」



そう呟く秋姫にかごめはたまらず聞いた。

「知ってるの・・・。春姫さんのこと・・・。」



その言葉に、秋姫はこう言った。

「知っていますとも・・・。春姫は、私の姉です。」



秋姫の言葉に、一行は目を見開いた。



「そう・・・だったんだ・・・。」

珊瑚が呟く。



「じゃあ姉はどこに居るんだ。」

犬夜叉が突然声をあげた。

「さっきから言ってるが、俺たちは探してんのはお前の姉だ。」

「犬夜叉っ・・・。」

少し怒り口調の犬夜叉をおさえ、かごめはこう言った。



「じゃあ、この櫛【くし】、知ってるかしら。」

と、海色の櫛【くし】を差し出す。



その櫛【くし】を見て秋姫は驚き、こう言った。

「これはまぎれもなく姉君の櫛【くし】・・・。」



そしてその櫛【くし】を受け取り、こう言った。

「では・・・姉君・・・春姫の元へ参りましょう。」

秋姫は櫛【くし】を持ったまま立ち、こちらへと言った。



一行は秋姫に連れられて、向こう側の屋敷、東の対へ向かった。

そこには人らしき人もいなくて、ただ御簾が風に吹かれてなびいているだけであった。

そして一行は中へと入り、歩いていった。

屋敷の中は薄暗くて、周りの家具や箱も一切使われていないようで、

ほこりがたまっているものもあった。



屋敷の一番奥に来たところで立ち止まり、秋姫は几帳【きちょう】をどけた。

几帳【きちょう】の帷子【かたびら】がふわっとなびく中で、一人の女性の姿が

見え隠れする。



「この方が・・・春姫です。」




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