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 愛と情と愛情 10




 「お前な、春田を誘えよ」
 「は?なんで?」

 一蹴。

 現在、俺こと山本君は、瀬名のマンションの部屋にいます。 誓っていいますが、変なことをしているわけではありません。 間男なんかじゃないです。

 「なんで この春謳歌の季節に おでん?」
「掃除してたらおでんの素が出てきたから」
座れば?と瀬名はテーブルを指差した。冬の間はコタツになる木製のテーブルには、すでに器と箸が揃えて置いてある。

 「瀬名さーん、酒、これで足りますかねえ?」
俺、買いに行ってきましょうか、と後輩、池山。
「いいよ、リコが買ってくるはず」
瀬名は鍋を覗き込みながらこたえた。

 ・・・おいおい。

 「なによ」
俺の呆れたようすに気が付いた瀬名は、振り返った。
「だって、この量は春田と二人じゃ食べ切れないでしょ」
「いや、まあ、な」
俺が言いたいのはそういうことじゃないんですけどね。
「春田は誘ってねえの」
「だっていつもこのメンバーで飲んでるでしょ」

 ・・・そう。付き合い始めるまで、春田は瀬名の友人でさえなかったのだ。

 「お前、ほんと、なんで付き合ったんだよ・・・」
はぁ、と溜息とともに呟きが漏れてしまう。 つい先日、弱っている春田を見たばかりだった俺は春田に同情した。
 思ったことは割と素直に発言する瀬名は、友人としてはかなり信用できる。
 だが、恋人としてはどうだろう。
 愛想がいいわけではないが話しやすく、警戒心を与えない瀬名は、情にも厚い。 義理も人情も大切にする。 当然、信頼されるから人との付き合いも深くなる。満たされた人間関係。 恋人に左右されない。

 だが、恋人としてはそれは淋しすぎるだろう。
 自分が居ても居なくても満たされているなんて。


 「…なんスよー、瀬名さん」
「ん〜、ま、新人が使えないのは、いつの時代も一緒だからね」
「瀬名さん…それって、暗に俺もそうだったって言ってます?」
「あはは、わかった?」
四月になって新人を任された池山の愚痴を瀬名は笑って聞く。瀬名の一人暮らしの部屋に四人の人間が入って、すでに狭く感じる。正方形のテーブルを囲って、鍋をつついた。
「なんつうか…気が利かないというか、気が付かないというか」
池山が言うと、隣にいたリコが同意した。
「そうそう、なんかいっこ足りない感じなんですよね」
リコは俺と同じ営業課で、瀬名の高校の後輩だ。池山の1つ下にあたる。
「慣れたら周りも見えるようになるって」
瀬名が言う。初めて新人を任された池山を励まし、 談笑しながら周りの世話を焼いている瀬名は、さすが長女気質というべきか。酒の注ぎ足しに、瓶を傾けた瀬名を断り俺はそんなことを思った。
「可愛い子じゃない」
男より余程女に甘い瀬名が言った。池山はハァと大げさに溜息をつく。
「瀬名さんはまた…なんスかそれ、仕事に関係ないじゃないですか。それに俺の好みじゃないし…」
確かに瀬名が好きな池山では、好みから大きく外れているだろう。
 池山や瀬名の課に新しく入った女の子は、女子大生気分の抜け切らない可愛いが社会人としては落ち着きの足りない子だった。

 そして、どうも春田を狙っているらしい。

 新人歓迎会のときに春田に近づいた子は数知れないが、その中でも可愛かった子として噂で名前を聞いている。
 当然、ここにいるメンバー全員がその噂を知っているはずだが、誰もそのことは口にしなかった。春田が狙われていることなど日常茶飯事ということもあるが、瀬名が無反応なのが問題なのだ。
 気になっているから、無反応を装っているのか。 本当に全然気になっていないのか。 それが判断できないから話題にも出しづらい。

 ・・・たぶん後者だろう。付き合いの長い俺には判る。あまりに春田が哀れで泣けてくる。


 「おでん、やっぱり四人でも多かったですねえ」
リコがお腹一杯と箸を置いた。俺や池山はまだいけるが、瀬名はもうすでに酒メインに移行している。鍋にはまだ半分ちかく残っていた。
「そうだね、保存して明日のおかずにでも…」
「春田を呼ぼう!」
瀬名が言いかけた言葉をさえぎって、俺は携帯を取り出した。池山が嫌な顔をしたが、すまん、お前はそろそろ乗り越える時期なのだ!

 そして、春田。
 このくらいの応援しかできない俺をゆるしてくれ…。





 * 注: 僕は面白がってなんていませんヨ!








あいとじょうとあいじょう
2005/04/20
改稿 2005/05/21




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