春田が、私の罪を糾弾するときが来た。
だって人を馬鹿にしている。
春田の指が震えていたから。
助けたかった。
すぐに飽きると思って、その震えが収まるまで付き合おうと思って。
なんて傲慢な。
ちょっと満足させて、それで次へいくと思っていた。
馬鹿にしている。
春田を好きではないのに、受け入れた。
春田の気持ちを信じていなかった。
「…ごめん」
こんな結果なら始めから何もないほうが良かった。あのとき断るべきだった。
結局、何倍も辛い思いをさせることになってしまった。
「ごめん」
抱き締められたまま、春田の服に顔を伏せて繰り返した。くぐもった声に抱き締めている力が緩む。
「…謝ってほしいわけじゃ…」
春田は身を離し、肩に手を乗せて私を見る。
どうしたらいいんだろうという途方に暮れた春田の幼い様子が、いつものように私に衝動を与えた。
慰めたいと思った。
無意識に伸びそうになる手に、気づく。指で触れるだけでいつも私と春田は気持ちを伝えてきた。その事実を今さら知る。
ここで断ち切らなくてはならないという一心で、私は伸びかけた手を握り締めた。
「…瀬名」
春田の指が私の頬を撫でる。
「瀬名は、俺といるのは苦痛?つまらない?」
「…楽しいよ」
そうでなかったら一緒になんて居ない。
「この先、どうしても、好きになれない…?」
こんな尋ね方はズルイ。
捨てるなら希望は全て断ち切ってくれと、私にそれを言わせる。
人をそんなふうに切り捨てるべきじゃないという私の主義と、ここではっきり言うのが春田のためだという葛藤を、春田は知っていて。
息を吸う。
ここで言わなくては意味がない。
「 はる…」
「俺、瀬名のキープでいいよ」
春田が言う。
あまりの衝撃に言葉が止まった。
「……………は?」
「瀬名が他に好きな男ができるまでの繋ぎでいい。そのあいだに好きにさせられなかったら、それで諦める」
冗談でなく、春田は真剣な顔をしている。
「え、ちょっと、そんなの…」
「知ってるって。瀬名の信条から外れるって。でも俺がいいって言ってるんだから、いいだろ。俺が望んでるんだから」
「そんなわけには…」
「瀬名」
強い声に、抗議は止められる。
「好きになれないっていうほど、瀬名は俺のことを知らない」
…そうだ。それは嘘ではない。
「友達の域も怪しいくらいにしか知らない」
ガシャン、と私の背中のフェンスに春田が両手を置く。檻のようで、春田から逃げられない。春田の影に覆われる。
「ね? 俺のこと、知ってよ」
耳元で春田がいう。近いのに、どこもふれていない。体温がわかるのに。
「瀬名」
春田の柔らかい笑顔。
やっぱりタラシだ。情けないとか慰めたいとか弟と同じだと思っていたのに。噂は本当だったのだ。
やっぱり、だったら余計に私なんて要らないじゃないの。
……そう、思ったのに。
震える指に気がついてしまう。
どうしても、手を伸ばしてしまう。
あいとじょうとあいじょう 2005/11/20
back
next
|