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 ― 総一郎の場合   愛と情と愛情 27






 俺は長男である。
 男三人のうちの一番上。
 つまり、ボスが俺ってことだ。

 ……姉が、まあ、姉もひとりばかりいるが、とにかく、俺が長男なことにかわりはない。

 「兄貴、兄貴。 オレ、姉貴が男と歩いてんの見ちゃったよ!」
高校生の末っ子、涼真(りょうま)が俺の部屋に入ってくるなり言った。今どきの高校生らしく髪の毛はうっすらと茶色で耳にはピアスがぶら下がっている。
「別に、男くらいいるだろ」
27にもなる姉に何を今更。 俺の冷めた反応に、かーっ、わかってねえなっ、と涼真は柔らかい茶髪を掻き混ぜた。
「なんと、すっげー男前! モデルみてぇなの!」
「へー」
あのヒト、面食いだったっけ? 俺は首を捻る。昔の彼氏は、ぬぼーっとした冴えないヤツ(明らかに姉に迫力負けしていた)だったんだが。俺が違和感を感じていることなど気づかずに涼真は言い募った。
「んでさ、車がさ、BMW!」
「そんなの…」
乗っている人間だっているだろう。

 ……いるだろう、が。

「姉貴んトコってそんなに給料よかったっけ? 会社の人じゃないのかな?」
「いや…」
車好きな人間なら、金をかけて買うくらいはするだろう。……するだろう、が。
「いくつくらいの男だ?」
重低音の声が背後から会話に入り込んできた。愛想の欠片もない次男、崇吾(しゅうご)は、のっそりとデカイ図体で不機嫌そうに腕を組んで扉に寄り掛かって立っていた。不機嫌な難しい顔は崇吾のトレードマークのようなものだ。柔和な印象の涼真と顔の造作は同じだというのに並んでいても似ているようには見えない。
「歳? 姉貴とおんなじくらい。…たぶん」
今までの意気込みはどこへやら、自信がなさそうに言う。もっとも高校生には20代後半も30代前半も区別などつかないだろうから仕方がないかもしれない。
 しかし、30前後でBMWを乗り回しているような男が、あの姉の恋人?
「………」
思わず、崇吾と顔を見合わせる。
 まさかあの姉が男に遊ばれているとは考えにくいが…。
「姉貴も年齢的にそろそろだろーし、オレらの兄貴になるかもしれないよなー」
能天気にニコニコと爆弾発言をした末弟は、俺と次男にギロリと睨まれて黙った。
「……お前、今度の日曜、姉貴んとこ行ってこい」
「えー!!」
「そうしろ」
「やだよ、面倒くさい!」
ジロリ。
「…う……」
眉を八の字にへたらせて、末弟はしぶしぶと頷いた。
 あの姉は、しっかりしているようでいて情に脆い。大抵が貧乏くじを引くのだ。情で変な男に捕まりそうで危うい女だと俺は見ている。
 いつもオレばっかり、とブツブツいう涼真は自分こそ一番姉に苦労をかけた張本人だというのに、まったく恩というものを判っていないようだ。
 共働きの両親は、長女が家のことも弟の世話もできることに甘えた。姉の、そのくらいやっておくよ、という言葉に甘えて、結局娘が中学に入る頃には家事を一手に引き受けていたのだ。俺たちも散々手伝わされてはいたが、姉の比較にはならない。それでいて、運動部などにも入っていたのだから一体どう時間をやりくりしていたのかと思う。
 「ちぇー。面白いニュースって思っただけなのに」
涼真が不平をいうのを聞いて溜息をつく。
 別に俺だって、姉の男になんぞ興味はないんだ。
 興味などないが、一応 俺は長男だ。把握する必要がある。はずだ。うむ。
 姉を下らん男にやるつもりは更々ない。
 不満そうにしている末弟の頭上で、俺と次男は目を合わせた。

 どこの誰だか知らないが、少しばかり検分させてもらいましょうか。






あいとじょうとあいじょう
2005/08/17
改稿 2005/12/18




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