感情直結涙腺 II
突然 世界は開けた。 いつものように、それは天から音楽が降るように、オレは突然 理解した。 オレは彼女が好きで必要で とんでもなく愛しているのだ。 それは事実で真実でそれ以外ないというのに、彼女は判らないふりをする。 理屈を考えすぎる彼女は、本当は判っているくせに、いつも解らない。 「メチャクチャ過ぎるんだよ」 コタローはそう嘆き、オレに詩を書かせるようなことはしない。 メロディーだけ作っていればいいというわけだ。 あと、歌っていれば。 理由もなく原因もなく突然 悟ってはいけないらしい。 そんな歌詞は宜しくない。…らしい。 それでも、アルバムに一つはオレの詩がある。 コタローはイカれてる、という。 キュウは好きだと言ってくれる。 どかんと落ちて、ピカッと光って、そんなオレの音のイメージに合わせ 詩を書くのはルゥだ。 オレの説明を、なんだか凄いものが起きたような、 日常のような、オレの理解できない風に仕上げる。歌うオレが 理解できないのでは意味がないと思うのだが、曲のイメージで書いているから そのまま歌えとルゥは言う。 だからオレはどかんとピカッと歌う。 彼女に初めて会ったときも、オレはいつものように熱唱したあとで、 彼女は男と一緒だった。スーツを着た、これがまたエライいい男で、でも、 二人はオレとは全くの別人種だったから、へぇと思ったきり気に留めなかった。 彼女の方は恋人に誘われて来ただけなのか、興味もない顔で会場のどこを 見るわけでもなくボゥとしていた。 泣きそうな顔だ。 オレは何故か それに気がついてしまった。 いつものように突然それは訪れたので、原因も理由もなかった。 ただ、数度しか会ったことのないオレが気がついたのに、 何も判らず話し続ける隣の男に苛立った。 「あんた、帰った方がいいよ」 オレは彼女の腕を掴んで言った。 彼女はオレが歌っているのを幾度か見ているはずなのに、覚えていないのか、 きょとんとオレを見返した。 「帰れよ」 繰り返して言った。 彼女はやっと理解したのか、チラリと こちらの様子には全く気がつかない男に目を向けた。 「なんで?」 オレに向き直って、彼女が問う。 「なんでって…」 そもそも、なんで あんたはここにいるんだよ。 メインのボーカルの顔も覚えていなければ、その他のバンドに興味があるとも思えない。 ここに居る意味なんかないだろ。 「だって、」 「だって?」 「あんた、泣きたいんだろ」 オレは不貞腐れたように言った。なんでオレがこんなこと言わなきゃならないんだ。 彼女は、今度こそ本当に驚いた顔をした。 この子は いったい何を言っているんだろう、って顔だ。 ムカッとしたオレは掴んだ腕をそのまま引っ張り、彼女を外に追い出した。 冷たい外気がひんやりと剥き出しの腹を通った。 「帰れよ」 オレはまた繰り返した。 「帰って寝ろ。おやすみ」 お座成りにそう言って、扉を閉めた。 それが、オレと彼女の初めての会話だ。 2003/06/22
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