100のお題・千と千尋の神隠しから
004. 気分爽快
あつ〜い。あつ〜い。あつ〜い。
ああ、もう眠れないったら。
はく、早く帰ってきて〜。
人間達が熱帯夜と呼ぶ、不快指数100%のその日、
千尋は、ひとりベッドの中でもだえていた。
普段はあまり、はくの魔法(?)に頼る事を良しと
しない千尋なのだが、やはり現代っ子の性で
クーラーに慣れたその体は、こんな夜には
耐えるようにできていないのだ。なので、
この一件に関しては、ついはくに甘えていたのだが、
そのつけは、当然 はくなしでは眠れない!
という形で支払うことになった。
結婚して初めての夏は、油屋で無我夢中で過ごしていた
ため、クーラーがないことなど、全く気にならなかった。
が、秋が過ぎ、冬が過ぎ、春が来て、そうして
再び巡ってきた夏。
それでも、今朝までははくが側にいてくれるだけで
暑さなど感じる事はなかったのだ。
水神でもあるはくは、その周囲の気が
涼やかで、特に千尋のためとあれば、
暑さなど感じさせて不快な思いをさせるはずもなく。
館全体を涼しくする事もその力からすると
何ほどもない事ではあるが、しかし、
体を冷やしすぎるのはよくないしね。
暑くて我慢できなければ、私に引っ付いていなさい。
などと、澄ました顔をして、千尋が側から
離れないのを楽しんでいたのだ。そんなはくに
気付いていない千尋は、まだまだ、
若く、(いや、実年齢からしても18歳に過ぎない小娘で)、
はくの悪賢い部分にまで意識が行かないのだろう。
はくって、優しい。
ごめんね、わたしが我慢すればいいのに、
こんな事に力を使わせて。
引っ付いてばかりで鬱陶しいでしょ。
邪魔なら言ってね。すぐに、どくから。
そう言って、背中に張り付いている、千尋の
柔らかい感触は、癖になって。
龍神は、夏の不快な気候に感謝したり。
純粋すぎる千尋を心配して、リンあたりはしょっちゅう
便りをよこしているのだが、無理もないことであろう。
で、そんな龍神は現在、守護地を留守にしているのだ。
琥珀主に翁様からのお呼び出しがきた、ということは
あれから一年が経ったということで、今朝から
彼は、新しい水の種をゲットするために、翁様の
守護地の龍穴の管理に行っている。
遅くはならないよ、といっていた筈なのだが、
すでに日付も変わり真夜中となっても、帰宅
していない。寂しさはもちろんだけれども、
千尋は、もだえながら、はくの存在の大切さを
あらためて、実感したのだ。
あついったら〜。
はく、はく、早く帰ってきて〜!!
「千尋、ただいま。」
息を切らしながら、千尋の元に戻ってきた琥珀主は
胸に飛び込んできた存在に、身のうちを熱くした。
「そんなに、寂しかったの?ごめん、遅くなって。」
いい子いい子というかのように、千尋の柔らかい髪の
感触を楽しみ、顎に手をあてて、唇を啄もうと顔を仰向かせる。
千尋の顔は、もう蕩けそうで。
「ああ、はくぅ。もう離れちゃいや。」
「千尋っ。」
感動のあまり、そのまま押し倒そうとした龍神は
くったりと寄りかかってきた愛しい存在を慌てて
抱きとめる。
「千尋!」
「やっと、眠れるよ〜。」
半分眠りかかった千尋は、ふにゃふにゃした声で
そんなことをいったか思うと、もう夢の中で。
「ち、ちひろ?」
情けない顔をした龍神は 一人、
身のうちの熱さに身悶える事になったのだが、
自業自得というものだろう。
おしまい
(057に続きがあります。)
このあと、全館冷房完備になったそうです。
遅いっつうの。
でも、たぶん千尋に、はく、ありがとう、なんて感謝されて
結局美味しい所を持っていったに違いない。
お題と、つながっているのか?
いや、はくに抱きついた瞬間のちーちゃんの気持ち
ということにしておいて。