100のお題・千と千尋の神隠しより

004を先にお読みください。

057. 不眠のウラミ

 

何度めかのため息の後

琥珀主は、抱きついている千尋の

腕をそっと外し、ベッドから足を下ろした。

そうして、傍らに立つと

安らかな寝息を立てている千尋を見下ろす。

つい先ほど、ドアを開けたとたん飛びついてきた千尋は

かわいそうなくらい汗で濡れていて

かなり辛い思いをしていたらしい。

そんな汗もすっかり引き

今はぐっすりと寝入っている。

 

はぁ〜。

 

一日離れていたのは、久しぶりで

気の存在は絶えず感じつづけていたとはいえ

恋しくて恋しくて愛しくて愛しくて

一刻も早く腕の中に抱きしめたくて

翁様のしょうもない(怒)使いっパシリを

必死に終わらせたのだ。

夏になって特に いつも張り付いていた千尋の

存在が、傍らにないことが

物足りなくて、寂しくて。

 

まるで、中毒にでもなってしまったかのようだ。

 

飲んでいけというのを振り切って

やっとたどり着いたというのに、

抱きついてきたとたんまるで子どものように

コテンと意識を飛ばしてしまった愛しい妻。

 

はぁ〜。

 

『あぁ、はくぅ。もう離れちゃいやっ。』

先ほどの悩ましげに掠れた声が耳を離れない。

琥珀主は苦笑するかのように唇を歪めた。

 

そなたも私と同じように感じていたのだ、と。

しかし、その意味合いは微妙に異なっていたらしい。

我なしでいられぬように

ことさら暑さを強調して我の周囲に

涼風を集めていた、そんな悪戯の

仕返しをされているのだろう、か。

そなたが中毒になっているのは

我というより、我が集めてしまった涼気、か。

 

このままそなたの側にいれば

押さえがきかなくなる・・・

やっと眠れたそなたを起すような真似は

したくはないのだが・・・

 

と、千尋の腕が何かを探すようにシーツの

上をさまよっている。

「はくぅ、離れちゃ、ぃゃ・・・」

ほんの僅か眠りとの狭間にある無意識が

かすれた声とさまよう手になって

琥珀主を誘ってくる。

 

琥珀主は、ほんの少し目を細めると

言い訳をするかのように呟いた。

「・・・濡れた服を着替えなければかぜをひくよ。」

眠っているのならそのままで。

小さく開いたままの唇に指を這わすと

そのまま、咽にそって指を下ろしていく。

そうして、千尋の夜着の合わせめに

たどりつくとゆっくりはだけていったのだ。

 

「!!」

「寝ていていいよ。」

体中をさまよう熱いものは ほんの少し寒さを感じていた

体に気持ちよく。千尋は夢の中で、満足そうに

咽をならす猫になったかのように体をしなやかに伸ばした。

と、伸ばした腕の付根に感じる熱いものは

ちくっとする痛みを与えてきて。

反射的に逃げようとした体が動かないことに

気付いた千尋は眠りの海から浮上する。

「あっ、やっ・・・」

「眠っていていいよ、と言ったのに」

「あぁっ、い、いじわるぅっ、あくぅっ」

千尋がすっかり覚醒したとたん、

それまでのゆるゆるした

愛撫を激しいものに変えて

己の情熱に巻き込んでいく。

少女の顔が女に変わる、その瞬間。

・・・たまらない。

笑みを浮かべる余裕がなくなり

炎で焼き尽くし、壊してしまわぬよう

セーブするのに精一杯の力を使う。

「ふっうぅ、あ、ぁぁはくうっ。」

己の思うまま素直に反応して

すがるように名を呼んでくる千尋に

最後の理性が砕け散った。

そうして、その後は激情のままに・・・

 

思いを遂げて不眠のウラミを

晴らした夫は、

翌朝、寝不足の妻をなだめるために

涼気を館中に張り巡らせることになった、とか。

 

おしまい

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お題で続き物って反則?

にしても、寝てるとこ襲うなよ!

んとに、押さえがきかないんだから。

ちーちゃん、あんたも苦労するね。