10万HIT記念企画・無謀にも「七粒ノお題A」に挑戦してみよ〜

 

03・光も射さぬこの道は

 

 

一定のリズムを刻んでいた足音が

次第にゆっくりになり戸惑ったように止まる。

思いに耽りながら歩いていたせいであろうか、

通いなれた繁華街をほんの10分も歩けば

突き当たるはずの大通りがいつまでたっても

見えてこず、どころかいつの間にか

猥雑なほど賑やかに輝いていた

ネオンの灯りさえも遠のいていて周囲は

伸ばした手のひらさえも見えないほどの

闇に包まれている。

 

『あのな、ここら辺は辻が多いんだ。』

『辻?』

『そう、いろんな世界と通じている辻道。

お前ぼんやりだからさ、心配だな。』

『いろんな世界って?』

『一つはお前も行ったことあるだろ。』

『ええ?あんなところが他にもあるってこと?』

『いいか、迷子になるなよ。もし迷ったら

もと来た道を戻って来い。絶対振り返るなよ。』

 

リンの言葉を頼りに来た道を振り返ってみれば

遥か遠くにぼんやりと色とりどりの灯りが見えていて

千尋はほんの少し肩の力を抜いた。

が、それがいけなかったのであろうか。

唐突にかけられた声に千尋は文字通り飛び上がる。

「娘さん、いいもの持ってるね。」

生臭い風が顔に吹きつけ姿の見えないモノが

そこだけ浮かび上がるように手を差し出している。

「それをおくれ。」

「・・・」

「代わりに道案内をしてあげよう。お前の行きたいところまで。」

「・・・」

「さあ、手を。」

「・・・」

「返事くらいしたらどうだろうね、

近頃の人間の礼儀知らずなことは呆れるね。

せっかく親切に言ってやってるのに。」

「・・・」

「生娘のくせに情の怖いこと。」

「・・・」

「それが望みならずっと彷徨っているがいいよ。」

「・・・」

「どうせここからは逃げられないからね。

お前も元の世界には戻れないよ。」

「・・・」

「私はお前に張り付いていて、

行き倒れた屍からそれをもらうことにしよう。」

「・・・」

次第に苛立ちを露わにした物の怪は伸ばした手を

すっとひっこめるとそれきりぷつりと黙ってしまう。

し〜んとした暗闇は遥か彼方にある薄明かり以外

何も見えず、千尋はカタカタと細かく震える体を

とめようと歯を食いしばり、そうして、なんとか

灯りの元にたどりつくべく必死で足に力を込める。

が、なぜか靴がぴたりと張り付いたかのように

動くことが出来ず、千尋は深く息を吸い込んだ。

 

座っちゃだめ。

あのときみたいに立つことさえできなくなる。

ああ、ハク、力を貸して・・・

 

『妖怪と会ったときの鉄則その1。返事をするな。』

『その2、取引するな。』

『その3、ついていくな。』

『その4、お呪い(おまじない)をとなえろ。』

『お呪い?』

『そう、呪い。』

『なんて?』

『知らん。』

『は?』

『だから知らん。』

『ちょっとぉ、リンさ〜ん!』

『俺にはわからなくてもお前にはわかっているはずだ。』

『でも、私お呪いなんて知らないよ。』

『いいや、知ってるはずだね。声に出さなくても

胸の中で唱えてみな。きっと助かるから。』

『・・・』

 

「その4、お呪いを唱えろ。」

千尋は小さく呟くとゆっくりと息を吐き出す。

「私の内なる水と風の名において、解き放て!」

まるであの時のごとく手を引かれているかのような

勢いで足が勝手に走り出す。そうして、

背後で聞こえた悲鳴に思わず振り返りかけた顔を

意志の力で元に戻し、歯を食いしばって小さく首をふると

風を切る音と街灯りにのみに集中した。

・・・ああ、ハク・・・

一瞬フラッシュバックした思い出の中、

ハクが励ますように笑ってくれたような気がした。

 

 

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バーフォクシーを出てまだ15分と経っていなかったり。

というわけで、物の怪道に迷い込んじゃったチーちゃんでした。