第4部  龍王たちの伝説

 

 

序章、花宴  まさに満開の花の下   

今はまだ、明け方には程遠い時刻で

真夜中も半ばが過ぎたころであろう。

主夫妻が退出したあと

興奮冷めやらぬ眷属たちも

一人また一人と宴の席から下がっていく。

次第に静けさが戻ってきつつある宴席には

そこかしこに酔いつぶれたものもいて、

まだ全員が退席したわけではなく

仲の良いもの同士のいくつかの固まりが

あちらこちらに散らばって

先程の喧騒と打って変わって

しみじみと味わうような時間を過ごしているのだ。

崑崙から琥珀主を慕ってついて来た

4人の武闘神たちもそんな固まりの一つで

意味深い沈黙の中

互いに注しつ注されつしながら

祝いの酒を干している。

其処彼処で密やかに囁かれる言の葉たちも

その総てが喜びに満ちていて、

しかし、そこには多分に畏怖も混じっている

ように思うのは、自分たちの

心持のせいなのかもしれない。

 

「思ったよりも・・・」

言いかけて黙ってしまったヤ・シャに

3人は視線を向ける。

「いや、なんていうか、比べちゃうとね。」

「そうだな・・・」

ヤ・シャが言いたいことを察すると

武闘神たちは再び沈黙に耽る。

「殿下ってまじ、すごいよねえ。」

シュルン

空になった皿の一つを取り上げ指の先で

くるくる回しながらヤ・シャが嘆息する。

「たかが小さな森の主にすぎない殿下に

あんなこと許しちゃうなんて、

秋津島の神々ってさ、

ものすごい大らかなんだねえ。」

いや、前から思っていたんだけどさあ。

・・・それに比べて。

言っても仕方のないことを、と呆れたような

目で見ながら、ツェン・ツィが低い声で言う。

「時代が違うのだろう。」

「時代、ねえ。」

よっと指の先で放り投げた皿を

三つ指の先で受け取り一瞬静止させると

今度は逆周りに回し始める。

そうして、誰に言うでもなく

自分に言い聞かせるように呟いた。

「ま、運がいいということにしとく?」

「ヤ・シャ。」

窘めるように語意を強めると

ツェン・ツィは杯に残った酒を一息に

煽り気を取り直したように続けた。

「殿下の母御前は月がすすむにつれ、

身のうちを喰うほどにやつれられたが

姫君はその心配はなさそうだな。」

「まあ、今のところは、ですね。」

ゲイ・リーも干した杯をカタンと

置きながらほんのりと微笑む。

「あの御髪(おぐし)ですからね。」

カァ・ウェンも頷く。

「ああ。胎にあるうちならば御力を

制御するには充分だろう。」

もっとも、要らぬ心配かもしれんが。

「わっかんないよ〜。ほら殿下みたく

突然変異っていうこともないわけじゃないし。

用心に如くは無いってね。」

「ヤ・シャ、先程から何が言いたいのです?」

「別にぃ。強いて言えば

殿下って幸せ者ってこと?」

 

そう、秋津島の神々から与えられている

守護の強さもさることながら

3年かけて注がれた龍穴の力は

千尋の時を進め、

体を成熟させただけでなく

まるで、千尋自身が女神となって

降臨したかと思うほどの神気で満たされ

武闘神たちを圧倒した。

そうして、その神気のほとんどは

髪が依り代となって溢れ出るほどで。

おそらくあの娘を溺愛している主は

妻の体への負担を考慮して

最大限の力を注ぐに髪を選んだのであろう。

あの髪があのままであるかぎり、

内的にも外的にも

千尋を害することができるものは

皆無といってもよいかもしれない。

おまけに、龍穴の結界から出てきた主が

真っ先に森の総てに命じたのは

こと総て千尋を優先すべし』

であるのだ。

『殿下って、まじすごいよねえ。』

というや・シャの言葉は内心4武闘神

共通のものだったりもする。

神祖龍王の琥珀主の母への

執着振りを経験している

彼らではあっても、

立場上形振り構わず

妻を守ることだけに専念できなかった

父神と比べると、かなり複雑なものがあり、

まして、4人の中で最も神祖龍王に

傾倒し心酔していたヤ・シャには

殊更にその思いが深いのかもしれない。

 

カシン

ヤ・シャが手慰みに廻している皿を

ツェン・ツィが止める。

「殿下にはお幸せになっていただかねば。

本来手にされていたはずのものを

我らの力不足のせいで総て失われたのだから。」

きっぱりとしたツェン・ツィの言葉にヤ・シャも

ふっと真面目な顔を取り戻すと深く頷く。

そうして、4人の武闘神たちはいっせいに最後の

杯を干すと、各自散開していったのだった。

 

 

 

前へ    次へ

 

 

と、いった感じでね。

産まれたときから知っていた主君に子が生まれるってんで

4人の武闘神様たちも動揺してるらしいざんす。

子どもを作るためのお篭りだってわかっていたのに、

現実になると焦るっていうか。

・・・・

だって、ほらはく様のお父さんとお母さんって

はくが産まれてから(いや、その前もだけど)

かな〜り大変だったからさ。

・・・・

んと、これでちーちゃんの髪を切っちゃいけない理由わかったかなあ。

聖書にあるサムソンとデリラの話じゃないけど

髪を切っちゃうとせっかくの神気が半減しちゃうからね。

でも、妊娠中友林は髪を切りたくてしょうがなかったなあ。

だって、すっごい抜け毛だったんだよ〜。

ちーちゃん、かわいそ〜。(←ならそんな設定にしなくても。)