第4部  龍王たちの伝説

 

 

序章、花宴  まさに満開の花の下   

 

千尋の心にぽっと暖かい光が宿っている。

 

未だ自覚がないままに夫に告げられた

懐妊は、ずっと望んでいたことなのだけれど

こんな風に心の準備がないままに

唐突にやってくるとは思いもよらなくて。

それでも、はくが心から喜んでくれている

そのことだけは、強く強く心の底まで

響いてきて。

 

・・・やっと・・・

ああ、はく。

やっとあなたと・・・

 

はくに嫁いで1年ほどのあと、

空の御方と東の竜王から

告げられたはくの過去。

そうして、眠りにつくほんの少し前に

東の竜王のサーガ王妃より教えられた

もう一つの真実。

あの時感じた身も心も竦むような

はくへの痛ましさは

自身の不甲斐なさと相まって

千尋の心のそこにぽっかりと穴を

あけてしまったかのようで。

 

はくが望まないのなら・・・

そんな言い訳ばかりして、

ずうっと、はくの子を

自分から望もうとしなかった。

今の幸せを失いたくない、と。

本当は、神様の子を産むなど怖い、と。

自分のことばかりを心配して。

・・・はくが望まないのなら、

そんな言葉の後ろに隠れてばかりいたのは

なんて不甲斐ない自分であったことか。

でも、今やっと・・・

 

千尋、宿ったよ

 

はくの暖かい手のひらの感触と

僅かに震えていた静かな声。

 

千尋の心に決して消えることの無い

小さくて暖かい灯を灯してくれた瞬間。

 

ああ、神様。

この世の理の総てを司る神様。

心からの感謝を。

 

・・・はく、やっと・・・

やっと、あなたと本当の家族になれる。

 

・・・・・・・・・・・

 

ああ、千尋・・・

そなたが目覚めてすぐ

初めて、心のままにそなたを抱いた。

今まで、どこかでかかっていた

心の枷をすべて外して。

ただ一度。

初めての一度で、

なんと充足したことか。

今までとは桁外れの満ち足りた想い。

そうして、感じたあの瞬間。

今まで、抱いても抱いても

消えることの無かった

渇望感が、やっと充たされ

埋まったような。

千尋の下腹部から

確かに感じた

小さな波動。

 

・・・ココニスイサン・・・

 

不躾で傲慢でそれでいて、

どこか遠慮がちの波動は

確かに自己を主張していて。

おそらく、まだ父である

自分にしか

感応できないであろう

微かな波動に動揺して

思わず、千尋に告げていた。

 

千尋、宿ったよ、と。

 

大きく見張った瞳はすぐに

潤んで微笑みに満たされて。

そんな千尋の顔を見て

どっと押し寄せてきた不安は

やはり今までとは桁外れのもので

思わず千尋に言い聞かせた

様々な約束を腹に宿った子が

可笑しそうに笑っていた。

 

・・・ワカッテイル・・・

・・・コトスベテハハウエガ

スコヤカナルコトユウセンスベシ・・・

 

そんな波動に目を見張り

しかし、もう一つを付け加える。

『千尋を泣かすこと無かれ。』

『ゆえにそなたも健やかなることを命じる。』、と。

千尋の胎で心穏やかに育まれ健やかに生まれよ、と。

 

千尋を掻き抱くこの腕に

確かに感じる小さな波動。

我が守るべき無力な光。

この胸に湧いてくる情感は

なんと名付けるべきものなのだろうか。

ああ、千尋。

我が命よりも愛しい妻よ。

心からの感謝を。

 

 

そうして、千尋に宿ったばかりの子は

母の温もりと父の望みを中心に抱き

くるりと丸まって揺籃(ようらん)の眠りについたのだ。

 

 

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あ〜、なんといいますか。

序章のシーン(ちーちゃんのお目覚めから宴の前後)を

書いたものだけで

10まで行きそうな勢いだったのですが、

いい加減精選してまとめやがれっ

そんでもってさっさと次に行けという

リンさんの(?)命令でこのくらいにしておきます。

(ほら友林はリンさんに逆らえないから・笑)

あ〜あ、宴での玉ちゃんたちのシーンとか

リンさんへちーちゃんが帰ってきたよってお知らせしたシーンとか

すっかり影が薄いけど友林的当初の設定では

しっかりいい男の役だったシンが出てくるシーンとか

遊佐のお父さんのドジョウ踊りのシーンとか

いろいろあったんですが、たしかにこりゃ収拾がつかないね。

そんなわけで、書きなぐったでたらめシーンについては

気が向いたら拍手でアップしときます。

こんな感じで、次はちーちゃんのマタニティーライフ?

(これも収拾つかなくなりそうな予感が・・・)