50000HIT企画作品その1

 

連なるものたち

 

2

 

「何度言ったら分かる!もう一度やり直せ!!」

「も、申し訳ありません。」

「言い訳している暇にさっさと行け。」

「は、はいぃ。」

耳慣れない怒号に涙目のまま走り去った小者を

鋭い目で見送ると、玉は側にあった机に片手を付き

肩で息をした。そうして、温厚なはずの木霊の突然の

切れ方に目を見開いて固まっている奥付きの女官たちを

いらいらしたそぶりで見回すと、鋭い激を飛ばす。

とたんにわらわらと散っていく女官たちにもイラついて

玉はぐっと奥歯をかみ締めると乱暴に机の脚を蹴飛ばした。

ドガッという物音に、ドアの外で気配を窺っていたものたちも

ビクッと飛び上がると触らぬ神になんとやら、とばかりに

慌ててその近辺から逃げ出していったのだ。

 

 

「由良様。」

「うん。」

青い顔をした奥付きの眷属たちが、もう一人の

木霊に縋るような目を向けてくる。

「いったい、何事があったのでございますか。」

普段あまり物事に動じないはずの表の女官長である

鴉華(かげ)までも、顔を強張らせている。

おまけにその背後には、玉から些細なことで叱責を受けた

表の宮に仕えるものたちが怯えたような顔で佇んでいるのだ。

いつの間にか主の権勢を示すかのように増え、

100柱を越している眷属たちはそのお役目の大小に関わらず

シン配下の武神たちを除いてほとんどがこの場に集まっている。

「それを聞きたいのはぼくのほう。」

縋るような眼差しに囲まれている主席眷属の片割れは

心底困ったように眉を寄せる。

「ですが、あのように突然人が変わったようになるなど。」

「主様のお留守で気を張っていらっしゃるにしても

あのように理不尽な物言いをなさるような方ではないはず。」

口々に言われることは、半身として生まれた由良が

一番よく分かっていることで、むしろ自身の感覚が

いつもと全く変わらない以上、玉のまるで別人のように

おかしな言動に途方にくれているのは由良のほうなのだ。

先程の叱責など序の口で、些細な粗を見つけては

まるでその相手を憎んでいるかのような罵倒を繰り返して

叱り付けたり、常になくイラついたそぶりで身体中の神経を

張り巡らせてそこいら中を歩き回っては

目につくものに鋭い言葉を浴びせたり、

果ては標道を通ろうとした力の弱い神に

難癖をつけて追い返そうとしたり、

(このときは由良が慌てて仲裁に入り、

事なきを得たのだが、いくら弱小の神だとて、

曲がりなりにも神名を名乗っている

ものに対しての無礼は下手をすると

主の外交問題にまで発展する可能性も

無きにしもあらずだったのだ)

たしかに普段の玉とは本質的に

全く相容れない行動を取っているのだ。

「よく考えて。玉様があのようになられたのは

絶対何か原因があるはず。」

「原因と言われてもね。特にこれっていう

心当たりなんて・・・。ちー様がお留守で

寂しさのあまり切れたのかな。」

小首を傾げて困ったように腕を組んでいる木霊は

口の中だけで呟くが、当然そのような返答では

納得などしてもらえるわけもなく、女官長の非難の視線に

由良はため息をついて応える。

「とりあえず、玉と話をしてみるよ。」

「お願いいたしますね。何ゆえ荒れているのか原因さえ

分かれば、私もお力になれるかもしれませんから。

とにかく主様と姫君がお戻りになる前に

宮の運営を平常どおりに戻さなければ。

このままでは、配下のものたちが怯えてしまって

お役目を果たすことなどできませんもの。」

「わかってる。」

さすがの女官長の重い言葉に由良も頷き、威儀を正すと

集まっているものたちを解散させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

数時間後・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、相棒はどうした?」

「知らない。」

「知らないって、お前は由良のほうだろう。

玉殿はどちらだ?用があるんだが。」

「知らないったら知らない。」

地団太を踏むように両足に力を入れて

ぷいっと顔を背けている様はまるで子どもっぽく

シンは呆れたように天井を見上げる。

「お前なあ。仮にも上を張ってるんだから

そんな姿を女官たちに見せるなよ。」

「ほっといてよ。ぼくだってやるときはやるんだから。」

そういうと、少年にも少女にも見える木霊は

物々しい甲冑姿の武神をぐっとにらみ付ける。

「シンは相変わらずの格好だね。

そんな仕度をしていると好戦的に過ぎるよ。

未だに竜宮の時の癖が抜けないの?」

「それこそほっとけ。武神が甲冑を脱いでいたら

いざというとき仕事にならん。それより、

早く玉殿の居所を教えてくれ。」

「秋津島での戦いはね、

甲冑なんていらないんだよ。

根回しとコネと談合で始まる前に

勝負がついているんだから。」

聞かれたことに答えず、

言いたいことだけ言っている木霊は

よほど機嫌が悪いのだろう。

シンはすっと目を細め、腕を組んで由良を眺めた。

「それにねえ、前から言おうと思っていたんだけど

シンって、玉には殿をつけるくせに

何で僕だけ呼び捨てなの?」

竜宮出身の蛟竜はそんな木霊を鼻で笑う。

「半人前には呼び捨てでたくさんだろ。」

「ちょっと!喧嘩売ってんの?」

「恋の一つも知らんでは一人前とは言えん。だろ?」

顔を真っ赤にして、こんどこそ本当に怒り心頭といった

風情の木霊をいなすと、蛟竜は声音を改める。

「お前ら、喧嘩でもしたのか?」

そう、よく見れば双子の木霊の片割れは

どちらかというと怒っているというより

泣くのを我慢しているように唇を引き結んでいるのだ。

由良は武神の視線に思わず顔を背けると、

今まで張っていた気が抜けるように肩を落とす。

「んなことしてない。けど・・・・」

「何があったんだ?」

「あいつ・・・」

「あいつ、変なんだ。」

「何が?」

由良は足元を見ながらとつとつと話しだす。

「あいつ、ぼくと視線も合わせようとしない。

それでいて、配下の眷属たちに無理難題ばかり

言っていて、それをいくら咎めても無視するんだ。」

「?」

「まるで、僕の存在に気がつかないみたいに。」

「そんなはずあるか。」

目を見開いている武神に由良は情けなさそうな顔を向ける。

「ごめん。八つ当たりだ。甲冑なんか着ているからつい、

玉みたく攻撃的に見えちゃって。」

そういうと、由良はふっと笑う。

「なんかさ。いつも身体と心で感じていた玉との

つながりまでプツンと切れたみたいで

あいつのことがまるでわかんなくなっちゃった。」

日常、楽天的でお調子者のはずの木霊が見せた

儚げな笑みは深い影を帯びていて、

蛟竜は不吉な予感に頭を振ると

華奢な身体を抱き寄せたのだった。

 

 

 

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うう、このままでは由良シンカップルになってしまう。

たまちゃ〜ん、ピンチだよ。相方取られちゃうよ〜。

あんたってば、わけわかんない行動している場合じゃないよ〜。

 

 

つか、読みにくくってすみません。

思いつき場面がどんどん増えていく・・・

次で終わるかな?無理かな?無理かも。