別設定のお遊び話1

 

人生について

 

わたしの名前は荻野千尋。

どこにでもある、平凡な名まえでしょ。

そんな名まえが示すとおり、わたし自身も平凡な

女子高生だったの。成績も顔もまあ人並みで

親友と呼べるほどではないけど、仲の良い

友達もいて。ほんと、ありきたりの

人生を送っているありきたりの人間だったのよ。

でも、そんなわたしは もう平凡な日常は

送れなくなってしまったの。

なぜならわたしは、もののけの恋人にされてしまったから。

・・・もののけとは言い過ぎかもしれないけど。

なにしろ、彼は かつてはある小さな川で

神様をやっていたことがあるみたいだから。

その川は、都市計画とやらでとっくに埋め立てられてしまって

住みかどころか神様の地位まで失った彼は

何を考えたのか 別の世界に落ち延びて、

第2の神生?を 魔法使いになろうと

修行することにしたらしいのよ。ほんとへんなひと。

が、運の悪いものは人であろうと神であろうと

とことん運が悪いのよね。

師匠に選んだ魔女は、とんでもなく性悪で

さんざんこき使われて、死にそうな目に合わされたらしいの。

そんなところに偶然行き合わせてしまったのが

わたしなのよ。

行き合わせたというか、なんというか、

あの時のことを思い出すと10歳の小娘のわりには

我ながら良くやったと思うわね。

自分と両親どころか、彼まで助けることができたのだから。

まあ、2度と出来ないとは思うけど。

なんとか、魔女のもとからこの世界に戻ってこられた

わたしは、無事に平穏な生活に戻ることが出来たの。

出来たのだとおもっていたのだけれど・・・・

 

先日、16歳の誕生日に記憶のはるか底に眠っていた?

(半分くらい、夢だとおもっていたのだけど)

件(くだん)のもののけが、突然目の前に現れたの。

記憶の底にあった、親切にしてくれたお兄さんは

さらさらの黒髪に白と緑色をしている平安時代の

貴族のような衣装を身につけた、女の人かと見まごう

くらいの美人さんになっていて。なので、そんな突然の出会いで、

千尋!と抱きつかれても、突き飛ばして

「誰?」

と叫ぶのも無理のないことだったと思うわ。

女の人だと思っていたから悲鳴まであげずにすんだ

のだから、まだまし?だったのに、だったのによ、

すぐに自分のことを分からなかった私にプッツンして、

いきなり拉致るってどう思う?

しかも、もう離さないとか何とか言いながら

結界とやらにつれこんで、いきなり、いきなり・・・

もう、あの時のことを思い出すと

ほんと、いくら殴ってやっても気がすまないというか。

あげくにもうここから出さないとか言われた日には

人生ってやつに絶望したのも無理はないわよね。

まあ、彼女があのときの彼ってわかってからは

少しは落ち着いたけど。でも、

いくら背が高くてかっこよくて、ちょ〜ハンサム

だからって、拉致監禁して婦女暴行をするようなやつに

気を許せますかってーの。監禁されて1週間くらい

さんざん泣き喚いて、暴れまくって、ハンストまで

してやって。そうしたら、向こうがなんとか折れてきて、

条件付だけど家に帰ることが出来たの。

大っ嫌いって怒鳴ったのがよほど懲りたみたい。

なんとか、自分のしたことを許してくれって

目をうるうるさせながらいうのだもの。

 

 

「千尋、すまない。どうか許しておくれ。」

「絶対、いや。はくなんて大っ嫌い。おうちにかえして。」

「それはできない。そなたはすでにわたしの妻なのだから。」

「妻って妻って、わたし、はくとなんて結婚してないじゃない。」

「何を言うの。ちゃんと、夫婦の契りを交わしたのだから、

そなたは私の妻なのだよ。」

「はくのばか〜!!。あんなの、ご、強姦じゃない。

今の時代、夫婦の間だって合意がなければ強姦罪が

適応されるんだから。はくなんて大っきらい!!」

「千尋、千尋、そんなことをいわないで。愛している。

誓っても良い。永劫にそなただけを愛する。

だから許しておくれ。」

「いや。わたし、お嫁さんになるときは、ホテル○ークラで

ウエディングドレスを着て超豪華結婚式を挙げるって

決めているんだから。結婚式をすっとばして

妻になんて絶対いや!!」

「じゃあ、千尋。きちんと式をあげたら許してくれる?」

「・・・いや。」

「千尋〜。そなたの言うことは何でも聞くから、

だから許しておくれ。」

「じゃあ、おうちにかえして。このままじゃわたし

中卒になっちゃうじゃない。せっかく受験勉強を

がんばって合格した学校なのに、中退なんて絶対いや。」

「ならば、高校を卒業したら、私の元に来てくれる?

そなたはすでに私のものなのだから。

卒業したらすぐに式をあげよう。だから許しておくれ。」

「おうちに帰してくれるの?」

「そなたがどうしてもと言うのならば。ただし、そなたは私の妻で

恋人であることを決して忘れてはいけないよ。もし、

他の男と関わりあったら、その男に神罰をくだすことになるからね。」

 

うちに帰ってきたら、時間がたっていなくてびっくりしたけれど

冷静に考えればとんでもないことよね。

やっと自由になれて、あのことは夢か、狂犬に

かまれたと思って、忘れようと思ったの。

なのに、忘れられなくて。もう、強引で怖くて

なのに優しくて情けなくて、本当にどうしようもないひと。

まるで2重人格みたい。まあ、魔女の世界でもそうだったけど。

で、寝不足のまま登校してみたら、いるんだもの。

どこにって、教壇によ。

どうやったのか、古典の教師になりすましているのよ。

他の皆は当たり前みたいに受け入れていたけれど

信じられなかった。どうやら魔法を使ったみたい。

で、彼のやることにはぬかりはなくて、すでに

私と彼は婚約している仲ということまで知れ渡っていて。

うう、そんなこんなで、平凡なはずの日常が

あっという間に崩れてしまって

とんでもない日常にすりかえられてしまっていたの。

あう、ほのかに憧れていた生徒会長さん、さようなら。

なにしろ、わたしにおはようの挨拶をしてきた男子が

直後にすっころんで鼻血を出しているのを見れば

神罰って本気だったのね、って縦線が入ってしまったわよ。

他の人の人生まで壊すわけにはいかないものね。

でも、でも、いいなりにばかりになんてならないから。

意地でも、高校生活を満喫して、青春を楽しむんだから!

わたしの言うことはなんでもきくって言ったからには

正式にお式を挙げるまでは、

絶対あんなことは許さないんだから。

キスも、体に触るのも禁止!!

それくらい、いいよね。

デートとかは、他の男の人とするわけにはいかないから

しょうがないから、はくとしてあげるけれど。

というわけで、これから待ち合わせの場所に行かなくては。

とりあえず、彼の本気がどれくらいか見極めてみるわ。

はくは決めてかかっているけれど、女が一生を

託すには外見ばかりじゃなくて、生活力と、どのくらい

自分の言いなりになるか慎重に判断しなくちゃだめよっ

て、これはお母さんの受け売りだけど。

結婚したとたんえさをくれなくなるような男はだめなんだから。

じゃあ、みんなわたしの健闘を祈ってね。

いってきます。

 

 

・・・ほんと、人生ってなにが起こるかわからないわよね。

 

 

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