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東京ビッグサイト誕生秘話

東京ビッグサイト誕生秘話

“秘話”とつけましたが、いわゆる暴露話ではありません。裏方の苦労話です
めったにない大プロジェクトについて、後進の参考にと作りました。
すでに四半世紀が過ぎていますので、記憶違いもあると思います。主観も入っています。

行政財産か、普通財産か


▼ 役所の威光に左右されがちな行政財産

ちょっと難しい話になるけど。
一般的に役所が建てた建物は「行政財産」に分類される。 公共のために使われるものだから、これを貸し出すときは公平に行われなければならない。 公平に行われるためには、利用者は「早い者勝ち」か「くじ引き」で決められることになる。
もちろん、これにはいくつか例外があって、優先順位のような枠組みがあることが多い。
第1順位:持ち主である行政機関の利用、第2順位:設置目的に則った利用(例えば都内中小企業振興のための建物なら都内中小企業が優先)、第3順位:対象外の団体による利用、 というふうに順位づけがあり、受付開始期日が違ってくる。
しかし、ここで問題が生じる。
最優先順位である行政機関の仕事というのは、「年度主義」に縛られている。
予算案が議会で発表されるのが1月。その後でないと仮予約もできない。実際に支払いができるのは4月から。それでは民間に先に押さえられてしまう。
行政の優位性を維持するためには、民間企業が行政より先んじて予約することを抑制するしかない。 その担保として、早い時期に会場を押さえることができなくなっている。

そして、行政側はわがままで、予め可能性のありそうな日にちをたくさん押さえてしまう。その後に、ゆっくり日程調整を行う。 貸出施設は行政側の事業が確定するまで、塩漬けになる。
人気のない貸出施設ならそれでもよいが、公共施設はたいがい利用料金が安い。そして、駅から近かったりすると、利用希望者が殺到する。
貸し出す側は「その日は都庁が使うことになっているんで、貸せません」と頭を下げなければならない。それでいて実際は使われないこともある。 キャンセル料も取れない。事前に払い込みが義務づけられている施設なのに、当日払いしかできないこともある。
こういう実態に、施設管理担当はいつも悔しい思いを感じているのだ。
しかも、公共施設には、よく「減免措置」というのがついている。利用料金の減額だ。たとえば、「行政機関が設置目的に則って利用する場合は半額」といった決めがある。 民間企業に適用されないとなると、不公平だ。

▼ 優良な顧客を優先して誘致できる普通財産

しかし、展示場はそうはいかない。
展示会の帰り際に入り口の看板の裏側を見ると「次回は20xx年〇月〇日~〇月〇日に東〇~〇ホールで開催します。またのご来場をお待ちしています」と告知されているのを、 見ることも多いだろう。
展示会は普通、2年を1クールとして開催される。次回の展示会場はすでに予約済で、出展社の募集が始まっていることが多い。
大きな会場図に次回出展小間の「売約済」の赤札が貼られていくのを見た方も多いだろう(特に、リードエグジビションジャパン(株)の展示会で)。
そして、主催者の中では次の次が、もう企画段階に入っていたりする。
もちろん、いったん予約した会場を確保しておくためには事前の部分払いが求められ、手放せば「キャンセル料」も発生する。

こういった利用を可能とするために、東京ビッグサイトは、行政財産ではなく「普通財産」として位置づけられた。だから、経済性追求が可能なのだ。
したがって、行政が利用しようとしても、“とりあえず”押さえることもできないし、減免措置もない。

逆に、会場側が営業力を展開して、世界的に有名な展示会など、優良な主催者を早くから誘致することができる。
そして、ここまでの裁量が認められる見返りとして、東京ビッグサイトは、「独立採算」という命題を背負うことになった。 (※ただし、その話の続きはもう少し先になる)

実のところ、展示会そのものも、かつてはビジネスになると考えられていなかった。
戦後、国の政策で、同業種の団体や、地域の団体の育成が進んだ。〇〇業協同組合とか〇〇工業会とかいうのが、それだ。
こうした団体は、仲間のために産業振興を進めなければならない。展示会はそのシンボル的なイベントだった。そして、行政はその開催経費を補助した。
しかし、やがてこうした展示会はマンネリ化し、参加者が減少。行政側も財政危機から予算を削り、次第に開催が維持できなくなった。
その中で、“ビジネス”として展示会を開催する企業が出てきた。ビジネスガイド社である。むしろ「ギフトショー」の主催者と言った方がわかりやすいだろう。
第1回の東京ギフトショーは、昭和53(1976)年9月、都立産業会館大手町館で開催された。参加はわずか63社だった。 今では5千社が参加する大展示会となっており、2月と9月に年2回開催されている。
当初は株式会社が展示会を主催するということ自体が信用されず、公益団体の名前を借りて開催されたらしい。

▼ 要するに費用対効果だ

展示会がビジネスになる理由について簡単に説明しよう。
展示会の出展料は、3.3㎡あたりおおむね30万円~40万円台。しかし、これだけではすまない。
基礎的な小間だけでは見るからに貧弱だ。 だから、まず装飾のための費用がかかる。これはやりようなのだが、出展料と同額以上はかかると考えていいだろう。こじゃれたブースを作るとなると100万円以上は覚悟しなければならない。
さらに、商品を運び込む費用がかかる。加えて、見えないコストとして、アテンドする従業員の人件費がかかる。
例えば、ギフトショーに年2回出展するとして300万円。ということは、300万円以上の利益が生み出されなければ、出展する意味がない。
ところで、腕のいい営業マンを雇うとなると、その人件費は600万、700万円を越えるだろう。彼が自分の人件費に見合うだけの商談をまとめるとすると、それこそ数千万の実績が必要だ。
今の時代に、個人の実力でそこまでの成果が残せるだろうか?

優秀な営業マンの採用を見送り、代わりにギフトショー年2回の出展するとする。引き合いがあり1千万円くらいの商談が成立し、結果として300万円の利益が出たと仮定しよう。
コスト300万円、利益300万円で、プラスマイナスはゼロになるが、リスクは生じない。商談が成立しなくても、少なくとも会社のPRにはなる。
つまり、そのどっちを選ぶかになる。

そして、ギフトショーは今でも毎年2回開催されており、大阪でも開催されるし、海外への進出も始めている。
「ビッグサイトは手狭だ」という主催者のひとつだ。

営業が飛び込みで顧客を探すより、展示会は効率がいい。そもそも来場者はそこに出ている商品に興味があるから来るのだから。
会社経営のコストとして、人件費ほど高いものはない。
つまり、そういうことだ。


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