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東京ビッグサイト誕生秘話

東京ビッグサイト誕生秘話

“秘話”とつけましたが、いわゆる暴露話ではありません。裏方の苦労話です
めったにない大プロジェクトについて、後進の参考にと作りました。
すでに四半世紀が過ぎていますので、記憶違いもあると思います。主観も入っています。

展示場のレストラン経営はギャンブルに似ている


▼ 展示場でレストランを影響する醍醐味

有明で建設工事が佳境を迎えていた頃、晴海では場内レストランの業者選定が進んでいた。
国際展示場のレストランは「躯体(くたい)渡し」という形で業者に提供されることになっていた。 躯体渡しとは、レストランの内装、設備、その他一式を営業するレストラン側に任せるという方法である。
役所が施設のレストランを業者委託する場合は、内装や設備を揃えた上で企業誘致することが多い。
会社としても、その方が初期投資が少なくてすむ。営業がうまくいかなければ、出て行けばいい。
しかし、展示会場のレストラン運営は、なかなか難しい。「儲からないからポィ」とやられたのではかなわない。 「違約金を取ればいい」ってもんでもない。会場自体は運営が続いているわけだから、簡単に出て行ってもらっては困る。
うまく儲からないなら、儲かる努力をしてほしい。だから、レストラン側にも一定の責任を求めた。これが、躯体渡しとした理由だ。
内装段階から、各店舗の独自色を出して、魅力あるレストランにしてもらいたい。 だから、早い段階でレストランの公募が行われた。

展示場の来場者はビジネスマンだ。そもそも食事にあまりこだわってはいない。
晴海会場の時は「そろそろ昼食にしようと思って立ち止まった所から一番近い店に入る」と言われていた。
レストラン側も回転率を上げて、どんどん流れ作業のように処理する方が儲かる。
これでは、営業努力をしなくなる。縁日の屋台と変わらなくなる。

レストランには、顧客席に従業員が注文を取りに来てくれて、食事も運んでくれるフルサービスのやり方と、 顧客が、主食、副食、飲み物を一品ずつ選んで会計を済ませてから席に着くというキャフェテリア方式がある。 当然、後者の方が回転が良い。
しかし、グレードアップを目指す新展示場は「飯が食えればいい」というレベルから脱しようとしていた。
レストランの種類もいろいろあった方がよいと考えられた。

また、レストランを営業する以上、会場側も幾ばくかの利用料を徴収する。
一般的には、利用する店舗面積に応じた家賃を徴収する。また、光熱水費も実費を徴収する。
国際展示場の場合は、面積とは関係なく、各店舗の売上に応じたロイヤリティーを徴収する方法をとった(光熱水費は実費徴収)。
さらに、各店舗のやる気を引き出すために、その率も売上が増えればロイヤリティーの比率は逆に逓減するという方法にした。
「がんばって、営業してください」ということだ。

「レストランの食事が高い。それに冷凍食品を使っている。ウチではあんな値段でこんな料理と出していない」という苦情電話が入った。
私はお客様にご理解いただくために、「展示場は繁閑の差が大きく、それを踏まえてレストランは経営しなくては生き残れないんですよ」と説明した。
外では、ホテル・レストランショーが開催されていた。
そりゃ、都心の繁盛店から見りゃ、そうなんでしょうけれども・・・。

とはいえ、四半世紀前の開業時と比べると、ほとんどのレストランが入れ替わっている。
私たちが目指したことみが、うまく達成できたかどうかは、疑問だ。
やはり、ビジネスマンの食事は、立ち止まった所に左右されるのかもしれない。
現在でも開業時から変わっていない顔ぶれは、コンコース下にあるレストラン街のカフェテリアマーメイド、日比谷マツモトロー、東棟のロイヤルキャフェテリアだけになった。
なので、ほかのレストランについては、よく知らない

場所開業時のレストラン現在(2018.8)のレストラン
1階会議棟下ニュートーキョーEat iT!
コンコースレストラン街日東紅茶ザ・ビッグラウンジ
マーメイド      
直久スターバックス
あるふぁマーケット和食屋
日比谷マツモトロー      
入り口前イベントプラザCAFFE FRESCOタリーズコーヒー
8階展望レストランJW's California Grillアルポルト
東棟天丼や トップライト東京ベイキッチン
ヴォワール築地食堂 源ちゃん
ロイヤルキャフェテリア      
カレー王国カレーショップC&Cダイニング
シーサイドありあけ香港飲茶楼 ル・パルク
エントランスホールクリスタルラウンジプロント
西展示場2階アトリウムラウンジカフェテラス ロイヤル

マーメイドは、晴海会場隣りのホテルマリナーズコートが経営している。
開業して間もない頃、マーメイドの店長は、こんな話をしてくれた。

当時は臨海部に住宅もまだ無かった。だから、住んでいる人もいないので、従業員の確保もたいへんだ。
「昼の間だけ2時間くらいパートでというわけにもいかなくて、雇うんだったら1日になってしまいます。それだけ人件費も多く出て行きます。」

「こっち(有明)に来てどうですか?」と私はマツモトローの店長に聞いた。「晴海と比べりゃ天国ですよ」と言う。
晴海の見本市会場で、マツモトローはドーム館(東館)の“内側”に店を持っていた。つまり、ドーム館が稼働しないと、その日の収入はゼロなのである。 東京ビッグサイトには、そういう日はない。

もう無くなってしまった店だが、東棟にヴォワールというレストランがあった。ここも晴海からの移転組だ。
ある展示会で、ヴォワールが店先にお弁当を山積みに出していた。それが飛ぶように売れた。店長は、その展示会では弁当がたくさん出る、というのを経験的に知っていたのだ。
ほかの店は、これを見てどこも2日目に、たくさんの弁当を用意した。しかし、さすがにほとんど全部のレストランが出したので、2日目は売れ残りが出た。
ところがだ、ヴォワールは2日目、弁当をあまり売らなかった。ほかのたくさんの店舗が弁当を出すだろうと、店長は読んでいたのだ。
「これだから、展示場のレストランはやめられない」と、店長は呟いた。
展示場という特殊な場での営業に、うまく対応できた店が、最終的には生き残っていったように思える。

その後、各店長から私に「入場者予測を作ってくれ」と要望が来た。そんなこと言われたって、私だってただの役人なんだけど・・・。
仕方なしに、入場者予想を作って事前に出したが、幸いなことに、そんなにハズレることはなかった。 混みそうな展示会は1ホール6,000人、普通の展示会は3,000~4,000人、集客力の低そうな展示会は2,000~3,000人と見込むと、だいたい合っていた。
各ホールの入り口には入場者数を計測するセンサーがある。人の形を認識してカウントするという。しかし、実際には、同じイベントで出入り口は複数あるし、 同じ来場者が複数の入り口を出入りすることもある。スタッフの入退室もカウントされてしまう。だがら、精度的にはアバウトだ。
とはいえ、参考数字にはなる。
それに、グッドデザイン大賞の審査会が3ホール使ったからといって、来場者がたくさん来るわけではないことも、わかる。そういうものは「少ない」と記載した。
ただし、コミックマーケットのように、ものすごくたくさん来るけれど、引けるのが早いものもある。そこのところはなかなか判別しにくい。
やはり、展示場でのレストラン経営には博打の勘が必要なのかもしれない。

▼ 昔ながらの食券はやめよう

レストラン募集に対しては、かなりの応募があった。しかし、希望者が来ない場所もあった。東の一番奥はさすがに遠いと敬遠された。 今は、香港飲茶楼ル・パルクという中華料理屋になっている。
当時は、希望者がいないからといって躯体のままにしておくことはできなかった。それに工事関係者が食事をする場所もない。
そこで、このレストランは東京国際見本市協会が子会社を作って経営させることにした。
実際の運営は、M室長のお願いでコルドンブルーというレストランが担当することになった。

店舗の名称案の募集が協会職員に対してあった。 フランス語ができる部下がいたので「フランス語で“虹”は何て言うの?」と聞くと、「アルカンシェル(arc-en-ciel)」です答えた。 「空に架ける橋」といった意味らしい。それで、私は「アルカンシェル」という名前を提案した。
レインボーブリッジを越えてくるから、それにちなんだ名前だ。
しかし、それは採用されず、「シーサイドありあけ」という名前に決まった。
「L'Arc-en-ciel」という名のグループが世に出て、ものすごい人気になるのは、そのわずか数か月後のことである。惜しいことした。 いいとこ行ってたのになぁ。
ちなみに、ラルカンシェルの大規模なイベントが、平成11(1999)年の大晦日に臨海副都心で行われている。

レストランに関しては、晴海時代は「食券」というのが、たくさん出回っていた。主催者が発行し、得意先に配ったものだ。
しかし、さすがに「食券」は時代遅れだろう、という話があり、プリペイドカードを展示場側が発行することになった。
今でも「ビッグサイトカード」は使われていると思う。正直、あまり成功しているとは思えない。
金券を出すというのは、思った以上にたいへんだった。さらに、金券を出すためには、未使用額に応じその2分の1の額を国に供託する必要がある。 つまり、それだけ「死蔵される財産」が発生するのだ。その分だけ、事業のうま味はなくなる。 加えてプリペイドカードを読み取る機械の設置と、従業員の対応が必要だ。

都庁では職員向けに館内食堂のプリペイドカードが発行されていた。
職員にとっては、一般客に比べて割引があるということだけではなく、支払が簡便というメリットがあるのでありがたかった。
また、頻繁に利用される食堂だから無駄になることも少ない。
しかし、1年に1回か2回しか利用しない展示場の利用客だと、割引があってもたいがい未使用金額が発生するし、どれほどのメリットがあったかどうかは疑問だ。
けれど、プリペイドカードを出すことによって、展示場の「食券」は一掃された。


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