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東京ビッグサイト誕生秘話

東京ビッグサイト誕生秘話

“秘話”とつけましたが、いわゆる暴露話ではありません。裏方の苦労話です
めったにない大プロジェクトについて、後進の参考にと作りました。
すでに四半世紀が過ぎていますので、記憶違いもあると思います。主観も入っています。

産みの苦しみもビッグだった愛称選考


▼ ブランド戦略の甘さが露呈

見本市協会での私の大きな仕事として、国際展示場のシンボルマークと愛称の選考事務局というのがあった。
この2つは同時に開始されたが、愛称の方が一般公募で手間ひまがかかったため、シンボルマークが先行した。
シンボルマークの選考は都庁側が中心となって進められた。 選考委員の中には、「歴史に残る施設のシンボルマークだから、選考委員をやるよりも私が応募したいよ」とおっしゃっている方もいた。
公募には若手のデザイナー、クリエイターが何人か応募し、 選考の結果、「オリンピックと同じ色の丸い玉がぴょんぴょん跳ねている」というデザインに決定した。
シンプルでなかなか良いデザインだと感じた。
作者は当時バリバリに活躍されているクリエイターであり、今でも業界トップの重鎮となっている。

しかし、このシンボルマークが表に出ることは、ほとんどなかった。
作者から「後に決まった“東京ビッグサイト”という愛称といっしょに使ってほしくない」とクレームがついたからだ。 もちろん、セットで使うことは事前に説明してある。当時は、「何てワガママなデザイナーなんだ」と思った。
しかし、よくよく考えると、こちらのコンセプト作りが甘かったとも、反省する。 愛称の方が先に決まっていたら、別の結果になっていたかもしれない。
いずれにせよ、愛称は使わなければならないので、シンボルマークは引っ込む形になった。
東京ビッグサイトには、待ち合わせの目印として、赤、青、緑の大きな玉が置かれている。
シンボルマークの名残りである。

▼ 東京メッセにはできない。だが“東京”の2文字はブランドとして光っていた

愛称の方は、見本市協会の主導で進んだ。これが、滅茶苦茶大変だった。
ネーミングライツというのもあるが、展示場には使えない。いろいろな会社の商品が集まるからだ。 日立や東芝の製品が展示される会場をパナソニックセンターと呼称することはできない。
そこで、最初から愛称を付けることが考えられていた。
選考委員には以下の方をお願いした。
 委員長 (社)東京玩具国際見本市協会 専務理事 岡野泰三氏
 副委員長 (株)アイシーエス企画 常務取締役 大工原紀久雄氏
 委員 コピーライター 仲畑貴志氏
 委員 (株)佐藤総合計画 常務取締役 細田雅春氏
そのほかに、(社)東京国際見本市協会事務局長と、東京都労働経済局商工部計画部長が委員として加わった。
事務局は広告代理店の旭通信社にお願いした。

まず、プレス発表し、東京都の広報に掲載し、募集のチラシも作って周知を図った。これはスタンダードな流れである。 しかし、あまり効き目はなかった。 1,000件にも達しなかったし、応募内容も、あまりパッとしたものが見当たらなかった。

この頃、東京都の行う愛称募集は失敗例が多い。
少し前に、臨海副都心の愛称を募集することになった。 東京都は「東京テレポートの愛称募集」としてPRを展開し、そして、1,000通を越える応募作の中から決まった名前が「東京テレポートタウン」だった。
これには、鈴木知事も怒ったらしい。そこで、出直しの再募集となった。 結果、「レインボータウン」の名前に落ち着いた。今では誰も覚えてはいまい。

私は心配になって、アサツーの担当に「大丈夫か」と聞いた。「最後に懸賞公募の専門雑誌に載りますから、それを待ちましょう」ということだった。
確か賞金は20万円で、建設に1,900億円もかかる展示場にしちゃ安すぎると思った。
しかし、懸賞雑誌に載った途端、滅茶苦茶ハガキが来た。
最終応募数は6,432通に達した。

応募数が一番多かったのが「東京メッセ」だ。さすがにこの名前は使えない。だがこのことで、私たちは「東京」というのが、なかなかのブランドなんだな、と気づいた。
千葉県なのに“東京”ディズニーランドがある。しかし、同じ千葉県なのに、展示場は“幕張”メッセだ。 東京の文字は冠にできなかった。なぜなら晴海に“東京”国際見本市会場があったからだ。
「だったら、愛称には“東京”の文字を入れたいな」と私たちは思った。

▼ 「祭都」転じて、東京ビッグサイトになる

さて、目の前の6,432件の応募だが、まず、事務局である旭通信社がこれを一覧表にまとめた(御苦労さま)。
リストを私たちが自宅に持ち帰り、目を通した。目を通すだけでも1日中かかり、日曜日が潰れた。そして、重複する部分と、明らかに使えない名称を除いた。
スラングチェックもすることになった。展示会は“exhibition”、会議は“convention”だから、両方の頭を取ると“ex-con”となる。これは「前科者」という意味になる。 ありがちな「アス〇〇〇〇」というのも、応募には多かったが、同じ理由で避けることにした。
週明けに、これを持ち寄り、最終的に200件のリストに絞り上げた。
この200件を選考委員に手渡し、各委員20件ずつ候補作をあげてもらった。それでも、6人合わせれば数十件になる。
これを会議の席で配布し、投票してもらい、最終的に上位20件に絞り込んだ。

さらにそれを商標調査にかけた。建物の場合は商標とは関係ないのだが、その名前を使って商品を作るかもしれない。顧客向けの商品開発も私たちの仕事だった。
例えば、衣料品(実際にトレーナーとかTシャツを作った)、文房具とか、お菓子とかが考えられる。たしか5つほどの分野で商標を取ったはずだ。
keychain
実際に私たちが作ったキーホルダー

商標調査の結果、10件が落ちた。審査員の支持を一番多く集めた名前は、衣料品の分野で他の会社が商標を押さえていた。 都庁が名前を使わせてくれと会社と交渉したが、「大切なブランド名ですから」と企業側は譲らなかったという。 都庁の担当者は「バタ臭い名前でもしょうがないか・・・」と、ぼやいた。

つまり、東京ビッグサイトは、応募が一番多かった名前でも、選考委員の支持が一番多かった名前でもなかった、ということだ。
そして、商標調査に引っかからなかった中で一番審査員の票が多かったのが、ハガキに「彩都または祭都」と書かれた応募作だった。「サイト」と読むとの注釈がついていた。
作者は、神奈川県逗子市在住の主婦だった。だから、東京ビッグサイトは、東京以外に住む人が付けた名前ということになる。
この名を推したのは、(株)佐藤総合計画の細田常務だった。 「世界都市博の会場ということが、設計のコンセプトとしてある。祭の都というのはそれに合っている」というご意見だった。

ただ、単なる「サイト」では、展示場の固有名詞らしくない。そこで、さらに事務局で検討を進めた。
巨大な展示場なんだから“ビッグ”をつけよう、そして“東京”を冠にしたい。そんなことで、関係者の了解を取り、最終的には鈴木俊一東京都知事の判断で決定した。
ようやく「東京ビッグサイト」の愛称が生まれた。

そして、横文字にするときに、TOKYO BIG SIGHTにした。 会場という意味なら正しくは“site”を使うところだが、大勢の人々が見に来るところだという意味で“sight”を使った。
新しい展望を開くという意味でもいい名前だなと思った。スラングチェックもしたが、「大した見物だ」ぐらいの言い回しはあるけれど、さほど悪いウラの意味はない。
だが、これについては、見本市協会の職員から「こんな間違った名前を付けて、外国の人に恥ずかしい」と、クレームをつけられた。 見本市のスタッフは語学に堪能で、外国人と話す機会も多い。
確かに違っているが、固有名詞なんだからこれで行くと押し切った。
後に、外国人が来た時、私が「“SIGHT”は、Super Innovated Gigantic High-tec Tradespaceの略なんです」と説明したら、皆、納得していた。

「会議棟8階の国際会議場にも名前を付けましょう」という話があった。しかし、内部で検討してもいい名前が出てこなかった。やはり役人の発想じゃ無理だ。
東京ビッグサイトの名前が決まった頃、東京臨海新交通(株)でも愛称を付けるかどうか検討が進んでいた。担当が社長(元副知事)に「公募しますか?」とお伺いを立てると、 社長はひと言、「“ゆりかもめ”しか、ないだろ!」と言ったそうな。
これほどピッタリした名前はない。その後、社名まで(株)ゆりかもめになった。

対する臨海副都心線も、いい愛称がほしいということで、名前を公募した。結果“りんかい線”になった。
名前は、その後のブランド戦略にとってとても大切なところなんだが、実際に付けるのは難しい。


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