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東京ビッグサイト誕生秘話

東京ビッグサイト誕生秘話

“秘話”とつけましたが、いわゆる暴露話ではありません。裏方の苦労話です
めったにない大プロジェクトについて、後進の参考にと作りました。
すでに四半世紀が過ぎていますので、記憶違いもあると思います。主観も入っています。

公衆電話、無用!


▼ 情報革命の渦中に

部下のTさんから報告があった。「NTTが予定の数の公衆電話をつけてくれません」 「理由を聞いた?」「何も話してくれません」
このままでは、公衆電話の前に長い列ができる。
国際展示場には、たくさんの電話コーナーが用意されていた。そのほかにも、通路などに公衆電話を置く、クリスタルの洒落た電話テーブルもあった。
意味不明なNTTの動きは、その時にはわからなかった。公衆電話を国際展示場の中に置けば、けっこうな収益になるはずだ。
だが、その後、その理由がはっきりしていく。
東京ビッグサイトが稼働してから、しばらくすると、偽造テレカがたくさん発見されるようになった。だけど、本当の理由は別にある。

東京ビッグサイトが、新商品の展示場としてオープンした当初、目玉商品となったのは携帯電話だ。時代は、そういう段階に移っていた。

オープン直前、私たちのところへ、出展社がまとまってお願い事に来た。
彼らは、新製品としてPHS(ピッチ、Personal Handy phone System)を販売していた。そのころ、携帯電話とPHSは厳しい販売合戦を続けていた。
PHSは電波が弱い。だから、90m四方の1ホールをすべてカバーできない。そのため、ホール内に何個かの中継ボックスの設置が必要になる。
ところが、展示場の建設を仕切っている財務局の担当がその設置を許さない、というのだ。
展示場がオープンすると携帯電話とPHSがブースに並ぶ。 来場者が手に取ったときに、携帯を使えば通じるのにPHSは「ここでは通じないんです・・・」というのでは、商売にならない。 そういうことだった。

当方から工事担当に打診したが「見本市協会に引き渡すまでは、新たな設備の設置はまかりならぬ」という返答。
「だったら、引き渡された後だったら、いいのですね」と、こちらもけんか腰で答えた。
会場の引渡しから、展示場のオープンまでは数日ほどしかなかったが、その間にPHSの中継装置を設置してもらった。当方は、お客様第一なのだ。

東京ビッグサイトのオープンの頃は、そういった情報機器の大きな変革期だった。NTTもそれを察知していたのだ。 しかし立場上、「これからは公衆電話がいらない時代が来る」とは言えない。

現在では、東京ビッグサイトに、公衆電話はほとんど設置されていない。誰もが、スマホやガラケーで通信をしている。だから、困らない。

▼ 時代に追い越されていく現実

国際展示場は、敷地が24万㎡もある。会場面積も8万㎡だ。だから、職員が会場内の巡回に出てしまうと、どこにいるのかわからない。 このため私たちは、構内専用の携帯電話を持たされた。
その仕組みはPHSとまったく同じだ。つまり、東京都は国際展示場にだけ利用できるPHSを、膨大な費用を負担して企業に開発させてしまったことになる。
当然、その技術は、企業の商品開発に応用されているはず(だと思う)。 とすれば、東京都は開発経費を肩代わりさせられたとも言えなくもないが、事実はわからない。

私はこれまで、中小企業の新製品開発のための補助金交付の仕事をしてきた。中小企業は経済基盤が弱い、だから補助金をあてにして新製品開発を行う。
ところが、社会の動きが速いと、その会社が試作品を開発する前に大手が同じものを商品化してしまう。
そうなってしまうと、補助対象となった中小企業は勝てない。そればかりか、開発経費の自己負担分(たいがいは2分の1)が重くのしかかる。 場合によっては、企業経営にとって致命傷になる。
そう考えると、東京都から受託した事業のノウハウを活かして、自社の製品開発を進める企業があっても、それはそれで、いいような気がする。

当時、展示会場を巡回していて、初めて薄型テレビを見た。厚みは10数cm、1mくらいの幅だった。すごい!
「このテレビ、発売はいつですか」と聞くと、「まだ未定です」とのこと。
「市販価格はいくらぐらいになりますかね」「まだ決まっていないんですけど、車1台くらいの値段でしょうね」 「それじゃ、私にゃ一生買えませんよ」てな、やり取りをしたが、ところがどっこい、それからどんどん安くなった。
今、わが家にはそれと同じくらいのテレビが鎮座している。14万円で買った。それが四半世紀の時の流れだ。


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