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東京ビッグサイト誕生秘話

東京ビッグサイト誕生秘話

“秘話”とつけましたが、いわゆる暴露話ではありません。裏方の苦労話です
めったにない大プロジェクトについて、後進の参考にと作りました。
すでに四半世紀が過ぎていますので、記憶違いもあると思います。主観も入っています。

まぼろしの入場管理システム


▼ できることと、やるべきことは違う

展示場に入場管理システムを設置しろというのが、東京都のオーダーにあった。
今、展示会によっては、入り口でバーコードを“ピッ”とやるのがある。あれだ。 ただし東京都のオーダーは、もっと大規模なものだった。
展示場全体にLANのネットワークを張る。
そして、見本市協会の事務室に高性能コンピュータを設置する。
そして、入場ゲートを設ける。そこでの入力方法は定められていなかった。バーコードが一般的だが、電車の改札のようにカードを通すゲート方式でもよかった。 それ以外も考えられた。例えば、その頃話題のRFIDを活用したものだ。
そして、来場者のデータは、LANのネットワークを通じて、見本市協会のコンピュータに蓄積される。
その仕組みを考えてくれと言われた。

しかし、そうして蓄積されたデータを誰が何のために使うのかというところは、まったく考えられていなかった。 そういったモノができるらしいから作れというのが、いかにもバブル的な思考である。
私たちは会議の度に悩んだ。

たしかに、世界都市博のような全体が1つのイベントだったら集中管理もいい。しかし、同じ日に複数の展示会が開催される場合、集中管理は意味がない。
また、いかに高性能とはいえ、当時のコンピュータに、それほど膨大なデータを瞬時に処理する能力があるとは、思えない。 高性能といっても四半世紀前のことだから、今のパソコン並だったはずだ。
膨大な数の入場者をさばききるだけのレスポンス能力は得られなかっただろう。

さらに、個人データの管理の問題が生じる。それが流出したら、会場として責任を問われる。
実際、私は展示会に行く際に事前登録を毎回やっているが、いろんなところから、メールが来るようになる。教えてもいないのに、自宅に勧誘電話がかかる。 つまり、個人情報は漏れているということだ。たいした「個人」ではないから、いいけど。

そして、ここんところが極めつけなのだが、「主催者は来場者のリストを会場側に渡したくない」。
どこの誰が展示会に来ているかは、主催者に取って重要なデータなのだ。
来場者データを会場側が持っていたって、単なる統計データとしての利用価値しかない。 しかし、主催者にとって、また、出展社にとっては、ひじょうに重要な情報ということになる。だから、名刺を集めたがる。

結論は簡単、「そんなシステムいらない」。しかし、それでは東京都の命に背く。
最終的に、場内LANの点検だけでも膨大な金額がかかるとわかって、さすがの東京都も納得し中止された。

▼ 人命に勝るものなし

後日、私が見本市の事務局の図面を見ていると、不思議な部屋を見つけた。「CO2室」と書かれている。コンピュータールームの横にあった。 技術スタッフに「この部屋は何のためにあるのか?」と尋ねた。
「コンピュータ室には、ひじょうに高価なマシンが設置されます。火災が起こると、高額な機材に被害が出る心配があります。 そこで、隣りに二酸化炭素のボンベを置いて、いざという時にコンピュータ室に二酸化炭素を流し、火災を消します」
「それで、コンピュータの部屋に人が居たら、どうなるの」「死にます」
即、CO2室は廃止した。貴重な倉庫が増えたと、皆が喜んだ。

国際展示場という巨大施設が建設されることになって、たくさんのメーカーが、「あれもできる、これもできる」と都庁に殺到したものと思われる。
その中には、実態と乖離したものも、たぶんたくさんあったはずだ。
ところが、都庁の中枢技術陣は、現場から離れてしまっていて、その仕分けができない。 だから、技術的にできそうなことはすべてやる、というプランになっていたものと思われる。

さらに不幸なのは、そのときの相談相手が見本市協会だったことだ。
見本市協会は、会場管理の専門家ではなく、一主催者にすぎない。主催者単位でやって欲しいものがあれば「お願いします」ということになる。 しかも都庁の外郭団体だ。「都庁の決めたことですから・・・」と、反論をためらう人が多かった。

今日、各主催者は個別に入場管理をやっている。
ホールの入場口で、首から下げたフォルダーのバーコードを「ピッ」とされることが多い。
その意味では、入場管理システムの設置というのは、間違いではなかった。ただ、会場側で集中管理するというのが、間違いだったのだ。

▼ 地球防衛に貢献

都庁からのオーダーで「テレビ会議ができる会議室の設置」というのもあった。しかし「設備にたいへんな費用がかかるのに、利用されない」という情報が来た。
今でこそパソコン通信は簡単にできるが、当時はそれこそ“放送設備”と同格レベルである。

そこで、私たちは調査会社を実態把握を依頼した。 同時に、テレビ会議室を有する他の施設に話を聞きにも行った。
たしかに、ほとんど実績は出ていない。 しかし、作らないと都庁の命に背くことになる。

そこで一計を案じ、「機材を持ち込めばテレビ会議もできる会議室」を作ることにした。 V字型のテーブルを特注し、隣りにブースを作り、そこに放送機材を持ち込めば、テレビ会議ができる。
費用は当然、利用者の負担になる。

その後、ウルトラマンシリーズで地球防衛軍の会議室として使われているのを見た。間違いなく、放送機材を持ち込めばテレビ会議ができることが確認できた。

ついでだが、会議室で使う灰皿は、私が購入した。
盗む人がいるかもしれない。だから、持ち帰るにはちょっと重くて、あまり高価でなく、ごくごく普通のものを選んだ。
「ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS」という映画で、自衛隊幹部がタバコを消すシーンで映る。感動。
そして次のシーンで市ヶ谷の自衛隊の入り口へ。うまく繋げるものだなぁ、と二度感動した。


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