案内表示不足で、来場者は右往左往
▼ 問題点:柔軟な運用には人手がかかる
「役所の施設では、しばしば場内サインで問題が起こる。しっかりしたサイン計画を作ってくれ」と、都庁から言われた。
だが、やっぱり開業直後は、道に迷う人がたくさん出た。
東京ビッグサイトの展示ホールは大きく東と西に分かれている。それに会議室も上のピラミッドの中と地下に分離している。
展示場内にセミナー会場が設けられることもある。初めて来た人には、わかりにくい。
場内案内には最新鋭の情報設備が活用されることになっていた。
これらには相当は費用がかかったはずだ。
まず、入り口横にその日のイベントなどを映し出す通称「大画面」がある。「ビッグサイトヴィジョンと名前を付けようか」という話もあった。
もっと高い位置に立ち上げられれば目立ったのだが、広告規制に引っかかるため、あれが限度だった。
あの大画面には動画も映せる。しかし、コントロールする内部機器側には、同一の静止画を繰り返し放送する機能しかなかった。
「いろんな番組が放映できるのだから、そのように改修してほしい」と、私にオーダーが来た。
そこで、機種選定のための会議を作り、業者にプレゼンをしてもらい、放送装置を入れ換えた。
“予め”プログラムしておけば、いろいろな映像が映し出せるようになった。
「お金を取って企業のコマーシャルを映そう」という話が出た。しかし、いったいいくらの放映料を取ればいいのか、まったくわからない。
そうこうしているうちに、画面が部分的に黒く欠けるようになってきた。直射日光の熱で劣化したらしい。根本から入れ替えることになった。今は問題なく映っている。
そして、そのときになって気づいた。「お客さんはこの画面を見ていない」
展示会に来る来場者は“目的意識が明確”である。だから、入り口前に立ち止まって画面を観賞するような人はいない。
そして、毎日のように放映する内容を差し替えるとなると、それを行う職員を配置する必要がある。外部の専門家に頼むとなると、その人件費もかなりの額になる。
採算の合う使用料を取れば、かなり法外な金額にならざるを得ない。だったら、同じ静止画を繰り返し流しておけばよいではないか、ということに落ち着いている。
さんざん苦労して、元に戻ったわけだ。
▼ 問題点:表示画面は直射日光で見えない
エントランスを入ると正面に、大きな電光掲示板があった。外の大画面とは別システムで、ここに表示する文字もコントロールすることになっていた。
「←東展示場」「西展示場→」という文字が、交互に表示されていた。
しかし、エントランスはガラス屋根で、直射日光が降り注ぐ。よく見えない。
今日のような、鮮明なデジタルサイネージがあればよかったのだが、当時は「電光掲示」が精一杯だった。
しかも、大きすぎたため、むしろ来場者は意識して注目しない。
これも、やがて運用を止め、長いこと紙の広告表示塔になっていた。
最近になり、背丈が低くなって、デジタルサイネージ化された。
場内のあちこちと、東棟への渡り廊下には、その日の開催事業などを案内する小型モニターが設置された。
当時だからブラウン管のテレビと同じだ。これがまた、まったく見えなかった。やはり、日光の光の中ではダメダメだった。
しかも、画面が小さく、したがって文字が小さく、歩きながら目にする来場者には視認できなかった。
間もなく、これも取り外された。今は、縦置きのデジタルサイネージに変わっている。
各ホールの入り口には、白黒の文字ベースではあるが、開催されている展示会の名称を出す電子表示版が設置される予定だった。
結婚式場などでよく見かける「〇〇家控え室」と表示されるものと同じ方式で、高さ1.5mくらいの大型版だった。
この表示版は、主催者事務室が遠隔操作で出す文字が変えられるようになっていた。当然、有料になる。
私は技術担当に尋ねた。「もし、主催者事務室から『爆弾を仕掛けたという予告電話がありました』という表示が出されたらどうなるのでしょう?」
実際に展示会が開催されると、よくご存じように、「〇〇EXPO」「〇〇展」といった、大きな看板が入り口にかかる。
小さな電子表示版じゃ役に立たないことは明らかだ。
だから、これについては当初から使われなかった。
▼ 問題点:東京都が案内板設置を許可しない
鳴り物入りの場内案内機器があまり役に立たないとわかったので、協会側は、大きな文字による案内看板を出すことを考えた。
ところが都は、それを許可しない。建物に何かを作り付けるためには、東京都の許可が必要だった。
都は「設計上のコンセプトと違う」という。
「非常口」という表示さえ出すなと言うくらいだった。非常口は壁と一体化していて表示を出さないとわからない。さすがに最後は当方が押し切った。どうかしてる。
私は、こう勘ぐっている。役所としては、新会場はすべて電子案内で来場者を誘導する、それを前提として、大きな予算がついた。
しかし、見本市協会なんぞに古くさい案内板や看板類をたくさん出されては「自慢の電子案内が役に立たなかった」と言われるのも同じだ(実際、そうなんだが)。
そうなると、自分たちの失点になる。だから、認めない。
しかし、案内がよくわからないので、来場者は困っていた。
「どっちに行けばいいのかわからない」という苦情が、たくさん寄せられた。
実際のところ、「道案内がよくわからない」という苦情はいっぱい来た。
私たちは、エントランスに「総合案内窓口」を設けて、人力で案内をすることになった。
さらに、主催者へ貸し出すキャスター付きの大型掲示板をいくつも作った。
看板を直接壁に取り付けるのがダメというなら「これではどうか」と、急場をしのぐため、柱に「東」「西」と書いた布を巻いた(俗に“腰巻き広告”と呼ばれるもの)。
「レストラン街」の入り口にも、「営業中」の看板を出した。
矢印型の案内表示も作ったが、これは目立たなかった。なんせ、会場が大きすぎた。小さい表示は目につかない。
今ではあちこちに案内版が出ている。展示場内にも、ピクトグラムが大きく貼られている。最初からそうして欲しかった。
追補:2019年2月に場内案内の大幅な手直しが行われ、内照式の表示版が設置された。
▼ 問題点:臨海部の広告規制が厳格すぎる
場内だけでなく、臨海部全体の案内も不足していた。厳しい広告規制がかかっていたからだ。
私たちは、外の街路灯に「東京ビッグサイトはあちら→」といった案内表示を出そうとしたが、許可してもらえなかった。
「それは道案内ではなく、広告だ」と言われた。すでに臨海開発に黒雲が立ち始め、別のセクションでは売り込みに躍起になっていた時期なのに、ではある。
「だって、繁華街には捨て看板がたくさん出ているじゃないですか」と聞くと、
「あそこは看板を出してはいけないところだから取り締まるのは警察。臨海は広告を出してもいい場所だから、許可するのは私たち」との返答だった。いかにも役所らしい。
「広告は景観の美しさを汚す悪」と考えられていたようだ。
当時はラッピングバスというのが出始めた頃だが、これにも「文字は入れるな」「目立つ色は使うな」「注目を集めるような表示はやめろ」といった規制がかけられていた。
お金を出してラッピング広告を載せること自体、注目してもらいたいからなのに・・・。
山梨県を走る列車を都内で修理させようとしたら待ったがかかったことがある。客車の側面にブドウ狩りの絵が貼りだしてあったからだ。
広告規制の厳しさに、臨海に進出してきた他の企業も困っていた。内部照明を使った看板はダメということなので、外部に照明を突きだして看板を照らすという方法がとられた。
外部に看板を出せないので、ビルの窓の内側に会社名を大きく貼って看板代わりにした会社も多かった。
フジテレビに至っては観光船に大きな目玉のマークを積んで周辺を回遊させたりしていた。
その後、川崎の藤子不二雄ミュージアムが開業した折にも、都内を走る電車の外部にシール広告をつけようとしたら待ったがかかった。
この時には、都議会でも「やりすぎでは」と問題になる。
担当部署は「許可します」と意思決定を覆し、ミュージアム側に謝罪したが、「もう頼まん!」と、先様はカンカンな様子だったとの話である。
今、山手線などは、しばしばアニメのキャラクターを貼って走っている。「ヨドバシカメラ」と書いたラッピングバスも走っている。
会議棟には「TOKYO BIG SIGHT」の文字が入るようになった。あれも当時なら許可してもらえなかった。
臨海部にもたくさん広告が出ている。
こういうことができるようになったのも、ドラえもんのおかげなのだ。