金魚じゃないよ、ノコギリだよ
▼ 大地を切るのこぎり
ゆりかもめの駅が展示場に行く途中に、大きなノコギリのアートがある。
あれの本当の名前は“Saw,Sawing”(切っているノコギリ)という。
東京都では、建物を建設する際には、その建設経費の一部をアート作品にまわすということが行われていた。
このため、東京ビッグサイトに、いくつかのアート作品がある。
あのノコギリの作者は、オルデンバーグというアメリカの芸術家で、何でも大きくしてしまうという作風がある。
シカゴには、電柱よりはるかに大きい「野球のバット」などを置いたりしていた。
東京都が、作者に展示場のアートをお願いしたところ、最初は「大きなゴルフクラブ」という案が出てきたそうだ。
しかし、展示場は物販会場ではないので、これを再考していただいた。
その際「いろいろなモノを作る道具が展示されます」と伝えたところ、ノコギリになった。しかも、西洋ノコギリだ。
新木場の人たちは「自分たちの地元が近いからノコギリにしてくれたのだな」と思っていた。
小さな子どもは、ノコギリを見て「金魚!」と言っていた。
勘違いでも大歓迎だ。
都市博中止の折、私たちは「何でもいいから注目されること」をしようとしていた。
ある時、ノコギリを使った演奏をしている方から、あのノコギリの前で演奏させてくれ、という話があったので、これを許可した。
だが、ノコギリで弾く音楽は、例えば幽霊の登場場面に使われるような音で、関係者から「辛気くさいから止めさせてくれ」と言われた。
その頃は、どんなことで話題になりそうなら、飛びついた。しかたがない。
今でも、ノコギリは大地を切っている。アートなので補修するにも、莫大な金額がかかる。
そのほかにもアート作品は6つあるが、なかなかアートだと認識してもらえない。展示場には、あまり芸術作品は馴染まないのかもしれない。
東京ビッグサイトのアート群
作品名 | 作者 | 設置場所 |
Saw,Sawing | クレス・オルデンバーグ(米) コーシャ・ヴァン・ブリュンゲン(米) | 会議棟メインエントランス |
七つの泉 | 長沢英俊 | レセプションホール前庭園 |
項(Relatum) | 李 兎煥(韓国) | 会議棟1階レストラン前 |
UNTITLED-Three types #3 | 笠原恵美子 | 会議棟1階レストラン横緑地 |
Floating World | マイケル・グレイグ=マーディン(英) | レセプションホール・ホワイエ壁画 |
マブキの時空 | 斎藤義重 | 会議棟7階ロビー |
「沙の輪舞曲」(すなのロンド) 「長い午后」 | 田村能里子 | 会議棟7階ホワイエ |
芸術作品ではないが、レストラン「マーメイド」の外に小さな池があった。この池の形は、ちょっとした遊び心で、東京湾と同じ形になっていた。
そう言われないと、絶対にわからなかったが。
千鳥やカルガモがやって来ていたので、レストランのマスターは何とか居着いてくれないかと期待していた。
小ガモでも育てば、それを見に客がやってくる。
しかし、場内清掃の担当が、しっかりと清掃してしまい、来なくなってしまった。
今では、この池も埋立てられている。
▼ マナーを守らぬ撮影隊
都市博中止が決まってから、臨海部には逆風が吹いた。
私たちは何とか押し返そうとしていた。その足元を見るように、いろいろな撮影隊が「使わせてくれ」と言ってくるようになった。
東映の「カーレンジャー」がエンディングで使うからというので許可したら、まだ未使用の屋外展示場のシンボルマークの上を激走された。
芸術作品の池で、大立ち回りをした。
映画会社の営業担当はごく紳士的な人だったので信用していたが、監督はアーティストなのでその場で突然ひらめいてしまうらしい。
個人的には撮影を見たいのだが、仕事があるので、1日中付き添ってはいられない。
「あんなことさせていいのか」と内部から批判を受けたが、初めて見たのは放送されてからだ。
後の祭りとはいえ、次の受け入れには影響する。
ちなみに、東宝は昭和29(1954)年のゴジラで、許可を取らずに銀座の和光を壊した(もちろんミニチュア)。まだ、東京タワーも無かった時代だ。
「時計の鳴る音にイラついてゴジラが時計台を破壊する」というシチュエーションだったので、最初のゴジラには小さな耳がある。
このことがきっかけで、東宝は和光から撮影禁止を言い渡された。なので、その後は破壊する建物にいちいちお伺いを立てるようにしているそうだ。
「vsデストロイア」の時にも、都庁にご挨拶があったらしい。
担当から「許可してもいいか」と電話があったので、そういうのがとても好きな私は「光栄なことなので、どうせなら、思いっきり壊しちゃってください」と頼んだ。ご覧あれ。
ある日、警備から「1階のロビーに不審なグループがいる」との連絡があった。
行ってみると、雑誌の撮影隊だった。風体はヒッピーのようだった。
雑誌の写真とかコマーシャルフィルムの撮影とかは、1回勝負なので、問題を起こしても後を引かない。
だから、ひじょうにマナーが悪い人たちが多かった。別の施設では、廊下をバイクで走ったそうだ。
こういう人たちがいるから、規制が厳しくなってしまうのだ。
もっと厳選すべきだった。しかし、何の基準もなかった。
アニメなどで映像に利用された場所が“聖地”と呼ばれるようになるのは、そのもっとずっと後のことだ。